学校特集
武蔵野大学中学校・高等学校2018
掲載日:2018年12月1日(土)
吉祥寺の西北にある同校は、1万1000本もの樹木に囲まれた素晴らしい環境にあります。創立から94年。「MJ」の愛称で親しまれてきた武蔵野女子学院が女子校としての歴史に幕を閉じ、2019年、共学化(高校は2020年予定)とともに、校名も新たに武蔵野大学中学校・高等学校として生まれ変わります。そして、今年、校長に着任したばかりの日野田直彦先生は「グローバル&サイエンス」をテーマに教育の大革新を進めていますが、これは、単に「英語と科学」を強化するという意味ではありません。その大元には、校長が目指す「世界を救う勇者」を育てるための、「チャレンジする勇気をもったマインドセット」があります。日野田校長に、お話を伺いました。
目標の一つは、全員がTOEFL iBTで60点を目指すこと。
でも、それは英語力強化のためではない
同校で展開される教育をひと言でいえば、「学祖である高楠順次郎が掲げた人格育成の教育を、21世紀にあるべき姿として具現化すること」だと日野田校長は語ります。
日野田校長:「今の時代に照らし合わせることは必要ですが、高楠が言っていた、私たちが本来あるべき姿に戻ろうということです。本校は仏教校ですが、仏教でも禅問答でも『Who are you?』を問われます。つまり、生徒たちには『Who are you?』と問われて、きちんと答えられる人になってほしいのです。そのためにはマインドセットが必要ですから、学びのパラダイムを変えます」
もちろん、求められる答えは「私は武蔵野花子といいます」ではありません。「Who are you?」は「そもそも、あなたはどんな人? 何がしたいの?」と問うているのですから、つたなくてもかまわないので自分の言葉で語れるようになることが大事なのだと。それをまずは日本語で。そして、次に英語でもできるようになれば、出会いも格段に増え、自分の人生の舞台を自分の手で世界中に広げていくことができるのです。
日野田校長:「わかりやすく言えば、勇者を送り出したいのです。勇者とは、隣にいる人が困っていたら、どうすれば解決できるだろうと一緒に考えてあげられる人のことです。まず、それができなくては、世界を救うことはできませんから」
そのため、具体的目標の一つとして、英語ではTOEFL iBT(海外の大学で最も信頼されている英語資格試験)で60点を取得することを目指していくと言います。このスコアの取得が実現可能であることを、校長はすでに前任校で証明済みです(後述)。
それでも、英語さえできればいいわけではないし、海外大学への進学を特に勧めるわけでもないと校長は言います。
では、何のためでしょうか。
日野田校長:「それは『チャレンジ』です。『諦めないマインド』を育むためです。たくさんチャレンジして、どんどん失敗して、それでも前に進もうとするマインドを育てるためです。マインドさえ強く持てれば、何事も何とかなりますから」
自身も帰国生だった校長ですが、その経験を軸として体得した哲学はとてもシンプルで、きわめてストレートです。
日本の多くの生徒たちは頭が良く、モラルも高く、よく考えているのに、「発言できない」「発問できない」「議論できない」傾向が強いと言う校長は、それを打破するための手段の一つとして英語学習も行うのだと、そして、「英語は実技です」と言い切ります。
校長が心に留めている言葉を2つ教えてくれました。それは、校長自身の哲学でもあり、これからの同校の学びの姿を象徴する言葉でもあります。
日野田校長:「スタンフォード大学で言われていることなのですが、一つは『幼稚園児のように学びなさい』、もう一つは『1時間考えて一つの答えを出すよりも、30秒で一つの答えを出し、120回トライ&エラーをくり返したほうがいい』です。PDCAサイクル(※1)が言われて久しいですが、とにかく『Do』が大事です。我々大人がリスクヘッジしますから、生徒たちには新しい発想で、どんどんチャレンジしてほしいと思っています」
※1「Plan(計画)→ Do(実行)→Check(評価)→,Action(改善)」を繰り返し行って、仕事や学習を効率化する方法
日野田校長が前任校で実践してきたこと。
その哲学は、同校でも活きていく
校長は2014年度から昨年度まで大阪府立箕面高等学校の校長を4年間務め、大変革を成し遂げたことで知られますが、民間の出身の校長としても注目を集めました。
ここで、これから武蔵野大学で実践される教育内容をより具体的に知っていただくためにも、校長が前任校で行ってきた教育と成果について、その一部をご紹介します。
SCORE | 2014年度(人) | 2016年度(人) |
---|---|---|
120-101 | 0 | 2 |
100-81 | 0 | 2 |
80-61 | 2 | 20 |
60-41 | 7 | 13 |
40-0 | 31 | 3 |
ほかにも、2014年までは同志社大学への合格者が約10名だったのに対し、2017年は70名に。2014年の学校説明会参加者が約180名だったのに対し、2017年は約800名と、その教育内容に大きな注目が集まったことがわかります。
着任当時もそれ以前も、海外大学進学者は0名でした。しかし、2017年には世界でもトップクラスの大学を含めて36名が海外大学に合格。なかでも、2014年に創立した、世界最難関といわれるミネルバ大学にも日本初の合格者を出しました。
ホームステイをして英語を話す機会を得るだけの海外研修なら日本でもできるからと、2015年にはMIT(マサチューセッツ工科大学)のアントレプレナーシップ・センターと提携した2週間の短期留学を始めました。
英語で話される起業家の方々の講演を聴き、その後ワークショップを行うものですが、「本当に世界を変えたいと思っているなら、誰でも参加して」という日野田校長の声がけに、英検3級さえ取得していない生徒も含め、28名が参加。
先生方のフォローがあるとはいえ、圧倒的な英語力の壁と実践のハードさに、時には涙しながら過ごした2週間でしたが、その時に味わった衝撃が生徒たちのその後の学びの大きなモチベーションになったことは言うまでもありません。
スタンフォード大学などでも実施されていることですが、誰が何を言ったかにとらわれず、課題に対する最適解を導き出しやすい環境をつくるためにホワイトボードを導入。
それぞれが自分の意見を書いていくわけですが、発言することが苦手な生徒たちも、ホワイトボードを介することでよく議論をするようになったのだとか。
重ねていく(武蔵野大学高校の授業の様子)
ほかにも、受験対策や補習・補講を全廃し、授業時間数まで少し減らしたそうです。このように、大学受験にフォーカスした教育ではなく、生徒たちの自尊心を大事に育てた結果、偏差値も大きく伸びました。
そして、同校の急成長ぶりは海外の大学からも注目され、メルボルン大学やミネルバ大学などが「説明会をさせてほしい」と来校しました。ここまでの成長を遂げながらも、校長は言います。「私は特別なことは何もしていません。『やりたいと思ったことは、どんどんやりなさい』と生徒の背中を押しただけです」と。
経営の神様と呼ばれた松下幸之助が、社員がアイデアを出すたびに「やってみなはれ」と言ったように、生徒たちの「やってみたい」という気持ちを引き出し、環境を整えて後押しさえすれば、生徒たちは目をキラキラさせながら自分でどんどん突き進んでいくのだと。
日野田校長:「学校という組織のなかも、トップダウンではなく、いかにインタラクティブ(双方向)な関係性をつくるかが大事です。ダイバーシティ(多様性)を理解し、共感し、変化・成長しつづけることが何より重要な時代です。私たちはそこを見据えて、生徒たちに何を手渡していくのかを考えなければなりません」
中学は1コース、高校は3コース。
武蔵野大学で展開されていく教育の中身とは?
2019年の中学入学生からは、これまでのコースを統合し、「グローバル&サイエンス」の1コースとなります。
下図にあるように、「グローバル」では「変化の激しい時代に対応して世界に貢献できる人材」の、「サイエンス」では「論理的思考力をもち、社会課題を解決しようとする人材」の育成を目指していきます。
「人は、知らないこと、経験していないことはできません。経験することから、すべてが始まります」と校長が言うように、同校では「知的ワクワク」にあふれた環境に身を置き、一人ひとりの生徒がそれぞれの方法でチャレンジすることを目指していきます。
では、教育モットーの「チャレンジ」を軸とするコアな哲学をはじめ、いくつか抜粋して、具体的にご紹介していきましょう。
●「チャレンジ」できる人を育てるために3本柱で教育を展開
【マインド】
「多様性を認める」、「自分の哲学をもつ」、「暫定解を出す」。どれもが日本人が不得意とするところですが、インタラクティブな授業や諸活動で、世界に通用するこれらの行動様式を自然に身につけていく。
【スキル】
「英語」は、必要に迫られれば誰でも話せるようになるもの。それを精査したプログラムで所要時間を短縮し、TOEFL iBTでハイスコアを取得する力がつく4技能習得のプログラムを実践。
また、すべての活動で「課題解決」の演習を行うとともに、理数などの教科にとどまらず、あらゆる局面で活用できる「論理的思考力」「科学的アプローチ」を身につけていく。
【リーダーシップ】
「解決すべき課題がある時、自分が真っ先に動き出す勇気、覚悟、自信をもっていること」をリーダーシップととらえ、そのような資質を呼び覚まし育てていくために、先生と生徒の対等な関係を築き、生徒が主役となって学校活動を行っていく。
● ダイバーシティを前提とした、インタラクティブな授業を展開
学びの土台となるマインドを形成
人は、受けてきた教育や自分が経験してきたことから、それぞれの思考パターンを形成していますが、そこには当然、思い込みや先入観、偏見もあります。それを一度ゼロベースに戻し、新たな情報や経験によってマインドセットをすることを大事にしながら学びを進めていきます。
校長が言うように、これからの時代はダイバーシティを受け入れることが重要になっていきます。文化的対立をどう解消して、平和で平等な世界をつくっていくか。
そのためには「グロースマインドセット(Growth Mindset/しなやかな思考と態度)」が要になると、校長は言います。
日野田校長:「私自身が経験してきたことですが、海外では人種を混ぜたチームをつくってワークショップを行うのが普通です。同人種のグループではディフェンシブになり、本来のチームは成立しないからです。ですから、これから本校で行っていくワークショップでは、普段あまり話したことのない人とチームをつくり、みんなで最適解を探るプロセスをとおしてダイバーシティを理解し、オープンマインドを促す環境をつくります。人は失敗して自分を知ると同時に、対話するなかで対象化された自分を知っていくものですが、そのような体験に満ちた授業を行っていきたいと思います」
また、先述の「30秒で一つの答えを出し、1時間で120回トライ&エラーしたほうがいい」という話と重なりますが、海外の大学ではクイックレスポンスが求められます。同様に、TOEFL iBTのスピーキングセクションでも、15秒で考えて45秒で答えることが求められます。
正解でなくて構わないのですが、日本人は正解を求めることに集中してきたため、それがなかなかできません。
日野田校長:「英検1級をもっているのに、国際会議でひと言も発言できない日本人がいるのは、そのせいですよね。みんなで話し合い、最適解を求めていくことに慣れていませんし、慮る国民性があります。ですから、生徒たちには次代をブレークスルーしていくために、それぞれの人がもっているポリシーを大事にしながらも、きちんと議論ができるようになってもらいたいのです。そこで重要になるのは、シンパシー(共感)とエンパシー(洞察)です。失敗してもへこたれず、またチャレンジしていくマインドをもたせること、それが私たちの役目です」
「グローバルワークショップ」とはマインドセットから始める英語4技能講座のことで、英語を切り口に「世界で通用するアカデミックスキル」を学ぶものです。外部企業と同校の先生方が協力・連携して、オリジナル講座を共同開発しました。英語を超えて学びの土台となるマインドを形成し、英語以外の教科にもつなげていきます。
ちなみに、主なポイントは以下の3点になります。
①マインドセット...「やればできる」気持ちをつくる
②スキルセット......知識・技術を学ぶ
③プラクティス......くり返すことで上達する
ここでも校長は、英語よりも母国語で、次の2つについてきちんと話せるようになることが肝心だと言います。
「How would you like to be rememberd?(あなたは、どのような人として記憶されたいですか?)」
「How do you contribute to the world?(あなたは、どのように世界に貢献しますか?)」
それを日本語で言えるようにマインドセットすることが重要で、それができるようになれば英語力は後からついてくる、と。
共学化に伴い,部活動の施設・仕組みを整備中
部活動は現状のものを維持しながら、新しいものは生徒が企画・運営するスタイルに
2019年度入試では
「適性検査型入試」「思考力入試」「プレゼン入試」も新設
人の意見や価値観に相づちを打つだけでなく、自分の考えを言葉に出し、相手と対話を重ねながら「Do」してこそ、それぞれの道は開かれる。すべて、冒頭でご紹介した「Who are you?」に還っていく話です。
生徒たちには、自由に発想し、臆することなく発言し、失敗を恐れずにチャレンジしつづけてほしい。それを実現させるための指導態勢とプログラムを整えて、来春、武蔵野大学中・高がオープンします。
下表のとおり、同校の2019年度中学入試は全6回。全日程とも、インターネット出願となっています。
同校のホームページに過去問が載っているので、ご覧になってみてください。また、新設の「適性検査型入試」「思考力入試」「プレゼン入試」は、従来の教科型入試では見出せない力を評価する試験です。
何をもって幸せとするかは人それぞれですが、さまざまに学びの体験を積んで視界を広げ、隣人のことを考えられるようになれば、世界はもっと平和になるでしょう。
日野田校長:「たとえハーバード大学に受かったとしても、もし本当に本人が寿司職人になりたければ、険しい道でしょうが、寿司職人の道に進めばいいのです。そのほうが社会に貢献できますし、それくらいの根性があれば、どこでもやっていけます」
この校長の言葉は、荒唐無稽に聞こえるでしょうか。でも、これこそが「グロースマインドセット」です。明確な志がない限り、「いや、そうはいっても、ハーバード大学に行っておいたほうが良い人生が送れるはずだ」と思ってしまうのは、フィックストマインドセット(Fixed Mindset/固定的な思考と態度)です。
高度経済成長期だったころは、日本も社会が求める人材像と教育が一致していたかもしれません。でも、それはすでに過去の話。今、時代は激変し、それに伴って教育のあり方も大きく舵を切るなか、同校の新たな船出には高揚感を禁じ得ません。
日野田校長:「学校には、夢や希望がないといけません。そして、学校は安心して失敗できる場所です。私たちと一緒に、ワクワクしませんか?」
女子は、ブレザーもセーラーも楽しめる新武蔵野スタイル!
冬服(写真)は明るいブルーのブレザーにライトグレーのチェック柄のスラックスとスカート、ギンガムチェックのシャツにアメリカントラッドスタイルのニットタイに。女子のハイソックスも、ブレザーに合わせたブルーとなります。また、男女兼用のベストやセーター(白・ブルー)、女子のスラックスなど、オプションも豊富です。
また夏服は、男子は白シャツにスラックス、女子はセーラー服に。スラックスとスカートは、冬服とは異なるブルー系になります。こちらも、オプションとしてポロシャツやサマーセーター(白・ブルー)を選べるなど、それぞれが「自分らしい」着こなしができるようになっています。
すべて、素材は着心地を考えたオリジナル。生徒たちからの評判も高まりそうです