学校特集
武蔵野東中学校2022
「探究」と「生徒会活動」
掲載日:2022年7月1日(金)
JR 中央線の東小金井駅から徒歩 7 分の場所に位置する武蔵野東中学校。高校を併設せずに、行事や部活動も充実した、密度の濃い3年間の教育を行っています。全生徒数は約300名、少人数制教育により校内指導だけで約6割が国公立や私立の難関高校(偏差値65以上)へ進学しています。教科の枠を越えて本質的な学びを追究する探究科やコラボ授業(教科横断型授業)、自主性と自律を重んじる生徒会活動など、未来を生きる世代に必要な教育を行っています。多彩な教育内容をはじめとする取り組みについて、教頭の林武宏先生と英語科の児島圭史先生に話を伺いました。
「探究科」でオリジナルのテーマを追う」
武蔵野東中学校が探究型の学びを課外活動として取り入れたのが2007年、「探究科」という授業を設置したのが2017年、そして2019年から「教科横断型授業(通称:コラボ授業)」を行うなど、新学習指導要領に先駆けて、独自に探究型の学びを深め、全国コンクールで受賞するなどの成果をあげています。
本校の探究活動は、「オリジナルの問いを持ち、オリジナルの答えを追究するという点で、他にはない、将来につながる深い学びとなっています」と教頭・林武宏先生は話します。
探究科は中1の5月から中2の1月まで、週1時間の正課授業として取り組みます。探究活動の前段階として、中1は最初にテキストを使って考え方や調べ方の基礎を学びます。次に自然科学や文芸・美術・音楽などの分野から1つを選び、テーマに沿って問いを立て、どんな道筋をたどれば自分の中の最適解を見つけられるかを身につける「ゼミ活動」に進みます。
半年間のゼミ活動で探究活動の基礎を身につけた後、12月からはいよいよ個人でテーマを決めて活動を開始します。「最初に小さい頃から好きで気になっていることなどを挙げてもらいます。『飛行機』『環境問題』『ディズニー』など出発点は様々ですが、それにまつわる色々な問いを考え、探究対象となるリサーチクエスチョンを探していきます」(林先生)。
探究科設置当初は、見通しを持てるように先生がオリジナルの問いに向かうためのアドバイスを与えることもありました。でも「判断の部分から生徒に任せたい」と考え、2年前からさまざまな思考ツールを活用して生徒の自発的な判断を後押ししています。たとえば「マンダラート」では、中央に自分が考えたテーマを書き、そこから発想する言葉を周りの 9マスに書きこみます。こうしたツールも活用することで「これは調査に広がりがあって、次にこんな調査をすれば次の問いにたどりつけるはず」「このテーマは核にはなりえない」と自ら判断できるようになったのです。
思考ツールにあてはめて考えると、問いを立てるだけでなくその先にあるものを可視化でき、考えをまとめやすくなります。ツールの導入によって、生徒たちは"考えを突き詰める"という根幹の部分でも、大きく成長を果たしているのです。
探究科では生徒それぞれにアドバイザーの教員がつき、アドバイザーを中心に数人の生徒でチームを作って探究 を進めます。授業ではチーム内で 1週間の進捗状況をお互いに発表し、「こんな調べ方もあるのでは」「こういう道筋も面白いと思う」など、意見を述べ合います。アドバイザーも必要に応じて助言しますが、生徒同士で批評し合い、友だちの意見も聞きながら自分の探究を深める姿勢を大事にしています。
「探究活動はその生徒独自のものだから、その生徒が一生懸命に取り組んでたどり着いた結論を何よりも尊重したい。生徒が自分でつかんだ結果を生かしていくと深みがあっていい探究に仕上がります」と林先生は力強く話します。「父が家でコーヒーをたくさん飲むからコーヒーカスを活用したい、と提案して廃棄物から固形燃料を作った生徒がいます。研究を重ねて市販の固形燃料より優れた燃料が完成し、3年前の旺文社主催の全国学芸サイエンスコンクールで入賞を果たしました。最終的には災害用の備蓄としての活用も視野に入れていたし、何よりも生活に根ざした地に足のついた研究で、印象に残っています」。
また、三鷹市のごみ減量について研究した生徒は、自治体ごとにごみ排出量のデータの出し方が異なるため他の自治体との比較で壁に突き当たりました。アドバイザーは「日本全体と三鷹市の比較」等をアドバイスしましたが、その生徒は「データではなく、身近な場所をフィールドワークで調べる」と決めました。「明解な結果が出なかったり、仮説通りのゴールに辿り着かないこともあります。でも、立派な結論が出なくても、自分で考えて進めた研究なら成長の礎になるはずです」(林先生)。
他の生徒の探究テーマや内容を知ることで、同級生だけでなくこれから探究活動に取り組む後輩たちも刺激を受けたり新たな気づきが生まれたりします。11月の学園祭では、1年から3年まで全員がプレゼンテーションを行いますが、今年は日程を増やして、更に充実させていくとのこと。2年生の探究プロジェクトのメンバーが中心となり、来校する保護者への案内も行います。(学園祭の公開は未定)
現状に満足せず、試行錯誤を重ねてよりよい形を模索しているのも、同校ならではでしょう。1人1台 Chromebookを貸与していますが、ネットだけで簡単に情報収集もデータ取得もできることに先生方は危機感も感じています。「そこで、去年は文献にあたることを重視して指導しました。ネット上では長い文章の一部分のみ切り取られていることがあるが、きちんと原典をひもといて1から100まで読んだ上で、自分の意志で必要な部分を引用するように、と生徒には伝えました。文献にあたる姿勢が定着してきた今年度はさらに一歩進めて、情報の正しさを精査するニュースリテラシーに重点を置いて授業を進めていく予定です」(林先生)。
教科を横断するコラボ授業も続々と展開
探究と同様、「コラボ( 教科横断型)授業」も、教育界の流れを先取りしたものです。
「教科学習では<数学で学んだことは数学の授業や課題で活用し、数学のテストで発揮する>という 1対1の関係性に留まりがち。しかし知識は自分の中にツールとして蓄え、様々な場面で役立てていくのが本来あるべき学びの姿です」と林先生は話します。
教科の学びが点だとしたら、コラボ授業を行うことで点と点がつながって線になり、時には面や立体にまで形を変えて新たな発見や感動が生まれます。数学で習った一次方程式が理科では密度の計算に使えたり、英文法と国文法の違いを話し合って日本語訳・英語訳の適切な表現を考えるなど、生徒にとってはどの授業も興味深く驚きと発見の連続です。音楽でビバルディの『四季』を鑑賞するときは、社会とコラボしてイタリアの四季や文化を知った上で聴けば深みが生まれます。複数の教科が連携することで生徒に気づきが生まれ、力を高めていくことができます。
現在、コラボ授業はどの学年でも月1回程度行い、他教科の先生も見学に来て新たな展開の模索やブラッシュアップを図っています。「コラボ授業を初めて体験する中1は、理科と社会の先生が同時にやってくるだけでも驚くし、興味津々で授業に参加します。教科の学びはテストのためではなく、教科の枠を超えて違う場面でも活用できる。探究科やコラボ授業を通して、生徒は個々の学びの要素を異なる分野につなげる思考経験を積んでいき、将来、今までにはない新しいものを創造していくための素質を養っているのです。(林先生)。
生徒会活動の改革
同校では友愛会(生徒会)活動も、生徒の発案で独自の進化を遂げています。3年前に生徒から「もっと主体的に活動したい」という声が上がったことをきっかけに、大きな改革に舵を切りました。生徒会改革に携わった児島圭史先生に、活動内容について詳しく話を伺いました。
友愛会は生徒全員が参加する組織で、全員がいずれかの委員会に所属します。3年前の改革により、各委員会の所属人数枠を撤廃し、自分のやりたい委員会に必ず所属できるので、生徒のモチベーションは高いです。
2020年度から新たなスタートを切った友愛会は、4つのビジョンを掲げています。生徒自身による自主的な活動はもちろん、「新しい発想と創造的精神を持つ」「未来そして世界的規模への問題意識を持つ」などを掲げています。また、それまで 8つだった委員会を 6つに改編し、同時に委員会の名称も時代に合ったネーミングに変更しました。たとえば「新聞広報委員会→PR(広報)委員会」、「学校生活委員会→アクティベーション(学校活性化)委員会」などです。そしてビジョンに沿って活動内容も過去の活動をなぞることなく毎年3年生を中心にリセットして取り組みます。
人数制限をなくしたことで、学園祭実行委員会やスポーツ大会の企画運営を担うスポーツ推進委員会などは人数が多くなりました。しかし、人数が増えた委員会は細分化してチームを分けることで、よりきめ細かい運営ができます。極端に人数が少ない委員会はなく、30人程度の少人数の委員会は小回りがきき、全員で活発な意見交換ができるメリットもあります。新しい活動としてはPR委員会がネット上に様々な情報を発信する「みんなの掲示板」や、学校活性化(アクティベーション)委員会が主催する、3学年の縦割り班によるレクリエーション活動などがあります。
年度始めに全校生徒による発足会を行い、友愛会会長や各委員長が今年度のビジョンや計画を全生徒の前で発表し、年度の終わりには報告会を行います。2022年度は「SDGs の学びを行動に移す」というビジョンを掲げて、一つひとつの活動に落とし込んで実施していく予定です。
中学校までの学校ですから、中3が学校のリーダーとなり、学校生活や行事を自分たちの力で作り上げ、動かしていく経験を積めることは生徒にとってやりがいがあり、将来、何かを作り上げていくための原動力になります。中高一貫校で上に高校生がいる生活とは違います。高校受験の面接で生徒会活動の実績を聞かれて熱弁をふるったという生徒は多くいます。
「2020年、2021年の学園祭はコロナの影響で外部の人を招待できないなど、異例の形での開催となりました。それでも生徒たちは特設サイトを立ち上げてビデオ動画を作って活動の紹介をするなど、どんどんアイデアを出して実行に移していました。やりたいことを提案すれば形になると分かっているから、生徒たちも責任を持って発言するし実現させています。生徒たちの企画もどんどんレベルが上がっているので、コロナが収束してきた今年度は、今まで以上に期待しながら活動を見守っています」(児島先生)。
すべての学びは、15歳での進路選択へ
授業や友愛会活動、学校生活などを通して、生徒たちは「やらされているのではなく、自分の意志で責任をもってやり切る」ことを学びます。そしてきちんと結果を出すことで自信が育まれ、そのパワーが高校受験で発揮されるのです。
武蔵野東中学校では、15歳を自立のための大事な節目ととらえています。高校から大学、その先の社会に向けての将来像を抱いて、15歳で進路を選択することは、中高一貫校とは大きく異なります。15歳での進路選択は12歳での進路選択ではできなかった、自分の力での受験であり、将来へ向けての早めのスタートとなります。校内指導だけで万全の受験指導もユニークで、通塾は不要とのことです。
「わが校は基本的には宿題はなく、自分で 1 週間分の計画を立てる『プランノート』で自学自習の習慣を確立していきます。さらに習熟度別授業などの丁寧な指導や、学習した内容を提出し、担当の先生がチェック・アドバイスする『自主学習ノート』など、生徒一人ひとりの学力を伸ばす取り組みを行っています。ただし最近の高校入試は単なる教科別のテストではなく、小論文や総合型の問題も増えています。単純な数学や社会の知識を問う問題ではなく教科をまたいだ広い視点で向き合う問題もあるので、そこではまさに探究科やコラボ授業の学びが生きてきます」(児島先生)。
中3の「特別進学学習」はきめ細かく、全員が受験に臨むからこその安心感があります。高校受験で第一志望校合格率75%(2021年度)と、素晴らしい実績を誇る同校。2022年春の卒業生も受験生60人のうちで、お茶の水女子大学附属2名、早大学院2名、慶應義塾2名、都立国立3名、都立西1名など目覚ましい結果を残しています。武蔵野東中学校で身につけた知識や経験、広い視野や自信を持って、生徒たちは高校・大学とその先に続く明るい未来へと力強く踏み出していくのです。
高校受験結果 国立・都立
高校受験結果 私立