学校特集
青山学院大学系属浦和ルーテル学院中学校・高等学校2022
掲載日:2022年9月7日(水)
2019年、同じキリスト教信仰に基づく教育を行う学校として、青山学院大学の系属校となった青山学院大学系属浦和ルーテル学院。同校の特徴の一つに、1クラス25名という少人数クラス編成があります。少人数制は、教育方針でもある「ギフト教育」を具現化したもの。ちなみに、「ギフト教育」とは「神様から贈られたかけがえのない才能や個性」のこと。生徒は、自分の才能や個性といったギフトを見つけ、伸ばし、そのギフトを通して周囲の人々から世界の人々までをも幸せにすることを目指す。そして、先生は生徒一人ひとりにじっくり向き合い、そのギフトを見つけ出すサポートをする。そのための少人数制なのです。校長の福島宏政先生に、青山学院大学の系属校になって3年が経過した現在の状況と、コロナ禍後を見据えた新しい教育について伺いました。
キリスト教の精神に基づく「ギフト教育」を展開
1953年に埼玉県初のミッションスクールとして創設された同校の建学の精神は、「神と人とを愛する人間。神と人とに愛される人間」。教育方針の「ギフト教育」は「才能」「共感」「世界貢献」「自己実現」の4つの柱から構成され、この4つのサイクルで人間的成長を促すのです。
この「ギフト教育」こそ同校の教育思想であり、福島校長の願いです。そして、この「ギフト教育」のベースとなるのが少人数制で、中高ともに1学年3クラス、1クラス25名のクラス編成を堅持しています。
福島校長:「 青山学院大学の系属校になったばかりの一昨年は1クラス30〜31名になりましたが、今年の中1は1クラス25名です。『ギフト教育』をきちんと行うために、将来的にも1学年3クラスの体制を変える考えはありません。1学年75名という人数ですと、各教員が生徒全員の名前を覚えることができますので、学年やクラスが変わっても同じように指導できるからです」
同校は小学校から高校までの12年一貫教育校ですが、中学受験や高校受験で入学する生徒もいます。中学や高校から入った生徒たちは、最初こそ生徒と先生の距離が極めて近く家庭的な雰囲気に驚くこともあるようですが、すぐに馴染み、打ち解けていくそうです。
福島校長:「それは、12年一貫で積み上げてきた本校の文化だと思っています。内進生も、途中から入学してきた仲間を自然に受け入れていますので、馴染みやすいのでしょう。また、一般的には学年が上がるにつれて模試の結果などはお互いに隠しがちですが、本校では高校生になってもとてもオープンです。テストの結果について論じ合い、弱点に関して互いにアドバイスするなど、真に切磋琢磨することで、お互いに向上していくのです。また、男女の壁がなく、みんな仲が良いのも誇れる特徴ですね」
2020年からのコロナ禍は、校外学習や留学の機会を奪ってきました。しかし、この2年間でワクチン接種が進んだり新薬が開発されたりしたことで、少しずつではありますが、明るい兆しが見えてきました。同校でもコロナ禍後を見据えて、新しい試みを計画しています。
福島校長:「今年8月に、中3から高2までの希望者が参加する4泊5日の『English Summer Camp in ZAO』を計画しました。宿泊を伴う校外プログラムはじつに3年ぶりのことです。このサマーキャンプには大きな柱が3つあるのですが、そのほかにテーブルマナーなどの講座もあり、盛りだくさんの内容です。このプログラムはコロナ禍後も、プレ海外研修として中等部で継続したいと考えています。また一方で、中1から高2まで全員参加で、お台場にある体験型英語施設・東京グローバルゲートウェイへの校外学習も実施します」
校長が言う、サマーキャンプの3つの柱は以下になります。
❶仙台や蔵王で、外国人観光客に英語で観光案内をすることを想定したプログラム
生徒7〜8名のグループにネイティブの先生が1名ついて、じっくりと英語学習をした後、実際に観光地に出向いて観光案内を実践。
❷東日本大震災の復興学習プログラム
被災地を巡り、当時の様子や復興について地元の方から話を聞き、復興について考える。
❸自然に親しむ活動プログラム
蔵王で、牧場体験や星空観察などの野外活動を実施。
さらに、来年度からはオンラインによる英会話講座も実施する予定です。
福島校長:「こちらは、ミッションスクールに学ぶ生徒のためのオンライン講座です。講師の先生はクリスチャンで、キリスト教をベースに互いに祈りつつ、学びを深めていきます。英語だけではなく、キリスト教の精神についても身につけることができるものとなっていることが特徴です。来年度から、生徒は放課後や帰宅後に、タブレット端末からアクセスできるようになります」
コロナ禍により、現在はまだ再開されていませんが、国際理解教育といえば独自の多彩な海外研修もあります。同校はアメリカの姉妹校やホストファミリーとの強いつながりがあるため、安心して臨むことができるのが強みです。生徒にとっても、先生方にとっても再開が待たれます。
アメリカ研修▶︎夏に約1カ月間の予定で実施。中3から高2までの25名が参加。前半2週間はカルフォルニア州アーヴァインの姉妹大学の寮に滞在し、後半2週間はアリゾナ州フェニックスの教会員の家庭にホームステイ。英語力のさらなる向上はもちろん、異文化体験やキリスト教理解でグローバルな視野も養います。
日本研修▶︎アメリカ姉妹校から生徒と先生が来校し、同校で学校生活を共にします。この交流で「もっと英語でコミュニケーションをとりたい!」と英語学習に意欲的になる生徒も多いそうです。
長期留学▶︎高2の8月から高3の5月までの10カ月間、アメリカ・アリゾナ州フェニックスの教会員の家庭にホームステイし、姉妹校に通学します。アメリカで取得した単位は、日本でもそのまま認定されるのも生徒にとって嬉しいシステムです。
中学では週に1時間、自分の興味関心のある分野の学びを深める「フィールド・プログラム」という学習活動があります。「フィールド・プログラム」は「フィールドA(アーツ)」「フィールドE(イングリッシュ)」「フィールドS(サイエンス)」の3分野に分かれ、好奇心を育み、時には学校の外に飛び出し、学びを深めていきます。
フィールドA▶︎世界の歴史・文学・芸術などをアクティブラーニングで学びます。世界遺産検定などの資格の取得も目指します。将来は、文系の進路や芸術方面などを志望している生徒が対象です。
フィールドE▶ ︎「もっと英語を学びたい」生徒のために、ネイティブ教師とともに英会話のラリーを体験し、5技能を高めます。将来は、英語を活かして国際的に活躍することを目標とする生徒が対象です。英検準2級以上の取得を目指します。
フィールドS▶︎自然観察やプログラミグなど、サイエンスに関わることを学びます。数学検定や理科検定にも挑戦。将来は医師やロボット開発、エンジニアを志望する生徒が対象です。
福島校長:「フィールドAを選択した中1の女子で『世界遺産検定』の4級を受けた生徒がいましたが、彼女は100点を取りました。しかも、全国最年少で優秀賞受賞という快挙です。好きなことを見つけて取り組んでいる姿に、私も嬉しくなりました」
生徒一人ひとりの夢を実現するオーダーメイドの進路指導
同校の進路指導の要は、先生が日々の学校生活の中で生徒を注意深く見守り、その特性や才能を見つけ出していくことです。さらに、年8回以上の面談などを通じて志望する分野や大学選びなどサポート。そのためか、文系理系のみならず医歯薬系に芸術系、さらには海外の大学へと、生徒たちの進路はまさに多種多様。今年は、過年度生を含め3名が医学部合格を果たしましたが、福島校長が印象的だった卒業生について話してくれました。
福島校長:「昨年卒業した生徒がこの春、医学部合格を報告に来てくれました。彼は小学校からの一貫生。小学生の頃はお笑いが好きで落ち着きがなく、担任は毎日の家庭学習の様子をチェックしなければならない状態でした。その彼が高校生になり、医学部を志望していると聞いた時は驚きました。高校で生物の授業を受けて『おもしろい!』と興味をもち、医師になりたいと考えたそうです。ちなみに、当時、医学部対策のための生物受験講座が2人の生徒のために開かれていました。本校では、たとえ希望者が一人でも受験講座を開講します。彼は1年浪人しましたが、見方を変えると、高校生になってから医学部を志望した生徒が1年浪人しただけで合格を果たすことができる基礎学力を、小中時代にしっかりと身につけさせていたわけです。そのことに、改めて本校の教育力の高さを実感しました。彼の合格は、本校の教育理念を具現化させたものだと思います」
先生は生徒が見つけた夢や希望を頭ごなしに否定しない。その夢や希望をきちんと受け止めて、生徒自身が意欲的に取り組み、夢や希望を叶えることができるよう支えていく。それが、同校の「ギフト教育」なのです。
青山学院大学の系属校となって3年。2022年春には、15名の生徒が青山学院大学へ系属校推薦入学を果たしました。また、東京外国語大学や東京理科大学、上智大学など、卒業生の約半数が難関大学へ進学。そして今、さまざまな学部で、優秀な成績を収めているそうです。
福島校長:「今は主にオンラインですが、青山学院大学との高大連携として高校生向けの『学問入門講座』を年間20数回開講中です。参加できるのは中3からですが、大学の先生の話を聞くことで、大学でどんな学問を学べるのか、自分はどの学部に進学したらよいかを知るきっかけとなります。また、高2・高3では理工学部がある相模原キャンパスに行き、大学の設備やラボを見学する機会もあります。青学大というと文系のイメージが強いですが、近年、理系学部にも力を入れておられます。本校としても自然科学の力をつけさせたいと考えています。青学大が求める学力のレベルを維持するよう、学力の底上げも図っていきたいと思っています」
また、青山学院大学の教授が来校して講演するイベントが毎年あり、こちらは中高生全員が参加します。
福島校長:「昨年は10月に生物学者で総合文化政策学部の教授をしておられる福岡伸一先生が来られました。福岡先生は著書『生物と無生物のあいだ』で有名ですが、ご専門のウィルスや画家フェルメールについてお話しされました。理系から芸術に関心のある生徒まで、幅広い生徒が興味深く聞いていましたね」
「ギフト教育」を実践し続け、さらに青山学院大学の系属校となって、その地位や人気も安定してきた今だからこそ、福島校長は次なる一手を考えています。それは「教育力」をさらにアップさせることです。
福島校長:「学力の底上げには、教師の教育力向上が必須です。そこで、私は『教育力向上5カ年計画』を構想しています」
そのポイントは3つ。まずは『専門的知識の向上』。教師が各分野の先端的動向への理解を深めることにより、指導力につなげようというものです。2つめは『言語伝達能力の向上』。専門的な知識や教養を高めても、それを生徒に伝える力がなければなりません。また、音楽や美術など言語化しにくいものでも、相手に伝える言葉を持つことが重要だからです。そして3つめが謙虚であること、『人格の向上』です。「教師は生徒に対して上からの目線で接してしまいがちです。そうすると、どうしても否定的な言葉が出てしまいます」と、福島校長。
福島校長:「かつて、小学生の時に粘土で恐竜を作り、『将来、恐竜を復活させたい』と言った生徒がいました。ふつう、大人は『そんな非現実的なことを......』と思うでしょう。しかし、その時、私は『すごい夢だね、ぜひ生物学者になって実現させてほしいな。彫刻家になって、本物そっくりの恐竜を作るのもいいね』と答えました。結果、その生徒は美大の彫刻科に進学しました。今頃、恐竜の再現に取り組んでいると期待しています。この生徒のことを思い出すたびに、教師は生徒たちに対してつねに謙虚な姿勢で、その夢をいったん受け止めてあげることが大切だと思うのです」
「教師こそ、意識的にキリスト教精神に立ち返らなければならない」と、校長は言いました。自分を律しながら、相手を尊重する。そこに、同校の教育哲学と、進化を続ける理由を見た気がしました。