学校特集
品川翔英中学校高等学校2025
掲載日:2025年6月26日(木)
1932年の創立当時には女子生徒に数学や英語を教えてきた品川翔英。その先進的な取り組みと挑戦する文化を継承し、2020年度に共学化。「学び続けるLEARNER」を育成する独自のカリキュラムを発展させてきました。
2026年度からは、中3から1年間留学する新コース「中高一貫部Global Advancedコース」を設立します。「日本の英語教育を変えていきたい」と熱く語る、英語科主任のJustin Bonanno(ジャスティン・ボナーノ)先生に話を伺いました。
異文化を肌で感じ、理解を深める新コース

英語の4技能習得を目的に、ケンブリッジ国際教育プログラムを導入する品川翔英。学園にはネイティブ教員が19名在籍するほか、高校では「X-Reading」と呼ばれるオンラインバーチャルライブラリーを活用した英語多読を導入するなど、英語力の強化とグローバルな視野を広げる教育を行っています。
しかし、ネイティブ教員のJustin Bonanno先生は、「それだけでは十分な英語力向上にはつながらない」と語ります。
「これまで本校は、英語の基礎力を高めるためにさまざまなステップを踏んできました。しかし、私はまだ圧倒的に足りない部分があると感じています。
それは、異国で文化の違いを感じ、理解を深める体験です。言語学習は語彙や文法を学ぶだけではありません。文化や言語の背景にある微妙なニュアンスの違いを感じ取ることが大切です。そのためには、実際に現地で暮らす体験が必要不可欠です。
来年度から始まる新コースではその足りない部分をカバーし、本校の生徒たちが未来を目指すために必要となる英語力やグローバルな視点をさらにレベルアップさせる機会につながると考えています」
Bonanno先生は4年前からこの新コースの構想を開始。同校で英語教育のアドバイザーを務める久留米大学外国語教育研究所特任教授・Robert Chartrand(ロバート・シャテラン)さんと協力し、1年前から本格的に準備を進めてきたと言います。
留学を希望する生徒は、中3から新コースへ

新コースが始まるのは、中学入試で振り分けるのではなく、入学してきた生徒に中2でアンケートを取り、中3から「中高一貫部Global Advancedコース」へコース分けをします。
「本校では入学する生徒全員に留学するチャンスを与えたいと考えています。
中1、中2は自分の進むべき道がまだわからない年頃。中学入試ではこれまでと同じように試験を行い、学校生活で『自分は海外に興味があるのかどうか』をしっかりと考える時間を設けたいと思っています」
そのために中1、中2から海外に興味を示す生徒に対して、ネイティブ教員が自国の文化について話す機会を設けるなど、グローバルな雰囲気を感じる機会を設けていきます。
また、品川翔英では生徒が教員を選ぶ「メンター制度」を取り入れています。メンターの教員に相談しながら自分の興味・関心を深めたい分野のアドバイスを受けるなど、挑戦する力を育みます。
「メンターには、ネイティブ教員も希望することができます。英語が好きな生徒は会話する機会を増やせるでしょう。実際に、これまでの在校生もメンターにネイティブ教員を希望して、海外に視野を広げた生徒が大勢いました」
新コースへの在籍は、本人のやる気を重視して判断していきます。これには、Bonanno先生の実体験が関係していると言います。
「今回の新コースは、私が来日した際の体験を踏まえて生徒に提供するものです。私は母国のカナダで英語教師として語学を教えていました。5年前、縁があって日本へ来ることになったのですが、当時は別の国へ渡航する予定だったため、日本語の勉強を事前にしていなかったんです。『お疲れ様です』という挨拶さえわからない状態でした。しかし、現地に身を置き、本気で学ぶことで日本語を習得できたのです。
言語学習は留学することで、飛躍的に向上します。その時に必要になるのは『やる気』です。どれだけ留学前にその国の言語を学んでも、やる気がなかったら身に付かないでしょう」
そこで新コースでは、海外に強い興味を持つ生徒、そして英語力を向上させたいすべての生徒にチャンスを設けます。
「今後本格的な運営に伴い、新コースの選抜基準が設けられる可能性はあります。しかし、やる気を重視する姿勢は変わりません」
新コースに在籍する生徒数は約30名を予定。ネイティブ教員担任のもと、留学が始まる中3の9月まで、英語力をアップさせる猛練習に取り組みます。
【具体的な英語の取り組み】
・日常会話を向上させる授業
自然な会話表現や発話力の向上に重点を置く
・単語の暗記
語彙力を強化し、4,000語以上の単語を習得する
・英語多読
指定された書籍を活用し、英語力を向上させる
「新コースでは、教科書にとらわれない本校独自のカリキュラムを設定しています。これにより、豊富な語彙を習得し、現地でのコミュニケーションに必要なインプット力とリスニング力を磨きます」
留学先は、今後さらに増える予定

英語力を鍛えた生徒たちは、中3の9月から高1の6月まで約1年間留学を行います。
現在、留学先として予定しているのは次の通りです。
【留学先一覧】
〇Ipswich Boys Grammar School(オーストラリア・男子校)
〇Ipswich Girls Grammar School(オーストラリア・女子校)
男子校は創立から160年、女子校は130年以上の歴史があり、オーストラリアの優秀な生徒が通う学校の1つとなっています。
4学期制で、学校のイベントが豊富なことが特徴。現地校の制服を着用し、寮生活を送ります。寮が閉まる期間は、ホームステイを行う予定です。
※同校に留学する際は、勉強面などで一定の基準を設ける予定です。
〇J. Addison School(カナダ)
優秀な生徒が在籍し、在学生の37%がトロント大学へ進学する学校です。
2学期制で、留学中は現地校の制服を着用し、寮生活を送ります。寮が閉まる期間はホームステイを行う予定です。
〇Spectrum Community School(カナダ)
〇Victoria School Board(カナダ、ヴィクトリア地区内にある6カ所の学校)
2学期制の公立学校で、ビジネスやアート、コンピューターサイエンスといった選択授業が多いのが特徴です。
留学中はホームステイを行うため、カナダの家族生活を体験できます。私服で通学します。
このほか、今後はカナダ・トロントの私立学校、バンクーバー学区(12カ所)、ニュージーランドでも留学が可能になる見込みです。
「同じ留学先に通う生徒が多いと、日本語を話す機会が増えてしまいます。そのため今後は提携校をさらに増やす予定です。将来的にはイギリスなどの国でも留学ができるようになる見込みです」
留学中は、オンライン教材『スタディサプリ』を活用し、日本の国語・数学・理科・社会科などの学習をサポートする予定です。しかし、「別の教科の勉強に力を入れすぎると留学した目的が薄くなってしまう」とBonanno先生は危惧します。
「留学先では、ぜひ現地で国語や数学などの教科を学んでほしいと思っています。例えばカナダでは、レベル分けされた英語クラスで授業が行われるため、本人の英語力に合った授業が受けられます。また、科学も日本とそこまでレベルの差はありません。英単語を覚えるのが大変かもしれませんが、勉強は続けられると思います。
懸念があるとすれば、数学ですね。日本の数学は他国より高めの水準。帰国後は生徒の希望に合わせて特別なフォローを行う必要があるでしょう。具体的なサポート方法については、本校の教科担当とさらに話し合いを重ねて決定する予定です」
帰国後は英語力を高めつつ、中3の勉強内容を手厚くフォロー
留学を終えた生徒は帰国後、品川翔英の高1として新たなスタートを切ります。

「帰国後も他クラスとは合流せず、単独クラスとして特別カリキュラムを実施していきます。
生徒たちは帰国時点でケンブリッジ国際教育プログラムのB2級レベル(高3の国際教養コースとほぼ同レベル)の英語力を獲得できる見込みです。授業では英語力の維持のため、B2級の教科書で学ぶことになるでしょう。高2では、ほぼネイティブと同レベルのC1級の教科書で学べるようになる見込みです」
高2から文理選択を行い、高3になると、生徒の希望した進路に合わせて進学先を見据えた学びにシフトしていきます。
「進学先は海外大学のほか、高い英語力が武器になる国公立大学や難関私立大学などを視野に入れています」
海外大学を希望する生徒にとって、大きな課題となるのが費用面です。品川翔英では奨学金などの情報を生徒たちに共有し、サポートしていきたいと考えています。
「その一つがUPASです。進路選択の幅を広げるために、品川翔英ではUPASに加盟しています。UPASとは、海外の大学が学内の多様性を高めるために、日本人学生を受け入れる目的で設けた特別制度のこと。欧米を中心とした約100の協定校があり、優遇された条件で入学審査を受けることが可能です。一部では返済不要な奨学金も準備されています」
留学を経験した生徒は、グローバルな視点でものごとを判断できる

実際に留学を経験すると、生徒たちはどのように変わるのでしょうか。在校生の留学を見守ってきたというBonanno先生は、「大きく成長を遂げる」と語ります。
「帰国した高校生はみんな留学期間を『いままでの人生で一番大事な経験だった』と振り返ります。英語力の向上はもちろんのこと、世界の見方も変わってきますね。異国の文化を体験することで視野が広がり、グローバルな視点で議論できるようになったと感じています」
Bonanno先生がメンターを担当していた高2の生徒は、「大学でやりたいことがない。進学しないかもしれない」と留学前に話していたそう。しかし、カナダ・ヴィクトリア地区内の学校で半年間の留学を経験し、帰国後は海外大学への進学に意欲的になったと言います。
「高校に進級して留学を希望する生徒は、3・6・9・12カ月から期間を選択できます。本校では半年から1年間の留学を希望する生徒が多くいます。
やはり3カ月間の短期留学では、異国の文化を深く理解することが難しい。留学期間は長ければ長いほど、生徒にとってより充実した経験になると思います」
保護者から「中3で留学を決められるのが大きな魅力」と話題に

新設する「中高一貫部Global Advancedコース」に関して、品川翔英では2026年度受験生保護者に向けて5月から説明会を実施しています。
「説明会では新コースに興味を持つ保護者が多かったですね。特に、中学入試でコース分けをせず、中3で選択できる点に魅力を感じた人が多かったようです。
中1から留学コースを選択すると、成長と共に興味・関心が変化してもコースへの変更ができません。まずはじっくりと自身の興味・関心を育てることに集中できる点が評価されました」
高校から留学を選択すると高2で実施することが多く、長期留学をすることにより大学受験に影響が出てしまうこともあります。品川翔英が設けた新コースのように、中3で留学ができ、大学受験にも備えられる点が注目されました。
保護者の中には「留学先に載っていない国に行きたい」という希望もあるかもしれません。Bonanno先生は「選択肢はこれから増やしていきますから、希望は叶うと思います。しかし、これからの時代で必要となる多様性にも目を向けてほしい」と語ります。
「英語は現在、公用語として世界中の人に用いられています。人によってはこれまでの時代背景から、『イギリス英語の方が美しい』『アメリカ英語の方が正しい』と考えることもあるでしょう。
しかし、現代はさまざまな国の人たちが交わる社会へと急速に変化していく時代です。私自身、カナダでさまざまな国のアクセントや方言を感じながら生きてきました。その経験から感じるのは、互いの多様性を尊重して暮らす大切さです。
これからはさらに多様な文化が発展していく時代になるでしょう。そう考えると国を限定しすぎず、生徒の学びたいものや興味を持ったことに目をむけて、留学先を検討することも大切なのではないでしょうか」
最後に、Bonanno先生は、新コースに期待する保護者と子どもたちに向けてこうアドバイスします。
「留学は、大きな挑戦です。友達や家族が近くにいない中で努力する日々は、寂しさを感じる場面もあるかもしれません。しかし新しい挑戦は、見たことのない景色と、家族のように親しめる現地の人たちとの出会いをもたらしてくれるはずです。
不安を感じることもあるかもしれませんが、勇気を持って挑戦してみてください。貴重な留学経験は、必ず将来で役立つはずです」
生徒たちがグローバルな視点で将来を選択できるよう、大きな一歩を踏み出した品川翔英。新コースの設立は、先進的な取り組みと挑戦する文化を継承してきた品川翔英だからこそ実現できることなのかもしれません。