学校特集
芝浦工業大学柏中学高等学校2022
掲載日:2022年7月8日(金)
「創造性の開発と個性の発揮」を建学の精神とする芝浦工業大学柏中学高等学校。スーパーサイエンスハイスクールとして、充実したプログラムや先進的なICT教育、4年連続で東京大学へ合格者を輩出するなど、生徒の希望を叶える教育で高い支持を受けている学校です。2022年度より校長に就任した中根正義先生と研究部長の宝田敏博先生に同校の教育について伺います。
校長は異業種からの転職組
学校と生徒の率直な印象とは
新校長の中根正義先生は、毎日新聞社で教育担当のサンデー毎日編集次長や教育事業本部大学センター長などを歴任した。マスコミから学校長への転身は、教育界だけに留まらない大きな注目を浴びています。
「もともとは教員になりたくて、千葉大学教育学部で教育学を学びました。ただ1社だけ、教育について力を入れていた毎日新聞社を受けてみたらトントン拍子で内定が出たのです。どちらがよいか迷い、恩師などに相談したところ、『実社会で揉まれたほうがいい』とアドバイスを受け、毎日新聞社への入社を決意しました。3年か5年ほど勤めてから教員を目指そうと思ったら、35年かかってしまいました」と中根先生は笑います。
新聞社の教育部門で長年に渡り、数多くの学校や大学を見てきた中根先生。実際に校長になってみて、芝浦工業大学柏(以下、芝柏)の生徒たちはどのように映ったのでしょうか。
「素直ないい子たちが多く、楽しく過ごさせていただいています。勉強に部活動にがんばっている姿を見て、生徒たちのポテンシャルの高さに感動しています」
これまで多くの学校でキャリア講演会などを行ってきた中根先生。始業式などでの生徒たちの姿に、「誰に強制されるわけでなく、自然と聴くべき姿勢を整えられており、資質の高さを感じた」とも教えてくれました。
「生徒たちは『自ら育つ力』を持っており、この学校はまだまだ伸びていくと確信しています。もちろんその裏には、先生方のがんばりもありますので、校長として少しでもサポートできたらと思っています」(中根先生)
どのような部分に伸びしろを感じたのでしょうか。次章以降で詳しく見ていきましょう。
自由闊達な校風で「自ら進んで学ぶ」
意欲にあふれた生徒を育成
理数教育に強い中高一貫校として高い評価を得ている芝柏。2018年度より文部科学省スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の再指定を受けています。理系を志す生徒は全体の7割程度で、カリキュラム、設備共に県内トップレベルの充実ぶりを誇ります。そのため、文系の生徒は居心地が悪いかというと、そうではありません。
なぜなら同校で行われている課題探究活動の最大の特長は、文系・理系の枠組みにとらわれない学びが展開されているからです。
例えば理系のクラスに在籍する現高2の生徒は、ドイツの作家・オイレンベルクの『女の決闘』について研究し、「第7回高校生国際シンポジウム」で最優秀賞を受賞しました。
この生徒が文学に興味を持ったきっかけは、中2の国語の授業で行った太宰治の研究です。研究部長の宝田敏博先生は、
「『女の決闘』は森鴎外が日本語訳を務め、太宰がそれをもとにパロディ化しています。この生徒は作家の研究を行う中で湧いた疑問から探究をスタートし、この2冊だけでなく原書を読み込むためにドイツ語を学習。さらにユング心理学及びポランニーの暗黙知の概念を用いて比較検証を行いました。細部にまでこだわり論証した探究心が評価され、グランプリに輝きました」と話します。
この生徒は現在、課題研究で理系の研究もしているのだそう。なお、理科の教諭でもある宝田先生は取材のこの日「化学の授業で実験を行っていましたが、予想外の現象が起きて疑問が生じたため、この生徒がすぐにドイツ語のサイトで調べて教えてくれました」と笑います。
また同コンテストで優良賞を獲得した、現高3の生徒が取り組んだ研究テーマは「曼荼羅の配色についての考察」です。
「本校の美術教諭が自らのコレクションである古典籍などを展示していたこともあり、曼荼羅に出合ったそうです。興味を持って様々なことを調べていく中で見事な曼荼羅を自ら描き切りました。しかしいちばん学びたいのはサンスクリット語だそうで、いまはそれを勉強できる大学を目指しています」(中根先生)
宝田先生は生徒の活動のみならず、探究活動に関わる先生方についても「教員は教科書の内容を教えるだけでなく、自分の好きな分野を追究していけることでイキイキと教育を行うことができます」と微笑みます。
「進学校は知識の詰め込み指導が行われがちです。しかしこれからの時代は、受身の勉強ではなく、自らが考え主体性を持った学びが重要です。探究の授業は、その主体性が養われ、中には教師を超えていくような力を発揮する生徒もいます。
探究に関わる先生方は生徒に伴走する姿勢を大切にし、豊富な経験値によりサポートできる体制を整えています」(中根先生)
先生方も目を見張るほど、のびのびと自ら学ぶ姿を見せている同校の生徒たち。
探究を支える先生方の様々な知見が生徒の知的好奇心をくすぐり、学校生活のところどころでキラリと揮いているのが芝柏の毎日なのです。
中学段階で考える土台を育む
多彩なプログラム
こうした本格的な探究活動が始まるのは高1からになりますが、中学段階からLHRなどに学習ホームページをグループで作成するプログラムや夏休みを中心に課題研究に取り組みます。
生徒たちはこれらを通じて自らの興味関心に向き合ったり、社会課題を見つけたり、最適解を考えるという学習を進めます。
中学や高1では、「マンダラチャート」と呼ばれる、8×8の枠に書き込むことで目標達成のための取り組みに気づけるシートなどを使い、いろいろな思考法を学んでいきます。
「様々な考え方のスキルを学ぶことは、知識を教えることとは異なり、一度教えたら身につけられるというものではありません。何度もスパイラルでやっていくことによって深まり、より良いものに変わっていきます。
中学でこれらに取り組むことによって土台ができ、高校で花開くのだと考えています」(宝田先生)
問いを立てることを大切にする生徒たちの学びについて、今年の春まで社会人向けの大学院で学んでいたという中根先生が教えてくれました。
「大学院で四苦八苦しながら行っていた『リサーチクエスチョン』は、ひとつの基本的な研究の手法です。この問いを立てて、解を見つけ、結論まで導き出すことを中学や高校の段階でしっかりとできていることに驚きを感じると共にとても感動しました」
探究活動で大切にされているのが、CSC(Creative=独創的な発想力、Studious=粘り強く取り組み困難を乗り越える、Communicative=熱意をもって積極的に発信する力)の3要素です。そのために先生方が意識しているのはどんなことでしょうか。
「気をつけているのは、教員が先行して教え込まないことです。まず自分で体験してみてうまくいかなかったときでも諦めずに別解を探すことが重要です。
その経験自体が、生徒たちが社会に出たときに生きるのだと考えています。特にこれからの社会の進歩は速く、身につけた知識をどんどんアップデートしていかなくてはなりません。
それらも含めて学校は、とことん失敗できて悩んでもらえる経験の場です。もちろん、あえて失敗を推奨するわけではありませんが、苦しみを経験し、解を見つけるために粘り強く取り組んでいける姿勢を育てていくことが重要です。
いい大学や会社に入って満足するのではなく、そこから何かを創り出せる人間になってほしいのです」と中根先生。
宝田先生はこう続けます。
「生徒が問いを見つける力というのは、探究の時間のみで育てることはできません。
結局は毎日の授業の中で生徒が課題を発見し、疑問に向き合う姿勢を育てていかないといけません。この考え方は教員に共通しており、先生方の意識も通常授業自体の取り組みも変わってきています。
教員が一方的に教え込む時間をなるべく少なくして生徒自身が活動する時間、考えて発信する時間をなるべく多くしています。生徒たちからの質問がすぐに出ますし、主体的に授業を受けられています」
このような"通常授業の探究化"が、同校の建学の精神である「創造性の開発と個性の発揮」のベースになっているのです。
学外のリソースを使うことで
より本物に触れて深い学びを
「ベトナムでの交流プログラム」などに取り組んだSSHの認定は、2022年度で最終年となり、一区切りを迎えます。
「SSHの活動の5年間の中で様々なところとご縁ができましたし、いろいろな経験をさせていただけました。本校の探究にとっても非常にプラスになったと思います。
SSHが終わっても、本校の探究は途中段階です。学校理念に基づいて、さらに継続していきます」(宝田先生)
こうした人々の輪は教育をはじめ、様々な業界と強いつながりを持つ中根先生が校長になったことで、さらなる進展が期待されています。
例えば同校では、外部の大学教員による「外部連携講座」などを通じ、本物に触れる経験で生徒たちへ刺激を与え続けています。
これまでも「MATHキャンプ」(東京理科大学)、ワークショップ「日本社会における差別~多様で生きやすい社会を目指して~」(千葉大学特別講師)、「柏の葉スマートシティ事業についての講演会」など、多岐に渡る内容の講座が開催されてきました。
また今年から導入されたのが、ケンブリッジ英検とケンブリッジ出版の教材の使用です。さらに英語科の枠を飛び出して、校内に「国際部」が発足し、よりグローバル化を発展させていきます。
中根先生は「海外大学に留学や進学するとき主流になっているのは、国際通用性のある『ケンブリッジ英検』です。そこに照準を合わせるべきと考えました。もともと本校はロンドン大学など、海外の有力大学への進学者も送り出しており、その実績は英語科の先生方の自信に繋がっています。東大だけではなく、海外大学も協定校があり、選択肢のひとつとして門戸は開かれています」と話します。
よりアカデミックな内容に踏み込んだ、専門性の高いレベルの英語力を養うことも重視しています。例えばロンドン大学でマスターの学位を取っている日本人の英語教員が複数います。こうした方々の経験は生徒たちに大いに還元されていくことでしょう。
中根先生は「アフターコロナを見据え、先を見通した取り組みに真っ先に対応できるよう、いまから体制を整えています。海外への留学の再開についてもすでに動き出しており、コロナ禍前よりも充実したプログラムになるよう考えているところです」と話します。
最後に、同校の教育を通じて、生徒たちにどのように成長してほしいのかを伺いました。
「育てたいのは、探究教育の先です。社会に出て目の前に壁があっても、それを乗りこえて自分自身で幸せを手に入れられる子どもたちです。
この壁を乗り越える力というのは、本校で取り組んでいる課題解決力であり、想像力そのものであると思うのです。考える視点を変容させ、別解を見つけることができる、そのしなやかさと強靭さの両方を備えた生徒たちの育成が目標です」(中根先生)
生徒と共に先生方も常に課題に向き合い、飽くなき成長を続ける芝浦工業大学柏中学高等学校。中根校長先生のもと、より盤石な体制を築き始めている同校から、目が離せません。
ぜひ学校へ足を運び、その熱い学びを目の当たりにしてみてください。