学校特集
富士見中学校高等学校2022
掲載日:2022年11月1日(火)
1940年の学園創立以来、「純真・勤勉・着実」を建学の精神に掲げて歩んできた富士見中学校高等学校。西武池袋線中村橋駅から徒歩3分という好アクセスの立地にある完全中高一貫の女子校です。教育目標は「社会に貢献できる自立した女性の育成」。特にグローバル教育に力を入れており、今年度はグローバル人材の育成を意識したプログラムをふたつ新たに導入しました。新プログラム導入の目的やそれによって身につく力について、国際交流部主任の見上 愛先生、グローバルセンター長の伊藤恭子さんにお話を伺いました。
英語力以外のスキルも伸ばす
「エンパワーメントプログラム」
富士見中学校高等学校で、今年度から始まった新しいプログラムのひとつが「エンパワーメントプログラム」です。このプログラムはすべて英語で行われ、グループワークやディスカッション、プレゼンテーションを通じて、新しい価値観や異文化への理解を深める、グローバル感覚を培う、コミュニケーション能力を磨くことなどを目的としています。
見上先生「夏休み中の3日間を使って、中3生から高2生までの希望者36名が参加しました。具体的には、5~6名の小グループに分かれて『ポジティブシンキング』、『リーダーシップ』、『ダイバーシティ』などのテーマについてディスカッションをするという内容です。
各グループには外国人大学生が1名加わったのですが、彼らの存在も生徒たちにとっては良い刺激となったようですね。自分の考えや意見を言うことに慣れている外国人留学生の姿を見て、本校の生徒たちも自分の意見を言う、人の考えを聞く、そしてそれについてまた話し合う......ということがだんだんとできるようになっていったと思います。1日5時間での実施でしたが、時間が経つのがあっという間でした」
伊藤さん「生徒たちの初日の感想で多かったのは、『思うように英語を話せなかったけど、意思の疎通はできたと思う』、『緊張して自分から話せなかった。2日目以降はできるといいな』など。それが、2・3日目になると、『積極的に自分から話すように頑張った』、『自分から意見を出すようにした』などがとても多くなりました。
3日間という短い期間でしたが、生徒たちは自分の意見を述べることや誰かの発言に対して自分はどう思うのかを伝えることの大切さを学び、それを実行できたのです。英語に触れるだけでなく、『人に伝える、人の意見を聞く』というコミュニケーション能力を高められることが、このプログラムの大きな魅力でもあります」
さらに3日目のプレゼンテーションを終えた後の生徒の感想では、「英語で行うプレゼンに自信がついた」、「プラス思考でいること、自分の意見をハッキリと言うこと、人の話を聞くことが大切だとわかった」、「また参加したいし、今回参加していない子にも勧めたい」という前向きなものがとても多かったといいます。
見上先生「人前で話すことや英語がそれほど得意ではない生徒も参加していたので少し心配しながら様子を見ていましたが、どの生徒も3日間で見事に成長していました。さらに、プレゼンテーションではそれぞれが堂々と発表していて感動しました。普段の授業ではなかなか体験できない要素も多く、生徒にとって充実した3日間だったのではないでしょうか」
伊藤さん「海外に行って英語漬けの生活を送らなくても、『エンパワーメントプログラム』を体験することで英語力やコミュニケーションスキルを伸ばすことは可能だと感じました。来年度もぜひ実施したいですし、より多くの生徒に体験してもらいたいプログラムです」
同校には、中1で「グローバルビレッジ」、中2は「インターショナルデイズ」という全員参加の学年行事があります。日本の大学や大学院に通う外国人留学生と英語で交流し、多様な価値観、文化などに触れ、興味関心の幅を広げることを目的として行われるものです。
そこからさらにもう一歩踏み込んだグローバルな学びを、という狙いもあって取り入れられたのがこの「エンパワーメントプログラム」。英語好きな生徒、海外に興味のある生徒が多い同校にふさわしい新しい学びです。英語力+αのスキルを伸ばせる絶好の機会といえるでしょう。
"日本語で行う"グローバル教育
「アントレプレナーシップ研修」
もうひとつ、今年度から新たに取り入れたプログラムが「アントレプレナーシップ研修」。アントレプレナーシップは、一般的には"起業マインドの醸成"を目的として企業や学校で取り組まれる場合が多くあります。
同校ではこの研修はグローバル教育の一環として取り入れていますが、ひとつのポイントは英語ではなく日本語で実施されていること。
伊藤さん「グローバル教育というと、どうしても英語で行うと捉えられがちですよね。でも、グローバル人材に問われるスキルは英語力だけではないと思うのです。英語ができなくても、ほかのスキルが備わっていれば、グローバルな人材として十分に活躍できます。そういった意味で、英語が苦手な生徒たちが楽しめるプログラムとして用意しました」
生徒は起業家の方からリアルなビジネスの話を聞き、実際に街に出て課題を見つけ、グループごとに課題解決案(=ビジネスモデル)をまとめて発表するというプログラム内容です。「エンパワーメントプログラム」と同様、夏休み中の3日間で実施され、希望した高1~2生の15名が参加しました。
伊藤さん「今回、生徒たちは神田の街を歩き、さまざまな課題を見つけてグループごとにビジネスモデルを考案しました。何人かで意見を出し合い、ひとつのビジネスモデル案にまとめるという作業は慣れていないこともあり、大変そうでしたね。
ただ、自分たちと比較的年齢の近い起業家の方から実際のビジネスの話を聞いたり、ビジネスモデル考案にあたってアドバイスをいただけたりと、とてもいい刺激になったようです。教科書には載っていないことを学べる、貴重な機会となりました」
最終日のプレゼンでは、「学生が来るCo-Working スペース」、「人との交流ができるカフェ&本屋」などのビジネスモデル案が発表されました。そして3日間を終えた生徒たちからは、「限られた時間で、皆でひとつの案にまとめ上げるのは大変だったけど、とても楽しかった」という声が多く上がったといいます。
この「アントレプレナーシップ研修」では、課題解決能力、共働力、コミュニケーション能力といったさまざまなスキルを磨くことができます。英語は使いませんが、どれもグローバル社会においては重要なスキルであり、生徒たちが普段の授業とは違った視点からこうした要素をたくさん吸収できる研修となっています。
英語が得意ではない生徒にもグローバルな学びを体験させたい、という学校側の思いがよく表れた取り組みといえるでしょう。
中1も積極的に参加!
「セブ島英語レッスン&SDGs交流体験」
同校では昨年に引き続き、オンラインでの「セブ島英語レッスン&SDGs交流体験」を希望制で行いました。夏休み中の3日間にわたって行われ、中1生から高1生の34名が参加し、意義深い時間を過ごしました。
見上先生「昨年は2日間でしたが、今年はより充実させるため1日増やして3日間で実施しました。生徒たちは3~4人で1グループとなって、英語レッスンを受けたり、日本のことを紹介するスライドを作って英語で発表を行ったりしました。
参加した34名のうちおよそ2/3が中1生。英語でのコミュニケーションに慣れていない子も多く、初日は固まってしまっている様子も(笑)。ところが、2・3日目となるにつれ、多くの生徒がコミュニケーションを取れるようになっていきましたし、雰囲気で会話の内容をつかんでいる生徒もいましたね」
このオンライン研修では、英語力アップのほかに、SDGsの課題のひとつである「貧困」について学ぶことも目的としています。
伊藤さん「生徒たちは、普段の探究学習でもSDGsについて取り組んでいるので、頭では理解できています。しかし、日本の恵まれた環境で暮らしていますので、他国の貧困状況を直接聞ける機会はなかなかありません。例えば、現地にはご飯や洋服を手に入れるのにも苦労し、台風が来たら電気が止まる......といった生活環境にいる人たちもいます。そんな厳しい環境で暮らしながらも、セブ島の子どもたちは皆ニコニコしていて元気いっぱい。セブ島で貧困層の子どもたちをサポートする活動家の話を聞き、子どもたちと交流することは本当に貴重な経験で、自分たちと同世代の子の生活環境の違いを目の当たりにし、いろいろと考えさせられたようですね」
オンライン研修を体験した生徒たちは充実した3日間を過ごし、「後輩やお友達にも勧めたい」と話しているといいます。
伊藤さん「オンライン研修のメリットは、費用が安く済み、少人数での英語のレッスンができること。本校には英語で会話をしたい生徒がとても多いので、来年はもう少し会話力を磨けるような内容に改良していきたいと考えています」
見上先生「授業では文法や読み書きを重視しがちですが、生徒たちの様子を見て、もっと会話力やコミュニケーション能力を引き上げるような要素を授業でも取り入れられたら、と感じました」
コロナ禍で始まったオンラインでの交流。伊藤さんや先生たちも手探りで始めた取り組みですが、年を経るごとにさまざまな発見があり、ブラッシュアップを重ねています。
頼りになる存在!
富士見の「グローバルセンター」
「エンパワーメントプログラム」、「アントレプレナーシップ研究」、「セブ島英語レッスン&SDGs交流体験」などの企画・実施には、昨年校内に設置された「グローバルセンター」が大きく関わっています。
「グローバルセンター」は、より幅広い、そして質の高いグローバル教育を行うために設置されました。海外語学研修・留学時のサポートをはじめ、生徒が気軽に参加できる国内での体験プログラムの強化、海外の大学進学を目指す生徒への情報提供やアシスト、海外に関する様々なガイダンスの実施、留学から戻った生徒や帰国生のフォローなどを主に行っています。
同校の校長・佐藤真樹先生が長年温めてきた構想が実現したもので、より充実したグローバル教育を実践するためには欠かせない存在。センター長を務める伊藤さんは、留学カウンセラーとして、長年にわたって外部の立場から同校の海外研修、高校留学を支えてきた実績があります。
伊藤さん「今年は、3年ぶりに海外研修と留学が再開できたことが昨年との大きな違いですね。『3ヵ月留学』の留学先は、これまでニュージーランドだけでしたが、今年度からオーストラリアも加わりました。さらに来年度は、高校の『1年留学』の留学先もニュージーランドのほかにオーストラリア、アメリカ、カナダ、イギリスが加わります。コロナ禍以前のときのように、生徒たちが伸び伸びと海外で学べる環境に戻りつつあります」
特に、「3ヵ月留学」は学校の勉強の遅れを取り戻しやすいこと、留学費用も比較的抑えられることから人気が高いのだとか。同校では選考基準や面接を設けて、意欲と成績の両方が伴った生徒を派遣しています。伊藤さんは、海外研修・留学のサポートを行っていく一方で、国内で行うプログラムや学びの機会も増やしていきたいと話します。
伊藤さん「グローバルとは、海外に行くことだけを指すのではなく、人と人、国と国などのボーダーがなくなって、他者理解・自己理解を深めていくことだと捉えています。ですから国内にいながら学べることもたくさんあるんですね。夏休みに実施したプログラムやオンライン交流などはまさにそう。今後は希望する生徒だけでなく、生徒全員が多文化を理解し、体験できるような機会をさらに増やしていきたいです」
ただし英語だけに特化しないように気をつけたい、とも言います。
伊藤さん「私も中学生のときは英語が嫌いだったので、英語が苦手な子の気持ちがよくわかるんです。最初は英語が嫌でも、違った角度からグローバルな学びを体験し、深めていくうちに『英語が話せるともっと良いかも』と自然と感じてもらえたらと思っています。生徒がそんな"気づき"を得られるようなプログラムを用意していきたいですね」
グローバル人材の育成を目指し、一歩も二歩も先を行く富士見中学校高等学校。グローバルを広く深く捉えて教育に落とし込んでいる学校です。海外留学を検討しているご家庭はもちろん、国内にいながら、あるいは英語が苦手だけどグローバルな視野を養いたいと考える生徒にとって、満足度の高い学校生活が送ることがきっとできるでしょう。