学校特集
日本学園中学校・高等学校2022
成長し続ける生徒を育てる
掲載日:2022年6月1日(水)
明治大学和泉キャンパスから徒歩圏内にある日本学園(東京都世田谷区)は、2026年4月1日から明治大学系列校となることが決まり、大きな注目を集めています。校名も「明治大学付属世田谷中学・高等学校」となり、女子を受け入れて共学校として新たなスタートを切る予定です。日本学園の前身は1885年に創立された東京英語学校で、伝統と歴史を誇るだけでなく常に時代の先端をゆく教育を実践してきました。「明治大学系列校化によって、これまでの教育をさらに発展させていける」と目を輝かせる校長・水野重均先生に、今後の展開について詳しく伺いました。
大学と連携し日本学園の教育をさらに発展させる
京王・井の頭線の「明大前駅」から徒歩5分というアクセスの良さを誇る日本学園。都内で駅近という便利な場所にありながら、校門をくぐると豊かな緑の中にたたずむ国有形文化財指定の瀟洒な校舎が目に飛び込んできます。脈々と続いてきた伝統的な教育を土台に、次代に通用する新しい教育が行われている同校。その教育を受けてきた卒業生でもある校長・水野重均先生は、明治大学系列校化について、こう話します。
「明治大学も本校も創立年がほぼ同じで、個を大切にするという教育理念も共通しており、学校の雰囲気も似ています。そうした中で、明治大学とは10年ほど前から、出張講義を依頼するなど高大連携で関係を築いてきました。授業の後で大学の先生方からは"御校の生徒さんから質問攻めにあいました。こんなに質問をする生徒の多い学校は、初めてです"という声がよく聞かれます。中には"次の授業に間に合わないから、このへんで終わりにして"と、やむなく質問を打ち切った先生もいたほどです(笑)。こうして信頼関係を積み重ねてきた中で系列校化の話が持ち上がり、今年4月1日に正式調印に至ったのです」。
具体的には、2026年4月1日から校名が「明治大学付属世田谷中学・高等学校」に変わり、同時に女子の受け入れを開始して男女共学校となります。具体的なカリキュラムや高大連携の内容などのグランドデザインはこれから大学側と協議して決めていきますが、卒業生のおよそ7割(約200名)以上が、明治大学へ推薦入学試験によって進学できる教育体制の構築を目指します。
「系列校になると日本学園らしさが薄れて明治色が強くなる」と思いがちですが、そんなことはありません。「明治大学からは"これからも日本学園ならではの特色ある教育を続けて、個性あふれる優秀な生徒を大学に送りこんでほしい"という言葉をもらっています。"系列校化=明治色に染まる"ではなく、大学と連携して日本学園の教育をさらに発展させるイメージです」と水野先生は力強く話します。
特に明治大学からの評価が高いのが、日本学園が2003年から行っているオリジナルプログラム「創発学」。さまざまな体験や行事を通して学びを深めていくプログラムで、新学習指導要領に盛り込まれた「探究活動」の先をゆく内容です。最終的には生徒自身が得意なことや興味をもったテーマについて調べ、中3で研究論文の執筆や発表を行っています。「創発」の「発」は発見、発信、発問などさまざまな意味を含んでおり、探究学習よりさらに奥の深い学びを実践しています。大学と連携することによって、こうした教育内容がさらに発展していくことが期待されているのです。
年々ブラッシュアップされる創発学
「創発学」の初めの一歩は中1で行う1泊2日の「林業体験」で、中学入学式の数日後に実施されます。専門家の解説を聞きながら林を歩き、木や木の実を見たり動物がかじった後の食痕を観察し、専門家に質問したり自分で調べたりして学びにつなげます。今年の中1生も林業体験を実施し、のこぎりで木を切ることにも挑戦しました。
木を切ること自体が目的ではなく、山に登って木が茂っている場所に身をおき、実際に木を切るという体験も含めて、全てが学びにつながります。「林業に携わる人は毎回こんな山道を登って林に入るのか」「日が照っているのに、うっそうと木が茂った林の中はすごく肌寒い」など、その場に行かないと体感できないことは多く、机上で学ぶ知識とは一線を画します。「教わること(認知)が全てではなく、言葉にならない"非認知"の世界を実感を伴って身につけられるのが創発学の懐の深さです。計算して教えられるものではなく、結果として知の裾野が広がっていく。創発は探究に似ていると言われますが、探究よりもっと奥の深い、いわば人格を形づくる学びなのです」(水野先生)。
中1の夏には静岡・沼津の漁港で2泊3日の漁業体験を実施。水揚げや積み込みの現場を見学したり、朝 4 時起きで沼津魚市場のセリを見学します。 中2の夏休みに栃木・大田原で行われる2泊3日の農業体験では、農家に分泊して各農家で作っている農産物の手入れや収穫、分別や販売などを手伝います。中2では保護者を招いて仕事について話を聞く『あつき恵教室』を実施するなど、職業についても理解を深めます。こうした体験や学習を経て、中 3 では「15 年後の自分」をテーマに研究論文を執筆し、最終的には中学全校生徒の前で発表します。
水野先生は入学式のときから保護者や生徒たちに、「人は得意な道で成長すればよい」と言い続けています。「好きなことや興味のあることは自発的に学ぶし、知識が増えると人に伝えたくなり、もっと調べたくなる――その好循環が、学びの推進力につながります。さまざまな体験や行事をきっかけに好きなことや興味のあることを見つけ、調べることが道を開き、最終的には将来のキャリアにつながっていくのです」。
水野先生は、創発学のことをこんな比喩で表現します。「霧の中を歩いていると、空中に漂う水分が知らないうちに洋服にしみこんでいき、目的地に着くころには服が濡れているのに気づくことがあります。創発学はまさにそれと同じで、気づかない間にいろいろな刺激を受け、それが自然と身についていくもの。このプログラムで学んだ生徒たちだからこそ、卒業後に"素晴らしい教育を受けた"と言ってくれるのでしょう」。
系列校化がニュースになって以来、卒業生や在校生、保護者から「よかった!」という声がたくさん届いています。その中で、最近卒業した生徒から特に嬉しい声が寄せられたと、水野先生は笑顔を見せます。「『僕たちが学んできた教育や建学の精神は素晴らしかった。系列校になっても、ぜひ今までの教育を続けてほしい』という内容です。われわれが実践してきた教育が、しっかりと根付いている証で、とても嬉しく心強く感じています」。
これまでの学校教育は、先生が生徒の前に立って知識を教える手法が主流でした。でも、日本学園の教育は先生が生徒の横について一緒に学んでいくイメージです。今年の林業体験でも、初めて担任を持った先生が、生徒たちに交じって生まれて初めての伐採を体験しました。単に指導したり見守るだけでなく先生自身も生徒と同じ体験をすることで、自身も学びを深めて成長していきます。
「"これができればゴール"ではなく、成長し続ける生徒を育てたい。その意味で、先生は学びの先輩であり、先生方も学び続ける姿勢を忘れないでほしい」と水野先生は話します。実際、日本学園では先生同士の議論も活発で、自主的な研究会がたくさん立ち上がっています。職員室では先生同士が毎日のように「創発してますか?」という言葉をかけあうほどで、先生たち自身が率先して創発学を体現しているのです。
コロナ禍で会合を開くのが難しかった時期は、先生の自主的な研究会もzoomなどを使ってオンラインで開催し、グループ分け機能などを駆使して少人数に分かれた話し合いや発表なども実施しました。実際に自分たちがオンラインツールを使ってみることで、オンライン授業などで使う際にも「ここを押さえればいい」「ここは難しいから丁寧に説明が必要」といった勘所がつかめます。自分が使う側に立ってみると慣れないツールの操作に戸惑ったり緊張する気持ちも実感できるし、グループワークなどを行うことで"協働"の意味も体感できます。
学習感や評価が大きく変わる過渡期にある今、創発学自体も年々進化を遂げています。創発学を教えることに対する先生方の授業感を統一し、日々の授業の中でも「創発」を意識しています。「今年度は各教科の授業の中で、創発をこのくらい展開する」という目標値を決めて取り組んでいます。自分の授業や教材の中で、どんなふうに創発を採り入れられるかを考えて実践し、教科会でシェアして横展開を図っています。
創発学が身についているかを評価するために、2年前からテストで創発の問題を出題しているのも新しい取り組みです。「このような現象が起きたが、どう考えるか」「この状況のとき、あなたはどの立場に立つか」など、簡単に答えの出ない問題を授業で話し合い、それを試験にも出題します。「創発学」にはゴールがなく、日々進化を遂げているのです。
明治大学系列校化・共学化にあたってもこの姿勢は活かされており、「皆で学校作り」を宣言し、先生方は自分たちで学校を作っていくために研究や話し合いを続けています。「女子を受け入れるための"共学化部会"や、女子トイレや更衣室の設置といった施設拡充を検討する"建築部会"など、さまざまな部会が立ち上がっています。共学化した他校の事例を調べて情報をシェアするなど、3年後に向けて全校を挙げた取り組みがスタートしているのです。
連続性のある学びでさらなる飛躍を
創立当初から英語教育に力を入れていた日本学園では、オリジナル英語プログラム「NGP(日本学園・グローカル・プログラム)」を導入しています。グローカルは、Global(地球規模の、世界規模の)と Local (地方の、地域的な)を組み合わせた造語で、「地球規模の視野で考え、地域視点で行動する」という意味です。大学入試英語で問われる4技能にとどまらず、お互いの文化や生活環境を知った上でコミュニケーションがとれる「4 技能プラス1」を目標に掲げています。
ネイティブの先生が朝のHRに参加したり、中 1はTOKYO GLOBAL GATEWAY(東京英語村)に行ったり中2はブリティッシュヒルズ語学研修(福島)に参加するなど、英語を話す機会をたくさん設けています。現在はコロナ禍で中止になっていますが、中3全員参加のオーストラリア語学研修や、高1の希望者参加のターム留学(短期留学)といった海外研修プログラムもあります。大学受験をせずに内部進学できるようになると、今まで以上に興味のある学問に取り組めるようになるので、ターム留学だけでなく長期留学の実施も視野に入ってきます。系列校化により、語学学習でもこれまで以上に多様な機会が生まれそうです。
もちろん日々の学習を丁寧に積み上げ、基礎をきちんと固めることにも重点を置いており、その基本姿勢は変わりません。日々の学習の習慣づけや基礎固め、創発学、英語教育に加えて、さらなる今後の展望について、水野先生は「理系の考え方や学びも深めていきたい」と力を込めます。データサイエンスなど理論的な思考力や、理論に基づく課題解決力が重視される現代では、文系に進む生徒にも理系の力は必須とされるからです。「昨年度の卒業生は岐阜大学医学部にも合格するなど、近年は理系の生徒の伸びも顕著です。これまでの教育との相乗効果で、明治大学系列校となって入学する生徒たちの力がどれだけ爆発してくれるか、期待しています」と水野先生は目を輝かせます。
明治大学系列校化に向けて注目が集まり、校内外からの期待が高まっている日本学園。「得意な分野を見つけ、成長し続ける生徒を育てたい」という熱い思いはそのままに、さらなる飛躍を目指して系列校化に向けて力強く走り出しています。