学校特集
横浜翠陵中学・高等学校2022
踏み出す勇気を育てて未来につなげる
掲載日:2022年10月20日(木)
横浜翠陵中学・高等学校は緑の山々に囲まれた広大な敷地を有し、豊かな自然を日々感じられる環境にあります。1986(昭和61)年に横浜国際女学院として創設され、2011(平成23)年に共学となって現在の校名に変更して新たなスタートを切りました。時代の先端をゆく教育内容に加え、贅沢な自然環境に魅力を感じる男子も多く、元女子校には珍しく中学の男女比は男子7:女子3、高校はほぼ半々です。生きる力を育み未来につなげるさまざまな取り組みについて、広報部長・庄大介先生にお話を伺いました。
四季折々の自然と共にある好環境
横浜翠陵の創立者・堀井章一氏は「考えて行動のできる人の育成」を建学の精神として掲げ、複数の学校を立ち上げました。その1つが1986年に創設された横浜国際女学院翠陵高等学校です。校名に「国際」と銘打った学校は当時では珍しく、国際理解教育や英語教育など、時代の先を見据えた教育をいち早く実践してきました。
JR横浜線「十日市場駅」からは徒歩20分ですが、3つの駅からバス便があり、「十日市場駅」から7分、東急田園都市線「青葉台駅」から15分、相鉄線「三ツ境駅」から20分で最寄りのバス停に到着します。校門をくぐると、迎えてくれるのは森の遊歩道に入り込んだような一面の緑。風が吹き抜け鳥のさえずりが聞こえ、さながら森林浴に来たような心地よさです。
「丘だった場所を切り拓いて学校を作りました。校地の両側に広がる"新治市民の森"と"三保市民の森"の借景も見ごたえがあり、これほど贅沢な自然は都心ではなかなか味わえないでしょう」と庄先生は胸を張ります。「集会所での朝礼でふと横を見ると植木の陰でタヌキも参加していたり(笑)、毎朝校門で生徒を出迎える田島久美子校長がリスを見かけたこともあります。にぎやかな鳥のさえずり、絶滅危惧種の花など、お金では決して買えない環境という宝物をわが校の生徒は毎日享受できるのです」。
そのため、生徒に志望動機を聞くと「自然環境」という答えも上位に入ってきます。女子校が共学化するとしばらくは女子の比率が高いのが一般的ですが、同校の中学の男女比は男子7:女子3。文化祭などで同校を訪れた男子受験生がこの環境にほれ込んで、受験を決めるケースも多いそうです。「おおいかぶさるような緑に囲まれ、車道からグラウンドは見えないから、校地に入らないと校舎が見えません。数年前に雪が降って30センチほど積もった時は、休み時間に生徒たちが雪遊びに興じ、雪だるまが100個以上も並びました(笑)」
こうした自然環境は、教科学習にも役立っています。中1の理科の授業では校内を散策しながら植物や生物を観察するなど、生きた教材が身近にあふれているからです。四季折々の美しい自然の風景に触れることで情緒が豊かになり、地盤が固いため防災上の心配も少なく保護者にとっても安心して通わせることができる環境です。
失敗を恐れず「Think&Challenge!」
共学になった2011年に新たに掲げたスローガンが「Think&Challenge!」です。最近は「自分たちで考えて課題を見つける」「挑戦する」など、これからの時代に必要な力を育む取り組みが増えています。でも、同校では10年も前からこのスローガンの下で考える力と挑戦する心を育んできました。「もちろん様々な場面でこの2つの姿勢が必要ですが、主にThinkは学習面、Challengeはクラブ活動や行事を中心に取り組んでいるイメージです」(庄先生)。
この理念を体現するツールの1つが、チャレンジノート。自律的に学習する習慣をつけるために日々の行動や目標、気持ちなどを記録するもので、書く=考えることにつながっています。見開きで1週間分あり、家庭学習の内容や取り組んだ時間、目標などを書くことで、主体的かつ計画的に学習する力を育みます。「この欄はもっと広い方がいい」など生徒の意見を聞きながら少しずつ改良を重ね、3年前に完成したオリジナルノートです。
「日記のように思ったことを自由に表現するスペースもあり、1週間に1回提出して担任教員がコメントをつけて返却します。思ったことを言葉にできないときも、このノートに思いや悩みなどを書き綴る生徒もいるので、生徒の気持ちをキャッチする貴重なツールでもあります。字は気持ちを映すので、字が乱れていたり、無難なことが書いてあっても消しゴムで何度も消して書き直した跡が残っているときは"何かあったか?"と声をかけています。生徒は"別に、何もありません"と言うことが多いですが、先生が自分の変化に気づいてくれた、気にかけてくれた、とホッとしていると感じます。この積み重ねで、生徒との信頼関係が盤石になっていきます」(庄先生)。
チャレンジノートなどを活用して自分で時間管理をしつつ課題に取り組みますが、中学生は必要に応じてフォローが必要です。同校は2期制なので3学期制の学校に比べると定期テストの回数が少なく余裕をもって勉強できますが、逆に中だるみしてしまう可能性も否めません。そこで年3回、定期テストの間に「実力養成試験」を実施してとりこぼしをなくします。さらに中2と高1は後期期末テストの前に主要5教科中心に「ステージアップテスト」を実施。中2では2年間の総復習、高1は高校1年間の総復習の位置づけで、合格点(7割)をクリアするまで再試、再再試を受けることになります。再再試で不合格となると校長面接が待っているので、生徒たちは何としても合格すべく復習に励みます。こうした反復学習が学習サイクルの中に組み込まれ、しっかりした土台を築くことができるのです。「むやみに先取り学習せず、基礎基本を徹底するのがわが校のスタイル。堅固な基礎を築いておけば、大学入試もその先の人生も通用するはずです」と庄先生は力強く話します。
世界の課題に取り組む「翠陵グローバルプロジェクト」
「Think&Challenge!」を体現するために、6年前に立ち上げたのが「翠陵グローバルプロジェクト(SGP)」です。どんなことが実現できれば世界がハッピーになれるか、中学3年間をかけて課題に取り組み解決策を提案します。こうした課題解決型の授業を課外活動的に実施する学校もありますが、同校では時間割の中で1週間に1時限の時間を取り、カリキュラムに組み入れて真正面から取り組んでいるのが特徴です。
中1では、「SDGsについて知ろう!」をテーマに、SGPの授業で学びを深めます。SDGsというものが生まれた背景や目的にまで視野を広げ、17の目標一つひとつの意義を考えた上で、自分が最も興味をもつ目標を一つ選択し、調べ学習に取り組みます。その内容をまとめたスライドとともに、前期に取り組んだKP法(紙芝居プレゼンテーション法)の発表経験を生かし、「人に伝わるプレゼンテーション」にも挑戦します。
中2はSGPの授業を通して、様々なトピックについて考えます。前期は「世界一大きな授業」、「SDGs4教育キャンペーン」を通じてSDGsの17の目標について理解を深めます。また「マイクロディベート」と呼ばれる、あるトピックについて異なる立場に分かれて議論を行う活動を通して人に意見を伝える場合には根拠を持って話をすることの大切さを学びます。根拠を持って話をするには、物事を深く理解する必要があります。そこで後期は、探究活動を通して学びを深めます。その集大成として、グループごとに健康・スポーツ・テクノロジー・社会問題、という4つのトピックについて、調べたことやできることについて発表します。
そして最終学年の中3はそれまでのSGPの集大成として、SDGsの17の目標から課題を1つ選び、解決策を考えて自分なりのゴールを提案します。卒業研究は壮大なテーマに取り組むため、メンターとして先生が1人ずつつき、生徒の研究や発表準備をバックアップします。レポートの内容、書き方、スライドの作り方や発表の仕方まで、1週間に1度は先生の指導を受けながら打ちあわせを行い、発表の日を迎えるのです。「中3の発表は1人20分と、大人でも大変な長さです。しかし生徒たちはそれまでの3年間で人前で意見を述べたり大小さまざまな発表を実施しているので、臆することなく堂々と発表を行います。2年前の中1のポスターセッションでは緊張していた生徒が、観客の反応を見ながら身振り手振りを交えて堂々と発表する姿を見ると、感慨深いものがあります」(庄先生)。
失敗を恐れず挑戦し、次のステップにつなげる
庄先生は学校説明会のとき「生徒たちのありのままの姿を見てほしい」と考え、時には生徒を登壇させます。事前に依頼することもあれば、当日に突然指名することもあります。「受験生や保護者の前で、学校生活について3分で話してほしい」と頼まれた生徒たちは、一瞬とまどいつつも堂々とスピーチをしてくれるそう。
「下書きさせたり原稿をチェックする必要はなく、思っていることを自由に話してくれればいいんです。教員が添削してきれいな言葉で話すより、生徒たちをそのまま見てもらえば生徒の学校での様子がよく分かるはず。生徒の姿を見て"ここで学べば、あんなふうに成長できるんだ""あの先輩たちとこの学校で学びたい"と感じた生徒や保護者に来てほしい」と庄先生は笑顔を見せます。
とはいえ、いきなりの指名では必ずしも100%満足いくスピーチができるとは限りません。生徒がスピーチの出来栄えに納得していないと感じたら、庄先生は「よく頑張ったな。いいスピーチだったけど、ここをこうするともっとよくなるよ」とさりげなくフォローします。「そうすると、生徒のほうから"もう1回やらせてください""次回はリベンジしたい"と言ってきます。チャレンジには失敗はつきものですが、失敗してもいいからチャンスを与えて前に進むことが大事なんです」と庄先生は力強く話してくれました。
チャレンジノートを使って自分と対話しながら計画や目標を立て、学習を積み上げて振り返って次につなげる――学校生活もそれと同じように、自律とチャレンジ、そして振り返りの繰り返しです。その中から生徒は自分に必要な知識をつかみ取り、経験を積み、失敗と挑戦を繰り返して大きな自信をつけて将来につなげていくのです。
中3全員海外研修で大きく成長
創立当初からグローバルな教育を実践していた同校では、1987年からは中3全員参加の海外教育研修が始まりました。現在は夏休みにニュージーランドで2週間の研修を行い(昨年度と今年度はコロナの影響で中止)。2週間の間、生徒1人が1家庭にホームステイし、現地校の生徒とバディを組んで授業を受けて英語力やコミュニケーション力を磨きます。
「女子は行く前は不安で泣き、帰国時はステイ先の家族や現地校の友人との別れを惜しんで号泣。一方、男子は行く前も帰国後も淡々としていて対照的です(笑)。でも研修旅行の後、男子は家族に感謝の言葉を述べたり、学校や友達のことを話すなど、研修を機におおきく変わります」と庄先生は話します。「英語が得意な生徒が思ったほど喋れなかったり、苦手な生徒が身振り手振りでコミュニケーションをとって自信をつけることもあります。ホームステイを経て家族の温かみを実感した、という声も聴きました。その経験と思いが、家族への感謝や会話につながっているのでしょう」。
「面倒見がいい学校」と定評のある同校ですが、庄先生は学校説明会などで開口一番、「わが校は面倒見がいいと言われますが、面倒は見ていません」と話すことがあるそうです。驚く受験生保護者に対して、庄先生は畳みかけるようにこう続けます。「生徒はひとり1人、能力も性格も成長スピードも違う。1から10まで面倒をみるのではなく、どの生徒ともきちんと向き合うようにしています」。
たとえば入学したばかりの中1は2人担任制を取り、チームで対応しています。中学は1学年50~60人とアットホームな学校なので、GW明けから全員が校長の田島先生との面談に臨みます。田島先生は雑談で生徒たちの緊張をほぐしてから、生徒たちの学校生活や将来の夢や目標についての話も引き出します。アットホームな中でも適度な緊張感を持ち、先生と生徒がほどよい距離感を保っているのです。
自律的な学習習慣をつけて基礎基本を徹底しつつ、その中で果敢にチャレンジする姿勢も大事にしながら学校生活を満喫している生徒たち。積み重ねと振り返り、そして挑戦を繰り返して夢につなげていく――明るい未来を見据えた生徒たちの姿と同校の豊かな自然環境は、ぜひ学校説明会などに足を運んで実感してみてください。