学校特集
千葉日本大学第一中学校・高等学校2022
掲載日:2022年9月23日(金)
校訓は「真」「健」「和」。まっすぐな気持ちで真理を探求し、心身ともに壮健で、自分と他人の人格を尊重して協働の精神を持てるような人格の完成を目指す。それが千葉日本大学第一中学校・高等学校の教育です。2017年に完成した白を基調とした学び舎は、自習室、理科教室、500名収容の多目的ホール、蔵書約6万冊の図書室など理想的な学習環境を備えています。2021年度からは意欲的な新しい取り組みが始まっています。総合的な学習推進委員長・長澤佳則先生、情報処理部副主任・千葉敬太先生に概要を伺いました。
千葉日大独自の探究プログラム
全国の中高で趣向を凝らして取り組まれている探究学習。しかし、プログラムの内容は、外部団体の提案を取り入れて行われているものも少なくありません。
そうしたなか、千葉日本大学第一(以下、千葉日大)では、総合的な学習推進委員長の長澤佳則先生を中心として、完全オリジナルカリキュラムの「総合探究」を策定しています。
中1から高3まで行われる探究学習の芯を貫くのは、以下の3本の柱です。
1.自分の興味関心を探求しながら、自分の進路を定めていく
2.総合型選抜に活かす
3.3つの能力を磨く【リサーチする能力・論文を書く能力・発表する能力】
2021年度から始まったこの取り組みを通し、生徒たちはどのような成長過程をたどり、未来への力をつけていくのか。同校でどんな学びが展開されているのかをご紹介いたします。
自分の趣味嗜好を見つめ直す1年間
総合探究の授業は週に1時間、約1年かけてひとつの課題に取り組みます。
中1の生徒たちが挑戦する課題は「自分を知る」こと。自分の趣味を徹底的に調べ上げ、アウトプットにつなげます。
3〜4人の小グループに分かれ、ワークシートを作成しリサーチを開始。途中、グループ内で何度もプレゼンテーションを重ね、論文を作成して、発表を行います。生徒たちはiPadを利用して、ロイロノートで成果を共有し、Googleスライドを使ってプレゼンします。
「がんばっている部活や好きな食べ物、音楽や本、電車、アニメ・ゲームなどのテーマを選ぶ生徒が多いですね」と長澤先生は微笑みます。
テーマについてマインドマップなどを利用し、多角的に見つめていきます。その結果を発表し、講評を聞き、内容の精度を上げていきます。
「自分の好きなものであっても、5分間話すということは、実は生半可な知識ではできないもの。もっと掘り下げなくては話せないのだということを実感します。その後、どんなことをどのように調べればいいかという方法もあわせて指導していきます」と長澤先生は続けます。
グループ内でのプレゼンを繰り返して客観的な評価を知り、思索と調査を重ね、それを反映させた論文に仕上げていきます。
この評価には、生徒たちも参加します。中間発表のプレゼンや論文の添削も、グループ内の生徒同士で行います。これができるのも、ICT機器があるからこそ。
「iPadのおかげで、共有と意見交換が大変スムーズになりました。私たち教員もチェックしますが、『同級生の前に恥ずかしいものは出せない』『友だちがあそこまで調べているのだから自分もやらなくては』と良い刺激にもなっています」と、情報処理部副主任の千葉敬太先生は語ります。
最終的には、クラスで優秀作品を決定。クラス代表者を選出し、多目的ホールで聴衆に向かって5分間のプレゼン発表を行い、2月に修了します。
この1年を通し、自分の興味関心を真剣に掘り下げて考える機会を持つのです。
「自分は好きだと思っていたけれど、よく考えてみたらそうでもなかったかもしれない。職業にするのは難しいかもしれない。そういう結論に至ることもひとつの学習の成果になると考えています」(長澤先生)
2年目、自分の将来と実際の職業を結びつける
中2の課題は「職業」です。自分の興味・関心のある「仕事」について徹底的に調べます。
ワークシートで自分なりのテーマを見出し、リサーチやグループでのプレゼンを経て論文を作成します。その後代表者による発表と、中1時と同じ流れで行いますが、今年度の中2は移動教室と連携して実施しています。
「例えば、本校では移動教室として、毎年水上高原に行きます。そこで案内してくださる山岳ガイドの方など、普段の生活ではなかなか触れられない職業の方々から講話を伺い、自分なりにまとめます」と千葉先生。
そこから、自分の興味がある職業や、将来自分が関わることのできそうな職業を調査。ロイロノートで結果を共有し、生徒同士で表現方法や誤字脱字の添削、内容への講評を行いつつ、議論を進めていきます。
「中1の授業に引き続き、生徒同士で講評することで、他者理解と議論の進め方や協働の姿勢も学ぶことができます。生徒たちは何度も自分の考えを発表することで、自身の考え方を客観的に捉え、将来への思いを深めていきます」(千葉先生)
3年目、視点をより遠くへ向け、思考を広げる
中3では海外に目を向けることを意識し、海外ツアーを作成します。「我々がJTBさんに提案し、ご賛同いただいているカリキュラムです」と長澤先生が胸を張ります。
マインドマップを作成して興味のある国を選び、調査とグループプレゼンを重ね、最終的にはiPadを用いて旅行のチラシとしてまとめます。JTBの社員を講師として招き、ツアー企画書とチラシ作りのレクチャーを受ける時間も設けられています。
成績優秀者による最終発表は、JTBの方々の前で行います。1年間考え続けた成果が社会でも通用するのかを体感できる瞬間です。終了後には講評をいただき、トロフィーも授与されます。
実際に現地へ旅行に行ったことのある生徒が有利にも思えますが、昨年度は、未訪問の地を紹介した生徒がトロフィーを獲得しました。
「チラシをどのようにまとめるか、お客様に魅力的と思わせるには、色やデザイン、文言をどうしたらいいか。効果的な表現方法を学ぶ狙いもあります」と千葉先生。
自分の視野を広げるとともに、得た知識と情報を効果的に伝える、社会でも役立つ力を中3の1年間で養います。
社会で活躍するための素地を作る高校3年間
高校からはより実践的に、生徒たちの展望を広げるカリキュラムを行います。
高1では、SDGsを軸に、日本と他国との状況を調査、問題解決策をディスカッションします。少人数グループで、2回の授業でひとつのテーマのリサーチ、スライドづくり、プレゼン、ディスカッションをし、代表者がクラスで発表を行います。
高2では、仮想の会社を設立します。1学期はオリジナルワークシートを使いながら事業計画書を作成し、2学期は法人化・海外展開するにはどうしたらいいかという論文を作成。3学期には社会人を相手にプレゼンを行います。
「このワークシートは、私たちの考案したもので、今後、外部の企業で商品化していただく予定です。教材として、いろいろな学校で使用していただければと考えています」と長澤先生。
高3では、ビジネススクールの講師から10回の講義を受けます。実社会でのビジネス戦略を学び、高2で作成したビジネスプランを顧みます。
長澤先生いわく、「大学で学ぶ、経営学に近いものです。MBAの視点と思考法を学ぶことを目的にしています。情報の授業とコラボして、"自分の会社"のホームページ作成も行います」とのこと。
自分の好きなものを追究することから始まり、卒業までに自分が社会で何を成し遂げられるかをじっくりと考え、フィードバックを受けて試行錯誤し、アウトプットする機会を持つ。これが同校の総合探究の授業です。
生徒たちがこれを修了した頃、先に紹介した3本柱のうちの1と3の能力が培われていることでしょう。
失敗を告白し、学びに変換できる環境づくり
総合探究の時間をはじめ、日々の学校生活で何度も登場するのがiPadです。同校では、1人1台iPadを所有し、普段使いすることを推奨しています。HRや他教科など、提出物に利用するなどほぼ毎日使う機会があり、生徒たちは自然と精通していきます。
「教科の特性に合わせて、効果的に取り入れています。英語ではスピーキング学習に利用したり、私の担当する音楽の授業では、楽曲鑑賞を個別で行い自分の考えを共有し合ったり。文化祭では、中1の生徒全員がiPadのボーカロイドアプリで曲を作り、学校のCMを作成しました」(千葉先生)
同校では「精神的な自律による基本的生活習慣の確立」を教育目標のひとつに挙げています。
スマホやタブレット依存、SNSでのトラブルが問題となるなか、同校ではICT機器の取り扱いをどう捉えているかを聞いたところ、「失敗ありきで指導しています」と千葉先生が教えてくれました。
「トラブルを予測して、これはしてはいけないなどと押し付けをすると、隠れて利用してより大きな問題に発展してしまうこともあります。むしろ、問題が起こったらどう立て直していくか、トラブルを教員や身近な人に相談できる環境づくりを大切にしています」(千葉先生)
道徳の授業などでも、事例を出して授業を行います。例えば中2では、SNSによって友人との信頼関係に支障は出ていないか、SNSにどう向き合えばいいのかなどをグループで話し合い、発表する授業を行っています。各人の考え方により多様性を知り、人の価値観を尊重することを覚える機会にもなります。
近年注目されている「デジタル・シティズンシップ教育」に則り、メディアバランスについて考え、デジタルを上手に利用するための心構えを教える授業も行っています。
「YouTubeのような依存性が高いサービスも、一歩引いて見れば、知識を得るためには有益なものでもあるということがわかります。『絶対にこれはしてはいけない』ということも、『絶対こうしなくてはならない』ということもありません。これも多様性として受け止め、考えていけばいいのです」と千葉先生。
このような実践を経て、生徒たちはICT機器を、自分の学びを深めるツールとして活用できるようになっていきます。
多様な可能性を知り、自分だけの道を選び取るために
千葉日大は日本大学の付属校ですが、生徒たちのおよそ半数が他大を目指す傾向にあります。
同校の先生方が大学入試を考える際に重視しているのは、合格者数ではなく入学者数です。成績優秀な生徒がいくつもの大学を受験し、学校としての合格者数を増やすのではなく、各々が本当に自分の行きたい大学を選び、そこにしっかり合格して入学していくことこそが理想だと語ります。
「自分の学びたいもの、将来進みたい道をしっかりと見極め、それを学べる環境が付属の大学にあるのか、外部の大学にあるのか。早い段階で具体的な将来設計を意識させます」と千葉先生。
生徒たちの志望は様々です。中高の部活に全力で打ち込むために付属大学に進学したい。他大受験に挑戦してみたい。学びたいことがあるので日大に進学する。あの教授から学びたいから絶対あの大学に行きたい。一人ひとりの希望を叶えるために、先生方は常に心を砕いています。
「学力のみでは難しい大学も、総合型選抜でなら勝負できます。生徒たちは総合探究により、自分の学びたいことが明確で、それをしっかりアピールできるはずです」と長澤先生は自負しています。
それと同時に、日大の付属校として大学の施設が近接している立地を活かし、高大連携プログラムも盛んに行われています。夏休みなど長期休暇中に計画され、自身の希望進路と関係のある学部の研修に参加できます。
単なる見学だけでなく、実際に手を動かして参加するのがこのプログラムの特長です。
医学部は、高1・2が4日間にわたって日本大学病院に通学し、最先端の医療に触れ、看護体験を行います。薬学部は薬品分子化学、薬理学、臨床医学などの分野を大学の先生について4日間学びます。例えば最新の電子顕微鏡を使って細胞を観察するなど、施設・設備がより充実した大学ならではの学びを得ます。
また、教員という仕事に興味関心がある生徒向けの「教員志望プログラム」も本年度からスタートしました。隣接する千葉日本大学第一小学校で行われている放課後の補習講座に「チューター」として参加し、小学生の学習のお手伝いをします。
夏季休暇には、担当教員に対して模擬授業を行い、授業を行う面白さや大変さを学びます。
2022年度は高1・高2の生徒が35名参加し、「『コミュニケーション能力が重要なことがわかった』、『先生ってすごいですね』と言ってくれた生徒もいました」と先生方は笑います。
「未来への選択肢を数多くできるのが千葉日大です。自分が好きだ、やりたいと思うことを大事にしてください。私たちはその一人ひとりの希望を叶えてほしいと心から願っています」と話す長澤先生。
自分の「好き」という気持ちを大切に持ち続け、将来の選択へと繋げていける環境が同校には用意されています。自分の夢をかなえたいという受験生も、まだ自分の力を測りかねているお子さんも、千葉日大で6年間学ぶことにより、自分ならではの道を見いだせるはずです。