学校特集
サレジアン国際学園世田谷中学高等学校2022
掲載日:2022年6月14日(火)
創立者である聖ヨハネ・ボスコの「Assistenza(アシステンツァ/共に在る)」の精神のもと創立した目黒星美学園は、2023年度から共学化し、サレジアン国際学園世田谷へ校名変更します。教育目標に「未来に羽ばたける力、『世界市民力』を育む」を掲げ、世界的な「良き市民」の育成を目指していきます。共学化の背景や全教科で実施するPBL型授業、新設される本科クラスとインターナショナルクラスの2コース制について、お話を伺いました。
これからの時代に必要となる5つの力
1872年に聖ヨハネ・ボスコと聖マリア・ドメニカ・マザレロによって創立された修道会「サレジアン・シスターズ」。同校は、イタリア・ローマ市に本部を置く同修道会を設立母体とし、理性・宗教・慈愛に基づく「全人間教育」を行うために創設されたカトリック・ミッションスクールです。
2023年度からの共学化について、小西 恒教頭先生は次のように語ります。
「サレジアン・シスターズを設立母体とする学校は世界97か国にありますが、その多くが多様性を求められる時代の変化とともに共学化の流れにあります。私どもも、1990年代に共学化したオーストラリア・メルボルンにあるサレジアン・カレッジとの交換留学などから、共学化の必要性について考えるようになりました」
同校は約2年前にサレジアン・シスターズの本部から共学化の許可をもらい、現在まで準備を進めてきました。
共学化に伴い、同校では設立者である聖ヨハネ・ボスコの精神を受け継いだ、世界的な「良き市民」の育成を掲げます。グローバル化が進む社会の中で日本にいても第一線で活躍できる人財を育てるために、①考え続ける力、②言語活用力、③コミュニケーション力、④数学・科学リテラシー、⑤心の教育、の5つの柱を教育の中心に据えました。
「特に、『心の教育』は大切にしていきたいと考えています。知識や論理力が身についても、誰かを思いやる力は決しておろそかにしてはなりません。私たちの学校には、大小さまざまなボランティアのコンテンツがあり、生徒の間にはボランティアに対する前向きな空気があります。社会貢献は生徒たちの心に大きな影響を与えるでしょう。時には将来活躍するモチベーションにつながるかもしれません」(小西先生)
コロナ禍により取り組みが停止している活動も一部ありますが、これまでに被災地ボランティア研修や自治体などが実施する防災イベントなどへ参加してきました。ボランティアを通じて、「今、自分にできること」を考える経験は、生徒たちの心に相手を思いやる大切さを改めて示します。
主体的な学びで考え続ける力を養うPBL型授業
世界的な「良き市民」の育成で必要となる5つの力を育むために、同校では2022年度からPBL(Problem Based Learning)型授業を全教科で実施しています。PBL型授業とは、従来の知識を詰め込む講義型の学習から脱し、自ら問題を分析して課題を発見し解決することで、主体的な学びを得るもの。
具体的には、トリガークエスチョンとなる「問い」を教員側が生徒に投げかけることから始まります。生徒は一人ひとりで問いを分析し、自分の中で最適解を考えます。その後はグループを作ってディスカッション。最終的にはグループとしての答えひとつを選び、プレゼンテーションを行います。
「トリガークエスチョンとなる問いは、単元に沿った内容で、知的好奇心をそそる投げかけとなっています。例えば『美しい』という言葉の意味を辞書に書き加えるとしたらどうするか。生徒たちは、時代によって変化する美しさの定義や歴史について深く考え、自分で仮説を立てたり検証したりしながら、正解のない問いに向き合います」(小西先生)
自ら考えることで知識が定着し、自分の意見を論理的に組み立てる能力やクリティカルな思考が身に付きます。また、多角的な視点から新しい解決方法を生み出すクリエイティブな考え方、検証やグループディスカッションの機会から、数学・科学リテラシーやコミュニケーション力、心の教育も育みます。
「PBL型授業は全教科で各学期に1回以上実施するため、話すのが苦手な生徒でも自然とコミュニケーション力が身についていきます」(小西先生)
PBL型授業の全教科実施により、同校では通常の授業でも、生徒が主体的になって考える問いかけが増えているそう。今後は共学化することで、感性豊かな女子生徒の考え方とロジカルな思考を持つ男子生徒の意見が化学反応を起こし、互いの刺激になることに期待しています。
将来を投影できる研究課題を見つける「本科クラス」
共学化に伴い、同校では2023年度から「本科クラス」と「インターナショナルクラス」の2コース制を実施します。
本科指導部長の市橋朋之先生は本科クラスについて「熱く探究する生徒の育成を目指し、PBL型授業とゼミに重きを置いた授業を実践する」と言います。
「本科クラスは、生徒たちが6年後、さらには12年後に幸せに暮らしていけることを大きなテーマに据えています。神戸大学により調査された発表では、人の幸福感は所得や学歴の高さよりも自己決定が強い影響を与えることがわかっています。自己決定ができるためには、自分と向き合い、考え続ける力が必要。本科クラスでは、興味関心のある探究活動を行うゼミの時間を通して、学問の枠組みを超えて自分の将来を投影できる研究課題を見つけられるよう、サポートしていきます」(市橋先生)
ゼミの授業は、週2時間と放課後の時間に実施。中1では興味・関心を伸ばす期間として、まずは記録の付け方や情報へのアプローチ、発信の作法について学びます。中2になると、所属するゼミを決めます。ゼミは、「自然科学」「人文社会科学」「数理情報プログラミング」の3つの学問領域から、さらに3つの小さなゼミに分かれます。
「教員が2名ずつ指導につき、生徒を導いていきます。ゼミで自分の興味・関心を伸ばすことで、大学などの将来の進路を決める際に役立つのではないでしょうか」と市橋先生。
本科クラスでは、進学先として理系大学、難関の国公立大学、私立大学を想定しています。また、英語の授業数が文部科学省の設定する時間数の約2倍となる週8時間と充実していることから、国際教養系に興味を示す生徒もいるでしょう。その場合は、インターナショナルクラスの教員と協力して大学進学をサポートしていく予定です。
英語が飛び交う環境で学ぶ「インターナショナルクラス」
インターナショナルクラスでは、英語学習歴によって「スタンダード」と「アドバンスト」の2グループに分かれて授業を行います。スタンダードは英語力にまったく自信がなくても、国際的な分野で活躍したいという志が高い生徒であれば在籍できるグループ。一方、アドバンストは英検2級以上の英語力がある帰国子女などの生徒を想定しています。インターナショナル指導部部長の上田かおり先生は、「インターナショナルクラスは、学校生活そのものがインターナショナルな環境と言える場になる予定」と語ります。
「ホームルームと、SAPと呼ばれる英語の授業はスタンダードとアドバンストの混合で行います。教員だけでなく、同級生からも英語で話しかけられる環境となるため、スタンダードの生徒は最初こそ会話についていくのに必死かもしれません。しかし、グローバルな環境で過ごすことで、実りの多い日々を送ることができると思っています」(上田先生)
外国人教員であるインターナショナルティーチャーが担任となり、副担任の日本人教員と共にクラスをサポート。ホームルームは、英語のみのオールイングリッシュで連絡事項やお祈りを行います。
上田先生は、「インターナショナルティーチャーは、多国籍で多様な背景を持つ人物が担います。例えば、フィリピン出身で、英語とタガログ語、日本語が話せる教員や、香港出身の両親の元、オーストラリアで生まれ育ち、英語と広東語、日本語が話せる教員がいます。現在中1の副担任として勤務していますが、在校生はすでにオールイングリッシュのホームルームを違和感なく受け入れています」と教えてくれました。
スタンダードの生徒は英語の授業をインターナショナルティーチャー主導のチーム・ティーチングで学習。一方、アドバンストの生徒は、英語・数学・理科・社会科の授業をオールイングリッシュで学びます。
高1での留学を見据える英語授業「SAP」
インターナショナルクラスでは、週8時間の英語授業に加え、サレジアン・アカデミック・プログラム(SAP)を週2時間実施します。SAPは、英語で思考し世界に発信する力を強化するプログラム。本科クラスのゼミにあたる時間で、スタンダードとアドバンストの生徒が一緒になって中1でプレゼン、中2でディスカッション、中3でディベートについて英語で学んでいきます。テーマは、中1が自分や自国を中心とした文化学、中2が環境問題、中3が世界の社会問題で、少しずつ視野を内から外へと広げていきます。
「基礎から発展までを中学3年間で定着させることで、任意で参加する高1の長短期留学につなげていきます。中3では、模擬国連の交渉スピーチができるレベルにまで英語力や思考力を高めます。SAPの授業で、生徒同士が英語で考えを共有することで、学んだことが定着し、自分や他者の考えをしっかりと理解できるようになります」(上田先生)
なお同授業では、サレジアン・シスターズを設立母体とする世界中の兄弟校との交流も予定しています。
「これまでにもフィリピンボランティア研修などで兄弟校と交流した経験があります。まずは時差の少ないアジア圏の兄弟校を中心に、オンライン交流を実施していく予定。世界中の同級生と同じテーマで議論する機会は、生徒たちにとっていい刺激となるでしょう」と上田先生は話します。
インターナショナルクラスを卒業後は、海外大学への進学も視野に入れています。
「海外大学はその地域によってIELTSやSATなど採用されているテストが異なります。入学した生徒や保護者の意見を取り入れながら、国内外の望む進学先に向けてバックアップしていきます」(上田先生)
インターナショナルクラスでは、英語レベルに応じて進級時にアドバンストにステップアップすることも想定しています。また、中学から高校へ進学する時には、本科クラスとインターナショナルクラスの間で転科も可能となる予定。生徒の希望する進路に寄り添った対応を考えています。
2023年度の同校の募集人数は約90名。うち、本科クラスが約60名、インターナショナルクラスが約30名です。入試では、本科クラスでは思考力に関わる入試問題を行う予定。一方、インターナショナルクラスでは、スタンダードは英語力がなくても受験できるように英語入試を設けない方針です。
上田先生は、「まだ英語に興味を持っていないお子さまも、ぜひ学校に遊びに来てください」と優しく呼びかけます。
「学校を見に来たら、将来へのイメージが変わるかもしれません。インターナショナルな環境を整えて、お待ちしています」(上田先生)
中高6年間で、友達や世界中の兄弟校の同級生たちと学び合い、自分の興味・関心を伸ばす時間は、子どもたちの将来を支える大きな礎となるでしょう。