学校特集
富士見丘中学高等学校2022
掲載日:2022年8月25日(木)
21世紀の社会で必要とされる4つの「グローバル・コンピテンシーの育成」を掲げる富士見丘中学高等学校。2015年に指定されたスーパーグローバルハイスクール(SGH)として、充実したプログラムを誇ります。
さらに2020年にはワールド・ワイド・ラーニング(WWL)コンソーシアム構築支援事業カリキュラム開発拠点校として、国内外で国際色豊かな教育を実践しています。
副教頭の佐藤一成先生と英語科主任の田中裕樹先生に同校の教育について伺いました。
一人ひとりが自主性をもち、
輝ける場を存分に用意
富士見丘中学高等学校の教育目標は、思いやりや真心を意味する「忠恕(ちゅうじょ)」の心を持つ「国際性豊かな淑女の育成」です。「豊かな教養」「柔軟かつ創造的な思考力・判断力・表現力」「主体性をもって多様な人々と協働する姿勢」「英語4技能・ICTを活用した高いコミュニケーションスキル」の4つを育むことで、グローバル・コンピテンシーの育成に取り組んでいます。
これらの教育が結実し、入学時偏差値と卒業時の大学合格実績の伸長差が大きい学校として、高い注目を集めている同校。『週刊ダイヤモンド』(2022年4月23日号)の「レバレッジ度総合ランキング」で第1位、『週刊東洋経済』(2022年5月29日号)の「6年間で伸びる進学校ランキング」で東京1位(全国2位)に輝きました。
また生徒たちは毎年、様々な形で外部から高い評価を得ています。
2021年度は、英語4技能資格試験である「GTEC」より、中学2学年と高校2学年の受験結果に対して、スコアの伸長が著しい学校へ贈られる奨励賞が授与されました。プログラミングコンテスト「Life is Tech」では、高2の生徒が最優秀賞、中1の生徒も奨励賞という素晴らしい成績を収めています。
さらに「探究甲子園」は5年連続で全国大会に出場・入賞を果たすなど、生徒たちは実に多岐にわたるジャンルで活躍していることがわかります。
副教頭の佐藤一成先生は、現在上智大学で学んでいる卒業生が来校した際のこんなひと言がうれしかったと話します。
「この生徒は比較的内気な子だったのですが、『中高6年間通って良かったのは、いろいろな機会を与えてくれ、視野が広がったこと』と言ってくれました。
私たちが意図していた、SGHでいろいろな経験を積んでもらいたいという思いを実際に体験してもらえたと思っています」
同校ではどんな経験が待っているのでしょうか。次章以降で見てみましょう。
様々な教科が作用し合う
グローバルな学び
富士見丘のグローバル教育の大きな柱は以下の3つです。
1.探究学習
2.英語4技能教育
3.ICT活用
探究学習の中核となるのは、中1〜高2で行う個人研究「自主研究5×2」と、高1・高2でグローバルな社会課題にグループで取り組む「グローバルスタディ基礎・演習」です。
高1全員が参加する「グローバルスタディ基礎」では、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科・大川恵子教授の研究生や留学生たちと共にSDGsについてのワークショップを年8回実施しています。
このワークショップでは、創造的なアイディアを創出する方法としてデザイン思考の基礎を体験することができます。
「今年の1回目は『2030年の世界がどうなっているかを想像してみよう』をテーマに、コラージュを作って世界の課題やどんな未来が想像できるのかを各グループで発表しました。そうした創造的な学びの中から今の社会や世界、SDGsについて考えを深めていきます」(佐藤先生)
英語科主任の田中裕樹先生は、
「大川研究室とのお付き合いは、SGHが始まって以来、8年間継続しています。このワークショップでは、英語を使う機会も多いのですが、物怖じせず参加する生徒が増えており、とても喜ばしいことです」と話します。
高2の「グローバルスタディ演習」は、「自主研究5×2」との選択必修で実施しています。2022年度は、台湾(災害と地域社会)、マレーシア(環境とライフスタイル)、ハワイ(海洋リゾート開発と海洋汚染)の3テーマに分かれ、自分自身の興味関心に基づいてグループで探究。連携する大学や国際機関の専門家のアドバイスを受けながら海外フィールドワークまでを視野に入れ、意欲的に挑戦しています。
昨年度からテーマに加わったハワイフィールドワークのグループでは、ハワイ大学のラッセル・ウエノ教授による授業が毎月オンラインで行われています。
オールイングリッシュの授業なので生徒たちがついていけるか、先生方は心配だったそうですが、杞憂に終わりました。
「資料もお話もすべて英語ですが、生徒たちはこちらが思っていた以上にきちんと理解しています。
疑問点の理解の仕方を友人同士で話し合ったり、互いに助け合う様子が見られることも教員としてうれしいですね」と田中先生。
海外に行けない時期だからこそ、生徒たちはオンライン上のコミュニケーションの取り方も上手になったそうです。
「生徒たち同士が自主的にオンライン会議を開いて研究を進めたり、ハワイの高校生や水族館員、NPOの方々や、ハワイ州農務局や観光局などの行政機関にも自分たちでメールを送ってインタビューを申し込んでいます」(田中先生)
こうした一連の動きについて、先生方はいつでもアドバイスができるようにじっくりと見守りつつ、基本的には生徒たちが自主性を発揮しています。
インタビューもきちんと事前に学び、聞きたいことを理解・整理しておかないとできません。そこに至るまでの準備の綿密さやこうした行動力、熱意が先方にも通じているのでしょう。ハワイ州観光局からは、プレゼン資料への公式ロゴマークの使用許可が出たり、ハワイアンキルトの研究チームには関連する作家さんをご紹介いただけたり、生徒たちの取り組みを公式HPに載せてくださったりと、想定以上の活動への支援と反響をいただいています。
「英語がわかるという自信が、生徒たちの行動力の後押しになっていると思います」と田中先生。
2021年度に「SDGs探究AWARDS」というコンテストで審査員特別賞を取った生徒たちが作成したサイトが学校HPに掲載されています。
「消滅言語をどのように保護・継承していくのかを研究していたチームなのですが、自分たちでアンケートを取ったり、ハワイ語と日本語を『コラボ』させた『ハワイ文化川柳コンテスト』を企画したり、ユニークな内容が盛り込まれています。サイトには英語版と日本語版の両方があるので、ハワイの方たちにもご覧いただいているようです」(田中先生)
グローバルスタディ基礎・演習は、ワールド・ワイド・ラーニング(WWL)コンソーシアム構築支援事業カリキュラム開発拠点校の活動の一環として展開しています。WWLとは、イノベーティブなグローバル人材を育成するための文部科学省による高校生のための事業。コンソーシアムとは協働して物事を成し遂げようとする共同事業体などを意味します。
生徒の探究活動にひと役買っているのが、中1で行われているICTの授業です。ロイロノートやパワーポイントなど学習で用いる様々なアプリケーションの基本操作から、パソコンを活用した協働的な学び方まで丁寧に行われています。
「中1からパワポを作ってプレゼンしている生徒たちは、教員より様々な機能を使いこなし、デザイン的にも上手です」と佐藤先生は笑います。
また田中先生は、
「高1でも再度ICTリテラシーなどを学びます。中入生が学んだことを活かしつつ、自分の強みをうまく発揮しながら、チームとして高入生とも仲良く取り組んでいる姿が印象的です。英語が得意な生徒、ウェブデザインが好きな生徒、調べ作業に没頭できる生徒、リーダーシップに長けた生徒。様々な強みを持つ生徒たちが個性を活かしながら進められているようです」と話します。
早い段階からICTスキルを身につけた生徒たちの学びは、より飛躍すること間違いないでしょう。
生徒のやる気と自信を育む英語教育
帰国生も多く在籍する一方、一般生への指導にも定評があり「英語の富士見丘」とも呼ばれる同校。その理由は低学年のうちから手をかけた英語教育を行っているから。
田中先生は同校の英語教育についてこう話します。
「キーワードは『徹底面倒見』です。一人ひとりの生徒に手をかけることを教員の共通認識としています。
本校は帰国生も含めて多様な学習歴を持った生徒が集ってきます。物足りない、背伸びしすぎるということがないように、一般、英語特別A・B・インターの4つの段階に分けてきめ細かく指導しています。
教員は学習の機会をいかにして作り出すか、生徒たちはその機会をいかに逃さずキャッチしていくかが、双方にとって大事なことだと思っています。
新旧融合という言葉を私たちはよく使います。新しいことはもちろんどんどん取り入れますが、それだけでなく、クラシックなものでも大事にすべきものがあります」
今年の中1のうち、74%がゼロスタートの一般コースに在籍していますが、この生徒たちをいかに伸ばしていくのか。
「反復練習と言うとクラシックな学びに聞こえますが、文法や音読、文章の読み取り方などの土台づくりは大切ですので、繰り返し指導して基本を徹底します。
スピーキングについても、放課後の英会話レッスンを用意し、意欲のある生徒への機会の提供は惜しみません。
一方で、全員が『話す』トレーニングができるオンラインスピーキングも導入しています。いかなるタイプの生徒でも伸びる機会を与え、かつ丁寧にケアをしていくことが大事です」(田中先生)
さらに富士見丘ならではのサポート体制で、一人ひとりの学ぶ意欲を育てています。
「毎週行っている『週末ライティング』では、中1は日記から始めて、中2以降はテーマを与え賛成や反対、その理由などをエッセイとして書いています。ネイティブの教員と日本人の教員が『コラボ』で添削し、ネイティブ教員は英語の観点から、日本人教員は論理構成を見ることで、高いライティング力を培っています」と田中先生は話します。
オンラインスピーキングでもネイティブスピーカーとただ話して終わりとせず、その時に言えなかった表現を調べ、やり取りから学んだ会話表現や反省点を記録しておく独自のワークシートを使用しています。
「ワークシートに記録を残すことで、スピーキングにおける自分の課題点が凝縮され、それを後からいくらでも振り返ることができます。自分にとっての英会話ハンドブックにできますし、継続性を持った取り組みになっています」(田中先生)
さらに同校といえば、英検取得率が目を見張る伸びとなっています。
「SGHに認定された時に17%に満たなかった高校卒業時の英検2級取得率は、目標だった7割を超え、現在は8割に上っています。準1級取得率は3割超ですが、いずれ準1級取得率が7割になることを目指してくれたらと私は思っています。
英語科の先生方の努力と、どんどん伸びていく生徒たちの頑張りの結果ですが、目標を見せることで到達しようと頑張ることのできる姿勢が育まれているのだと思います」(佐藤先生)
英語4技能をバランス良く強化する様々な取り組みがしっかりと実を結んでいるのです。
憧れの存在である、模擬国連部
2016年に帰国生を中心に創部した模擬国連部。生徒たちの主体性が大切にされる環境で、毎年様々なコンテストなどで活躍する、同校を代表する部活動の一つです。
模擬国連部の顧問である田中先生は、
「基本的にオールイングリッシュでの活動が前提なので、中学生は英検準2級程度、高校生は2級程度が入部条件です。
発足当時は帰国生向けというイメージがあり、敷居が高いと敬遠されがちだったのですが、いろいろな大会で賞を獲り、その活動報告を見て憧れて入部する生徒が増えています。今は一般生と帰国生がおよそ半々くらい。普段から英語でやり取りするような雰囲気になっています」と言います。
富士見丘の授業では、先に触れたようにグローバルスタディ基礎・演習をはじめとした探究学習でグローバルな視野を養っています。こうした探究型の授業でも、部活で社会課題に取り組む模擬国連部の生徒たちが生き生きと活動する傾向が強いのだそう。
「模擬国連部で様々な社会課題に関心を持ち、探究学習を通していろいろな社会課題に気づくというループがあるので、その意味での親和性はとても強いと思います。ある意味では学校のすべての活動が集約されている部活だといえます」(田中先生)
また模擬国連部の生徒は、学校生活の様々なところでリーダー的な役割になることも多いのだとか。
「学校外で活躍している部活は模擬国連部だけではありませんが、本校の挑戦する気風を作ってくれているクラブの一つです」(佐藤先生)
のびのびと切磋琢磨し合い、自由な雰囲気の中で自主性をより伸ばす模擬国連部の生徒たち。もしも同部がハードであれば、和気あいあいと活動するESS部もあるので安心です。
ここでご紹介したプログラムは、富士見丘中学高等学校での取り組みのあくまで一部です。
同校がなぜ伸びているのか、年々入学者数が増加しているのか、その理由を探りにぜひ学校説明会などに足をお運びください。