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学校特集

十文字中学・高等学校2022

「主権者教育×新聞を読む×新聞をつくる」
参院選を題材とした高3のタブロイドづくり

掲載日:2022年9月1日(木)

「学びたいと願う女性に教育の機会を」という創立者の強い願いで創立した十文字。今年で100周年を迎えます。1978(昭和53)年には中学校で英・数の少人数制授業を開始し、1980(昭和55)年にはコンピュータシステムを導入するなど、常に時代に即した先進的な学びを実践してきました。今年度からは、「自己発信」「特選」「リベラルアーツ」の3コースを高校に新設し、さらなる飛躍を目指します。今回は主権者教育を取り入れた、高3のオリジナルのタブロイドづくりについて取材しました。

社会の常識を携えた、自分の意見を形成できる大人へ

十文字_「教養社会」を担当する浜 彰史先生
「教養社会」を担当する浜 彰史先生

 オリジナルのタブロイドを作るのは、高3の選択授業「教養社会」。世界や日本の課題について調査、発表することを通して今後の進路に役立てるために、週4時間行われる授業です。調べ学習とプレゼンなどによる発表を行い、大学入試の面接や論文などで必要となる発信力を磨きます。授業を担当する浜 彰史先生は、次のように語ります。

「大学の入試は、主体性や多様性、協働性などを求めるようになってきました。生徒たちは、社会で必要となる知識を身につけるだけでなく、アウトプットする必要が出てきたのです。この授業では、社会に出たときに必要となるディベート力などを養ってきましたが、自分の意見をよりしっかりと形成できる探究型の授業として取り組み始めました」(浜先生)

 昨年度は「自分の好きなもの」をテーマに授業を展開。11人の生徒が、アイドルや犬、ディズニーシーなど、好きなものへの熱意を存分にプレゼンしました。最終的には、自分の好きなものが社会にどう貢献しているか、SDGsとの関連性まで調べて発表しました。生徒の中には、授業のプレゼン内容を英語に翻訳して、帰国子女枠で大学入試に挑戦したこともあったそう。

「熱意をもとに、共感が得られるようなプレゼンを目指しました。長い目で見れば、そういう時間が生徒にとって人生の実りになるはずです。好きなものを自覚することは、職業選択で役立つでしょうし、ライフワークという視点で見れば、生きる上での支えにもなるでしょうから」と浜先生。

十文字_普段の授業でもプレゼン力を磨いています
普段の授業でもプレゼン力を磨いています

 授業では、ほかの生徒の発表から、さまざまな意見に触れられるのも大きなメリットです。考えの多様性を知ることで、大学入試の面接や論文では、受け答えに深みが出てきます。

「面接では、専攻したい学科に合わせた受け答えをすべきか、悩むことがあります。しかし、学科に合わせた話をしても、詳しく説明できないのであれば話が膨らみません。それだったら、素直に自分の好きなものについて熱弁をふるったほうが、入学後のミスマッチが生じにくいでしょうし、大学側に想いが伝わると思うんです」(浜先生)

 生徒たちは「教養社会」の授業を通して、自分の考えをまとめ、伝えるスキルを高めています。

NIE実践指定校として、新聞を活用した学習も

十文字_一つの物事が各紙により、多様な捉えられ方をしていることを目の当たりにします
一つの物事が各紙により、多様な捉えられ方をしていることを目の当たりにします

 今年度の「教養社会」では、同校がNIE実践指定校になったこともあり、新聞教育を取り入れました。NIEとは、Newspaper in Educationの略で、新聞を授業で活用する取り組み。同校では1年間のうち4カ月間、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、東京新聞、日本経済新聞、産経新聞の6紙を使って授業を行います。

「情報を得るためならインターネット検索の『ミクロ』的思考だけで十分と言う人がいますが、紙の新聞は複数の情報が視覚から同時に入ってくる『マクロ』が特長。興味のない記事も目に入ってくるのがメリットです。社会に出ると一見関係のなさそうな知識が突破口になることもしばしばあります。幅広い知識が役立つことを知ってほしいですね」(浜先生)

 同校では、中3と高1の「新聞記事レポート」という課題でも、新聞に触れる機会があります。

十文字_カフェテリアに設置された新聞。各紙がズラリと並びます
カフェテリアに設置された新聞。各紙がズラリと並びます

「自宅で新聞を取る家庭は年々減少し、最近は2割から3割程度の購読率でしょうか。生徒にとって、『新聞は学校で読むもの』という印象があるようです」(浜先生)

 生徒が新聞に触れる機会を増やすために、校内には新聞の設置場所を複数設けています。例えば、カフェテリア前。昼食を買うまでの間に当日の朝刊が読めるよう、閲覧台を設置しています。それ以外にも高校の職員室前に新聞を置き、休み時間などに立ち寄った際、手に取れるように工夫しています。

 また、生徒が興味を持った新聞記事は、所有するChromebookにスクラップできる仕組みも導入。大学入試の面接などで必要な記事は、生徒たちが自主的に集めているといいます。

「6紙並べて読む機会は、社会に出るとそうそうありません。同じ内容の記事でも、新聞社によって視点や見出しが変わってきますから、そういう部分に気が付くだけでも、生徒にとって大きな学びにつながるのではないでしょうか」(浜先生)

 さまざまな視点から掘り下げた記事を読むことで、社会における多様性を学ぶ機会にもつながっています。

自ら調べる姿こそ、これからの探究学習で求められる力

十文字_伝わりやすい表現も探っていきます
伝わりやすい表現も探っていきます

 今年、「教養社会」の授業を選択したのは15人の生徒たち。NIE実践指定校として配られる新聞をもとに調べ学習を進め、7月に行われる参議院選挙に間に合うよう、A4サイズ横書き、3段組みの、選挙に関するオリジナルのタブロイドを作成しました。出来上がった新聞は、授業を履修しないほかの生徒も読めるよう、誰でも閲覧できる学校の共有スペースへ掲示・設置されます。

 授業では、アーカイブされた新聞を振り返りながらの調査です。公職選挙法に触れないよう、特定の候補者は題材にしないなど、注意を払いながら進めました。中には、取り上げるテーマが近い生徒もいますが、例えば、日米安全保障条約であれば米軍基地の視点から掘り下げる、というように、切り口を変えて考えていきます。

 わからないことがあると、生徒たちはとにかく質問をしてくるそう。浜先生は、生徒が疑問に思ったことを深く掘り下げられるよう、本人の問いを大切にして授業を見守っています。それにより、成長を続ける生徒たちの様子をこう教えてくれました。 「生徒たちはこれまで手取り足取り指導されてきた経験から、『自分の疑問を掘り下げて』と自主性を尊重されると戸惑うようですね。『このやり方で進めていいんですか?』という質問が最初は多かったのですが、そのうちに質問が技術的なものやテーマに沿ったものへと変わり、内容も深まっていきます」

 写真のトリミング方法やMicrosoft Wordの操作など、生徒たちの間でそれぞれの得意分野がわかると、教え合う光景も増えていったそう。

「そうなると、私への質問は『都道府県別で投票率の傾向を見るためにはどうすればいいか』『有権者の投票率を国同士で比べるために、進んでいる国を教えてほしい』など内容の部分に集中していきます」(浜先生)

 新聞にまとめるアウトプットの作業では、調べてきた内容を要約することで、相手に伝える力を身につけていきます。

「アウトプットの場面では苦戦する様子も見られますね。新聞記事から自分の意見に落とし込むのが難しいようです。それに発信やアウトプットする機会がまだ少ないため、『この考え方で合っているのだろうか』と自分の意見に対する不安がある様子。このタブロイドではそういう状況を汲んで、あまり字数にはこだわりすぎず、調べてきた情報をほかの生徒たちに読んでもらうために仕上げるイメージで進めています」と浜先生。

 アウトプットは、情報を正確に理解していないと難しいもの。だからこそ、浜先生は生徒たちに、自分の言葉でアウトプットする機会を増やすよう、普段から促しているといいます。

十文字_クイズ形式で楽しみながら知識を確認し、深めます
クイズ形式で楽しみながら知識を確認し、深めます

「勉強した後には、友達同士でクイズを出し合うように声をかけています。知識があやふやだと、出題されたクイズで間違ったりするんですよね。そこで初めて、自分がきちんと理解していないことに気が付くんです」(浜先生)

 アウトプットは自分がどこまで理解できているか、把握できるよい機会となっています。

 2学期には、自分たちが調べてきた選挙が、どのような結果になったのかを考察する予定。なぜ、政治に対して興味を持たなければならないか。政治に参加することで、どのように未来が変わるのか。新聞をもとに、自ら探究して考えていきます。

生徒にとって、授業も居場所のひとつとなる

十文字_まずは主体性をもって取り組む大切さも学びます
まずは主体性をもって取り組む大切さも学びます

 一方で、高3の生徒は大学受験を控え、ナイーブな時期。これまでの授業アンケートでは、『ほかのことで溜まったストレスを、この授業で発散していたことがある』と答えた生徒もいたそう。

「生徒にとっての居場所は、保健室や図書室だけではありません。『教養社会』のような授業の中にもあるんです。学校内にさまざまな居場所があることが、この年頃の生徒たちにとっては大切なことだと思います」(浜先生)

 教員の寛容な雰囲気に見守られながら、生徒たちはのびのびと互いを認め合い、ゆっくりと大人へと成長していきます。

「本校は面倒見がよく、生徒と教員の距離が比較的近いのが特徴。それはとても良い部分なのですが、そればかりでは育たない力があるのも事実です。この授業では、そういう手取り足取りの関係から少しだけ卒業して、まずは一人でやってみる。教員は親身になって相談に乗るという関係を大事にしています」と浜先生。

 これをきっかけに、社会に巣立つときに必要となる自立した精神が育っていくのです。

建学の精神「身をきたへ」に通じる取り組み

十文字_参議院議員通常選挙前日に同級生の他クラスを回り、呼びかけを行いました
参議院議員通常選挙前日に同級生の他クラスを回り、呼びかけを行いました

「現在の高3は、全体の約4割が7月までに誕生日を迎え、18歳の選挙権年齢に達します。このタブロイドなどを通して選挙に興味を持ち、参加しようとする生徒が増えてくれると、うれしいですね」(浜先生)

 同校は生徒同士で誕生日を祝う機会も多く、『〇月に18歳になったから、7月の選挙に行けるんだね』という会話が自然と生まれています。

 オリジナルのタブロイドづくりは、選挙などの実社会と結びついた貴重な学びの機会。生徒たちが大学進学、さらには社会へと羽ばたいた時に、役立つ知識です。浜先生は、 「今後も新聞づくりを続けていく方針です。授業を選択した生徒によって、例えば看護系を目指す進路が多ければ医療をテーマに据えるなど、臨機応変に対応を変えながら進めていきたいですね」と話します。

 この取り組みを何年か積み重ねることで、『〇年前の先輩が書いていたタブロイド』と、作り方やそこから得る学びを後輩たちに受け継いでいくのです。

「本校では、教科横断型の授業も始まり、高校では探究活動の実践と英語での発信力を育む『自己発信』というコースもできました。社会でどう自分を生かせるのか。考えて発信する力を磨く基盤を広げています」(浜先生)

十文字_2022年、創立100周年を迎えました。写真は記念式典の様子
2022年、創立100周年を迎えました。写真は記念式典の様子

 生徒一人ひとりと親身になって向き合う同校の教員とともに、創立者が示した建学の精神「身をきたへ 心きたへて 世の中にたちてかひある 人と生きなむ(人のために役に立つ人になりなさい)」を体現する生徒たち。自ら探究し、学ぶ姿勢を身につけることで、同校の目指す女性像「自立し、社会で活躍できる女性」に一歩ずつ近づいています。

 最後に、浜先生から中学受験する子どもたちにメッセージをいただきました。

「社会科では、世の中で起きていることを知ることがまず大切です。そのためにも、ニュースはしっかりと押さえておきましょう。また、親子で問題を出し合って、知識の競い合いをするのもおすすめです。家族みんなで助け合って知識を高めていけるのが、社会科という教科のおもしろさでもありますから」(浜先生)

 社会に接する機会の多い大人として、親が子どもにクイズを出す。そのような体験の積み重ねが子どもに知識を授け、社会科を好きにさせ、社会への関心を高めるきっかけにつながっていくのでしょう。

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