学校特集
二松学舎大学附属柏中学校・高等学校2022
掲載日:2022年12月1日(木)
「東洋の精神による人格の陶冶」「己を修め人を治め一世に有用なる人物を養成する」を建学の精神とし、夏目漱石や嘉納治五郎、犬養毅ら、各界で活躍した著名人を輩出している二松学舎。論語の三徳(知・仁・勇)を学びの指針とする豊かな風土に、10年という月日をかけてしっかりと根を下ろしたのが、二松学舎大学附属柏中学校です。開校当初から、二松学舎の創立者、三島中洲の「知行合一」(知識があっても実践をしなければ本当の『知』とは言わない)という考え方を尊重し、「論語」と「探究」を軸に独自のプログラムを展開してきました。中でも地の利を生かした「沼の教室」「田んぼの教室」をはじめとする体験教室は、このプログラムに惹かれて受験するご家庭もあるほど浸透しています。体験からさまざまな気づきを得た生徒たちは、自分が進むべき道をしっかりと見据えて希望の大学に進学しています。
そうした背景から、2022年度より同校の特色ある「探究」を前面に出した新コース「グローバル探究コース」と「総合探究コース」を始動しました。10年間の成果を携えて、第2ステージへ踏み出した副校長の島田達彦先生と、グローバル探究委員会委員長の森寿直先生に、同校の教育について伺いました。
大学進学に向けて、
マイストーリーを描ける道筋ができている
森先生:それぞれに自分の進路を見つけて、人生の第一歩を踏み出すなかで、「グローバル探究コース」の前身となる「グローバルコース」で探究活動に進んで取り組み、その成果を活かして複数の大学に合格した生徒がいました。海外研修に積極的に参加していたので、「英語を勉強して海外で働く」そんな進路を想像していたら、「柏の街をより良くしたい」と言うのです。いろいろな国を見た上で、自分が生まれ育った柏市に目を向け、「街を活性化するような仕事に就きたい」「新しい街『柏の葉国際キャンパスタウン』と、古くから柏市で生きてきた人の思いをつなげたい」と明言し、ある時から神社やお寺を巡る探究活動を始めました。現地に足を運び、地元の人が足を運ぶ神社が大切にしてきた思いを聞いたり、お寺に伝わる民話を調べたりすることにより、この地域の方々が古くから大切にしている思いを見い出し、その思いを取り入れた新しいまちづくりをすることで、柏市の人たちがより幸せになれる持続可能な街づくりを自分なりに考察したのです。その成果を大学入試でもアピールして有名大学に合格しました。
この生徒は、中1から積み重ねていく探究活動プログラムと、グローバルコースの多彩な海外研修プログラムにより、俯瞰して社会を見る目が育った良い例だと思います。なおかつ自分のテーマを見つけて主体的に探究活動を続け、志望校を決める際には都市デザインに関わる仕事に就きたい、という明確な目標を持ち、学びたい研究室のある大学・学部を絞り込みました。すべて自分で考え、判断し、行動しているので、AO入試(総合型選抜)で恐れるものは何もありません。
他にも、本校近くの手賀沼で自然環境や歴史を学ぶ「沼の教室」(中1)をきっかけに、6年間、沼の性質を調査し、考察した成果を大学受験に生かして、志望大学に合格した生徒もいます。
島田先生:中学校を立ち上げた時に「10年経つと形が見えてくる」と言われたことがあります。6期生を送り出し、まさにその通りだな、と思いました。中でも手応えを感じているのが「大学進学への道筋」です。6年間、さまざまな体験を通して進路のマイストーリーを描ける力が培われているのです。
中学校では、探究教育を支える3つのプログラムの1つ「自問自答プログラム」を通して、自分で課題を見つける→自分で調べる→現地に行ってそれを確認する→情報を踏まえてグループで話し合う→まとめてプレゼンテーションする、という学びに3年間取り組みます。その集大成となるのが、中3が1年間かけて取り組む「探究論文 自問自答」です。自分で好きなテーマを設定し、問い→仮説→調査→結論→発表という流れで8000字の論文執筆と7分間のスピーチ(中間発表・最終発表)に挑戦します。
島田先生:自分が興味関心を持ったことを調べていくうちに、さらに深めたいという意欲が湧いてきて、そのテーマを学べる大学を意識し始めます。高2になると、明確な理由をもって第一志望を宣言する「第一志望宣言書」を提出してもらうのですが、「私はこの大学のこの教授の講座をぜひ受けたい」と、力強く宣言した生徒が数名いました。これは強いなと思いました。そういう気持ちを持って受験するので合格します。進路のマイストーリーを描ける力が培われているのです。
体験プログラムが盛りだくさん。
自分の体を使って気づく、本当の学びがある
中1は「グローバル探究コース」が1クラス、「総合探究コース」が2クラスの、計3クラスで新年度がスタートしました。5月には「田んぼの教室」が3年ぶりに実施となりましたが、当日は激しく雨が降り、ピロティに集まった生徒はあきらめ顔です。そんな生徒たちを前にして、学年主任の森先生はメガフォンを片手に、熱く呼びかけました。「雨だけど行くよ」と。
森先生:中には、雨の中で田植えをするのは嫌だなぁと思っていた生徒もいたかもしれません。中止でもおかしくないほど雨が降っていましたから。中止でも問題ないように、教室で講義をしてもらう準備もしていましたが、田んぼに行く決断をしたのは、できない理由を探すのではなく、できる工夫をする6年間にしてほしいと思ったからです。入学したばかりの子どもたちです。この先、学校生活に取り組む中で、いろいろと難しい場面に直面すると思います。その時に「〇〇だからできない」と考えるのではなく、「できる方法はないかな」「工夫して、できるところまでやってみよう」と考える生徒になってほしいのです。生徒に理由を語り、「そういう6年間の一歩にしたいから、雨でも行こう」と言うと、みんな「うんうん」とうなづいていました。幸い天気は好転する見通しだったので、田んぼに着く頃には小降りになっていましたが、「できないところは先生が全部植えるから」と言った手前、私も田んぼに入って苗を植えました(笑)。みんな泥まみれになりましたが、それ以上に笑顔が印象的でした。今、振り返ると、むしろ雨で良かったのではと思います。汚れた服は洗えばきれいになりますが、雨の中で泥まみれになってでも田植えを成功させた記憶はずっと残ります。みんなで乗り越えたことも大きな経験になるのではないでしょうか。
この「田んぼの教室」は、「自問自答プログラム」の校外の教室(現在、沼・田んぼ・都市・古都・世界・雪の6教室)として、1期生が中1の年に始まりました。
森先生:当時は外部のNPOの方に協力していただき、講師の方をお呼びしたのですが、今は高校1期生の方に講師をお願いしています。田んぼも2期生の方の田んぼを借りて、そこに後輩である中1が稲を植えています。つまり、完全に二松学舎内で田んぼの教室ができるようになったのです。田植えだけでなく、育て、秋には収穫も行います。田んぼを守ってくれる人が、本校の卒業生という安心感ははかり知れません。新コースに「グローバル探究」という名前をつけることができたのは、こうしたプログラムの充実が背景にあったからだと思っています。
島田先生:グローバル探究コースのスローガンは「変革者たれ Be a change maker 」です。生徒自身が活動して、周囲を変えていこうとするだけでなく、それによって自分も変わっていく、という両面をイメージできる言葉として、この言葉を選びました。自分が努力して周囲に働きかけて変えていく、と同時に、自分自身も変わっていける、進歩していける。そういう力を育むことができるコースにしていきたいと考えています。
「グローバル探究コース」「総合探究コース」の基本的な教育方針に違いはありません。どちらも論語と探究をベースに、4年間、少人数制を生かした学習方法で力を伸ばしていきます。「グローバル探究コース」ではさらに、中1からグローバルに関連したプログラムに積極的に取り組みます。そこが大きな違いです。
森先生:昨年度の中2のグローバルコースでは、SDGsワークショップを通して、スマートフォンで使用されるレアアースの問題に取り組みました。レアアースを集めるための児童労働は大きな問題になっています。生徒はそこに興味を持ち、自分たちにできることは何かを考えました。出てきたアイデアは「フェアトレード」と「募金活動」でした。「フェアトレード」は認知度を高めるために、イオンで売っているフェアトレード商品を学校説明会で販売するという企画です。「募金活動」は文化祭などでバザーや募金活動をして集めたお金を寄付する、という企画です。
企画自体はよくあるものですが、ただ呼びかけてもお金は集まらないだろうと考え、先生の私物をバザーに提供してもらったり、募金した人が思わず笑ってしまうような募金箱を作る、といったアイデアが出ました。好きな先生の愛用品であれば買いたい人がいるはずだ。外から箱の中が見えて、お金がおもしろい落ち方をしたら、募金した人が笑顔になるはずだ、と、課題解決のためのアイデアが出たことは素晴らしいと思いました。
島田先生:昨年度は企画を考え、説明会で発表して、小学生や保護者の方にフェアトレード商品の購入を呼びかけるところまで行って終わりましたが、第2ステージでは実際に商品を販売して、1つのプログラムが終わる、という意識をもって取り組みたいと考えています。自分で体を動かしてみないと気づけないことがあります。ネットや本では気付けないことが...。それが本当の意味での学びだと思います。
生徒と先生との距離が近く、常に伴走してくれる
だから安心してチャレンジできる
同校では、中学校を開校以来、一貫して行ってきたことがあります。それは先生が生徒と一緒に考え、一緒に学び、一緒に行動する、ということです。
島田先生:教員が何かを与えて、「さあ、やりなさい」というよりも、生徒と幅広い知識を共有し、生徒が興味を持ったものを引き出して、一緒に学ぶ。教員はティーチャーではなくサポーターなんだと思います。上から教えるというよりも、生徒と並んで同じ方向を向いて進んでいく。何かあれば手助けする、という関係が望ましいと思っています。子どもから大人へと成長する大切な時期に、並走してくれる先生がいるという安心感は、何ものにも代えられません。10年間、探究学習を進化させることができたのも、生徒と先生の間に信頼関係を構築できたからだと思っています。
森先生:置かれた環境に満足している、していないに関わらず、時々昔のことをよく知っている先生のところに駆けつけたい、という時があると思います。本校は思い立った時に、すぐに来られる距離に中学校舎があるので、高校の3年間も気軽に話ができます。そういう環境があると、安心して励めると思います。実際に高校生が「先生」と言って気兼ねなく中学に顔を出しています。
島田先生:中入生が中学から高校に上がって来た時に、明らかに違うと感じるのがコミュニケーション能力の高さです。高入生が低い、ということではなく、中入生が自分の伝えたいことをきちんと伝えられ、際立っているということです。新聞を読み比べたり、1分間スピーチを繰り返したりしている成果ではないかと思います。 本校は「自問自答プログラム」が注目されがちですが、探究教育を支える3つのプログラムの1つ「学習支援プログラム」も、中学校から入学するメリットの一つです。3年間、日々継続して行うことで、着実に実力を伸ばすことができます。
森先生:1分間スピーチでは、人前で話すだけでも緊張する生徒がいるので、書いたものを読む、というところから始めています。人前に立つことに慣れてきたら、「次の1ヵ月はこのテーマでいくから、テーマについて思うことを考えてきてね」という形で、少しずつハードルを上げていきます。無理なく進めていますが、3年間積み重ねると本当に成長します。小学生の時に人前で話すことができなかった生徒や、学校に行って人と顔を合わせるのもちょっと...という生徒が、人前で自分の考えを伝えることができるようになるので、その成長ぶりは本当に驚かされます。
生徒が変わるきっかけは十人十色。
自分だけの色ときっと出会える
島田先生:授業以外も全員で同じことに取り組む、という考えは、本校の校風かもしれません。とはいえ、全員が同じように成長していくわけではありません。よく説明会で「どうすれば勉強するようになるか」という質問をいただくのですが、「こうすれば絶対に伸びる」という方法はないと思います。生徒が変わるきっかけは十人十色で、一人の生徒にそれがハマッたからといって、他の生徒にハマるかどうかはわからないのです。そのために本校では、さまざまな体験をできるプログラムを用意しているのです。
森先生:毎日、天声人語や新聞コラム・新聞ノートに取り組んでいるのは、世の中で起きているいろいろなことを知ってほしいからです。ある生徒は1つの記事をきっかけに、その分野に興味をもって勉強を始めます。ある生徒は先生が発した1つの言葉をきっかけに、その先生に惹かれて、自分も同じ分野に進みたいと勉強を始めます。他にも、あるテレビ番組で、ある本で、ある友だちと出会って...。そんなことからスイッチが入るとしたら、海外も含めていろいろなところに行ったり、いろいろな体験活動をしたりできる中学校生活と、座学ばかりの中学校生活とでは、学びに対する興味や姿勢が大きく変わると思います。
田んぼについても、机上での学びによって知識をつけることはできても、雨の中、田んぼに入った時に感じるぬるっとした感触は、実際に田んぼに入らなければわかりません。その体験は、例えば2000年前、3000年前の稲作文化を考えた時に、当時の人々もやっていたであろう、雨に濡れながらの農作業を知っている学びと、知らない学びとでは変わるはずです。目の前の3年間だけを見れば、違いはわからないかもしれませんが、高校で深い学びをした時に、あるいは大学で研究した時に、いろいろなものが結びついてくると思います。
島田先生:6か年教育は、後々伸びるのです。長い目で見た時に、「教科書の1ページからつながる範囲とつながる深さが違う」、「わからないことに対する調べ方、学び方がわかっている」、「わからないことを気兼ねなく人に聞ける」、これらが本校で10年間、探究活動や研修旅行に取り組んでつかんだ実感です。
ここ2年ほど、コロナ禍で海外に行くことはできていませんが、グローバル探究コースはもとより、総合探究コースにも全員参加の海外研修旅行があります。どちらのコースであっても、果敢にチャレンジすることにより、自分だけの色ときっと出会えることでしょう。探究活動が注目されている今だからこそ、一日の長がある同校に目を向けてみませんか。