学校特集
東京都市大学等々力中学校・高等学校2022
掲載日:2022年12月9日(金)
「noblesse oblige(ノブレス・オブリージュ)」の精神と、グローバルリーダーの育成を教育の理想像に掲げる東京都市大学等々力。入学後は最難関国公立大学を目指すS特選コースと、難関国公立大学や難関私立大学を目指す特別選抜コースの2コースに分かれ、教育理念に掲げた「共生」「英知」「高潔」を育んでいます。
今回は、2017年から始めたアクティブラーニング型(AL)入試について、二瓶克文教頭先生と同入試検討委員会委員長の石黒裕次郎先生にお話を伺いました。
過去には「知識構成型ジグソー法」を
取り入れたグループワークの実施も
2017年から始まった同校のアクティブラーニング型(AL)入試では、「思考力」「表現力」「問いに答える力」をはかる試験が出題されます。
・思考力=あらゆることに対して、「なぜ」と考えられる習慣があるか。
・表現力=自分の考えを相手にきちんと伝えられるか。
・問いに答える力=聞かれていることにきちんと答えられているか。
導入のきっかけについて、二瓶克文教頭先生は次のように語ります。
「本校では知識を重視する一方で、自分の考えを相手にわかるように伝える力も大切だと考えています。学校生活ではメタ認知能力を高める方法のひとつとして、アクティブラーニングを実施。相手の意見を聞いて、自分の意見も高めていくためには、AL入試で重視する『思考力』『表現力』『問いに答える力』が必要となってきます。この力に秀でた入学生を受け入れることで、生徒同士が互いに切磋琢磨していける環境を築きあげていきたいと思っています」(二瓶克文教頭先生)
コロナ禍前までのAL入試では、東京大学CoREF(コレフ)が開発した「知識構成型ジグソー法」を取り入れた試験を実施してきました。出題されたテーマに沿って個人ワークを行った後、受験生が3人一組となりグループワークを行います。グループワークでは、エキスパート活動とジグソー活動を実施。エキスパート活動では、グループごとに異なる資料が配布され、受験生は資料の内容や意味について話し合います。その後、それぞれのグループから1名ずつを集めて新しくグループを作り、ジグソー活動を行います。先ほどのグループで得た資料の内容をそれぞれが展開して、議論を深めていくのです。最後は、ワークシートに自分なりの意見を書いて、試験は終了です。
「新型コロナウイルス感染症の流行により、コロナ禍以降は試験内容を論述試験と面接に変更して実施してきました。しかし、『アクティブラーニング型入試』と冠するからには、毎回同じ入試をしているだけではいかないでしょう」(二瓶教頭先生)
2023年のAL入試では、知識構成型ジグソー法も踏まえつつ、新たなAL入試を行う予定です。
個人ワークでは「学校生活で
どんな声かけができるか」を問う
2023年のAL入試では、「検査Ⅰ(個人ワーク)」を30分間、「検査Ⅱ(グループワーク)」を100分間実施します。
検査Ⅰは、学校生活のある場面を想定した映像をもとに、自分の考えをワークシートにまとめる試験内容です。同入試検討委員会委員長の石黒裕次郎先生は検査Ⅰの試験について次のように語ります。
「検査Ⅰの映像では、『あなたは合唱コンクールの実行委員です。クラスの男子が歌いたくないと主張したら、どうしますか』といった学校生活で起こりうる場面を流します。その時、受験生は誰に対して、どんな言葉をかけるのか。ワークシートにまとめられた内容から、判断力と行動力をはかります」(石黒先生)
ここで重視するのは、「場面をきちんと理解しているか」。そして「声のかけ方でどんな工夫しているか」だそう。
というのも、同校では、相手の意見を受け入れつつ、自分の意見も示す「アサーショントレーニング」を実施しており、中学生では「システムLiP」と呼ばれるプログラムを行っています。同プログラムでは、例えば「消しゴムを貸したけど返してくれない時、どのように声をかけるか」など、学校生活の場面を想定して、相手の意見を尊重しつつ、自分の意見も表現できる方法について学んでいきます。
AL入試の検査Ⅰでは、アサーショントレーニングと同じように、相手の意見と自分の意見のバランスを取りつつ交渉できる力を問う出題となりそうです。
グループワークでは、「問われたことに
きちんと答えられるか」を見る
一方、「検査Ⅱ」では、コロナ禍前に実施していた試験内容とは異なるスケジュールでグループワークを実施する予定だと言います。
「検査Ⅱでは、できるだけ生徒の本質が見えるような試験問題を出題する予定です。とはいえ、突拍子もないことをするつもりはありません。おおよその試験の流れは、テーマが出題され、グループで議論し、ワークシートに書き込む流れで調整する予定です」(石黒先生)
昨年の入試問題では、発想力テストで『「自立」と「自律」の違いを経験をもとに説明しなさい』という出題がされました。大人でも答えることが難しい問題ですが、作問の意図について、石黒先生は次のように語ります。
「AL入試では、正解を示してほしいわけではないんです。出題されたテーマを読んで、受験生がどんな言葉を絞り出すか。その言葉には、その子の本質が眠っているのではないでしょうか。その部分を見ることで、受験生の可能性を見出していきたいと思っています」(石黒先生)
受験生は入試に向けて、面接対策などを施してくることがほとんどでしょう。しかし、正解のない出題テーマを前に、受験生が悩みつつも自分の最適解を見出していく能力は、すぐに身につけられるものではありません。
「AL入試は『対策ができない入試』とも言えるでしょう。出題テーマの答えは、12年間生きてきた受験生たちの日常の中にあるのです。私たちは、本校の教育方針に無理やり合わせた生徒が欲しいわけではありません。大切なのは『思考力』『表現力』『問いに答える力』、そして過去の経験を中学校生活にどのように生かしていけるか、という視点です」(石黒先生)
入試では、ルーブリック評価を行います。複数の教員からの評価で平均値をとって入試の点数としていると言います。
「AL入試の試験終了後は、監督していた先生方から『あの子はどんな様子だった』『この子はこんな部分を見ていた』という話が止まらないんです」(石黒先生)
たくさんの生徒たちを育ててきた東京都市大学等々力だからこそ、教員たちが培ってきた経験をもとに受験生の本質を見極めていくようです。
思考力の高さから、自分で行動に移す力がある
AL入試の入学生たち
AL入試では学科試験を行いません。そのため、保護者からは「入学後、子どもが授業についていけるのか心配」という声が上がると言います。これまでにAL入試で入学した生徒たちは、どのように成長しているのでしょうか。
「現在、生徒会長を務める高校2年生の生徒は、AL入試で入学しました。彼は小学校6年生の11月に中学受験を決めたそう。AL入試のことをインターネット検索で知って、『面白そう』と受験してくれたんです」(石黒先生)
この生徒は2022年第6回全国高校教育模擬国連大会で同校初となる最優秀賞を受賞しました。
「授業についていけるかを心配する声も聞かれますが、成績は後から大きく伸びてきます。あるAL入試での入学生は、高校1年生の時に『英語の勉強をしよう』と周りに声をかけ、勉強する会を作っていました。みんなで頑張る雰囲気を作り出し、自身の成績も飛躍したタイプでした」(石黒先生)
「AL入試で合格した生徒は、議論の仕方や聞き方で秀でた子が入学しています。そういう生徒は自ら考える力があるため、教員にわからない部分を聞きに行き、周りの生徒たちと奮起して努力できるタイプが多いように感じます。もちろんその力は勉強面だけでなく、委員会活動や部活動などで発揮されることもあります」(二瓶教頭先生)
同級生に追いつきたいという思いが勉強の高いモチベーションになっている生徒も。また、同校で時間管理のために使う「TQ(Time Quest)ノート」も、勉強のやり方を学ぶ上で一役買っています。
「成績が大きく伸び始めるのは、中学3年生頃からが多い印象です。それくらいになると、一般入試で入学してきた生徒を上回る成績を出す子もいます。これはひとえに、本人が自分で考えて行動し、努力してきた成果と言えるでしょう」(石黒先生)
「本校はAL入試以外にも、算数1教科入試・英語1教科入試などの多様な入試を実施しています。みんなが切磋琢磨して、学校生活を満喫しています」(二瓶教頭先生)
入学後の学校生活では、一般入試で入学してきたか、AL入試で入学してきたかはわからないほど馴染んでいるそう。クラスメートと仲良くなると、どの入試で入学してきたのかを打ち明け合う姿を見ることもあると言います。多様性に満ちた学校生活は、子どもたちにとってかけがえのない時間となることでしょう。
合格通知後の入学手続きが
8割を超える
「思考力」「表現力」「問いに答える力」をはかるAL入試には、どんな受験生が向いているのでしょうか。
「AL入試を実施していると『リーダータイプの生徒に入学して欲しいのでしょう』と言われることがありますが、そうではありません。世の中はリーダーだけで、うまく回るわけではない。サブリーダーのような役割を担う人物も必要でしょう。周囲の状況をよく見て、どう動けばいいかを自分なりに考えて、意見をきちんと伝えられる子どもにはAL入試が向いていると思います」(石黒先生)
受験生の中には、「AL入試に合っているのでは」と塾の先生に勧められて受験する子どももいると言います。
また、AL入試の募集人数は20名ですが、同校が設定した合格ラインに達しない場合は20名の合格者を出さない場合もあります。
「AL入試で特徴的なのは、受験率が高く、合格通知後の入学手続きが80%を超えることです。それだけ本校への入学を熱望する受験生が集まってきています」(二瓶教頭先生)
昨年は男子40名、女子38名の計78名が出願。そのうち70名が受験し、合格者は男子4名、女子10名の計14名でした。
12年間で磨かれた
生徒たちの原石を見つけ出す
AL入試の入試対策について石黒先生は「できることはあまりない」とは言いつつ、次のように教えてくださいました。
「小学4~5年生あれば、学校内でも外でも、いろいろな経験を積んでほしいと思っています。とくに人とのつながりが大切で、何をきっかけに相手がどう変わったかなどの経験は振り返っておくといいでしょう」(石黒先生)
また、繰り返しにはなりますが、さまざまな事柄に対して「なぜだろう」と考え続ける力は重要だと語ります。
「このほかには、保護者に向けて『聞かれたことに答えられているかを見てあげてください』とお伝えしています。受験生は入試に向けて一生懸命に知識を詰め込んできます。その結果、覚えてきた知識を書くことに必死になり、質問とすれ違った回答になってしまうことがよくあるんです」(石黒先生)
「聞かれていることに答える」というAL入試でも実生活でも重視される力を育むためには、大人のサポートが必要です。コミュニケーションの根幹ともいえる受け答えを、家族の会話でも意識するといいのかもしれません。
12月18日には、(1)同校の教育、(2)AL入試ガイダンス、(3)AL入試体験、(4)入試情報についての「AL入試(思考力・表現力テスト)説明会」が実施されます。参加には事前の予約が必要ですが、毎年人気で会場予約はすぐに埋まってしまうそう。
参加が難しい人に向けて、ガイダンス終了後から1週間以内に説明会のアーカイブ映像がHPに掲載される予定です。アーカイブ映像では、説明会の始まりから終わりまでがすべて記録されます。
「AL入試が少しでも気になったのであれば、ぜひチャレンジしてください。私たちは、受験生が日ごろ感じていること、考えていることをひも解き、これからどんな学校生活を送っていきたいのかを見ていきます」(石黒先生)
熱意ある教員のまなざしにより、受験生の原石が見出されるAL入試。子どもたちの12年間の経験を評価してくれる東京都市大学等々力で、新しく始まる中学校生活を描いていきます。