学校特集
東京電機大学中学校・高等学校2022
課題解決力と言語力を育成
掲載日:2022年6月10日(金)
JR中央線の東小金井駅から徒歩5分という便利な立地で、理系大学付属校としても人気を集めている東京電機大学中学校・高等学校。縦割りの課外研究活動「TDU 4D-Lab(ラボ)」が昨年度から正式教科「探究」となり、2年目を迎えました。アフターコロナに向けた展望や探究学習について、現校長・平川吉治先生と前校長・大久保靖先生に話を伺いました。
コロナに向き合い成長した生徒たち
「人間らしく生きる」を校訓に掲げる東京電機大学中学・高等学校は、正解のない時代の中で、自分の責任で方向を決めて道を切り拓く力の育成を目指しています。「向上心」「冒険心」「専門性」「共感力」「視野の広さ」の5つの力を身につけ、学び続ける人を育てている同校。校長・平川吉治先生は「"これを教えれば生徒はこう育つ"と考えるのは傲慢で、学校や教師はもっと謙虚になるべき。教えるのではなく、生徒の持っている力を引き出せるように授業や行事に取り組んでいきたい」と話します。
2020年度、2021年度はコロナの感染拡大で、学校生活も自粛を余儀なくされました。そんな中でも、生徒たちは常に前向きに「どうすればできるか」「何ができるか」を考え、先生にも相談しながら自分たちの考えを行動に移してきたといいます。
体育祭や文化祭は生徒が執行部を立ち上げ、「感染を防ぐためにはどうすればいいか」「"密"を防いで短時間で終わらせる工夫をしよう」など、開催に向けた協議を重ねました。体育祭はコロナの影響で競技数を減らすだけでなく、玉転がしや綱引きなどの団体競技は人数や時間を絞ったり手袋をはめることにしたほか、競技を待つときの間隔なども取り決めました。人気競技の騎馬戦も中止にせず、「騎馬」の数を減らすなど工夫することで、競技を行うことができました。
「2021年度は9月の文化祭は以前のように行われると思いずっと準備を重ねてきましたが、夏に感染者が急増して開催は危ぶまれました。それでも"コロナだからできない"ではなく"開催する"ことを前提に検討を重ねていたのが印象的です。実際、参加は在校生に限定したものの、感染対策として一人ずつカードを作って回った場所を記録したり、体育館などでの観覧の際は1回ずつ席を消毒するなど、生徒たちは知恵を絞って開催にこぎつけました」と平川先生は振り返ります。今年の文化祭もすでに4月から話し合いが始まっており、状況に応じてどう開催するかを協議しながら臨機応変に対応していく予定です。
正解のない課題が多いと言われる今、コロナ対応ではまさに現代の命題を生徒たちが突き付けられました。「生徒たちは探究学習のように、正解のない問いに協働して真正面から取り組むことができました。コロナ前と同じ規模や内容とはいかないまでも、工夫をこらして行事やイベントを実施できたことは生徒たちにも大きな自信になったようです。行事が無事に終わった時、生徒たちは実に晴れ晴れしたさわやかな笑顔を見せてくれました。こうして経験値を積み重ねることで、これから生きていく中で別の困難に出合ってもくじけずに立ち向かっていく力が培われていくはずです」(平川先生)。
保護者会や海外交流もオンラインで
以前からICT教育を行ってきた同校では、2020年度から生徒全員にタブレットを配布していました。そのおかげでコロナの感染拡大でしばらくオンライン授業に切り替えた時も、スムーズに移行することができました。「情報教育が実生活の中でも生かされ、ICTの有用性を実感することができたのも大きな収穫でした」と平川先生は話します。
コロナ禍の中では海外研修も自粛せざるを得ませんでしたが、その代わりに現地の人とオンライン上に交流する場を設け、10人以上が参加しました。現地に行くとなると二の足を踏む生徒でも、オンラインなら気軽に参加できるのは大きなメリットとなり、実際「オンラインだから参加しようと思った」「オンラインで交流してみたら、実際に現地に行きたくなった」という生徒もいました。コロナが収束して現地への研修が再開した後も、こうしたオンライン交流も選択肢の1つとして視野に入れています。
オンラインのメリットを享受しているのは、学校や生徒だけではありません。保護者会や保護者面談もオンラインで開催したところ、これまで仕事や所用で足を運べなかった人にも機会が広がり、参加者が増えました。「ICTをきちんと使いこなせないと、さまざまな機会を逃してしまう。受け身ではなく自分から行動するためにも、常に先端技術をとり入れ、スキルを磨くことが大切だとあらためて実感しています」(平川先生)。
校長に就任して2年目となる平川先生は、歴代校長にならって毎朝校門で生徒たちを出迎えています。生徒たちに「おはよう」と声をかけながら、平川先生は1人ひとりの様子をしっかり見て心に留めているといいます。「今日は元気がないな、と感じることもあれば、今まで下を向いて通り過ぎていた生徒が挨拶するようになって嬉しい驚きを覚えることもあります。中1が1年経つとすっかり大人びた表情になって成長を感じ、同時に新たな気持ちで新中1生を迎えました。我々教師が生徒の前で話すとき、"君たち""皆さん"と大きなくくりで呼びかけがちですが、私は生徒一人ひとりとしっかり向き合っていきたい。ですから朝礼など大勢の生徒の前で話すときも、心の中では一人ひとりに呼びかけています」。
生徒一人ひとりを認め、居場所を作っている同校。アフターコロナに向けて、ICTなど便利なツールも活用しつつ地道に足元を固め、挑戦し、探究し、学び続ける生徒を育てています。
中学の独自教科「探究学習」
2020年度まで行っていた縦割りの課外活動「TDU 4D-Lab(ラボ)」は、2021年度から「探究」という正式科目として生まれ変わりました。TDU 4D-Labは中2から高2までの生徒がグループで共同研究を行っていましたが、「探究」は中1~中3が週1時間の授業として独自のカリキュラムに取り組みます。実際に探究の授業を担当している前校長・大久保靖先生に、詳しい内容や狙いについてお話しいただきました。
「TDU 4D-Labでの反省点も踏まえて、探究の授業では探究する力や課題解決力を磨くと同時に言語技術を身につけることも目指しています。生徒が持っている問いを形にしたり、情報収集・分析してまとめたりするためには、言葉の技術が必要です。筋道を立てて考えたり、論文などをまとめる作法を中学できっちり身につければ、大学の総合型選抜試験の志望理由書作成や小論文対策にもなるし、大学での卒業論文執筆にも役に立つでしょう。もちろんそこがゴールではなく、社会人になってからも論理的な思考やまとまった長さの文章を書く力は必要なので、将来も応用がきくように、大元になる力を中学3年間で培っておきたいのです」(大久保先生)。
週1時間の「探究」の授業では、「課題設定→調査→分析・思考→まとめ・表現→新たな課題認識」という探究学習のサイクルを回しながら、並行して言語技術も磨きます。
●問いの作り方
身近な実物を観察して疑問や問いをもつ(物体/画像/動画)/仮説を含んだ問いをもつ/「ご近所マップ」で問いを作り出す/5W1Hで考える/Yes・Noでの場合分け
●グループワーク(話し合い)の進め方
NASAゲーム/質問ゲーム/交渉ゲーム/対話ゲーム/討論 など
●情報の収集と記録
ウェブサイトの使い方を学ぶ/図書館の使い方を学ぶ/エビデンスノートを作る/文献調査・施設見学/アンケートのとり方/インタビュー(アポイントのとり方を含む)のやり方
●情報の整理と考察
レポートの書き方/シンキングツール(ベン図・YXWチャート・バタフライチャート等)/マインドマップ/統計・データの集計方法
●表現・発表
再話(1分間スピーチ)/グループ内で発表しあう/事実と意見を分けて述べる/論説文パスティーシュ/卒業論文執筆・発表(中3)
たとえば中2のグループワークでは、「遊び」をテーマに、家族や親せきなどにインタビューしたりアンケートをとって分析しました。「自分たちは家の中で遊ぶことが多いのに、親世代は外遊びが多かったのはなぜか」「ゲーム機がなかった祖父母世代は遊びの質が違うのではないか」「東京と地方でどんな違いがあるのか」「公園の騒音規制などが外遊びに影響したのか」「昔の遊びはどのような経緯で生まれたのか」など、問いや仮説を立ててアンケートなどで情報を集めます。そして情報をグループ内で共有し、分析して新たな問いや仮説を立てて調査を進めて最後はグループごとに意見をまとめて発表しました。
大久保先生が4月に行った中3の授業では、「自分にとって大切なものは何か?」を考え、グループ内でディスカッションしてから意見をまとめて発表しました。「思い出」「家族」「お金」など、思いつくものは人それぞれ。価値観の違いを感じたり、自分にはなかった視点に気づけたという声もありました。
「次回の授業では一歩進んで、『赤ずきん』の童話を題材にして、赤ずきん・狼・狩人というそれぞれの視点で物語を読み解いてもらいます。さまざまなニュースや報道で、立場が違えば伝え方も全く変わるし、現代ではフェイクニュースも多い。そうした情報に触れた時、情報を分析して根拠を持って類推して自分なりの答えや意見を見つけてほしい。それは今後、卒業論文だけでなく大学生や社会人になってからも必要とされる大事なリテラシーだからです」(大久保先生)。
集大成として中3で卒業論文を執筆
「探究」が正式教科としてスタートして2年目となる今年度は、昨年の経験や手ごたえを踏まえてカリキュラムにも手を加えました。昨年度は中2ではまだパラグラフを教えていませんでしたが、今年度は中2から論説文的な文章を書く練習を始めました。論説文を書くには"慣れ"も大事なので、早めにトレーニングを開始したほうが効果が高いからです。
そして、「探究」の集大成として中3では各自がテーマを決めて研究し、卒業論文を執筆します。昨年度はスタートしたばかりなので実施せず、今年の中3から卒論に取り組みます。「今年の中3はまだ探究学習を始めて2年目なので、本格的な運用は来年の中3(現・中2)からになります。最初の大きなハードルは"問い"を立てて研究テーマを決めること。調べただけで答えの見つかる"問い"では研究にならないし、興味関心がないと本質的な"問い"は立てられません。でも、生徒たちは探究の授業で問いの立て方や情報収集の仕方を訓練してきて大きく成長していると感じます。論説文執筆のトレーニングも始めているので、完成度の高い論文を期待しています」(大久保先生)。
探究という新たな教科を創設しで、生徒の成長を力強く後押ししている同校。学びの幅がますます広がり生徒たちがいきいきと学んでいる学校の様子は、学校説明会などに足を運んでぜひ実感してみてください。