学校特集
鷗友学園女子中学高等学校2025
掲載日:2025年3月14日(金)
東京府立第一高等女学校(現・東京都立白鷗高等学校)の同窓会・鷗友会によって1935年に創立。鷗友学園女子は女子教育の先覚者である市川源三と、内村鑑三・津田梅子の薫陶を受けた石川志づが礎を築いた学校です。戦前から「女性である前に一人の人間たれ」と、真の全人教育を実践してきた同校は、アカデミック・マインドとアカデミック・スキル、そして何よりヒューマン・スキルを磨く教育を展開しながら、今、さらなる学びの拡充に取り組んでいます。OGでもある校長の柏(かしわぎ)いずみ先生に、同校の教育理念と今後の教育の在り方についてお話を伺いました。
教育理念に基づく教育を展開するなか、
「外と繋がる」プログラムも拡充
■学校生活の中にあるものは、すべて等しく大事

柏校長:「本校の教育理念は『慈愛(あい)と誠実(まこと)と創造』です。すべての教科のカリキュラム作りも、生活面での指導もすべてこのスピリットに基づいています。そこには教育は全部がトータルに繋がっているという考え方があります。勉強も部活動も友達とのおしゃべりも、学校の中にあるものはすべてが関係し合い、すべてが等しく大事なのです。そんな環境の中で、教員はチームとなって生徒の成長を見守り、一人ひとりが希望を叶えられるようサポートすることが大事だと思っています」
ここで校長は、自身の在校中の進路指導に関するエピソードを教えてくれました。
柏校長:「本校では全学年で、年に2回担任と生徒の面談を行います。私が進路を考える際も、それが決め手となりました。音大に進学したかったのですが、諦めかけていたところ『あなたの人生、それで後悔しないのか!』という担任のひと言で目が覚めました」
このような校長自身の経験と見識は、生徒たちに挑戦を促し、勇気を与えています。

柏校長:「私は生徒たちに、『これは無理かも』とか、『こういう条件が整わない限りできないかも』と、自分で限界線を設けないでほしいのです。自分の心が熱くなるものってあるじゃないですか。得意か苦手かの前に『これ、好き!』『やってみたい!』という気持ちは、困難を乗り越えて道を開く源になると思うのです。みんな、必ず何かあるはずです。ですから中高時代は6年間ゆっくりと、いろいろやってみて、自分はこういう分野に興味があるとか、自分のこういうところを活かすことで社会に貢献できるなど、自分のなりたい人間像を見つけてほしいのです」
■文系・理系の枠を超えてたくさんの経験を積み、自分で「やりたいこと」を選び取る
同校のカリキュラム・ポリシーは、①キリスト教精神・自由教育②全人教育・リベラルアーツ③グローバル教育の3つ。実践される教育のすべては、校訓の「慈愛(あい)と誠実(まこと)と創造」に集約されます。
「慈愛」は相手を尊重し、共に成長する力。「誠実」は自らを見つめ意欲を持って学ぶ力。「創造」は自由な発想で新しいものを生み出す力を意味し、同校創立以来の教育の礎です。
ちなみに、同校はミッション校ではありません。でも、「学問や教育は、どのような立場に立つにせよ、理念を持つことなしには不可能である」と、市川源三は教育の礎をキリスト教精神に求めました。そして、「女性は良妻賢母であれ」と言われた時代に、「女性である前に一人の人間たれ」と教えたのです。

そして今、同校では3日に一回席替えをし、中1・2では「アサーション・トレーニング」を取り入れて「相手に配慮しながら自分の意見を率直に表現」するコミュニケーショントレーニングなどを実施。さまざまな場面で組み合わせをスクランブルし、できる限りたくさんの人との「出会い」を創出しています。
柏校長:「まずはクラス単位ですが、多様性を実感する経験を積み上げていくと、安心して『私はこう思います』と言えるようになります。中1の生徒たちはおしゃべりが一番楽しいと言いますが、そのような関係性の中でアクティブラーニングを行うと、自分の意見を臆せず言うことができます。格好をつける必要がなく、自分らしくいられるからでしょう。また、転げ回るくらい笑ったり時にはケンカをしたりと、感情を出せる、ちゃんと心が動いているのは嬉しいことですね」
同校ならではのプログラムはたくさんありますが、今、生徒たちの視界を広げるためにさらに学びの場を拡充しています。それは、校内に限らず『外から学ぶ』取り組みです。
柏校長:「全員で同一のものを学ぶことも大事ですが、自分で選び取ることはもっと大事です。例えば、高1では大学とコラボするもの、企業とコラボするものなどいろいろなプログラム(年間40本ほどのテーマを提示)を用意しています。昔から理系・文系という言い方がありますが、この先、生徒たちが世の中に出ていく時に求められるのはそこではないはずです。いろいろなものが融合した中で、新しいものを創造していく必要がありますし、それが一人の人間としてタフに生き抜いていく力に繋がると思っています」
ここで、2例ではありますが、今年度の校外プログラムについてご紹介します。
■「外と繋がる」新たなプログラム/高1の例(2024年度)
柏校長:「外との繋がりでは、理系・文系という括りではない、新融合を目指す進路を考えるきっかけになればと思っています。そして、生徒自身が実際に足を運び、実感し、つかみ取る。これらのプログラムは、まさにそこが狙いでした。それがあってこそ自分のものになりますので」

生徒たちの感想:「理系とか文系ではなく、複数の専門が融合して新しい可能性を広げている。そこにこそ未来があることを実感した」/「理系・文系、女性・男性という枠組みを超えたプログラムであることが心に響いた。文系だからこの業種はやめようと思うのではなく、その業種の中でできることを見つけていきたい」/「イノベーションとは、人・物・事の新結合という言葉に感動した。すべてにおいて、未来を創っていくのは私たちであり、今ある技術にどう汎用性を持たせていくのか、今も未来も、自覚を持って頑張ることが大切だと思った」/「放射光を使う素晴らしい技術を企業と連携し社会に還元しようという姿勢から、科学の力で社会を少しでも良くしたいという思いが伝わってきて感動した」

このプログラムに参加した大学院生は、「いろいろな学会の発表よりユニークで、おもしろかった。生徒たちの発想は架空のものではなく、『こういうものがあったら生きやすいよね』という、実生活に繋がる社会課題に注目し、実現できる方策を考えようとしていた」と語っています。
柏校長:「例えば救急車に代わるシステムを作る、宇宙に食料貯蔵センターを作るなど、社会課題について考えていくのですが、そうすると、そのための予算や必要な技術は何か、宇宙に作ると国同士が争うのではないなど、さまざまな問題も出てきます。また、理系の話かと思いきや、それを実行するためにはさまざまな法律も知らなければいけないし、経済も自然環境も関わってくる。どのテーマも、いろいろな側面から総合的に考えてこそ形になるのだということを生徒たちは実感したようです。切り口が何であっても、いろいろな人とコラボしていかなければ目標は達成できないのかもしれないと。今、そういう学びこそが大事だと思っています」
目標は、多様性の中で共鳴し合い、
人と人の繋がりを広げていくこと
■同質性ではなく、異質性の中にこそ可能性がある
柏校長:「同じ一つのものを見るにも、科学的なメガネか芸術的なメガネかによって見えてくるものは違うでしょう。ですから、異なるメガネを持つ人と一緒にやろうよと。つまり、共鳴することが大事だと思うのです。同質性の中で生まれる可能性よりも、異質性の中にこそ大きな可能性があると思います」
では、どうすれば共鳴することができるのか。それは、やはり自分と異なる人たちの中に自分から入っていこうとする姿勢を培うことだと校長は言います。
柏校長:「結局、すべて教育理念の『慈愛と誠実と創造』に立ち返るのですが、どんなにAIが発達しても最後は人と人です。探究心や洞察力を以て、生涯をかけて人と人との繋がりを広げていくことが人生や社会を豊かにするのではないでしょうか。私自身、本気でそう思いながら毎日を生きています。生徒たちが持っている器の中に私たちが入れてあげられるのは『慈愛と誠実と創造』ですが、あとは生徒たちが自分で器を広げて、満たしていってほしいですね。そうすれば、難しい時代と言われる時でも、いや、なかなか素敵な時代を創ってくれるに違いない、と思います」
■中高6年間は、なんでもやってみる時間

ご存知の通り、同校は高い大学進学実績でも知られる学校です。2024年春の実績(卒業生236名)をご紹介すると、東大13名、京大3名、一橋大8名、東京科学大(旧・東京工業大)2名、早慶上理304名、GMARCH309名、医学部医学科29名、海外大6名などとなっていますが、この実績を支えるものは「鷗友スピリット」に他なりません。
柏校長:「鷗友スピリットは、今も昔も変わりません。中高の6年間は、なんでもやってみる時間です。本校には挑戦する人を応援する環境がありますし、学習面でも教員はみんなエキスパートとして、オリジナル教材を毎年アップデートしています。でも、教員は生徒にすべてを与えることはできません。だからこそ、生徒たちには自ら今社会で何が起こっていて、何が必要とされているのかを考え、他国の同じ同世代の人たちがどういう状況にあるのかを知ってほしいのです。一緒に生きていくのは同じ世代の人ですから。生徒と教員というのも、共鳴しながら共に向上していく存在だと思っています」
柏校長と鷗友学園の出会い。
そして、講師時代の海外での挑戦はまさに「鷗友スピリット」
■鷗友学園への入学が、校長自身の大きな転機に!
同校で音楽の教員を長く勤めた柏校長は、鷗友学園のOGでもあります。鷗友学園に入学する前は何でも自分一人で解決しようとし、周りの様子を見てからものを言うところがあったといいます。ところが、鷗友学園で過ごすうちに変わっていったのだそうです。

柏校長:「きっかけは運動会の練習でした。5人の脚を結んで走る『むかでリレー』という競技があるのですが、どうしたら速く走れるのか、5人で作戦を考え練習を重ねる中で、夢中になっている自分に気づきました。一番前のポジションについた私は、『よし、みんなを引っ張らねば!』と全力で発進。すると、後ろの4人の脚が絡まり転んでしまったのです。ところが、肩の力を抜き、後ろの4人を信頼し背中を押してもらうと、自分一人で走るより何倍も速く走ることができたのです。見えない力に乗って風を切る、あの爽快感は今でも体が覚えています。自分だけで完結しようとする小さな世界から、心を開いて人に委ねることで、大きな力を発揮できることを知りました」
そして「もっと、いろいろやってみよう」、「転んでも、やるだけやってみよう」という大胆さも芽生えたと言います。
鷗友学園を卒業後、音大に進学して音楽の教員になった校長ですが、ここからご紹介する講師時代のエピソードは、校長の人となりを表すものであると同時に、「鷗友スピリット」を体現する姿とも言えるものでした。
■音楽の講師時代、校長は海外へ飛び出して「開かれた自分」を追い続けた

柏校長:「私は、キリスト教の牧師の家庭に育ちました。そこでいろいろな価値観に出会い、また讃美歌など音楽の素晴らしさに出会ったのです。大学卒業後は講師として母校に戻ってきましたが、専任になるまでに10年以上の時間があったことが私に大きなチャンスを与えました。長期休みのたびに、念願の海外研修に飛び出すことができたからです。『自分が日本の音大で学んだことがどこまで通用するのか』『日本人のいないところに飛び込み、世界レベルで自分はどこに位置するのか』を知りたかったのです」
ネットで調べるだけ調べ、現地に手紙やメールを送って受け入れの交渉をした校長。そして一つの出会いが次の出会いを生み、長期休暇のたびにイギリス、ドイツ、オーストリアなどでパイプオルガンや合唱など、音楽修行の旅をしました。たくさんの人が礼拝にやってくる大聖堂でも演奏したのだとか。

柏校長:「大学の長期休暇中に開設されるコースにはいろいろな国の方が集まります。弁護士や大学教授などをしながら音楽の専門性を磨く方が多く、その方々との出会いはかけがえのない宝物です。政治や哲学をはじめ、共感できるお話がたくさんありました。言葉に関しては、鷗友学園で学んだ英語だけで困らなかったですね。自分の好きなものを持っていれば、怖いものなしだなと(笑)。私にとって、音楽はパスポートです。『自分はこれが好き』というものを持ったうえで、世界標準で見れば自分はどこにいるのか、自分を客観的に知ることができるもの。そして、さまざまな経験の中から自分に足りないものを示し、次の世界へと導いてくれるものだと思っています」
校長は「本校にはスーパー・リーダーはいません。でも、私たちはスーパー・チームでありたいと思います」と言いました。「一人の人間として世の中に貢献しなさい」と教えた創立者の市川源三と、敵国語がご法度だった戦時中も英語教育を継続した初代理事長の石川志づの教育理念を受け継ぎ、「タフで愛ある人」をモットーに掲げる同校は、今年、創立90周年を迎えます。
■先輩方の活躍も多岐にわたる!
柏校長:女性がなかなか進出できなかったIT関連会社を女性だけで立ち上げたり、たくさんの医師や大学教授、新聞記者、また大河ドラマの裏で琵琶を弾いている人、舞台装飾をしたり、ヨーロッパのオーケストラでコンミスをやっているヴァイオリニストなど、本校の卒業生には本当にいろいろな人がいます。また、社会人になってから留学したり、一流企業に勤めて定年を迎えた年代の方が、最後は人のために尽くすと福祉の仕事をしていたりと、各々が歩みを止めていません」
最後に、鷗友学園で過ごした卒業生お二人の活躍をご紹介します。
●映画プロデューサー・伴瀬 萌(ばんせめぐみ)さん/63回生
「怪物」(是枝裕和監督)でプロデューサーを務める
早稲田大学在学中に、映画監督の是枝裕和氏が指導する授業「映像制作実習」を受講した伴瀬さん。現在は映画プロデューサーとして活躍し、是枝作品『怪物』(2023年)でもプロデューサーを務めました。また、『帝一の國』『万引き家族』『マイスモールランド』などにも関わっています。
そんな伴瀬さんが映画制作に興味を持ったきっかけは、「中学時代に映画のメイキング映像を見て、今まで見えていた作品の裏側にもたくさん人がいることを知り、制作という仕事に興味を持ったこと」でした。そして、大学や就職先は第一希望が叶わなかったそうですが、そのことについて「私は、自分に与えられた環境の中でどれだけ楽しめるかと考えるようにしていましたが、実際に行くことになった大学や就職先は自分に合っていたなと思います」と、自身のこれまで歩んできた道をとらえているそうです。
そして、母校で講演した際、在校生と質疑応答する機会が設けられました。昼休みの25分と短い時間でしたが、伴瀬さんの鷗友時代の班活動(部活動)や行事との関わり、進路選択や受験、大学のことやプロデューサーという仕事、カンヌ国際映画祭でのエピソードなど、在校生からは次々に質問があがりました。最後には、伴瀬さんから「班活動や行事などで行ってきたことが今に繋がっていると感じていますが、目の前のやりたいことをやっていけば未来の自分に繋がっていきます」と、在校生へのメッセージも送られました。その時、伴瀬さんは育児休暇中で、お子さんを抱きながらの質疑応答だったのですが、在校生にとっては仕事と家庭の両立についても考えるきっかけとなったそうです。
●SRHRアクティビスト・福田和子さん/66回生
『FORBES JAPAN 30 UNDER 30 2023』(※)に選出
2023年11月、全国145軒の薬局で緊急避妊薬の試験販売が始まりましたが、その裏には、福田さんが共同代表を務める「♯緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」の存在がありました。緊急避妊薬とは、望まない妊娠を高確率で防ぐ薬のこと。欧米に比べて日本ではあまり普及していませんが、福田さんは2018年に日本で避妊法や性教育の充実を訴える「♯なんでないのプロジェクト」を立ち上げ、活動を続けています。
同校を卒業後、国際基督教大学に進学してジェンダーや政策に興味を持ち始めた福田さんは、大学在学中にスウェーデンに留学して公衆衛生学修士を取得。2022年からは東大非常勤講師も務めて「東大で性教育を学ぶゼミ」を開講しています。「私は新宿歌舞伎町のすぐ近くで生まれ育ったので、性産業が身近にありました。私の知る限り、性産業に関する政策は弱い立場に置かれた人たちではなく、時の為政者の都合を中心に変えられてきました。そして時には、ただでさえ脆弱な状況にある人たちをさらなる窮乏に追い込んでいきました。その事実を目の当たりにする中で、公共政策に関心を持つようになったのです」と福田さん。
「避妊や中絶を、女性がもっと主体的に選択できる社会にしたい。SRHR(性と生殖に関する健康と権利)は守られて当然なはずなのに、実現に必要な情報や手段が『なんでないの?』と。そんな社会への問いかけの先に、一人ひとりの『MY BODY, MY CHOICE(私の体は私が決める!)』が叶えられる時代をみんなで創っていきたいと思います」と語る福田さんは、こうも言います。「はじめから道があったのではなく、共感してくれた人に引き上げられて」と。