学校特集
足立学園中学校・高等学校2022
掲載日:2022年9月16日(金)
2011年より大胆な教育改革に取り組み、男の子たちがよりたくましく育つ環境を整えてきた足立学園。北千住駅から徒歩1分という利便な立地にあり、地域の方々との交流も盛んです。建学の精神は「質実剛健 有為敢闘」、近年は「志共育(こころざしきょういく)」を主軸に躍進しています。その教えを受け、生徒たちが成長する様子を校長の井上 実先生に伺いました。
足立学園で「志」を見つけよう!
井上 実先生が校長就任以来、常に発信しているのが、「志共育」と「生徒第一主義」です。
足立学園での「志」とは、生徒が世のため人のために、自分の人生を使い切る覚悟を持つという夢を指します。同校の生徒たちは、中高の6年間の中で、自らの志を見いだすことを目標に日々を送っています。
「受験があるからなど、義務として勉強を頑張るという空気を変えたかったのです。志を自覚することで叶えるために何を学び、どう振る舞っていけばいいのかを自分で考え、自発的に努力できるようになることを目指して『志共育』を伝え続けてきました。今、その絶大な効果を実感しています」と井上先生。
中入生で高校では探究コースで切磋琢磨しながら学んだ、2021年度の卒業生4人はどんな志を得たのでしょうか。
失敗にめげず、志を持って歩むOB
下記は探究を行う下級生たちに、志を持って歩き出した先輩からのメッセージの抜粋です。
▼杉本紘将さん(筑波大学 情報学群に進学)
マンガなどのデータを違法にアップロードする海賊版サイトが野放しになっていることに疑問を持ち、探究テーマとしました。
「探究活動をすることにより、自分の興味と将来像をはっきり認識することができました。推薦入試の際、今まで探究してきたことを深められるのは筑波大学の情報学群しかない。だから、こちらで学びたいのだと夢や将来像をしっかり伝えることができました。その結果、合格への道が開けたのです。探究活動は、進路を選び、ライフワークを見つける礎になると皆さんにお伝えしたいです」
▼岡田康希さん(名古屋大学 工学部に進学)
ユーグレナ(ミドリムシ)に着目し、宇宙での育成をめざした岡田さん。火星でならば育成の見込みがあると結論づけました。水質浄化をテーマに選んだ他の生徒にユーグレナの情報を提供して意見交換をするなど、多角的な活動も行いました。
「中学の時、社会の授業で聞いたユーグレナについて漠然と興味を持っていましたが、それに火がついたのは中3のとき。JAXAの矢野幸子さんの講演を聞き、宇宙でもユーグレナを育成できるのではないかと考えました。ユーグレナの培養を試みましたが、失敗の連続でした。最も大きな失敗はユーグレナを資源として取り出す費用が莫大で、実際には取り出すことができなかったこと。それでも、火星で育成できる見込みがあるという結論に至りました。自分の夢と探究活動を絡めることにより、宇宙開発に携わりたいという将来の夢がより強固になりました。自分の夢をまだ持っていないみなさんも、この活動を通じて夢を見つけられると思います。ぜひ、探究活動に力を入れてください」
▼金野巧さん(東京工業大学 環境・社会理工学院に進学)
「日本人はなぜノーベル経済学賞を取れないのか」というテーマで、日本人のノーベル賞受賞者は理系の研究者に偏っていることに着目。4つの要因を見出し、その解決策を提案しました。
「理系コースに所属していたので、経済学という文系の学問を探究するのは不安でした。しかし調べてみると、過去にアメリカの数学者でノーベル経済学賞の受賞者がいることがわかりました。経済学は数学などの理系分野など、多くの学問と関わっている事実を知り、ますます関心を深めていきました。
私は進学先で現代社会において存在するさまざまな国際問題や社会問題を、理系的な知識を用いて解決していくことを学びます。ここでは私が理系に所属しながら文系テーマの探究を行ってきたという点が、間違いなく長所になると思います。みなさんも、純粋に自分が興味を持ったものを探究テーマに選んでください。皆さんの探究活動が素晴らしいものになることを願っています」
▼八幡昂樹さん(イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 グレインジャー工科大学コンピューターサイエンスに進学)
在学中に2回の個人留学を経て、画像認識をベースとした自動運転に着目した八幡さん。プログラミング言語を用いて自動運転ラジコンカーを自作。その考察をまとめたものが、中高生のための英語プレゼンテーションコンテスト「Change Maker Awards」で金賞(最優秀個人賞)を受賞。その後も研鑽を積み、合格率5%という海外難関大進学への道を勝ち取りました。
「中学3年の時にプログラム言語のPythonを独学で学び、画像認識能力について関心がありました。高2の夏の探究テーマを考える際には特にやりたいことは見当たりませんでしたが、ちょうどその後、メルセデス・ベンツの自動運転車に興味を持ち、探究テーマとしました。これを題材に『Change Maker Awards』に参加、その後も埼玉工業大学にインターンに行くなど、探究活動を進めました。このような探究活動を通しての経験が、海外大学の試験に活きました。海外大学入試では、高い英語力に加えて課題活動やエッセイなどが評価され、いわば試験官の主観で合否が決まります。特にアジア人男性は競争率が激しく、かなり目立つトピックを持っていなければなりません。ここで、私の『自動運転』というテーマがとても役に立ちました。足立学園での探究活動の時間がなければ、この結果はなかったかもしれません。みなさんもこの機会を大いに活用してほしいと思います」
井上先生は、「志を立てることが努力するきっかけとなればと思っていましたが、生徒たちにこれほど秘めたものがあり、それがここまで開花するとは思っていませんでした」と嘆息します。
しかし彼らは、成功続きだったわけではありません。岡田さんはユーグレナを繁殖させようとしましたが、努力の甲斐なく全滅させてしまったこともあります。自動運転を探究した八幡さんは、同校の先生方への熱いプレゼンの末、研究費を獲得したひとりですが、その資金で試作したラジコンカーは初期の段階で炎上しました。
「でも、それでいいのです。生徒たちには失敗から学ぶこと、失敗を恐れずチャレンジしていく気概を持ってほしいと常々伝えています」と井上先生。
自分の目標が定まった生徒がアグレッシブに挑戦していく姿を目の当たりにし、大人が可能性の芽をつぶしてはならないと改めて決心したそうです。
「もし活動資金がほしいようでしたら、20名ほどの教員の前でプレゼンをしてもらいます。そのプレッシャーの中でも我々が納得できる理由が提示できれば、喜んで探究活動の費用を出資します」と井上先生。
そして、彼らの後輩がその方法を踏襲し、今年度から学校設備にVR機器が加わりました。
あらゆる体験が、一人ひとりの志を決定する礎に
足立学園の生徒たちは、なぜこのような志を立て、学びと挑戦を続けることができるのか。井上先生は、「確固たる志を持つには、体験に勝るものはありません」と語ります。
生徒たちは、中1での「志方程式」作成の授業などによって、自分の主義や傾向を知り、それに基づいて己の志を考える機会を持ちます。中2では職業調べ、中3で企業インターンなどを経験し、己の志を何度も問い直すのです。
もちろんなかなか志を立てられないと悩む生徒もいますが、心配はいりません。先に挙げた4人も、探究テーマを決め、志を立てたのは高校入学後です。
井上先生は「志を早く立てることよりも、多感な中学・高校の6年間でどのような経験をするかが重要です。自分の実体験や学校生活の中でのいろいろな行事や授業やクラブ活動やさまざまなことを体験する中で芽生えてくるものです」と話します。生徒と直接向かい合う先生方もそれを熟知しており、生徒自身の体験を掘り下げるよう指導しています。
その上で、「これからは学校行事の拡充を目指しています」と教えてくれた井上先生。新しい研修プログラムなどを取り入れるほか、従来から行っていたものをより充実させる取り組みもあります。
例えば、今年度の高2の京都自主研修旅行です。この学年の生徒たちは、コロナ禍の影響でこの2年間、学校行事や宿泊研修にほとんど参加できませんでした。ゆえに今回は、現地集合現地解散、行程も生徒たちが決めることに。
生徒は5〜6人でグループを作り、移動手段も出発時間もすべて自分たちで決めて出発します。先生は京都の宿泊施設で待機。そこで点呼を取り、到着を確認します。ほとんどの時間が自主研修となり、安全性を危惧する声もありましたが、「君たちを信用している」という言葉と共に送り出したそうです。
「最初はユニバーサル・スタジオ・ジャパンで遊ぶという観光プランを考えた班がいましたが、『旅の意味をよく考え、みんなで話し合って決めてほしい』と伝えたところ、寺社・史跡を巡る、北陸新幹線経由で京都入りし鉄道旅行を満喫する、関西の大学を見学するという計画を立てたグループもありました」(井上先生)
東京〜京都を行き来する間の途中下車もありという自由度の高さのなか、生徒たちは道中の写真を送り、経過を報告。そして無事、東京に帰着しました。
大人の介入なく、同級生と計画を話し合い、時にはぶつかって折衷案を出して体験した、密度の濃い2泊3日間。生徒たちの久しぶりの宿泊研修が、心に深く残る、そして自己肯定感を高める旅になったことはいうまでもありません。
海外研修の豊富さにも定評のある同校。コロナ禍により中止していた2週間のオーストラリア・スタディツアーも2022年度から再開しました。例年の参加者は約20名でしたが、今年度は約80名が参加を希望しています。事前研修をしっかり行い、ホームステイをしながら現地校に通います。
「生徒たちの爆発的な意欲を感じます。日本との教育環境の違いなどを自分の目で見て、多くのものを持ち帰ってきてほしいですね」(井上先生)
さらに新しいプログラムとして、2022年の冬に10日間のアフリカでの研修がスタートします。アフリカ・スタディツアーのエキスパートに学園側から呼びかけ、実現することになりました。
「行き先は、ケニアやチュニジアを想定しています。サファリや現地の学校、村などを訪問して、自分がいかに恵まれているかを実感し、水道もないような過酷な環境の中で自分に何ができるのかを真剣に考えるきっかけとなればと思っています」と井上先生。
宿泊研修、海外プログラム、学園祭、体育祭や強歩大会などのスポーツイベントに地元の方々、近隣の大学との交流......生徒を伸ばすきっかけとなる体験を可能な限り提供する、「生徒第一主義」の姿勢を貫いています。
生徒、OB、保護者、学校関係者が一丸となって盛り上げる
足立学園の説明会に参加される受験生、保護者の方は、司会、映像記録係、案内役として立ち働く生徒の姿をご覧いただけると思います。彼らは皆、自分から志願したアンバサダー。中1〜高3まで約50名が参加し、学校の歴史や施設案内の講習を受け、立ち居振る舞いやマナーを学び、認定証を授与されています。
「『足立学園のいいところを伝えたい!』と手を挙げてくれました。忙しいはずの高3も、一部でもいいから参加したいと言ってくれたのがうれしかったですね。他には、学園祭の実行委員と掛け持ちで参加できるかと、問い合わせて来た生徒もいました」と井上先生。このような生徒の姿を見て「自分も何かできないか」と保護者から問い合わせいただくこともあるそうです。
学校説明会には、自主的に補助を務める卒業生もいます。「少し前まで在校生だった生徒がスーツを着て、ときおり学校に顔を出してくれるんです。保護者の皆様にご紹介することもあります」と井上先生は破顔します。
そのOBは早くから、「保育士になりたい」という志を持ち、大学に行くよりもすぐに力を付けたいと自分で決断し、専門学校に進学。同級生たちは大学に通うなか、すでに保育士として働いています。
「誰もがスーパーリーダーでなくてもいい、志を立てて自分の使命を見極め、現在いる場所でキラリと光る、『この人がいなくちゃ』と思われるような存在になってほしいのです。彼はそれを体現している人物のひとりです」と井上先生。
2022年の9月からは、OBが中学生のチューターとして英語と数学を教える「学力ジャンプアップ講座」がスタート。学力の向上もさることながら、先輩自身がロールモデルとなり在校生を奮起させるのでしょう。足立学園ではこのように学校全体で在校生を成長させていく土壌が整えられています。
自分なりの幸せを見つけ、真の学びを続けていくために
井上先生は、今の子どもたちへの教育は、管理教育から自律、自走する学びへと進めるべきだと考えています。日本の教育は、基礎学力を高めることには長けていますが、生徒たちは問題を正確に解きこなすことばかりに集中してしまう。自分の頭で考えず、指示を待つ姿勢になってしまうということを危惧しています。
それを打破するのが「志共育」であり、そのためには、教師も学ぶ姿を見せるべきだと井上先生は説きます。
「教壇に立っていれば自然と尊敬され、『俺についてこい』と指導していた時代は終わりました。私たちが提唱しているのは『志共育』ですから。校長である私も教員も、志をしっかり持って、日々学び、成長し続ける姿を見せなければなりません」
生徒を後ろから支え、成長を見守り、自分を超えていった生徒たちにエールを送る、それが同校の先生方です。
「幸せというと自分本位に考えがちです。競争相手に勝って、お金をたくさん稼いで......。それは、真の意味での幸せとは言えません。人から感謝されることの素晴らしさを知ってほしい。そして自分なりの方法で社会に貢献していくことが自分の幸せであり、実現すべき志なのだということに気づいてほしいですね」(井上先生)
生徒一人ひとりが男子の一生をかけるものを必ず見つけられる学校、見つけた志を胸に各々のフィールドで輝き続ける男性を育む学校、それが足立学園なのです。