学校特集
東海大学菅生高等学校中等部2023
掲載日:2023年9月13日(水)
1983年に高校を、1995年には中等部を、そして2007年には小学校を開校。開校時以来、「自然が教科書だ。」を建学の精神に「環境教育」と「異文化理解教育」を実践してきた同校ですが、今、生徒たちが生きる21世紀の特徴を見据えてダイナミックな改革を進めています。今年度より校長に就任された、布村浩二先生にお話を伺いました。
教育方針は「Dream ALL」。
多様な夢の実現を可能にする学校
教育方針にある「ALL」のAは「Act」、最初のLは「Learn」、2番目のLは「Live together」を意味しています。
中高時代は「夢を見つけ、育み、大きく膨らませて、その夢を実現してほしい」というメッセージです。そしてまた、そこからは「自ら行動し、学んで、広く他者と交わり共生していってほしい」という願いも読み取れます。
「自然が、教科書だ。」を建学の精神に1983年に高等学校を開校し、中等部を設置して今年で28年目。恵まれた自然環境を生かした「環境教育」と、次代に必須の「異文化理解教育」を2本柱に教育を展開していますが、今、持てる教育資源を最大限に活かして、世界標準の力を身につけさせるための全方位改革を推進中です。
布村校長:「本校の6年間を、私は『しあわせ探しの旅』と名づけています。中高時代というのは、将来、自分はどういうポジションで社会に貢献するのかを考え始める年齢に差しかかります。それを考えるためには、たくさんの体験をしなければなりません。体験は興味・関心の出発点になりますから。まずは、『学んで楽しいな』と思えることを自分で見つけることが大切ですので、私たち教員はその種を蒔き続けています」
「今は、残念ながら創造性のない仕事はなくなる傾向にあり、相応の力を育てないと社会に貢献できない大変な時代です。世の中の変化も速いですし、予測が困難な時代。でも、ICTスキルや、それを用いてデータを解析するスキルなどベースとなる力を身につけ、人間にしかできないことは何だろうと考え追求していけば、21世紀、気迫を持って生きられるはずです」と、校長は語ります。そして、「『21世紀、気迫を持って生き抜ける人材』を育てるために、目指すのは世界標準の力の獲得です」と。
昔、教育の基本とされた「読み・書き・そろばん」は、今では「数理・データサイエンス・AI」に置き換わりました。
布村校長:「AIの発達を引き合いに出すまでもなく、価値観が大きく変化する今、求められる能力はひと昔前に比べるとかなり高度化しています。そのような将来のベースになる力をどこまで養うことができるかは、中等教育期間が分岐点と言えるでしょう」
同校が、「21世紀、気迫を持って生き抜く」ために、具体的に育成するのは以下の4つの力です。
❶未知の事柄に立ち向かう能力とマインド
❷チームで協力できるコミュニケーション力
❸自分の意見を構築し、表現し、伝える力
❹英語を自在に操れる力
特別進学クラスは「医学・難関大コース」へ。
総合進学クラスも「一貫進学コース」に改編
同校はこれまで「特別進学クラス」「総合進学クラス」という2クラス制をとってきましたが、特別進学クラスは2021年度に「医学・難関大コース」として生まれ変わりました。そして2023年度からは、主に東海大学進学を目指す総合進学クラスも、より中高一貫化が明確になる「一貫進学コース」と改編し、新たなスタートを切りました。
これらは早い時期から志望を定めさせるというよりも、同校で学ぶことで、実際にどのような進路を見つけられるのかを生徒たち自身が発見できるよう道標を示すものです。
ここでは、設置3年目を迎えた「医学・難関大コースについてご紹介しましょう。
なお、このコースで実践していることは、今後、改編する「一貫進学コース」にも波及させていく予定です。
まず、6つのポイントを挙げて、同コースの特徴と教育内容の概要をお伝えします。
❶学習サポートプログラム「Sugao20」
放課後、午後8時(中等部在学中は7時半)まで自習時間を設けています。AI教材の「すらら」を活用し、大学生や大学院生のチューターが学習をサポート。基礎学力の定着や自学自習の習慣づけをする「学校完結型」の学習を実践しています。
❷STEAM教育プログラム
世界標準の力の象徴でもある「グローバルSTEAM」教育を実施。「グローバルSTEAM」は、すべての科目と連携させるものです。例えば、「e-kagaku遠隔講座」で一流の研究者による実験講座やプログラミングなどのデータサイエンスを学び、世界課題にチャレンジする力を培うとともに、落語やクラシック音楽、ミュージカルなど質の高い芸術にも触れます。
※「e-kagaku遠隔講座」:京都大学で宇宙物理学を教えていた北原達正先生が監修するオンライン講座
布村校長:「AI、データサイエンスは、まさしく世界標準として求められる力です。グローバルSTEAMを体験しながら自分の興味・関心の種を見つけ、知識を積み重ねて物事を深く考えていく。そして、自分の意見を構築し、発信していく力を育てたいと考えています」
❸英語運用力向上プログラム
世界的に通用する英語検定「ケンブリッジ英検」の取得を目指した学習を実践。オンライン英会話も導入して、実践的な英語力を養成します。
❹異文化理解プログラム
東海大学の関連施設を利用したヨーロッパ(デンマーク)研修旅行などの海外研修や、横田基地内のミドルスクールとの交流を通して異文化への理解を深めます(現在は、可能な限りオンラインで実施)。
❺環境教育プログラム
東海大学の教授など現役の研究者の指導の下、学校の立地を活かした「フィールドワーク→課題発見→研究→論文作成」を実施。また、実際に研究機関を見学したり、体験学習も行います。そして、最終的にはこれらの体験を研究レベルにまで引き上げ、SDGs論文を作成します。
布村校長:「東海大学との新たな連携も始めています。校地内にある里山の自然を生かした学びを行うために、教養学部の教授に直接ご指導いただくプログラムなどです。里山というのは、人の手がきちんと入らないと壊れてしまいます。そんなことを実感しながら、『自分たちは、そこにどういう形で関わることができるのか』を見つけられるプログラムにしたいと、教授と計画を作成しているところです」
❻未来計画プログラム
昨年度よりキャリアサポートプログラム「ENAGEED」を採用し、将来の自分の生き方や希望する職業を設定し、そこに向けて今やるべきことを明確にします。中学校では東海大学のキャンパスや研究室の訪問、高校では難関大訪問、研究機関の見学をして自らの目標を明確にしていきます。
布村校長:「キャリア教育についてはOG・OBを招く『夢育て講座』をはじめ、さまざまな取り組みを行っていますが、今後はさらに充実させる予定です。次世代型・探究型の教材を活用して、自分の将来を継続的に考える機会を持つとともに、将来、『自分の選んだ道は正解だった』と思えるような心の持ち方を醸成していく仕組みを考えています」
週に6時間ある英語の授業は、ネイティブと日本人の先生のチームティーチングで行われ、英語4技能5領域[聞く・読む・話す(やりとりする・発表する)・書く]を学んでいます。
自分の思いや考えをどのような場面でも表現し、伝えるためには英語力が欠かせません。「今や、英語はできて当たり前の時代です。では、どのレベルでできるのか。そこが重要です」と校長。そこで、「日本語と同じように英語を自在に操れる力」を獲得させるために、対話形式をメインとするケンブリッジ英検に沿った学習を進め、ケンブリッジ英検の合格を目指していきます。
同校が目指しているのは、世界標準。ケンブリッジ英検は世界に通用する英語資格検定なので、海外の大学への進学の道も開かれます。
布村校長:「いろいろな経験は、やっている時点ではどこに繋がるかわからないですよね。後になって初めて気づくものです。ですから、自分が本当に望む道を見つけるためには、いろいろな経験を重ねることが大切です。21世紀は確かに高度な能力が要求されますが、『数理・データサイエンス・AI』をはじめとした総合力をしっかりと身につけておけば、やりたいことが見つかった時に、そのステージに立つチャンスをつかめるはずですから」
「海底から宇宙まで」。多様な進路が開ける、
東海大学との連携もより強化していく予定
今年度から名称を変更した「一貫進学コース」では主に東海大学への進学を目指しますが、その東海大学もまた、さらなる学部改編に取り組むなど、次代に向けたダイナミックな改革を推進中です。
医学部をはじめ、海洋学部、理学部や工学部航空宇宙学科など「海底から宇宙まで」を謳う幅広い教育を展開する同大学ですが、2022年度には国際学部や文理融合学部、建築都市学部などが新たに設置され、計23学部、62学科・専攻を有する大規模な総合大学となりました。
ちなみに、東海大学との連携を明確化し、どのような進路が描けるのかを受験生と保護者の方に知ってもらうために、同校の学校説明会では東海大学のパンフレットも配布しています。
布村校長:「東海大学にはさまざまな研究分野がありますが、この学部改編で、さらに生徒のいろいろな分野への興味・関心を満たすことができると思います。本校がやるべきことはまだまだ無限にありますが(笑)、準付属という利点を活かして早くから自分の興味あるものを追求していくことは、より可能性の高い人生にするために非常に有意義だと思いますので、まずは、生徒が興味のある学部と繋がっていけるような仕組みを一つずつ作っていくつもりです」
最上階の6階には展望ラウンジがあります。大きな窓からは陽が差し込み、遠くの山々が綺麗に見える絶好の憩いの場所。
そしてここは、中学生が給食をいただく場所でもあります(週に5日/それ以外の日は食券を買ってメニューを選べるシステム)。調理するのは、元一流ホテルのシェフ。
栄養バランスを考えながら、その日に採れた新鮮な有機野菜や地元の食材を取り入れながら「食育」の考え方をベースにした給食を提供しています。
また、食物アレルギーのある生徒には事前にアンケートをとり、個別に対応したメニューを用意しているので安心です。
ちなみに、同校では2時間目と3時間目の間に「軽食タイム」もあります。朝ご飯が足りなかったなど、育ち盛りの生徒の健康を考えた、きめ細かな心配りです。
「特別進学クラス」が「医学・難関大コース」に生まれ変わったのは、改革の始まりに過ぎません。
今年度の総合進学クラスの改編はもとより、コロナ禍が収束した後は、これまでの海外研修に加えて、「医学・難関大コース」にデンマーク研修を設ける予定です。デンマークは、東海大学の創立者である松前重義先生がお手本とした国民学校があった国で、現在も東海大学の施設があります。
また現在、総合進学クラスで実施している「知床研修」に海洋研究の要素を取り入れて環境教育の色合いを濃くするなど、東海大学の研究資源をフィードバックしてもらう形の連携も深めていきます。
そして、同校には系列の初等学校もあります。中高6年一貫教育のいっそうの充実はもちろんのこと、初等学校の校長も兼任する布村校長は、12年一貫教育についても具体的に計画を準備中だそうです。
多様な体験を重ね、その中で生まれる発見や感動を追求していく。その過程で知識を積み上げ、その知識を使って物事を考える。さらに、考えを自分の意見として構築し、人にわかりやすく伝える表現力を日本語でも英語でも身につけていく。
このように、自ら学び続ける姿勢を6年間をかけて丁寧に培うのです。それは多様性の理解や、他者との協働・協創にも繫がっていきます。そして、その入り口は、学びの中で「あ、楽しいな!」と思えることを自分で見つけること。
布村校長:「学校は、『学ぶ楽しさ』を知ることができる場所でないといけません。これからさらに、いろいろな種をあちらこちらに撒いていきますので、どんなお子さんでも、この学校で何かを見つけることができる。そんなワクワク感を感じてもらえる学校にしたいと思っています」
自分にとって、他者にとって、そして目に見えぬ第三者にとっての「しあわせ」を考える。そんな「しあわせ探しの旅」を、東海大学菅生で体験してみませんか?
サッカーやバスケット、テニス部などが全国大会で活躍しているように、クラブ活動が盛んなことでも知られる同校ですが、ここで部活が同校受験のきっかけになったエピソードを2例ご紹介しましょう。
❶「エコクラブ」に入るため、都心から引っ越し
同校周辺は自然豊かで、さまざまな生き物が生息しています。菅生は、絶滅危惧種となっているトウキョウサンショウウオが最初に発見された場所であり、学校の近くに流れる小川も生息地となっていますが、そんな生き物たちの観察を中心に行う「エコクラブ」という部活があります。「ツタンカーメンの豆」(ツタンカーメン王の墓から出土した豆の子孫と言われる)も育てているなど、ユニークなクラブですが、生き物好きな小学生がこのクラブに「入りたい!」と熱望したことをきっかけに、ご家族で都心から学校近隣に引っ越された例があるのだそうです。
布村校長:「テレワークなど、保護者の方の働き方が変わってきたことも後押ししているのかもしれませんが(笑)、系列の初等学校でも都心から移住されてきたり、子どもの教育環境を考えた時に、本校に目を止めてくださった事例が複数あることは嬉しいですね」
❷2021年、名コーチを招いて、チアダンスクラブ「King Fishers」創部!
初等学校でチアダンスをやっていた生徒が、「中等部でもやりたい!」と声を挙げたことをきっかけに、一昨年「King Fishers」が誕生。指導者として、数々のチームを全国優勝や全米優勝に導いてきた北久保みゆき氏をヘッドコーチに、経験豊かなプロのコーチ陣を招きました。壁を鏡張りにした2階のオープンスペースで、部員たちは練習に励んでいます。
そして昨年、このチアダンスクラブに「絶対、入りたい!」と、小6から受験勉強を始めて、見事同校に入学した生徒がいます。
グローバルSTEAMなど、将来の可能性を広げる学びはもちろんのこと、生徒一人ひとりが「好きなこと」に熱中できる場がある。それも、同校の大きな魅力です。