学校特集
関東学院中学校高等学校2022
掲載日:2022年7月1日(金)
キリスト教主義のもと、「人になれ 奉仕せよ」を校訓に、国際社会に貢献できる人材の育成に取り組む関東学院。横浜の地に創立して100年あまり。その歴史を見届けて来た同校が、令和の学びともいえる「総合的な探究の時間」を活用して、地元横浜からSDGsの目標達成を目指す取り組みを始めています。
それは、地図を使いチェックポイントをまわって点数を競うチームスポーツ「ロゲイニング」を応用したプログラムです。授業を機にその楽しさや意義を実感し、活動に興味を持った生徒たちは、自主的にロゲイニングで社会課題解決に向けた取り組みを始動。アクションプランをまとめて、2021年の「SDGs Quest みらい甲子園」に参加したグループの1つが首都圏大会最優秀賞を受賞しました。「子どもたちが主体的に行動し始めたことが何よりうれしい」と話す、齋藤美喜先生(国語科)と桐ヶ谷綾菜先生(理科科)に、関東学院の探究プログラムとねらいについて伺いました。
コンテストで高い評価を受けた、
ロゲイニングを活かしたまちづくり
「SDGs Quest みらい甲子園」は、高校生がSDGsを探究し、社会課題解決に向けたアクションアイデアを発表する大会です。首都圏エリアは196チーム(全国846チーム)がエントリーしました。
関東学院からは授業でロゲイニングを体験した2021年度の高1から3チーム、14名が参加し、「一枚の地図から新たな気づきを ロゲイニングを活かしたまちづくり」(チーム:ヨコハマ探検隊)が最優秀賞を受賞しました。SDGsの目標10番と11番の達成を目指したアクションプランで、ロゲイニングというスポーツを楽しむことで、「障がいや年齢に関わらず、誰一人として社会に取り残されないための理解を促進すること」と、「弱い立場の人のニーズについて考え、みんなが安心して公共の設備を利用できるようにする」ことが目指されています。
審査は①アクションの新規性、②実効性、③提案者の熱量やストーリー性、④アクションの波及のしやすさ、⑤探究テーマの設定の質、5つの観点に及びます。
ここに、佐藤真久実行委員長(東京都市大学大学院 環境情報学研究科教授)の講評を紹介します。
「SDGsの本質の一つとして、外部・他者目線をもつこと(アウトサイドイン・アプローチ)の重要性が指摘されています。地域におけるロゲイニングは、地域を仲間と歩きまわり、障がい者や高齢者の疑似体験を通して、外部・他者目線を獲得するきっかけを提供しています。チ―ムスポ―ツとして愉しみ、今後のまちづくりにむけた改善点を話しあう点に、革新性と実現度、共感度、普及拡散性、目標貢献度の高さを読み取ることができます。最優秀賞に値するとともに、今後の取り組みに期待をしています」(SDGs Quest みらい甲子園 公式HPより引用)
この生徒たちが授業で初めてロゲイニングを体験したのは2021年11月です。それから1ヵ月もたたないうちに、自分たちで作ったロゲイニングマップを活用して地域活性化に貢献したい、という思いから、ヨコハマSDGsデザインセンター(行政機関)に企画案を持ち込み、プレゼンし、企画をブラッシュアップしてコンテストに臨みました。
このグループとは別に、「ロゲイニングと湯河原町の活性化」をテーマに地域創生活動を始めた生徒もいます。こちらは春休みを活用して湯河原町を訪れ、現地の高校生と共に「SDGsロゲイニングマップ湯河原 ver.」の作成をしました。そして後日、湯河原町のイベントに参加し、作成した「SDGsロゲイニングマップ湯河原ver.」の活用法と、湯河原に若い観光客と移住者を呼ぶアイデアを地元の方に提案しました。マップ制作を通じて、湯河原町が抱えている課題を知った生徒たちは、解決に向けてアイデアを練っているところです。
生徒が自分から動き出すロゲイニングで
横浜のまちを歩くことから始まった。
生徒の心に火をつける「ロゲイニング」とは、どのようなものなのでしょうか。
齋藤先生:チェックポイントと得点が設定された地図をもとにチームで戦略を立てて、制限時間内にできるだけ高得点になるようにチェックポイントを回ることを目指すスポーツです。「フォトロゲイニング」と言って、チェックポイントを見つけて撮影する、イベントにも活用されているものなので、生徒がやらされている感を持つことなく、楽しみながら参加できます。
最初に取り組んだのは2019年度の高2です。創立100周年にあたり、横浜と関東学院、あるいは横浜とSDGsの関係性を考えることを目的に、ロゲイニングによるマップの作成を行いました。レクリエーションと異なるのは、写真選びや写真に説明文をつける作業が待っていることです。いわば取材を兼ねたまち歩きになります。
齋藤先生:制限時間は1時間、チェックポイントの写真を撮影すると得点になる、というルールを設けました。点数は本校との関連性の深さやスタート地点からの距離などによって幅を持たせました。事前に自分たちが見たい場所や ゴールまでの道のりを考えるとともに、興味を引く説明にするためにはどうするか、ということを話し合ってロゲイニングを行いました。そして後日、集めた写真を持ち寄り、精査して、クラスごとにマップを作り、優秀作品をクリアファイルにして全生徒と受験生に配布しました。
新型コロナの影響により、2019年度の活動はやむなくここで終了となりましたが、有志の先生による勉強会は「探究研究会」へと発展。現在9名の先生が参加して「プログラム開発を目指していこう」と士気が上がるなか、メンバーの1人である桐ヶ谷先生が、2021年度の高1の学年行事にロゲイニングによるマップ作成を行い、冒頭の成果につなげました。
多様性と共生を軸に生まれた
修養会×ロゲイニングの相乗効果
桐ヶ谷先生:本校には全学年が校外で学ぶ「校外学習期間」(11月)があります。高1は聖句を手がかりに自分を見つめる「修養会」となりますが、6日間のうち、前半に「修養会」(3日間)、後半に2022年度から実施する探究の試行プログラムとして「ロゲイニング」(3日間)を組み込みました。
高1の校外学習の主題は「いのち。他者とともに生きる」でした。昨年はオリンピック、パラリンピックが行われたので「多様性と共生」について理解を深め、①社会にはどのような課題があるのか。②課題解決に向けて自分はどのようなことができるのか。この2点を考える期間としました。
齋藤先生:「修養会」の中で車椅子ラグビーの選手に講演をしていただきました。そこからの発展的なプログラムだったので、とてもいい流れで子どもたちが興味関心を持って、ロゲイニングマップの作成に取り組んでくれたのではないかと思います。
「ロゲイニング」の初日は教室で講義を行いました。動画を見て、10分間、生徒同士が思ったこと、考えたことをディスカッションする中で、「多様性とは何か」「共生とは何か」「社会ではなぜ多様性と共生という考え方が必要なのか」といった本質的なことをつかみました。その上で、実際にまちに出て、まちの中の「多様性」「共生」スポットを探しました。そして「多様性と共生」をテーマにしたロゲイニングマップを作成し、そのマップを使ってみんなでプレーしました。目的はプレーすることではなく、マップ作成を通して「多様性と共生」の理解を深めてもらうことです。
桐ヶ谷先生:誰もが使いやすい工夫が施されている。自分には必要ないけれど誰かが必要としている。そういうものを探します。新たな気づきを生み出すために、グループ作りにもこだわりました。いつも一緒にいるメンバーではなく、クラスを解体してこちらでランダムに決めました。ほとんどの生徒が「初めまして」の状態だったと思います。 最初はすごく嫌がっていて「仲の良い子と一緒に行きたい」という声も聞こえてきましたが、実際にまちに出て、「多様性と共生」という視点をもって歩くと、「あれもそうだね」「これもそうだね」と会話が弾み、いつの間にか「仲の良い子と一緒に行きたい」という思いは消えていたように思います。むしろ「いろいろな考えをもつ人と歩くことで、自分と違う視点に触れることができた。身になった」というフィードバックもありました。
地図は横浜周辺の6エリア(桜木町・石川町・みなとみらい・横浜駅東口・日ノ出町・関内)別に作成しました。各エリア18〜20スポットを選び、その1つ1つにハッシュタグと、なぜ「多様性と共生」なのか、というコメントをつけました。
桐ヶ谷先生:スポットのポイントを考える際に、テーマである「多様性と共生」に見合っているか、に着目し、視点の良し悪しでポイントをつける生徒が出てきたり。そういう気づきが生まれたことは収穫でした。
生徒が意欲をもって取り組んだことは、活動後に実施したアンケートによく表れています。8割以上の生徒がロゲイニングマップの作成と体験について「よかった」と回答。また、7割近い生徒が「別の機会、場所でロゲイニングをしたい」と回答しました。
下記はアンケートから抜粋した「気づき」の一部です。
◎共生に向けて、まだまだできる取り組みや社会の構造がたくさんあると感じた
◎話しやすい場所を作ったり、協力したり、 視点を変えたり、コミュニケーションを取ったりすることが大切だ
◎視点を変えてみることで街の中の工夫に気づいた
桐ヶ谷先生:何よりも嬉しかったのは、生徒たちが自分から歩き出したことです。生徒は「探す」「写真を撮る」「集める」が大好きで、私たちが気づかないところにも、自分なりにテーマを設けて行動している生徒がいるかもしれません。
探究プログラムは、2024年度の高1から
さらにダイナミックに変わっていく
齋藤先生:探究プログラムの大きなゴールは、「社会貢献ができる人の育成」に置いています。自分自身が考え続けたい社会課題を見つけて大学を選び、大学でさらに学びを深めて、社会では自分で考えて行動できる人になってほしいのです。
「社会課題」は生徒たちにとって遠いところに存在していることが多く、「目を向けましょう」と言ってもなかなか反応してくれません。そうした壁を無理やり突破しようとするのではなく、生徒の目線で考え、アイデアを出せるのが同校の魅力です。英語にしても理科にしても同様に、遊び心のあるアプローチで生徒の興味関心を引き出して成果をあげています。
齋藤先生:今年度より「総合的な探究の時間」は必修となりますが、集中授業という形で実施します。2023年度までは高1を対象に、ロゲイニングを活用した探究プログラムを実施する予定です。それ以降に関してはロゲイニングの実施学年を中学生に移行して、高校生ではそれを踏まえた上で深めていくようなプランを練っているところです。
6年間にわたり、さらにダイナミックに探究プログラムを展開していく考えで、全国約10箇所からの選択制で実施する方向で計画を進めています。
齋藤先生:徳島県の中部に位置する上勝町や福井県鯖江市などで、地域で抱えている課題に取り組まれている方、軸になってくださる方を訪ねて、2 泊3日でそれぞれの地域に合ったプログラムを実施していくというプランを持っています。
桐ヶ谷先生:その試行プログラムとして、今年度の高1が横浜の12の企業を訪問。企業が行っているサスティナブルな取り組みを取材し、発信します。お話を聞いて、SDGsのどの目標に当たるのかを生徒たちが考えて判断し、表現するプログラムです。そして11月には、SDGsのロゲイニングマップを作成します。
齋藤先生:中学生は横浜でロゲイニングを通して社会課題に目を向ける体験をし、高校生になったら全国の地方と言われるエリアで本物の社会課題に触れます。そして、横浜に帰ってきたら、自分自身が考え続けたい社会課題を明確にして大学を選んでいく、というイメージです。
SDGsのゴールは、子どもたちにとって身近なものではありません。「その距離を、講義を聞いて、あるいは調べて縮めるのではなく、まず出かけて、自分の目で見て、耳で聞いて、考えて、距離を縮めて、また出かけて...ということを繰り返す中で、生徒自身が気づいて、感じて、自分らしく社会課題をとらえていってくれれば嬉しい」と桐ヶ谷先生。足元から始める「探究プログラム」は、関東学院で学ぶ大きな魅力になりそうです。