学校特集
聖徳学園中学・高等学校2022
掲載日:2022年9月17日(土)
2017年より独自性の高いプログラムとしてSTEAM教育に取り組んでいる聖徳学園中学・高等学校。創造性あふれる授業を通じて、自由な発想で「正解のない問い」に立ち向かえる力を育んでいます。同校のSTEAM教育の開発を担当する学校改革本部長でExecutive ICT Directorの品田 健先生に伺います。
ワクワクしながら創造性を伸ばすSTEAM教育
これまで行われていた教科横断型の学びを発展・進展させ、STEAM教育として展開している聖徳学園。品田 健先生は「教科横断的、かつ創造的なアウトプットがある学びを展開していこうと、この5年ほど取り組んできました」と同校のSTEAM教育について話します。
STEAM教育というと、プログラミングやロボットなどの理系を中心とした学びをイメージされる方も多いと思います。しかし、同校のプログラムはGLOBALとSTEAMをあわせたオリジナリティあふれるもの。成長段階に合わせて技能を磨きつつ、視野や世界を広げていきます。
同校のSTEAM教育で重視しているのは、コラボレーションを通じて多様性を知り、創造性を磨くこと、アウトプットすること、かつ実践を伴うことです。
様々な趣向を凝らしたオリジナルの教育が行われている同校のSTEAM教育を見てみましょう。
中1で磨くコミュニケーション能力とプレゼン力
中1ではまず、ICT機器の基本操作やSNS、ネットなどリテラシーをしっかり学ぶことから始まります。
その後「ペーパータワー」や「エッグドロップ(R)」などを通じて、グループワークやペアワークの基礎を身につけます。
例えば「ペーパータワー」は、紙のみを使ってタワーを作り、おもりの消しゴムを上に乗せて崩れない高さを競い合います。
これらの学びは、絶対的な正解がありません。またその時々に集ったメンバーで実際にやってみて、うまくいかなければどこに問題があるのかを観察し、次のアイディアを出しながらチャレンジしていきます。
「受験を乗り越えてきていると、どうしても正解は1つだと思ってしまうものです。先生は正解を知っているのでは、こんな考え方は間違っているのではないかという気持ちをもつ子もいます。またこのアイディアを出して受け入れられなかったらどうしようと考え自分のアイディアをなかなか言い出せない子や、逆に主張が強すぎてグループの和を乱してしまう場合もあるでしょう」
ここで先生方が生徒に伝えたいのは、プロトタイピングの大切さと柔軟な発想力です。
「最初は多くのグループが、自信満々で時間ギリギリまで取り組んで最後に崩れてしまいガッカリするという経験をします。
タワーが重さに耐えられるか、確認しながらやってみて、大丈夫そうならそのまま展開すればいいし、ダメなら他のやり方を考えればいい。そうやって進めていくことがデザイン思考の基本です。この『ペーパータワー』は2回繰り返しますが、こうしたことを伝えると確実に残るグループが増えていきます。これらは今後彼らが様々な取り組みに臨むときにも持っていてほしい考え方です」
生卵と資材を使って卵を落としてみる実験をする「エッグドロップ(R)」では、例えば10グループあれば、用意するハサミや紐などは5本。他のグループと交渉をしなければならない状況をわざと作ります。
「すべて同じキットを与える方法もありますが、あえて全体の数が足りないようにしています。自分たちだけキープすると、結局自分のところに足りないものが回ってこないことになります。だったらお互い融通し合って、なおかつ自分たちが考えるベストな方法が見つかるといいよね、と生徒に伝えます」
実際には、ペーパータワーが潰れても、生卵は割れてしまっても構わないのです。大切なのはみんなでどうコミュニケーションを取り、課題解決のためにどんな試行錯誤をしたか。中1のスタート時にこうした経験をすることで、同校で重視されているコラボレーションする力を培います。
中1ではその後、グループで約1年かけて2分間程度の映画制作に取り組みます。コマ撮りアニメやクレイアニメ、実写で撮ったり、パラパラマンガ的なものだったり、年度やグループによって様々です。
「何をテーマに、どういうストーリーにするのかをみんなで話し合い、プレゼンしたり、交渉したり、妥協する場面もあるでしょう。グループ内でのプレゼンに評価・質問し合う学びも行います」
それぞれが意見を出し合い、トライ&エラーを繰り返しながら、みんなでより良いものを創造していく。それが個を尊重する同校の学びなのです。
中2・3では自分で調べる力とシェアし合う姿勢を養う
中2・中3では、年間を通してプロジェクト学習に取り組みます。武蔵野市の地域課題を発見し、課題解決方法としてビジネスアイディアを考えることで実社会とのつながりをもちます。
課題解決のためにポスターやチラシ、プレゼンテーション動画などを作成しますが、PhotoshopやIllustrator、iMovieといったアプリを使って、自分のアイディアがより伝わりやすくなるよう創意工夫を凝らします。
「そのアプリを使うと何ができるかという見本は示しますが、説明に時間はかけません。動画制作を頑張りたい子、デザインにこだわりたい子など、一人ひとりが作りたいものや得意なことはそれぞれです。伝えたいことがあるから一生懸命に取り組んでくれますし、わからなければ生徒たちは自分で調べます。
子どもたちがYou Tubeなどを見ることについて抵抗感を持たれる方もいますが、生徒たちに聞いてみると何かを身につけたり、知識を仕入れるために動画を見るというケースがとても多いのです。
例えばAdobeの公式チャンネルがあることを伝えると、Photoshopに精通する生徒が出てきます。周りのみんなから『すごい!』『それどうやるの?』と一目置かれるようになるうえ、教え合うことで学びが深まっていきます。僕たち教員が手取り足取り教えるよりもはるかに効率的です」
自分自身の目的があって学ぶほうが、技術の習得が格段に上がることはみなさんにも経験があるでしょう。さらにみんなで学びをシェアしていくことで、ブラッシュアップされた作品が出来上がります。
しかし、みんな最初からそんなに熱心に取り組むものなのでしょうか。
「取り組むテーマやツールにより熱量は異なるので、正直なところ、そんなに理想的にはいきません。ですから我々教員は声掛けだけでなく、例えば外部の専門家や武蔵野市市役所の方などに生徒のアイディアを見ていただいたりと、彼らのモチベーションが上がるような工夫をしています」
最終的には実践結果の発表へとつなげていますが、それぞれの得手不得手を受け入れつつも、まずは体験してみる。その上で生徒がやりたくなるような仕掛けや機会を設けていく。外の大人が自分のアイディアを認めてくれたら、生徒たちの自尊心も高まります。一人ひとりの成長をつぶさに見守っている聖徳学園だからできることなのです。
多種多様な種を蒔き、経験という肥沃な土壌を作る
高校の総合の時間は、STEAMとGLOBALに分けて取り組んでいます。
STEAMで今年度から高1で新たに取り入れたのがiPadのアプリ「GarageBand」による楽曲制作です。
「楽曲制作はSTEAMのなかでも芸術分野なので、苦手意識をもつ生徒もいるのですが、今年度はチャレンジしてみようと思いました。
音楽の授業での作曲は楽器を弾けたり五線譜が書けなければなりませんが、『GarageBand』ならいろいろな作曲方法があります。例えば『Live Loops』には何千個ものフレーズが入っているので、それを組み合わせることで音楽的な素養や知識がなくても曲を作ることができるのです」
ここで取り組むのは、プレゼンテーションを行う際に使用する自分のサウンドロゴ。必要となるのは、自分自身と向き合い、表現することです。自分事として捉えられるから、やる気も俄然湧くことでしょう。
「自分を表現するのは、アップテンポな曲なのか静かなものか。本人が捉えている自己と友だちから見えるその子のイメージが違うこともあり、発見が多い授業になりました。どのクラスも驚くほど集中して取り組んでおり、それぞれが自分なりに考え抜いていて素晴らしいと思います」
さらに今年は「Adobe Express」という数千ものジャンルのテンプレートが入っているデザインアプリをベースに加工して自分のロゴマークを作っています。
「絵やデザインは興味もないし苦手だったという生徒や、イチから手で描くのはできないという場合でも、『Adobe Express』があればできるのです」
GLOBALではSDGsについて学び、そのプレゼン資料を作成しますが、自分自身のロゴと曲を合わせることで、より創造性と独創性、そして挑戦心にあふれた発表になっています。
高1で行う「外国語レッスンムービー」では、英語以外の言語で自己紹介と基本的なあいさつを学び、動画を作ります。同校には選択制の多言語教育として韓国語とロシア語、中国語の先生はいますが、生徒たちにとって未知の言語に触れる機会となっています。どの言語を学ぶのか、学習方法は各自に委ねられていて、例えばYou Tubeや様々なサイトやGoogle翻訳を使ってもいいなど自由です。この学習に取り組む理由はどこにあるのでしょうか。
「その気になれば、自分で学ぶことができるという経験をしてもらいたいのです。学校に来て、先生がいて、教科書があり、決められた時間の中で学ぶのが受動的ではありますが、いちばん効率的で簡単です。
では、学校でなければ、先生がいなければ、教科書がなければ勉強ができませんというのでは、あまりにも残念です。
大学では研究テーマが見つかった時に自分で勉強しなければいけません。社会に出たら誰も教えてはくれませんし、知っていることやできることが前提だったりします。先生がいないとか教科書がないからできないと言ったら、使えない人ということで終わってしまうでしょう。
自ら学べることを知るということが、学びの再定義なのだと考えています」
なお今年度から、データサイエンス分野を強化しました。高1では2単位あるうちの1単位をSTEAM、もう1単位はデータサイエンスを中心に適切なデータの収集方法や分析方法、アウトプット法などを演習で取り組みつつ、プレゼンテーションを行います。
驚くべき速さで変容していく世界の中、自らの学びを止めずに挑戦し続けられる姿勢を養っているのです。
クリエイティブな学びが認められADSに
創造的なアウトプットや外部の方々を招いての学びなど、その創造性の高い教育が認められ、2021年度よりApple Distinguished School(ADS)に認定された聖徳学園。世界36カ国689校が認定されているADS(2022年9月現在)のコミュニティに入ると、世界や国内の学校や先生方とコラボレーションすることができます。なお、日本国内のADSは小中高あわせて10校のみ。
「クリエイティビティを高め、コラボレーションを促し、革新的で優れた教育の先進的な拠点となっていることなどがADSの認定条件です。
生徒一人ひとりに合わせた学びを実現できるような環境を育むことが一つの基準なので、本校のSTEAMが評価をいただけたのかなと思っています」
このADS認定のために僕らに何かできないかと先生方に訴えていた卒業生がいます。現在、国際基督教大学の教養学部でこれからの教育について学んでいるK・Iくんは、同校のSTEAM教育に薫陶を受けたひとり。
同校で有志が活動する「国際協力ボランティア」のメインメンバーでもあったK・Iくんですが、同校で行われている「GLOBAL Day」では、JICAで活躍していた方などと並ぶ人気の講師として、在校生たちに自身の経験を伝えています。
「彼はSTEAMの授業がおもしろかったようで、もっと他の学校でもやればいいのにと話していました。
帰国生として入学した彼は、本校と他校の教育を比べ、なぜ日本の学校や教育は変わらないのかという部分に関心を持ち、STEAM教育の大切さを説いてくれています」
K・Iくんは在学中、先生方と教育について様々なテーマで熱く話し合いました。その内容をまとめてAO入試のために大学に提出し、SFCとICUに合格。今はITチューターとして、聖徳学園でのサポート役も務めています。
品田先生がふと吐露します。
「STEAMの授業をしていて、これで本当に大学に受かるの?と思われているのではと不安になるときもあるんです。
でも彼のように中高時代で、これはおもしろい、得意になりたい、真剣に取り組みたいというテーマがひとつでもふたつでも見つかれば、それでいいのではないかと思っています。
本校では様々なツールや考え方に触れる機会を多数設けていますが、そのときはそれほど興味がなかったとしても、身についた知識や技能を融合して創造的なアウトプットができるようになってくれればいいのです。最終的に社会に出た時にその子がベストだと思う形で提示できるようになってくれたらと考えています」
ここでご紹介したSTEAM教育はあくまで一部です。STEAMそれぞれの分野、そしてグローバルな実践を縦横無尽に行き来しながら、生徒たちの生き抜く力を育てているのが同校の学びです。学校HPでは生徒たちの作品も見られるので、ぜひご覧ください。
知識に裏打ちされた「豊富な経験」と「人と人とのつながりを大切にする」という確かな糧を持ち、生徒たちは未知数の世界へとワクワクしながら一歩踏み出していくことができるのが、聖徳学園の学びなのです。