学校特集
麹町学園女子中学校・高等学校2022
掲載日:2022年8月1日(月)
「豊かな人生を自らデザインできる自立した女性」の育成を掲げ、さまざまな教育改革に取り組んできた麹町学園女子。1905(明治35)年創立以来の伝統的な女子教育を継続しながら、世界につながる「みらい型学力」を培うため、「みらい科」「アクティブイングリッシュ」「思考型授業」「グローバルプログラム」の4つを柱とした教育改革を推進し、さらに昨年からは「アクティブサイエンス」を加えるなど、同校オリジナルのさまざまな教育プログラムを積極的に展開してきました。2022年4月に着任した校長の堀口千秋先生に、麹町学園女子の魅力や今後の展望について伺いました。
ありのままの「自分らしさ」が発揮できる。それが女子校の良さ
着任早々に堀口校長が「女子校ならではの発見」としてSNSにツイートしていたのは、必修科目の授業として華道・茶道を教えていることへの驚きでした。ちなみに、堀口校長の前任校は共学校です。
堀口校長:「今春卒業した生徒の中には、授業をきっかけに華道に興味を持ち、6年間で師範免許を取得した生徒が3人もいました。実は、茶道を教えている講師も本校の卒業生。華道師範の彼女たちもいつか、本校に華道を教えにきてくれるのではないでしょうか」
女性としての所作や豊かな教養を身につける機会として、同校では授業で全員が華道(草月流)と茶道(裏千家)を学んでいます。中1〜中2前期は華道、中2後期〜中3は茶道を、それぞれ講師を招いて指導を受けています。また、放課後の課外講座としても、華道・茶道・ピアノ・箏(山田流)を習うことができます。
学校生活の中で日本文化の素養を身につけられるのは、明治期に女学校として創立された同校ならではの伝統教育です。さらに、豊かな教養を育むために、各学年での芸術鑑賞会など、多彩な機会を設けています。
今年6月、生徒会や実行委員会が中心となって、体育祭が開催されました。テーマは、「繋(つなぐ)〜伝統と心を結ぶ〜」。同校が築きあげてきた「麹町魂」を後輩たちに引き継いでいくことを意識して、代々受け継いできた踊り「こきりこ」(高3)や応援合戦、ダンスなど、中1から高3までの全生徒が一緒に、コロナ禍で中止・時短が続いた過去のストレスを吹き飛ばすように、力いっぱい競技していました。
「共学校の場合、女子は無意識に男子に頼りがちですが、女子校ではすべてを自分たちで行わなければなりません。重い道具の持ち運びから騎馬戦まで、女子だけですべて行うのは大変ですが、生徒全員が全力で臨んでいる姿が印象的でした」と、校長は話します。
堀口校長:「正直、まだよくわかっていないところがたくさんありますが、異性の視線を過度に意識することなく、ありのままの『自分らしさ』を出せるところが、女子校の良さですね」
共学校で長く教鞭をとってきた堀口校長にとって、穏やかで優しい生徒たちの一面と、時には元気いっぱい男子顔負けの逞しさも発揮する女子校ならではの気風は、とても新鮮に映ったようです。
同校では、「聡明・端正」を教育目標に掲げ、知性と品性を兼ね備えた「しなやかに、たくましく」自立した女性となることを目指しています。
多様な価値観が混在する現代社会だからこそ、「本来持っている麹町学園女子の魅力をさらに強く打ち出していきたい」と、堀口校長は話します。さまざまな教育改革に着手して実績を積み重ねている同校ですが、理科教員でもある堀口校長は、新たなビジョンの強化ポイントの一つとして、「アクティブサイエンス」を取り上げました。
「アクティブサイエンス」とは、実験や観察を繰り返すことでプロセスを考える能力、すなわち「論理的思考力・批判的思考力」を養い、問題解決に向けて「主体的に取り組む力」、「自主的に思考する力」を身につけていく取り組みのことです。
同校には3つの理科室があり、生物、化学、物理など分野によって使い分けることができる恵まれた環境が揃っています。創立者の大築佛郎は地質学者であり、「科学の目を開くことをはじめ、広い知識や教養を身につけた女性を育てる」ことが、教育目標の一つでした。
堀口校長:「『アクティブサイエンス』は、創立者の教育理念に通じる発想です。施設環境を含め、リケジョを育てる環境が整っていますから、理科・数学に興味のある生徒を多く育てていきたいと思っています」
お話の最中、「これは何か、わかりますか?」と、堀口校長が青灰色の液体が入ったペットボトルを取り出して見せてくれました。ご自宅で自らナスの皮を煮詰めた液体でした。ナスの皮には、紫色の色素アントシアニンが含まれており、他の成分を加えると色を変える性質があるのです。
堀口校長:「この液体に食酢を入れると、鮮やかな赤色に変わります、何故でしょう? 重曹を入れると黄色っぽく変色します。何故でしょう? 虫刺されにキンカンを塗りますよね。何故かというと、虫の毒はほぼ酸性毒なので、アルカリ性のキンカンを塗って中和させようとしているのです。なぜ色が変わるのか、考えたことがないでしょう? 『不思議だな、何故だろう?』、そう思ってもらうのが理科なのです」
そんなふうに理科に興味を持ってほしいと、6月の学校説明会では、「理科チャンラボ」(=リカチャン・ラボ)というイベントを取り入れました。小学校高学年の生徒とその保護者を対象に、「キッチンサイエンス」と題して、家庭にあるアイテムを使って酸性・中性・アルカリ性を判断する理科実験を行ったのです。
その時、試薬代わりに登場したのが、先述の「ナスの皮を煮詰めた液体」です。そこに、レモン汁や炭酸水などさまざまなものを入れて、酸性かアルカリ性か、色が変わらなければ中性という「科学の不思議」を目の当たりにして、子どもたちの目はどんどん輝いていったそうです。
堀口校長:「小学生たちは好奇心満々で、身を乗り出してきます。教えている教員もそういう姿を見ると嬉しくなってきますから、『知らなかった? じゃあ、これは?』といった具合に、次々にいろいろな例題を示したくなります」
中学の理科の授業は週4時間ですが、実際に手を動かしたり体を動かしながら思考を深める「実験」を連続2時間、座学を中心として知識を学ぶ時間を2時間とっています。一問一答形式のプリントに取り組むような時間が大幅に減り、先生と生徒、生徒間でも話題が飛び交う授業となり、「何故、こうなるのか?」と自分で考える習慣が身につくようになりました。
❶実験・観察を繰り返す→プロセスを考える能力を養う
❷生徒の活動中心の授業を展開→問題解決に向けて主体的に取り組む力、自主的に思考する能力を身につける
❸グループ学習を行い、生徒間で積極的に話し合う→言語能力、コミュニケーション能力を育成
❹身近な素材や教材を扱う→理科に対する苦手意識をなくし、学習意欲を高める
英検取得率が大幅アップ
同校の教育改革の中でも目覚ましい成果を上げているのが、安河内メソッドと呼ばれる「アクティブイングリッシュ」です。「聞く・話す・読む・書く」の4技能を確実に身につけ、「使える英語」を体得する同校オリジナルの活動型英語学習法です。
全学年で音声付きの教材のみを使用し、生徒たちが大きな声で英語を暗誦する姿は、日常の風景となりました。日々声に出すことで、英語の抑揚やリズム感を体に染み込ませていく安河内メソッドは、今や同校の代名詞となっています。学びは楽しくなければ実を結ばないという考え方のもと、中1でも身振り、手振りを交えて1分間スピーチを行うなど、実践の場を充実させています。
拙い英語でも、まず伝えようと試みること。理解できるようになれば、さらに楽しくなっていきます。
堀口校長:「英語の活発な授業は目を見張るものがあります。着任したばかりの頃、あまりに大きな声が聞こえてくるのでうるさ過ぎると注意しようと思ったら、英語の授業中でした(笑)。生徒が目をキラキラさせながら、大きな声で英語を暗誦している姿に驚きました」
英語を話すことが楽しくて仕方がない。そこには、まさに学びの喜びがありました。結果が伴うことで、英検取得率も年々上がり続けています。「アクティブイングリッシュ」1期生として6年間学び続けた2021年度には、高3の英検2級以上の取得合格率が67.9%まで上がっています。また、中3の準2級以上が57%(2人に1人以上)、3級以上は89%となっています(2022年3月現在)。
堀口校長:「高3で英検1級を取得した生徒もいます。今春、ICU(国際基督教大学)に進学した彼女は中高一貫生で、中1の時はABCからのスタートでした。アクティブイングリッシュを学ぶようになって、どんどん英語が楽しくなっていったのだと思います。卒業生による在校生向け進路ガイダンスにも来てくれて、『久しぶりに日本語を話しています』と言っていたほど、英語漬けの毎日を送っているようです」
■英語学習の5つのルール...Have Fun! Keep Smiling! Be Active! Be Creative! Help Each Other!
■朝の音声活動...全学年で、毎朝8時30分から10分間、教科書の英文を音読したり、英語の歌を歌う
■KEPT(Kojimachi English Proficiency Test)...同校独自の「中学・高校統一フォーマットの4技能試験」のこと。4技能を均等に育成することを目的とし、授業内容が繰り返し試験範囲に入ってくるため、体験的に英文構造を理解する
学びの基盤を固め、自ら進路を切り拓く
堀口校長:「本校では、さまざまな教育改革に着手し、実績を積み重ねています。今後は、従来の麹町学園女子の良さをアピールすると同時に、生徒が行きたい大学に行けるように進路指導し、自分がやりたい仕事に就けるように導いていきたいと思っています。どんなに社会的・経済的待遇の充足度が高い仕事でも、自分がやりたいことでなければ躓いてしまいますから」
同校の手厚い進路指導と面倒見の良さには定評があります。「進路の保証」を大きな教育目標の一つとし、2025年に「早慶上理10名以上、MARCH30名以上」という進路目標を定めました。
漠然と大学を選ぶのではなく、自分が何を勉強したいのかを考えさせ、高大連携の大学訪問や出張講義など大学を理解する機会も積極的に設けています。毎年80校以上の大学が参加するオリジナルの進学フェアを行ったり、大学合格を意識した講習・講座も豊富に用意されています。
こうした「高大連携」による「進路の保証」の充実度は年々上がっていますが、高校には「東洋大学グローバルコース」を設けています。東洋大学と学校間教育連携協定を結んだことによって、英検2級以上など一定の推薦基準を満たせば原則全員が、東洋大学へ進学できるシステムです。国際系や情報系をはじめ13学部39学科(2022年現在)を擁する東洋大学の、生徒の希望する学部学科へ進むことができるという、首都圏ではこれまでにない画期的なスタイルが特長です。
この連携によって、同コースの生徒83名のうち、58名が東洋大学に進学しました(2021年実績)。コースに所属する生徒の70%に該当します。
生徒が安心して学習意欲を高め、進路実現をするにあたって、複数の大学と高大連携を締結しています。大学の講座や行事などに生徒が参加したり、大学の教員による出張講義など、教育交流を活発にしています。
■高大連携大学
東洋大学/成城大学経済学部/共立女子大学国際学部/女子栄養大学各学科・短期大学部/東京女子大学現代教養学部国際英語学科(国際英語専攻)/日本女子大学
堀口校長:「私はよく、自転車の練習で『転ぶ』ことの大切さを引き合いに、今のうちに、いろいろなことに挑戦して失敗してくださいと話します。練習中に転んで痛かった経験は忘れませんが、だからといって『もう自転車には乗らない!』とはなりません。中高6年間の失敗は何度でも回復できますし、それによって対処の仕方も学ぶことができます。生徒は失敗する勇気を、そして教員や保護者は見守る勇気が必要です。何かあったらきちんと大人は見ているという安心感を与えつつ、普段は自由にさせてあげる。失敗するとわかっている大人からすると、一歩引いたところで見守る勇気はなかなか難しいですが、教員側にも発想の転換が必要です。そうして、本校で失敗しながら『学ぶ楽しさ』を知ってほしい。そのための、心の土台・知的土台を育てていきます」
同校が「豊かな人生を自らデザインする自立した女性」を養うために実施している、「アクティブサイエンス」と「アクティブイングリッシュ」以外の教育改革についても、改めてご紹介しておきましょう。
■みらい科(中1〜高2/週1回)
自己肯定感を育み、物事にしなやかにたくましく対応するための同校オリジナルのキャリア教育。「なぜ?」を問い続ける力を育み、自分の「生き方」の基盤を作る「こうじまちコンピテンシー」を体得する。
■グローバルプログラム
アクティブイングリッシュで身につけた英語力やみらい型学力などで異文化に触れ、グローバルな視点と姿勢を育てるプログラム。
※コロナ禍のため、海外語学研修や修学旅行、留学は実施を検討中。
■思考型授業
自ら課題を見つけ、協働力を身につけるPBL(問題発見・解決)型授業を全教科で実施。