学校特集
国学院大学久我山中学高等学校2021
掲載日:2021年11月1日(月)
1944年に創立した国学院大学久我山中学高等学校は、都内では珍しい男女別学校。男女それぞれが別校舎で学びつつ、体育祭や文化祭などの行事や生徒会活動、一部の部活動は男女共同で行うという学校生活を送っています。「共働・共感・共生」を育むことを目指し、日々細やかな指導を行い、実地学習の機会も豊富に設けています。2018年度には、「女子CCクラス」を設置。世界の多様な文化を大切に思う気持ちを育てることに重点を置いたクラスです。今年の夏には、インド・フィリピンとのオンライン国際交流を実施しました。その目的と成果、そして体験した生徒たちの感想についての話を国際教育推進委員会主任であり、英語科主任、女子CCクラス高校1年生の担任も兼任する、川本ゆり子先生に伺いました。
多様性の理解、国際交流に積極的な「女子CCクラス」とは
女子CCクラスの「CC」は、カルチュラル・コミュニケーションを指します。「日本を学び、世界に貢献できる人材育成」がコンセプトです。英語力の向上に重点を置いていますが、その学びの手法は多角的な視点で考えられています。
例えば、日本に滞在中の留学生と英語で交流する「Friendship Meeting」、国学院大学の留学生を迎えて学校周辺の寺院や史跡を英語で案内する「英語で地域探訪」、日常生活もすべて英語で行う「English Summer Camp」など、国際交流と英会話両方の実践を叶える豊富な機会が用意されています。
また、一つのテーマを4~6週かけて扱い、調べ学習・プレゼンテーション・ディスカッションなどの探究活動を行う「Global Studies」にも取り組むことで、バランス良く、そして広い視野で物事を捉えられるような力を伸ばしていきます。
なかでも毎夏に行っている「English Summer Camp」などの取り組みは、女子CCクラスにとって目玉的なイベントの一つです。
「本来であれば、アメリカ人留学生たちと宿泊行事を行いたかったのですが、コロナ禍なのでそれもできませんし、短期留学や語学研修も難しいご時勢です。何か代わるものを、と考えて今年の夏はオンラインでの国際交流を行うことにしました」と川本先生は話します。
中3生はインドと、そして高1生はフィリピンと2日間にわたってそれぞれオンラインで繋がり、交流をもちました。一体どんな内容で、そしてどんな気づきや学びが得られたのでしょうか。それぞれの様子をご紹介していきましょう。
"相手の言葉をくみ取る"大切さを理解した、中3生のオンライン国際交流
中3生がオンライン交流したのは、インドのごく一般的なパブリックスクールに通う生徒たち。生徒たちは4~5人で1グループとなり、事前にパワーポイントでプレゼン資料を準備、1日約1時間半ずつ計2日間で実施しました。互いに英語で自分や学校、食文化についての紹介を行ったほか、自国の貧困問題についても意見交換をしました。
事後に生徒たちに行ったアンケートからわかったのは、「英語力のレベルに関係なく、積極的・主体的に参加することの重要性を実感していること」、「多くの生徒の英語学習へのモチベーション、社会問題、異文化への興味関心が向上したこと」です。
しかも、オンライン国際交流プログラムを今後も定期的に行いたい、と答えた生徒はほぼ全員の94.4%。生徒がこのように回答した理由の一部をご紹介しましょう。
・パワーポイントの事前準備や英訳など大変なことが多かったけれど、その分自分に英語力がついたように感じたから。
・海外の方と交流を通じて、自分たちにはなかった物の考え方や文化を知ることは、自分への良い刺激になると思ったから。
・普段の授業でインドについて調べて知るより、実際に現地の人から聞くほうが勉強になったし、もっと知りたいと思ったから。
川本先生は、全体を通して次のように話します。
「生徒たちの感想で興味深かったのは、『くみ取る』という言葉が多く見られたことです。インドの生徒たちと会話をして、相手が言おうとしている内容をくみ取ることが重要だと感じたようなのです」
その理由の一つには、インド英語の聞き取りにくさがあったようです。一方で、日本人の話す英語も抑揚が少なくフラットになりがちで相手に通じにくい、という気づきがありました。
「生徒には、なるべく短文でやり取りするように指導しました。女子CCクラスの生徒たちは、実際のコミュニケーションの中で『通じにくさ』を体感しましたし、相手の意思をくみ取ることが重要だと感じることができました」(川本先生)
「完璧に話せなくてもいい」、「正確な文法ではなくても知っている単語で会話の機会は増やせる」、「海外の方と話す怖さがなくなった」という感想も多くみられたとか。海外の人とコミュニケーションを取ることに対して、必要以上に構える必要はないと体感したことは、今後世界の中で生きていく上でもきっと役に立っていくのでしょう。
さらにはインドの生徒たちが作ったパワーポイントの鮮やかさに驚き、SDGsについてはまだ浸透していないことを知る貴重な機会にもなりました。
また、日本の貧国問題への理解を深めることができた経験でもありました。
文化や生活の違いを目の当たりにした高1生のオンライン国際交流
高1生は、フィリピン・イロイロ市のスラム街に住んでいる学生たちと交流を行いました。女子CCクラスの生徒たちは4~5人で1グループになり、1日あたり1時間40分で2日間実施。互いの学校生活、食文化についてのほか、フィリピンの社会問題(ゴミ問題)、豊かさや幸せについてプレゼンテーション、ディスカッションを行いました。
「私たちが交流したのは、地元のNGOの支援を受けて、スラム街に生きながらもなんとか学校生活を送っている生徒たちでした。スラム街や住んでいる家の様子を映像で紹介してもらったのですが、それを見た生徒たちはショックを受けたようでした。事前にインターネットで調べてはいましたが、実際に劣悪な環境を目にするとやはり衝撃が大きかったのだと思います」と、川本先生は話します。
劣悪な環境に加えて、貧富の差による差別やいじめ問題もあり、生徒たちの言葉は少なくなっていってしまったとか。
「1日目は相手を気遣うあまり、言葉が出ない場面も少なくありませんでした。
2日目の最初に『どんな言葉をかけたら良いかわからず、沈黙するのであれば、自分が感じたことをひと言でいいので伝えましょう』と生徒たちに声をかけました。
悲しかった、驚いたということをそのまま言葉にしたほうが伝わります。生徒たちは、『これを言ったら、相手が傷つくのではないか』という迷いがあったようですが」(川本先生)
このような、日本人の美徳ともされる気遣いや優しさ。国際交流においては、時にそれが一つのハードルになってしまうこともあるのかもしれません。川本先生も、やってみないとわからなかったことだった、と言います。
このオンライン国際交流についての事後アンケートでは、97.1%の生徒が「とても満足」「満足」と回答しました。さらに全生徒が、「社会問題やSDGsを考えるきっかけとなった」と回答しました。生徒がこのように回答した理由の一部をご紹介しましょう。
・フィリピンの環境問題や貧困問題など、日本にいるだけでは考えもしないことを考えさせてもらったから。
・実際に体験している人の話を聞くことで、どれだけ生活に支障が出ているのか、大変なのかがわかったから。
・幸せとは何か、それを考えるいいきっかけになったと思うし、SDGsにも幸福について考える項目があるのでもっと考えていきたい。
また、「幸せ」について意見交換をした際にもカルチャーショックがあったようです。
「『何が幸せか』というテーマでディスカッションしているときに、フィリピンの生徒さんから『スラム街から引っ越したくない』という意見が出ました。生徒たちはとても衝撃を受けたようです。『経済的に豊かだと、幸せに暮らせる』という一つの価値観がありますよね。ですから、その子たちがスラム街でそこにあるもので楽しみながら、満足して暮らしているという事実を知ることができたのは、貴重な学びになりました」(川本先生)
インターネットや書籍から得る知識だけでは、本当の意味で相手の国や文化の理解はできないことを痛感した生徒たち。百聞は一見に如かずの言葉通り、実際に相手の文化を学ぶには、生活環境や社会問題を直接目にし、話し合うことが一番だ、と体感できたといえるでしょう。
もっとオンライン国際交流の機会を増やしていきたい
川本先生は、オンライン国際交流を実施して良かった点について次のように話します。
「インドやフィリピンのスラム街とは、オンラインだからこそ繋がれたと思っています。実際に行くとなると難しい場所だと思いますからね。今までの選択肢では得られなかった気づきがあり、刺激的な学びを生徒たちが体得できたのは間違いありません。今後、ニュースでインドやフィリピンのことについて触れられていたときにも、これまで以上に注目していくきっかけになったのではないでしょうか」
そして、以降の展望については次のように話します。
「今回のことをきっかけに、発展的なことをしていけたらと考えています。例えば、日本に来て働いているインドの方と交流をしたいですね。そうすれば、インドのまた別の面を知って知識を深めることができますよね。あるいは今度は、スリランカやインドネシアなど別の国と繋がるのもいいかもしれません。生徒たちの様子を見ながら、より有意義な体験になる内容を慎重に考えていきたいです」(川本先生)
生徒たちが海外の人と直接触れ合う機会を大切にしたい、ホンモノに触れさせたいと話す姿が印象的な川本先生。同校への受験を考えているお子様と親御さんに向けてこんなメッセージをくれました。
「いろいろなことに興味をもつ、やってみようと思う気持ちをもつことがとても大切だと考えています。当校には、リーダーシップをもつ生徒もいれば、他の人をサポートする力をもっている生徒もいます。それぞれがもっている自分の個性、強みを前向きに伸ばしていく気持ちがあるお子さんは、CCクラスで力を高めてほしいと思います。ぜひ、自分の世界を広げていっていただきたいですね」
今年、オンライン交流を体験した中3生たちが、来年はまた違う国と交流を行うことで、また一歩踏み込んだ学びや気づきがきっと得られるのでしょう。
コロナ禍の状況下でも、海外交流の活路を見出している国学院大学久我山中学高等学校のCCクラス。着実に国際感覚を磨いていきたい、国際交流を積極的に行いたいとお考えの受験生なら、充分満足に値する学校です。