学校特集
芝浦工業大学柏中学高等学校2023
掲載日:2023年8月19日(土)
コロナ禍を抜け、訪日外国人数の爆発的増加だけでなく、日常の生活の中でもグローバル社会であることを感じている方も多いのではないでしょうか。
グローバル社会におけるポジティブなマインドと多様性や寛容性を育む教育を展開している芝浦工業大学柏中学高等学校。
英語教諭であり、国際部 部長の安江慶二先生と同部の濵口真那先生に、グローバル教育から見えてくる同校の教育の本質について伺いました。
世界各地の大学が来校。芝浦工大柏の進路指導
以前は毎年のべ20名ほどの海外大学進学者を輩出していた芝浦工業大学柏中学高等学校(以下、芝浦工大柏)。コロナ禍には減少したものの、2023年春の卒業生もイギリスとオーストラリアの大学11学部に合格し、5名が進学を決めています。
国際部部長の安江慶二先生に生徒たちの進路選択について伺うと、「今は全世界のどんなところからでも、さまざまな専門知識を学ぶことができます。海外だから、日本だからという感覚ではなく、学びたいものがそこにあるから目指すという生徒が多いですね。生徒たちは場所を問わず、どんどん選んでいこうという意識を持っているのだと思います」と話します。
同校では東大や京大、東工大などにも進学者がいますが、卒業生たちはこれらと変わらない温度感で海外大学にも進学しています。
国内の大学入試状況も大きく変化していますが、海外大学に関してはどうなのでしょうか。
「国によって入試制度や方式はまるで異なりますが、生徒たちはそのことをよく知りません。私たちはそうした情報を得るために各国の大使館などへ足を運び、最新情報を集めて伝えています。
幅広い選択肢をできるだけ渡して、生徒たちが自ら選んでいけるような形を取っています」(安江先生)
ロンドン大学(イギリス)とニューサウスウェールズ大学(オーストラリア)は以前より広報担当者が来校し、コロナ禍中もオンラインによる学校説明会が実施。毎年受験する生徒が一定数います。オーストラリアの名門8大学である『グループオブエイト』が来校(コロナ禍で一旦休止)するなど、海外大学進学希望者にとって校内に居ながらにして直接質問などをできる環境があります。
またアメリカやカナダといった大使館主催の説明会も校内で行われ、留学や進学の相談をできるような場を積極的に作っています。
ニューサウスウェールズ大学(UNSW・ファウンデーションコース)とは、関東圏で初めてパートナーシップ校となり、進学者には特別奨学金が与えられるシステムも整いました。
「留学の費用についても、ドイツの場合なら授業料が無料のところもありますし、東ヨーロッパでは1年間、80万円程度で行くことができます。ただアメリカは1年で800万円ほどかかります。特に私立になると授業料が高くなります。
入試システムや文化的側面だけでなく、奨学金制度などの情報も含めて生徒に伝えて判断材料にしてもらえたらと思っています」と安江先生。
包括的に示される選択肢は、進路を柔軟に選び取っていくきっかけになっています。
先輩から後輩へ引き継がれる、次代へ還元する心
生徒たちが海外大学進学を視野に入れる機会には、海外研修や希望者制で行われる夏期ホームステイ短期留学などがあります(全員参加の中3ニュージーランド短期留学と高2のオーストラリア研修は次年度より復活予定です)。
2022年度から再開された希望者制のプログラムは、コロナの影響で中3時の渡航が叶わなかった高2生を中心に、中3から高3まで約100名の生徒が参加しました。
高1・高2の希望者を対象とした短期留学は4カ国から選択。ホームステイしながら現地の語学学校へ通い、イギリスではロンドン大学、オーストラリアはクイーンズランド大学やクイーンズランド工科大学、カナダはブリティッシュコロンビア大学、アメリカではマサチューセッツ工科大学とハーバード大学を訪問しています。
「例えばロンドン大学での模擬授業は、同大学の教授から"アカデミックな勉強とはこういうもの"といった授業を受けます。現地で肌で何かを感じたのでしょう。今ロンドン大学に進んだ卒業生の多くは、大学を回っている時に刺激を受け、『先生、ここに決めました』と言っていた子が多かった印象ですね」(安江先生)
これら訪れる大学の多くには同校の卒業生が在籍しており、彼らによって学内を案内するツアーなども各大学で行われています。
卒業生が案内してくれるから、素朴な疑問も安心して聞くことができますし、自分がそこにいるイメージを描きやすくなるでしょう。
また短期ホームステイの事前学習や長期留学の際にも、先輩たちは頼りになるアドバイザーです。
「先輩も呼んで我々教員ではできないたくさんのアドバイスをしてもらっています。経験者ならではの目線で語ってもらいますが、こうした活動は事後学習にあたると私たちは捉えています」と安江先生。
同校では毎年「トビタテ!留学JAPAN」という文科省が展開する留学プログラムに希望者が応募しています。日本代表に選ばれると留学奨学金を得て、各国へ派遣されます。
現・高1の生徒はこの夏、「グローバルリーダーシップ」というトロント大学が主催するプログラムで参加する予定です。
濵口真那先生は「彼女に合っているのではと探したのが、全世界のリーダーシップを学びたい生徒たちが集うプログラムです。
興味がありそうだったので、『トビタテ!』経験者の先輩を紹介し、私たちは見守っていました。後輩は先輩に質問しますし、先輩は自分が持っているノウハウをきちんと伝えています。このように還元することを大切にしてほしいと考えています。そうした意味合いでも生徒たちの繋がりは広がってきているように感じます」と話します。
この還元する姿勢と共に同校の先生方が最も大切にしているのが、「自分のやりたいことは何か。なぜ留学するのか」を明確にすること。
「私たちが何かを教えるというわけではなく、いろいろある情報を伝えた上で、自分に合っているのはどれかという話をしていきます。質問に来た生徒と一緒に話しているうちに、本人が方向性に気づくような形で終わることが多いですね」(濵口先生)
芝浦工大柏ではこのように先輩と後輩のつながりをうまく機能させながら、生徒自身がモチベーションを高めて参加する仕組みづくりがなされています。
普段の授業や生活の中で感じるグローバルとは
海外との接点が身近な同校ですが、普段の授業から言語や文化、生活、歴史など様々なアプローチでグローバルを実感できる教育を展開しています。
英語の授業はイングリッシュリッチで行い、ネイティブの先生の英会話は中1から中3まで週に1時間実施されています。
現在、中1の授業を担当する濵口先生に大切にしていることを伺うと「とにかく楽しむこと」と即答。
「NHKの基礎英語に取り組んでいますが、生徒たちはなりきって読むことを楽しんでいるので、多少おかしなところがあったとしても絶対に止めません。とにかく楽しんで、声に出して読むことが大事です。まず音で覚えて、その後書けるようになるという言語習得における自然な流れを意識しています」(濵口先生)
ケンブリッジ大学出版によるテキストを22年度から全校で導入している同校。1年間使った感想を聞くと、両先生は「すごく使いやすい」と口を揃えます。
「一つのレッスンのテーマがずっとつながっているので、徐々にビルドアップしていくことができます。
読んだり書いたりしていって、最後に自分の意見をまとめるというような、インプットからアウトプットというセットになっています。説明もすべて英語で日本語を一切使わないで済むところも魅力ですね」と安江先生。
それに伴い、100年以上の歴史を持ち、グローバルスタンダードである「ケンブリッジ英検」にも挑戦しています。
「ケンブリッジ英検はテキストの形式と似ているので、テストにも次第に慣れていくだろうと感じています。試験は普通、嫌なものだと思うのですが、生徒たちが面接試験を楽しんでいるというのも、ケンブリッジ英検ならではでしょう。楽しく学ぶのが私たちの狙いでもあるのでうまくマッチしていると思います」(安江先生)
あわせて「モーニング」と呼ばれる朝学習の時間には、洋書を読む多読の機会が週1回・25分間設けられています。中学3年間で100万語に触れることを目標としています。
「自分のレベルに合ったものを自由に選んで読ませています。最初は絵本がほとんどですが、イメージと英単語をそのまま結びつける練習としており、単語数はだんだん増えていきます。冊数を記録して最後は表彰もします」と濵口先生。
見たものをそのまま英語で表現できるスピード感は、特に会話のシーンで生きてきます。週1回中学生で取り入れられているのが、DMMによるマンツーマンの英会話レッスンです。
「単語でもいいので、自分の意思をきちんと伝えることを大事にしています。文法もしっかりできるのは理想ですが、まずは自分の思っていることを相手にわかるよう、粘り強く伝えることを大切にしてほしいですね」(濵口先生)
安江先生は「私たちは英語を学ぶのではなくて、英語をツールとしてどう使うかということを伝えたいのです。生徒たちには英語のために英語をやっているのではないよ、という話はよくします。道具なのでどんどん使っていって、間違えてもあまり気にせずに進んでいきます。数をこなしていくうちに正しく使えるでしょう」と教えてくれました。
先述の通り、中3でニュージーランド短期留学に行きますが、その前の研修として外国人の方と触れ合う機会として設定されているのが「イングリッシュキャンプ」です。事前学習にて日本独特の文化についてなど、生徒それぞれが自分で説明したいものを探して話ができるように準備しておきます。
「中学棟に25名から30名ほどの外国の方が一つのフロアにいらっしゃるので、多様な文化圏になる2日間です。国籍もいろいろで英語圏出身者はもちろんですが、イタリアやスペインといったさまざまな母語を持つ方々がおいでくださいます。生徒たちはそこで改めて、英語が共通語となることを実感できます」(濵口先生)
生徒7〜8人の1グループに対して、留学生や語学学校の先生たちが1名つき、学校の近くを散歩したり、神社にお参りしたりしながら互いの文化について話をします。学校の周囲を知り、紹介するという生徒たちにとっても素晴らしい取り組みです。
グローブ(地球)で活躍する生徒を育むために
高1から高3で行われているのが、学術的な論文にも対応できる「アカデミックライティング」です。
「クリティカル・シンキングという思考をベースとした、ネイティブの先生による論文の基礎を学ぶ授業です。世界標準のルールに則った基本的な英語での論文の書き方と自分の主張の仕方をどう伝えるかというところから始まり、文章を書く上でのスキルとなるパラグラフやサイテーションという引用の仕方や参考文献の載せ方などを学びます。大学の論文を英語で書けることを最終的な目標としています」(安江先生)
理系大学の併設校であるため、元々そうした素養を重視してきた同校。近年はより、理系・文系にとらわれずに世界に目を向ける生徒たちを送り出しています。
このように充実した数々のプログラムを提供している同校。安江先生に今後の展開を伺いました。
「今のプログラムは続けるとしても、まったく別のアプローチの仕方で全世界を見られるような選択の幅を広げていきたいと思っています。
現在いろいろな国の大使館の方や大学の方と話をしていて、その探究プログラムについて計画中です」
様々な選択肢の中から、自分で考え、選び取り、動くという、自立した学習者を育成しているのが芝浦工業大学柏中学高等学校のグローバル教育なのです。