学校特集
関東学院六浦中学校・高等学校2021
掲載日:2021年12月6日(月)
「人になれ 奉仕せよ」を校訓とする関東学院六浦。校訓の実現のために展開する先進的なグローバル教育に定評がありますが、英語力育成や国際化対応に限らず、生徒たちに授ける学びは全方位に及んでいます。その一つが「教科教員+専任司書教諭+学校司書」という、3人による「図書館を活用した指導体制」です。同校では、教科にかかわらず図書館で行われる授業も多く、年間平均で200時間を超えます。教科教員と司書教諭の2人が「授業設計」を打ち合わせ、それを学校司書も共有する。三者が授業の狙いを把握したうえで、それぞれの専門性を存分に発揮しているからこそ、重層的な深い授業を行うことができるのです。その具体的実践について、司書教諭の九渡(くどう)愛美先生と学校司書の福澤香野子さんにお話を伺いました。
「人」「資料」「場所」の3つの資源を最大限に活用
今年度、公益社団法人全国学校図書館協議会が主催する「第1回情報活用授業コンクール」で「優秀賞(優れた授業実践)」に選ばれた11件のうち、3件が同校の授業でした。そして、1校だけに与えられる「情報活用推進校」にも選ばれました。
同校の図書館が授業展開を支える「教育のインフラ」としての機能を十分に発揮し、生徒の主体的・意欲的な学びを支えながら「情報活用能力を身につけることを狙いとした授業実践」が行われていることが評価されたのです。
それは、「教科教員+専任司書教諭+学校司書」という人材、調べ学習に対応した蔵書、使いやすい蔵書のレイアウトと展示など、「人・資料・場所」が活きているからこそ可能なことでした。
九渡先生:「図書館は、司書教諭と学校司書という2つの立場がきちんと機能してこそ、本来の『学びの場』になると思っています。本校では、教科教員との三者が協働する体制ができつつあることで『学び方』の理想に近づいているように感じています」
では、同校ではどのような授業が展開されているのか、ご紹介していきましょう。
と、その前に。「『司書教諭』」と『学校司書』って、何が違うの?」と思われる方も少なくないかもしれません。その違いを少しだけお伝えしておきます。
「司書」とは図書館司書の資格を持ち、資料の選択・収集や分類、目録作成、貸出業務などを行う専門職で、学校図書館のほかに、公立図書館やその他の図書館で働くことができます。
一方、「司書教諭」とは教科の免許が必須で、九渡先生は司書教諭とあわせて社会科教諭の免許も持っています。「司書」と違う点は、授業設計や学習指導ができること。九渡先生は専任の司書教諭として各教科の授業の中で「調べ方ガイダンス」やワークシート作りをすることによって、学校図書館の運営・活用について中心的な役割を担っています。
ちなみに、合計12学級以上ある学校には必ず司書教諭を置くことという法律があるのですが、配置率は高いものの、学校内で司書教諭として機能する時間が確保されている学校が少ないのが実情です。
どの教科でも、ただ教科書を学ぶのではなく、そこで得た知識を自分の中に着地させ、他の知識と融合させて活かせるようになることが重要です。知識を単なる知識のまま蓄積していくと点と点にすぎず、膨大な知識量の中で溺れてしまいかねません。そこで、さまざまな知識を有機的に結びつけて物事の本質を見極めることができるようになるために、点と点を結び、線にして、面にしていく。
このように、物事への視界を広げて「自立した学習者」を育成することは、同校が展開する各プログラムに共通している目標ですが、主体的に学び進めるスキルを培うために「情報リテラシー」を身につけさせることもその一つです。
図書館を活用した授業の目的は、教科のベースに沿ってさまざまな情報にあたり、そこから取捨選択した情報をもって知識に肉付けをし、生きた力にしていくこと。つまり、生徒は「学び方」を学んでいくのです。
九渡先生:「三者のそれぞれの役割を簡単にお伝えすると、教科教員は学習内容の中から『何を学ばせるか』を精査し、司書教諭は資料の調べ方などを指導しながら『情報リテラシー』を育成し、学校司書はそのための最適な資料を収集・提供するのです」
1年:図書館ガイダンス(LHRまたは国語)/国語(ビブリオバトル・レポート課題説明・調べ学習)/美術
2年:地球市民講座(調べ方ガイダンス・国調べ)
3年:理科(宇宙調べ)/地球市民講座(ガイダンス・社会的課題調べ)/数学(統計)
4年:高入生図書館ガイダンス
5年:聖書(留岡幸助調べ)
※ほかに、LHRや総合的な探究の時間の調べ学習などにも図書館を活用している
図書館を活用した授業の目的は、「情報リテラシー」を身につけさせること
それでは、先にご紹介した「情報活用授業コンクール」で優秀賞に輝いた授業3件のうち、2年生と5年生の2件の実践例をご紹介しましょう。
総合的な学習の時間に行われる同校独自のプログラム「地球市民講座」(中学3年間で実施)で、2年生が「多文化共生・多文化理解」を学習する時は図書館で「国調べ」を行います。自国の文化と他国の文化の共通点と相違点を見出し、違う場合は「違いを受け入れないと共生できない」、共通する場合は「共通点から共生するヒントが見つかるはず」という視点で授業を進めていきます。
1年生から一人1台Chromebookを所持していますが、2年生の「地球市民講座」での国調べでは、Chromebookを使わず、書籍のみで調べさせています。そして、3年生になると意識的にネットも含めて多様な情報源で調べさせ、書籍と併用。このように、同校では段階を踏んで丁寧に情報の活用の仕方を指導しています。
学習の狙い...自国の文化と他国の文化の共通点や相違点を見出し、多文化共生を考える
情報活用スキルとしての狙い...❶書籍での調べ方を身につける❷複数の資料にあたることを知る❸自分が求めている資料がそのまま載っているわけではないことに気づく
九渡先生:「最近の生徒たちはネットに頼りがちですが、この図書館で行う3コマ分の授業では書籍で調べます。全部で30カ国以上ある対象国をグループごとに振り分けて、その国の歴史や宗教、食文化、政治経済、行事などについて調べていくのですが、授業の最初には、どんな観点で調べるか、書籍での調べ方、まとめ方などを指導しています」
福澤さん:「私は授業の狙いに合った資料を選んだり、該当資料がない場合は発注したりします。本来であれば、生徒自ら書架から資料を探し出すことが大切ですが、やはり授業となると時間が限られていますので、授業で扱う資料については学校司書が用意しています」
専任司書教諭がいない学校で調べ学習を行う際、資料を提供する学校司書は教科教員から単元のテーマだけを伝えられる場合が少なくないでしょう。そうなると実際のところ、用意した資料が授業の意図に照らして本当に妥当なのか学校司書には判断がつかないとともに、教科教員も「はい、では各自で調べてください」と指示して終わるかもしれません。
でも、同校では三者が連携し、授業の狙いを共有することで「確実な学び」を実現しているのです。
九渡先生はネットで調べる際、1・2年生のうちは「ウィキペディアで調べることは禁止」と伝えているそうですが、3年生からは禁止するのではなく、正しい見方を教えているそうです。また、「オンラインの新聞データベースの使い方を説明したり、出典まで確認して信ぴょう性が確認できればウィキペディアも使っていいですよと伝えています」と、九渡先生。
ちなみに、ネットの信ぴょう性については、官公庁のサイトなど一次情報に当たる必要性を指導し、今後はドメインでの見分け方なども示していく予定です。
5年生の「聖書」の時間には、書籍・Webサイト・視聴覚資料の3種の情報源を活用します。
九渡先生:「中学の最初の頃は『情報源って何?』と、何のことやらという様子ですが(笑)、高校生になるとだいぶ変化していきます。『大学ではレポート課題が出されても、それが何点だったのか、どこが間違っていたかというフィードバックをもらえないまま評価がつくことが多いけれど、それは出典の書き方も見られているかもしれないんだよ』と話したりすると、教室の雰囲気が少しピリッとしますね」
学習の狙い...留岡幸助の社会事業やその生き方から、「奉仕」について学びを深め、自分の生き方を考える
情報活用スキルとしての狙い...❶情報源の特性を理解する❷出典を明記することを意識し、すべての項目を示す習慣をつける
書籍・Webサイト・視聴覚資料の3つの情報源を用いて調べ、それぞれ「そこから読み取れること」をワークシート内の各情報カードに書かせて各情報源の特性への理解を促し、出典を明記することは必須であることなどを指導しています。
九渡先生:「レポートを書く時、参考文献を載せるように言うと、最初の頃はURLだけポンとコピペする生徒も少なくありませんが、そこは段階を踏んでリテラシー全般について指導していきます。一般図書の前に、まずは辞書や事典などの一次資料にあたる重要性や、Webサイトの見方や出典の確認・書き方などについて伝えています。ワークシートは意識的に手書きにし、出典に必要な項目を意識して示すようにしています。また、情報カードは情報源ごとに色分けをし、自分がどの情報源から情報を取ってきたのかを明らかにしました。自分が埋めた情報カードを見て、ネットの項目が多い生徒は『もっと書籍にあたらなくては』など、気づきを得られます」
このような学びを進めていくと、最初は「本には確実な情報が載っている。ネットにはウソもある」と短絡的だった生徒の感想も、「最新の情報を知りたければネット、しっかり体系的に知りたければ本、文字で表せない情報を知りたければ映像」という実利的なものに変化し、使い分けを意識できるようになっていくのだそうです。
福澤さん:「Webサイトの見方もそうですが、他校や大学がどのように指導しているのかを九渡先生と確認しながら、中高生に最低限伝えるべきことは何かと常に模索しています」
福澤さんは、生徒がいつでも閲覧できるように、各授業の資料として「Webサイトリスト」もGoogle Classroomにあげていますが、そこには信ぴょう性のランクも記載されています。
九渡先生:「福澤さんが収集した資料の山を前にして打ち合わせをする際に、その資料の中身が生徒の学齢やリテラシーに見合っているかを私が判断し、フセンを貼ることになりました。福澤さんは調べる内容に合わせてフセンを貼り、そのうえで教科教員が『ここを特に読み取らせたい』というところに絞っていきます。授業の内容や狙いがわかっているからこそ、資料選びでもそれぞれの専門性を活かせるのです」
福澤さん:「私は図書館司書も、他校での学校司書も経験していますが、専任の司書教諭がいる学校に勤めるのはこの学校が初めてです。司書教諭の役割の一部を兼任することなく、司書としての仕事に専念できますし、『この資料を用意しておいてください』と言われるだけでなく、教科教員と司書教諭との打ち合わせが目の前で行われ、私自身も授業の狙いを理解しながら用意できる。これは、当たり前のようでいて、当たり前ではないのです。毎日が本当に楽しいですし、やりがいを感じています(笑)」
「学び方」を学び、自立した学習者になって、物事を学び続けてこそ「人」になる。「人」になって、広く世の中を見渡してこそ「自分は何をしたいのか、何をすべきなのか」が見えてくる。「図書館を活用した学び」もまた、同校の校訓「人になれ 奉仕せよ」にたどり着くための、数ある道筋の一つなのです。
国際化対応とICT教育環境で先進教育を推進する同校ですが、将来の社会環境を考え、2022年度より3〜6年生の希望者を対象に、同校の卒業資格とともにアメリカ合衆国の高校卒業資格が認定される「Dual Diploma Program(DDP)」をスタートさせます。オンライン教育をオプションで組むなど、国際化教育をさらに加速するわけです。
アメリカの東北部ロードアイランド州にある、伝統ある私立中高一貫校Providence Country Day School(PCD)とアメリカの最大のデジタルラーニング開発会社Hudson Global Scholarsが共同で世界24カ国に展開するオンラインスクールが、2021年1月に日本国内にオンラインスクール「PCDグローバル・キャンパスJAAC校」を開校しましたが、同校が始めるDDPは、そのグローバル・キャンパス・JAAC校との提携によるものす。
授業言語は英語。オンラインでのライブ授業への出席と授業のレポート作成などのデジタル・セルフ・スタディへの出席で、週6時間の学習プログラムを3年生~6年生の間の2年間で進めます(DDPのスタート時期は任意)。
同校では、先進的な英語教育、主体性とコミュニケーション・スキルを大いに引き出す学習活動、そして開講している学校があまり多くないIELTS講座などが留学準備に向けた基盤の環境となっています。このDDPでは同校卒業後、アメリカの19の大学の学部への直接推薦による進学が可能です。DDPの設置によって、海外への進学がより身近になります。