学校特集
城西大学附属城西中学・高等学校2022
掲載日:2022年10月1日(土)
生徒一人ひとりを大切にする豊かな人間教育と、国際交流に力を注いできた城西大学附属城西。2018年の創立100周年を機に、独自の中高一貫教育プログラム「JOSAI Future Global Leader Program(JFGLP)」をスタートさせました。その成果は着実に実を結びつつあり、グローバル社会に貢献できる人材が確実に育っています。この春、校長に就任した校長の神杉旨宣先生は、「10年後、20年後に花開く苗木を植えるのが校長の仕事」と、さまざまな新機軸を打ち出しています。
海外進学に道を拓く「USデュアルディプロマ プログラム」を実施
JFGLPとは、基礎学力・教養・協働力・異文化相互理解力・課題解決力・実践力に重点を置いた、6年一貫の教育プログラムです。教科横断型学習と体験型行事を体系的に組み合わせ、授業で学ぶ知識と実体験を融合することで、知識とともに問題解決力や実践力を身につけていきます。
生徒それぞれに異なる「やる気スイッチ」を見つけ、生徒と並走する「伴走者」となっているのが、平均年齢36〜37歳という若さ溢れる若手の先生方です。同校で入試企画部長や教頭を歴任し、52歳の若さで就任した神杉校長は、「瞬発力とフットワークが軽い若手教員の声を積極的に拾い上げ、2〜3年に1回は新機軸を打ち出していきたい」と話します。
その一つが、同校と海外名門高校の卒業資格を同時に取得できる「U.S. デュアル ディプロマ プログラム」の実施です。
神杉校長:「海外留学を希望する生徒・保護者には非常に良いプログラムだと思います。国際交流を謳ってきた本校は、今までも海外交流を積極的に行い、海外進学する生徒も少なくありませんでした。これは、そうした本校の特徴をより強化するもので、国内外の大学への進路もさらに広がっていくと考えています」
日米学術センターとアメリカニューイングランド州にあるプロヴィデンス・カントリー・デイスクール(PCD )の協力により、城西在校中にオンライン講座を追加受講することで、アメリカの名門高校、PCDの卒業資格を得ることができるもの。
卒業後は、全米トップ5%に含まれる19海外名門大学への指定校推薦入学(100%学部入学)が認められるほか、帰国生枠で明治大学や立命館大学といった国内難関大学を受験することができる。
コロナ禍を乗り越え、中3の3学期に「オーストラリア海外研修」を実施予定
同校の大きな特徴である国際交流は、1982年にアメリカ・オレゴン州の高校と交換留学制度を実施したことから始まりました。他校に先駆けていち早く国際交流の道筋を作った同校のグロ―バル教育は、今では北米・アジア・オセアニアの世界7カ国16校の姉妹校・提携校の輪へと広がっています。長中期・短期の豊富な留学プログラムを揃え、留学先での単位も取得単位と認定しています。
そして、中学3年間のグローバル教育の集大成と位置づけているのが、中3の「オーストラリア海外研修」(全員参加・2週間のホームステイ)です。中1から段階的に日本文化体験や比較文化研究などに取り組み、十分な事前学習を行ったうえで、現地では異文化交流をしながらフィールドワークを実践。
この海外研修を帰国後の英語力の向上や、国際的な視野を広げることにつなげてきました。そして何より、失敗も成功も含めて体感したことが、人間力の成長につながることは言うまでもありません。
神杉校長:「2017年度、本校は長中期短期合わせて150人の留学生を受け入れていましたが、2019年のコロナ禍以降はゼロ。留学生が一人もいないのは、この数10年なかったことでした。1学期はドイツ人とフランス人の2人の留学生がいましたが、2学期は9名の長期留学生を迎え入れる予定です。留学生がたくさんいる本来の城西らしい環境に早く戻したいと思っています。活発な国際交流が、コロナでピタッと止まってしまった。それだけに、今年度はコロナ禍で中断していた「オーストラリア海外研修」を、中3の3学期に、高1・2の希望者を加えて、なんとか実現したいと考えています」
歴史に裏付けされた国際交流の土壌が、生徒の潜在力を引き出す
同校では、英語圏はもちろん英語を母国語としない国々とも活発に交流してきました。多様な文化を背景に持つ外国人留学生との交流は、生徒たちの視野をグローバルに広げていきます。
神杉校長が10年来、交流し続けている留学生の中に、ニュージーランドの先住民族マオリの末裔という青年がいます。将来の夢が言語学者という彼は、アイヌや琉球の言語に関心を持ち、独学で勉強した日本語はペラペラ。その彼は17歳で来日し、神杉先生が教える高1のクラスに転入してきました。
(写真はコロナ禍以前のものです)
神杉校長:「内閣府の意識調査によると、諸外国に比べて日本の若者が著しく低いポイントが4つあります。それは、『将来、世界で活躍していると思うか?』『人の役に立っていると思うか?』『自分の意見をはっきり伝えられるか?』『自分に長所があると思うか?』です。マオリの彼は、この4点に非常に長けていました。際立つ発信力と行動力によって、事実上クラス委員長のような存在となり、クラス内で一気に化学反応が起きていきました」
生徒の個性や潜在力を引き出すために、さまざまな学習・体験プログラムを用意する同校。「彼のようなバイタリティのある生徒がクラスに一人いるだけで、我々が作った教育プログラム効果をはるかに超える影響を及ぼすのです」と校長は言いますが、そのような「留学生が混ざることで起こる化学変化」も含めて、同校はグローバル教育に力を入れているのです。
カラオケで八代亜紀の「舟唄」を歌うのが大好きなその彼は、現在もニュージーランドと日本を行き来しながら、母国の高校で読み書きが苦手な生徒たちを教えているそうです。
体験を通じたキャリア教育を実施。高校の「αゼミ」では外部団体の協力も
(写真はコロナ禍以前のものです)
国際交流と並ぶ同校の教育の柱は、体験重視型教育です。
中学3年間で行う理系の実験・観察は100以上。田植えから米の販売までを行う「稲作体験」や、中3の1年間をかけて探究する「比較文化研究」、豊富なグローバルプログラムなどがありますが、このように教科書の知識だけでなく「本物」に触れることで知的好奇心を刺激し、視界を広げていきます。
こうした体験重視型の教育を軸に、中学は「自立心を養う3年間」と位置づけ、高校は「夢の実現に向かう3年間」としています。また、学習指導やキャリアデザイン指導、進路に向けた学習支援プログラムなど、個別最適化されたさまざまなサポートも行っています。
その一つに、希望者を対象にした「αゼミ」があります。NPOや大学、企業など外部団体の力を借りながら、よりアカデミックなフィールドワークを実施する、まさしくキャリアデザインを意図したものとなっています。
NPO法人very50との連携で、高校生向けのSDGs×問題解決実践プログラム「MoG」(Mission on the Ground/モグ)に参加したことも新たな試みでした。
「MoG」は、社会人や大学生の助けを借りながら、他校の生徒とチームを組んで課題を解決する超・実践型のスタディプログラムで、沖縄県ではSDGsを主眼に置いたカフェ経営の実践的な支援サポートを行い、収益の一部をルワンダへ寄付する取り組みや、鳥取県ではジビエについての実地体験や専門知識をすべて英語で学習しました。
昨年参加した地域貢献プログラム(主催:NPO法人very50/協力:FC 東京)では、城西の生徒がリーダーになったチームが FC 東京最優秀賞を獲得しました。他チームがサスティナビリティの視点で環境問題を取り上げるなか、このチームは東京都の孤独死と独居率の高さに着目しました。
「困った時に相談相手がいない」「異世代と接点がない」など、独居老人の問題点にフォーカスして、高校生が週に何回か地域の独居老人宅を訪問する「相談散歩」(1〜2時間)を提案。一緒に散歩したり、買い物を手伝ったりして会話を重ねながら、高校生は高齢者から地域の歴史を教わり、高齢者は話し相手ができるというwin-winの関係を構築するものでした。
神杉校長:「チームリーダーとなった生徒が、『漠然としていた将来の進路がはっきり見えました』と報告に来ました。『僕は人を笑顔にする仕事を生き甲斐にしていきたい』と熱く語る彼を見て、これが、学校の中だけでは完結しない、外部と連携してこその教育効果だと思いました」
その生徒は、明治大学に進学予定ですが、卒業後は自分でNPOを立ち上げて高齢化社会の問題を草の根で解決していくことを目指しています。その成功体験がロールモデルとなり、この夏には第2弾「MoG」プログラムに5名の生徒が参加しました。
多様な個性を活かすために、生徒一人ひとりの可能性を最大限に引き出す多様な進路戦略
国公立大学をはじめ、難関大学に合格者を輩出する同校ですが、中学は普通クラスのみ。「特進」などは設けないクラス編成を実施しています。一方、3年間を通じて、英語では熟度別授業を行って高度な英語力を身につけさせ、夏期・冬期・春期には補習や発展的な応用講座を開設し、きめ細かくサポートしながら学力を定着・向上させています。
高校では、生徒一人ひとりの進路に合わせた学習を手厚く支援。長期休みには、希望者を対象に補習ゼミを実施しますが、主要5教科の先生方で構成する、成績上位者をフォローするための受験指導専門チーム「J-SAT」も。これは、一般入試を突破するために学力の底上げを図るものです。
また、放課後(7・8時間目)には週に2回、駿台予備校の数学と英語の先生もサポートに加わります。
神杉校長:「偏差値でクラスを輪切りにしないことは、本校の教育哲学でもありますので変えませんが、生徒の関心や希望によって選択的授業を設けていくべきという議論は、すでに始めています。大学入試改革によって、入試スタイルも多様になっています。一般入試で勝負できる学力を身につけることはもちろん、高1〜2で『探究』フィールドワークなどの経験を積んだ生徒は、総合型入試でも十分突破できる実力があります。また、部活動や生徒会行事に打ち込んだ生徒は学校推薦や指定校推薦を受けられるよう、進路の選択肢を整理していきたいと考えています」
教育効果をデータ化。城西イズムを継承して、人間味あふれるチャレンジャーを育む
神杉校長:「校長に就任後、ある人に『城西の良さは、生徒の人間力だ』と言われました。生徒の素直さや、教員と生徒が肌感覚でつき合えるアットホームな関係性など、城西教育の良さは言葉や数字で表現しづらい『ぬくもりの部分』です。こうした本校の魅力をデータとして可視化するために、企画分析室という部署を立ち上げました」
魅力をデータ化するとは? それは、同校独自の教育がどのような効果を生んでいるのか、例えば学力が伸びた原因はどのような授業や行事がきっかけになったのかなど、生徒へのアンケートを元に、先生方の体感ではなくエビデンスとして形にする、ということです。
神杉校長:「それを発信して、内外に訴求していきたいと考えています。こうしたデータも活用しながら生徒たちの『自己肯定感』を育成すると同時に、『人間味あふれる』チャレンジャーを育てていきたい。さまざまな探究活動やリーダーシップを育むプログラムで生徒の潜在力を引き出すきっかけは用意しますが、行動するのは彼らです。生徒たちには、自発的に活動して成功・失敗体験を繰り返し、人間味あふれるチャレンジャーとして、リーダーとして、世の中に旅立ってほしいと願っています」
1918年(大正7年)開校。大正デモクラシーの潮流を受けた同校は、自由な学校づくりにおける革新的存在でした。そして、「自発活動の尊重」「天分の伸長」「個性の尊重」の3つを建学の精神に掲げ、創立以来、生徒の才能や素質、学力など人間教育の軸となる部分を伸ばしてきました。
開校まもなく、スペイン風邪が大流行して寄宿生30人中24人が罹患した記録はあっても、閉校・休校した記録はどこにもありません。先生方が寄宿生と寝食を共にしながら、「3分を教えて7分を生徒自らに研究させた」教育方針は、現在のアクティブラーニングあるいはPBL型学習、体験重視型学習に受け継がれています。
神杉校長:「校長の仕事は、苗木を植える仕事だと思っています。土壌をしっかり耕して苗を植え、20年後、30年後に育つような教育をしていきたいですね。新自由主義の教育を貫いてきた創立100年を超える本校の歴史を振り返った時、開校当時の先生方の気概に思いを馳せます。そうした城西イズムを継承しながら、これまでやってきたことをただ単に継続するのではなく、さらにブラッシュアップさせて、自立した人材を育てる教育に力を注いでいきたい。新しい城西の取り組みに、期待していただきたいと思います」