学校特集
中村中学校・高等学校2023
掲載日:2023年8月1日(火)
1909(明治42)年、東京の下町・江東区に女子教育の灯をともすべく誕生した中村中学校・高等学校。「清く、直く、明るく」を校訓とし、100年以上に渡って伸びやかな校風を守り続けています。そんな同校は年々、在校生はもちろん、その保護者からの熱烈な支持が広がりを見せ、受験生数を右肩上がりに増やしています。中村の人気の秘密はどこにあるのか、一体どんな学校なのか、教頭の江藤 健先生に伺いました。
教育を再定義・再構築したことで見えたもの
「機に応じて活動できる女性の育成」を建学の精神とする中村中学校・高等学校。これはどんな時代でも、どのような場面であっても自分で判断し、行動を起こし、自分の人生を自分自身で豊かにできる女性を育もうというものです。
かねてより「寄り添う教育」を標榜し、認知型学力と非認知型智力の育成を大切にして、社会に出てからも成長し続けられる生徒たちを送り出してきました。
同校で今年度行われたのが、アドミッション・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、グラデュエーション・ポリシーという、3つのポリシーを改めて明確にし、再構築すること。
アドミッション・ポリシー(入学時に求める生徒像)=さまざまなことに知的好奇心を持ち、自ら学ぼうとする生徒。他者との違いを認め合い、お互いを尊重し合おうとする生徒
カリキュラム・ポリシー(教育活動が目指すもの)=EQ(心の知能指数)を土台にしながら、認知型学力と非認知型智力をバランスよく身につけること
なかでもグラデュエーション・ポリシー(卒業までに身につけてほしい力)は、「5C(ファイブカラット)」として再定義を行いました。
①Communication(コミュニケーション・対話)=対話を通じて合意形成することができる
②Care(ケア・親切)=相手の立場に立って物事を考えることができる
③Commitment(コミットメント・自発)=積極的に物事に関わることができる
④Challenge(チャレンジ・挑戦)=あきらめずに挑戦することができる
⑤Curiosity(キュリアシティ・探究)=物事の意義を見出すことができる
教頭の江藤 健先生は、
「本校はこれまで、校是を『健康第一』とし、生活目標は『3つのS(Self- control¬=わがままを言わない、Self-government=ひとに迷惑をかけない、Social Service=ひとに親切をつくす)』と、掲げているものが多数ありました。
建学の精神や校是などをなくすわけではなく、現代流にアレンジをして『5C』に集約できると思っています。このグラデュエーション・ポリシーがしっかり身についた生徒を育てていこうと再定義しました」と話します。
改めて整理して明文化することで、先生方だけでなく、生徒たちにも広く周知し、学校が一丸となって目標に向かっていけるよう構築し直したのです。
外に出て体験し、見聞を深め、自らを振り返る
中村では現在、これらのスクールミッションを、これまで行われていた学びや行事などを先述の「5C」に当てはめる動きが進められています。
「今までカテゴライズされていなかったイベントや伝統だからと例年通り実施していたような行事もあり、それらをもう一回『5C』にはめ込んでいった時に、また新たなものが見えてくるのかなと考えています」
と江藤先生が言う通り「5C」を見出したことで、教科間の連携や行事などについて俯瞰することができ、整理することが可能になりました。それぞれがもつ意義や新たな価値観が可視化され、有機的なつながりを認め、多角的なアプローチ方法からブラッシュアップすることに結びついています。
「5C」を見るとわかるように、同校で最も大切にされているのが「本質を見極めながら、人と関わりを持つこと、何かに向き合うこと」です。①〜④の要素を絡み合わせながら、⑤の探究の要素をより強く打ち出しています。
「もともと本校は非認知型智力を大切にしており、自らサイクルを回すという探究活動を行っています。中1・2は『研究』、中3以降は『探究』として実施する中で、リフレクションしながら次につなげていくことで本質を探究することを目指しています」(以下、江藤先生)
これらは総合的な学習の時間をはじめ、キャリア教育という形をとることにより、学問や研究、社会貢献にもつながっていく要素として捉えられています。
探究や日々の学校生活を送る中で、生徒たちはそれぞれが自分自身の志を見出しています。この志や自分なりの目標を見つけるための教育が各学年で行われています。特筆すべきは、自分たちの足元から次第に視野を広げていることです。
中1では学校の近隣を知る「深川めぐり」、中2で行われるのがその経験を活かしてネイティブスピーカーに深川を案内する「国内サマースクール」、そして中2と中3ではアメリカでの「海外サマースクール」(希望制)が行われます。
「『海外サマースクール』はコロナ禍では中止していましたが、今年は再開します。希望者を募ったところ、募集人員は20名なのですが、大きく超える申し込みがありました」
殻を破る、高校での学びとは
高校では、先進・探究・国際という3つのコースに分かれますが、例えば探究コースでは個人探究を続けることで、物事を掘り下げて考え、探究し、形にする学びとして実践されています。
国際コースでは、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、アイルランドという5カ国から選択し、現地校に原則1校1名で留学します。現・高2からニーズに応え、3ヶ月、6ヶ月、1年から選択できるようにしましたが、結果全員1年留学を選ぶのだそう。
1年間の留学を経て、生徒たちにどんな変化があるのでしょうか。
「自分の意見をはっきり言えるようになって帰ってきますね。
もともと話ができる子は、水を得た魚のように楽しくてしょうがないとなりますし、控えめと思っていた子も自分の考えを言わざるを得ない環境に身を置くので、そういう意味ではいちばん変化が見られます。精神的に殻を破ることができたせいか、帰国後、あか抜けたように見えます」
生徒たちの様子について印象的なこととして、江藤先生が教えてくれます。
「1年間、日本を離れることで改めて親のありがたみがわかるようです。『こういう機会をくれて、本当に親に感謝しています』と口々に話します。
なかにはお父さんとあまり関係が良くなかったけれど、いい意味で距離を置けて関係性が変わったというケースもあるようです」
国際コースに進む生徒は、当然英語に興味を持ち、国際的な視野も開けているものなのでしょうか。
「今留学している高3生の中にも中村に入った時は、むしろ英語に苦手意識を持っていた、上手ではなかったという子もいます。
英語があまり好きではなかったけれど、国内サマースクールで英語で伝える難しさと楽しさを知って英語に興味を持ったという生徒もいます。
少なくとも小6の時には留学について何も考えていなかった子たちが今実際に留学をしていて、英語力がどんどん伸びているということを担任から聞くと、国内サマースクールも一定の効果はあるとうれしく思っています」
なお同校では、探究や先進のコースを選択した生徒を対象とした「ボランティアプラットフォーム(通称:ぼらぷら)」による海外ボランティア研修を夏休みに導入しています。
カンボジアで現地の子どもたちに対して授業を行ったり、日本のODAによって作られた浄水場などの施設を巡ったり、内戦の爪痕を見て学んだり、と充実したプログラムが行われます。
「この『ぼらぷら』は昨年と一昨年はオンラインで、現地の子どもたちとつなげて日本語や英語を教えていました。
中には去年取り組んで面白かったから、今年はぜひリアルで参加したいという子も出てくるでしょう。
カンボジアの都市部と農村部の両方へ行き、文化も吸収して帰ってくる予定です」
同校ではそのほか、春休みにも経験値が積めるように、今後はさまざまな選択肢を用意。みんなが選べるようにと、国内外で行われる企画が視野に入れられています。
東大合格者を輩出した教育力
こうした教育が結実し、進学実績を飛躍的に伸ばしている同校。例えば2022年春には、学園初の東大合格者を輩出しました。今春も東京医科歯科大学医学部や青山学院大学法学部、学習院大学理学部などへの進学者がいます。
生徒の希望進路を叶えるために、中村ではさまざまなシステムが構築されています。
約6割の卒業生が推薦や総合型選抜で進学を決めていますが、その心強い味方が「キャリアサポーター制度」です。同校の先生方が生徒一人ひとりを受け持ち、志望動機の深掘りやエントリーシートの書き方、論文指導まで手厚くサポートしています。
江藤先生は今春の卒業生で、先に触れた東京医科歯科大学医学部看護学科への進学者の担当になりました。
「コロナ禍の最中に高校生活を送った高3生たちですが、この生徒は医療従事者の方々の活躍を見て、医療の道に進みたいという希望を持っていました。
ただ私が担当についた時点で、過去問の小論文に取り組んでみたら、正直なところなかなか書くことが難しかったのです。浪人してもいいくらいの覚悟を持っている生徒でしたが、結果として推薦入試では通りませんでした。
ただ、彼女が素晴らしかったのは、日々の勉強をおろそかにしなかったのです。共通テストで手が届くくらいの点数は取れていたので、共通テストが終わってから二次対策として、国語科の先生にも入ってもらい、小論文をとにかく書き込んで合格を手にしました。
最後まで諦めないという本人の強い意志ももちろんありましたし、共通テストでしっかり得点できる素地など、たくさんの要素があってのことですが、さまざまな先生方の温かなサポートがあり、寄り添う教育という本校の良さが出た一例だと感じました」
こうした学習へ向かう素地を整える仕組みに、本格導入から今年2年目を迎えた「マイグローイングツリー」という放課後の学習システムがあります。
中1、中2、高1、高2は全員が利用可能で、中3と高3については希望制で別途費用が必要になりますが、20時まで学校で勉強できます。
「チューターが常駐しているので、疑問を解消できるだけでなく、担任とは異なる視点から面談なども行われます。
簡単に言うと塾が放課後に入っているような形で、通塾率は確実に減っています」
この「マイツリー」のチューターに、この春卒業した3人のOGが志願して参加。
「卒業生がチューターとして参加してくれるのは初めてなんです。そのうちのひとりは大学で数学の勉強をしたいと学習院の理学部に進学しました。『教員免許を取って、中村で数学の先生をしたい。それくらい中村が大好き』と話してくれています。でも今いる先生を一人辞めさせないと入れないよと話しています(笑)」と江藤先生は頬を緩めます。
何よりもこの「マイツリー」を有効活用していたOGが後輩の役に立ちたいという思いで、チューターとして「マイツリー」で活躍する姿は在校生たちにも響くことでしょう。
なお、同校では『atama +』というAI教材を使用しており、週に1回のコーチングを受けて、AIが各自の苦手分野を判断し、時には小学校や中学校段階にまで遡っての課題が150分ぶん出されます。
この課題は「マイツリー」で行っても、宿題としても取り組んでもいいのですが、こうしたきめ細やかな学習体制により、生徒たちの学力は着実に伸びています。
また選択授業では、1人でも希望者がいれば実施しています。
「特に理系の物理や数Ⅲは、年によって1対1などの少人数でも授業が行われています。本校では、東京藝大などの特殊なケースを除いて、通塾の必要はありません」と江藤先生は胸を張ります。
"中村大好き"な生徒たちがより良い循環を生んでいる
前項で中村大好きというOGについて触れましたが、在校生も学校の大好き加減では引けを取りません。
5年ほど前から、自ら志願して学校説明会などで広報活動を行っているのが「中村アンバサダー」です。
江藤先生は年々活動の場を広げるこの活動について教えてくれました。
「アンバサダーとして協力してくれている生徒たちはこれまで2割程度でしたが、今年の中1は募集前にも関わらず、50人近い生徒が志望してくれています」
同校では学校説明会などの機会にありのままの中村を来校者に知ってもらうために、生徒たちが活躍。そのため生徒自身が学校のいいところを探すことで学校がより好きになる、学校の魅力を伝える、それを聴いた参加者が入学し、アンバサダーを志望するという好循環が生まれています。
「生徒たちがアンバサダーとして『学校を良くしたい』と考え、『学校が楽しい』と前向きに学校生活を送ってくれていることで、校内の空気感がより良くなってきているように感じます」
と江藤先生が話す通り、同校の入学後の「学校評価アンケート」では、親子ともに満足度が非常に高いという結果が出ています。
「ありがたいことに、特に保護者の方の満足度が高いという結果が出ています。親子ともに安心して本校に通ってくれているのかなと思うとうれしいですね」
だからこそ保護者同士のネットワークで在校生とその保護者の口コミにより、受験者数が増え、入学者数が増えるという、校内の活性化につながっています。
学習や進路に対しても積極的な生徒が増えるというポジティブサイクルが生じているのが現在の同校の姿です。
徹底して自分と向き合ったり、友達と向かい合ったり、先輩や先生と触れ合ったり、一人ひとりがさまざまな経験を積み重ねながら成長を重ねる、中村中学校・高等学校の学校生活を感じに、ぜひ学校説明会へ足をお運びください。