学校特集
文京学院大学女子中学校・高等学校2022
掲載日:2022年3月1日(火)
2024年に創立100周年を迎える同校では、創立者島田依史子が掲げた「女性の自立」を根幹に据えて、グローバル社会から必要とされる女性リーダーを育成してきました。時代の変化に呼応した教育理念「自立と共生」のもと、多彩なプログラムを展開しています。文部科学省指定 SSH(2012〜2017 年)、SGHアソシエイト(2015〜2019 年)として活動する中で、探究活動の教育手法を構築し、現在も実践と改善を繰り返しています。また、2022年度も SSH 時代から続くタイとの科学交流(サイエンスフェア)が行われました。両校の主に理系分野における研究成果を発表し合うだけでなく、発表する上で重要なツールとなる英語力を磨くよい鍛錬の場ともなっています。2022年1月、昨年より教育提携が行われてきた国際バカロレア(IB)の認定を受けるアオバジャパン・インターナショナルスクール(AJIS)駒込キャンパスが本部棟に隣接するインター共用棟に開校しました。文京学院が目指す「新たな学び」を、高等学校副校長の佐藤泰正先生に伺いました。
インター校から学ぶ
2022年1月、10~12年生(高1~3相当)が通学するAJIS 文京キャンパスの開校式が行われました。文京キャンパスの開校前から行われてきた両校の交流を紹介します。
●AJISとのダンスチーム
文京生と AJIS 生が交流する中で、自然発生的に結成された 合同のダンスチームが、AJIS のカーニバルでダンスパフォーマンスを披露しました。「AJIS 生は、ダンスが上手な人だけでなく全員がスポットライトを浴びるべきという考え方で、一人ひとりの見せ場がある構成を作っていた」と語るなど、生徒たちは「多様性」を実感する毎日のようです。
●六義園で行われた撮影会
写真部が六義園で行った撮影会に、AJIS 生も参加しました。AJIS生の作品も、秋の文女祭(学園祭)で展示し、互いの作品を楽しみました。
●バスケットボール部の合同練習
AJISの生徒は、バスケットボール部の練習にも参加しました。組織的、効率的に練習することで技術の向上を図ってきた生徒たちにとって、各自が自由に練習するAJIS の生徒たちの姿は新鮮だったようです。文化の違いを直に感じる出来事になりました。
佐藤副校長:「学校生活のいろいろな場面で、文京生とAJIS 生は交流を試みています。女子校と共学校など違いはいろいろありますが、グローバル教育の一環としての異文化経験も文京生にとって新鮮な気づきになっているようです。AJIS 生に限らず、帰国生、留学生に関係する企画は、『国際 交流委員会』の生徒が中心となって行っています。グローバル社会や外国人との交流に関心が高い受験生には、まず国際交流委員会に参加してみませんかと呼びかけています」
1924年(大正13年)創設。前年の関東大震災によって荒廃した東京で、困窮する女性たちの姿を目の当たりにし、手に職を持つことで女性が「自立」できるように、当時22歳の島田依史子(創設者)が島田裁縫伝習所を開学した。
・校訓:誠実・勤勉・仁愛
・教育理念:自立と共生
SSH(2012〜2017年)、SGHアソシエイト(2015〜2019年)として活動した経験を生かした探究活動を推進、またグローバル教育の一環として「英語で学ぶ」国際塾、コラボ授業を展開。
2021年10月、中学2年生と高校2年生の希望者が、AJIS 光が丘キャンパスで行われた「One day 留学」に参加しました。すべてが英語で行われている授業は、内容を理解する以前に、聞き取ることができなかったと悔しそうでした。しかし、 休み時間は、互いに打ち解けて楽しみました。「みんなフレンドリーで嬉しかった」、「英語力をもっとつけなければと思った」 とそれぞれが感想を述べて、1日を終えました。
英語を学ぶことで目的が達成されるわけではなく、英語を学び、ツールとして活用することで、その先の学びにつながることを再確認できた1日となりました。
佐藤副校長:「教室に壁のないオープンな空間や、授業開始のチャイムが鳴らないなどの違いに驚いていました。また、AJIS で行われているPBL(課題解決型)授業は、教員の『あなたはどう思う?』と問題提起から始まります。その後は、生徒が中心になって話し合いながら進めるのですが、本校で行われている「探究」の授業とも通じるところもあり、生徒たちは逆に驚いたようです」
AJIS には、IB 校ならではの「CAS(Creativity・Action・Service)」 と呼ばれる必須の課外活動があります。生徒自身が企画・立案して実行するボランティア活動や探究活動です。地域に貢献することも目的の一つなので、自分たちができることを探して取り組んでいくそうです。
佐藤副校長:「目的を自分で決めて実行に移す自主性や自発性は、これからの社会でますます必要とされる力です。文京生も通学路の清掃を代々の先輩たちから引き継いで行っていますが、雪の日に運動部を中心に除雪を行ったところ大変喜ばれました。自主的に動いて目的にたどり着くところは、勉強や探究、さまざまな面で両校の生徒に共通しています」
文京学院で、ネイティブの先生が担当するのは英語の授業だけではありません。各学年の担当として、学活、清掃、毎日の記録(生徒と担任が毎日交わす生活日誌)などの学級活動も担当します。また、数学・理科・社会(世界史・日本史)、体育など、それぞれの特性と専門性を生かしたコラボ授業も担当します。
2021年度に入学した中学1年生は、ネイティブの先生から数学の授業を受けました。「数学が苦手だ」と言っていた生徒の中には難色を示した生徒もいましたが、ゲームを取り入れるなど工夫された授業を受ける中で、自然と英語と数学のコラボレーションを楽しめるようになったそうです。情報(コンピュータ)が専門の先生は、放課後の国際塾ではゲームプログラミングの講座も受け持っています。各自が得意とすることを生かしながら、チームでゲームを作成する過程は楽しく、生徒たちは夢中になって学んでいます。また、ネイティブの先生は校外学習にも引率します。担任の先生と同じ距離で生徒と接するのが、文京学院のネイティブの先生です。
一方、高3の「世界史」では第二次世界大戦をテーマに、日本人の先生による教科書に沿った授業を1時間、その後にネイティブの先生による英語の PBL 型授業を1時間行っています。高3にふさわしい高度な内容を英語と日本語で学び、思考を深めると同時に自身の意見を発信する力をつけます。
佐藤副校長:「同じテーマでも、国によって異なる視点があります。さまざまな視点で捉える授業を受けることで、生徒たち は問題に対する理解を深め、多様性を実感することができます。今後、AJIS と教育提携を進めるなかでも、文京生がそうした気づきや出会いを重ね、日本にいても異文化を理解し、グローバルパートナーシップを学んでいってほしいと願っています」
同校がこれまで蓄積してきた経験と実績に加え、インターナショナルスクールと教育提携を行うことで、新たな「学び」が創造されていくでしょう。また、そこで培われた力は、文京学院のグローバル教育をますます進化させていくことが期待されます。
「国際塾」は、中1から高3まで全学年の生徒が受講できるゼミ形式の課外授業(毎週月曜日〜金曜日の放課後に実施)です。グローバル社会で通用する英語運用能力を身につけることを狙いとしています。多くの生徒が、部活動と両立しながら受講しています。
ネイティブの先生を中心にオールイングリッシュで行われ、英検取得に向けた対策講座のほか、語学教育に定評のある大学入試に必要なライティング力やディベート力を養う実践的な講座、ゲームプログラミングの講座など、多彩な講座が開講されています。なかでも、上位大学の出願条件にもなる英検対策講座は人気です。
また、長期休暇を利用して、韓国語講座や、「英語で〇〇をする」講座など、生徒が興味・関心に合わせ楽しみながら受講できる講座も多くあります。
探究学習で培った力が、大学入試でも役立つ
2012年度に文科省より SSH に指定される以前から、 文京学院では、仮説と検証を繰り返す探究のスタイルを取り入れてきました。2021年度からの新学習指導要領への移行に合わせて、文系・理系の先生方を中心に「探究部」を創設、シラバスを改訂しました。あわせて、これまで中学の「総合的な学習の時間」と「学活」で行っていた探究力育成の授業を、「探究の基礎」として正規授業内に取り入れ、進化させました。
佐藤副校長:「これからの生徒たちに必要なものは、自分で問題点を探して解決する探究的姿勢であり、それが将来を切り開く武器になると考えています。中学1年生は、まっさらな状態で「探究の基礎」で探究活動に必要なスキルを学び、中学2年生はその力を生かして自身が興味のあるテーマを見つけ、探究活動に取り組みます。中学3年生では3年間の総まとめとして、探究内容を深化、下級生の前でのポスターセッションを行うなど、発信力も磨きます。SSH に関わっていた教員によれば、『探究学習に必要なものは、問いの立て方である』と言います。そのために必要なのは、『言語運用能力』『数理 分析・情報活用能力』『問題解決能力』の3つの力です。中学3年間で、その3つの力を育んでいきます」
問いを立てるためには、そもそも「なぜ? どうして?」という疑問が必要です。自ら発見した課題に対して仮説を立てて考え、仲間と意見交換をしながら検証し、知識を深め、自分の考えを構築していくことが「探究」だからです。
例えば、中学1年生では「校外学習」で「都電(さくらとらむ)」を利用しますが、「都電」がなぜ今も走り続けているのかと考え、実際にフィールドワークを行いながら、その理由を探ることも探究活動です。「探究の基礎」の授業後、生徒たちは毎回ワークシートを作成し、学びを記録しています。
佐藤副校長:「主体はあくまで生徒であり、教員の役割は疑問を解くための『知の道筋』を教えることです。とくに中学生の場合は、生徒への『声がけ』がとても重要です。生徒たちのレポートを見てみると、『どうして?』『なぜ?』があふれています。社会で起きている現象に対しても、その背景に何があるのか、問題点は何か考察できるようになるためにも、『どうして?』『なぜ?』と思えることがとても重要なポイントだと思っています。また、グループワークで意見交換することも、協調性や協働性を養うことにつながっていきます。そうした作業の繰り返しから、『言語運用能力』『数理分析・情報活用能力』 『問題解決能力』という探究活動に必要な3つの力が養われていくと考えています」
大学入試の方法は年々多様化していますが、全国の統計によれば、学校推薦型選抜は120%の増加傾向、総合型選抜は 70%と減少傾向にあるなか、同校の2020年度の総合型選抜の合格率は8割を超えました。2021年度においては、 日本女子大学を総合型選抜で受験した生徒7名(理系)の全員が合格したほか、以下の大学をはじめとする多くの大学に合格しています。
■文京学院で培った「探究力」が「総合型選抜」や「学校推薦型選抜」入試で合格に結びついた例
(2022年実績/ただし、2021年12月時点のもの)
東京都立大学、東京女子医科大学(医学部)、青山学院大学、明治大学、津田塾大学ほか
佐藤副校長:「総合型選抜では、高校3年間の実績や意欲が重視されます。合格した7名は、3年間しっかりと研究テーマに取り組み、外部への研究発表も積極的に行ってきました。一つのテーマを追求していくカ リキュラムマネジメントの手法は、本校がSSHやSGHアソシエイト指定校として構築してきたものです。現在も『東京都 SSH 指定校合同 発表会』に高校1・2年生の生徒(理系)が参加しています。報告会では他校から質問を受けることも多く、それによって研究内容が進化していきます。このようにして培った探究力が、進路を切り開く武器になっているのは時代の要請と考えていいのではないでしょうか。すべてが AI でできてしまうという錯覚すらおきてしまう現代だからこそ、自ら問題を発見し、検証する力を身につけ、問題に立ち向かっていく姿勢は、社会が必要としている力だといえるからです。 現在、中央大学の授業を聴講している生徒もいますが、探究活動を通して身につけたそのような行動力も頼もしく感じています」
グローバル教育・探究学習と多様なカリキュラムを揃える一方で、その土台となる基礎学力が大切であることは言うまでもありません。生徒たちに、さまざまな学びを支える学力を定着させていくことを目的に、昨年から「学力向上委員会」が設置されました。
中学3年間の半ばにあたる中学2年生の9月には、「ステップアップテスト(5科)」を行い、これまでの学習で理解が十分でないところがないかを検証します。理解が不足している生徒は、不足部分を補っていきます。日頃の小テストにおいても試験をして終わりではなく、試験結果を踏まえた補習・面談を行っています。
佐藤副校長:「何が足りなかったのか、どこでつまずいたのか。面談の時間 でそれを確認することは、生徒にとっても振り返りのポイントになります。『ステップアップテスト』は中学生活の中間点でそれまでの勉強がきちんと身についているかを測るもので、学習の積み残しがないように指導しています」
人間教育の基本となる学力向上はもちろんのこと、一人ひとりに向き合う姿勢そのものに、同校が構築しようとしている「新しい学び」への熱意が溢れています。そうした生徒を力強く支える先生方の愛情、そしてAJISとの教育提携は、生徒たちのさらなる可能性を切り拓いていくに違いありません。
グローバル教育が注目される同校ですが、開校以来続く伝統教育も大きな魅力です。1日1枚以上の書写をする「ペン習字」もその一つです。6年間続ける中高一貫生にとっては、その美しい文字は一生の宝物になります。また、裁縫学校としてスタートを切った文京学院にふさわしく、毎週金曜日の朝には6学年揃って運針に取り組んでいます。
さらに、約30年前に都内の私立学校で初めて給食を採用したのが同校。中学3年間の給食を通して、日本食の作法や栄養の知識、マナーなどを正しく身につけます。