学校特集
江戸川学園取手中学校・高等学校2021
掲載日:2021年9月1日(水)
1978年の創立以来、「心豊かなリーダーの育成」を教育理念に掲げ、「規律ある進学校」として進化を続ける江戸取。「規律ある進学校」と聞くと、管理型の学校生活と厳しい学習指導を思い描くかもしれません。でも、そうではありません。同校が掲げる「規律」とは、「規則で縛ること」ではなく「思いやりの心で互いに支え合うこと」。人格を磨いてこそ学問も磨かれるという、教育指針の表れです。道徳をはじめとする「心の教育」を基軸に、勉強に、クラブ活動に、行事など諸活動に真っすぐに取り組むことは、人間としての基盤を形作る中高時代にこそ最も大切なこと。そんな同校では今春も、素晴らしい大学合格実績を挙げました。同校が実践する教育について、中等部入試担当(中3学年部長)の遠藤実由喜先生と、進路指導部長で高校「医科コース」の担任を務める熊代淳先生にお話を伺いました。
※上の写真は、「アメリカ・メディカルツアー」に参加した「医科コース」の生徒たち
「夢200%!」の中学3年間で、夢の実現へと向かう基礎体力を作る
同校は2022年度入試から英語を加えた5科目型入試を実施します。中学入試で英語を必須とするのは、私立中高一貫校としては日本初の試みです。
リスニングのみで20分間。出題は、小学校で使用する文部科学省認定教科書の範囲内からとなります。
英語を必須科目として入試に導入した理由は、小学校で英語が教科化されたことを真正面から受け止め、受験生が小学校の授業に意欲的に取り組んでいるかどうかを見るため。同校の学習モットーは「授業が一番」。授業は人間づくりの生命線であり、だからこそ、小学校での授業も大事にしてほしいという同校らしいメッセージです。
遠藤先生:「2016年に、2020年度から小学校で英語が教科化されることが発表されましたが、本校では2020年度時点での小学校5年生が中学受験をする2022年度入試から英語を必須とすることを即座に決定しました。本校が望むのは、努力した受験生に入学してほしいということです。ですから、英語については小学校での授業をきちんと受けていれば8割程度は取れる問題を想定しています」
これは、同校の「伸びようとする芽を伸ばす教育」の表れです。せっかく小学校で英語が教科化されたのに、受験科目にないとなれば、受験生にとって英語学習は二の次になる。それでは、小学校で教科化する意味が薄れてしまう......「規律ある進学校」としての矜持でもあります。
学校説明会に訪れた受験生には、サンプル問題のCDを配布していきます。
ちなみに、もう一つ。「努力する受験生に来てほしい」という遠藤先生の言葉の意図は、入試における記述問題の採点にも反映されています。
遠藤先生:「本校の入試は記述問題も少なくありませんが、それは受験生の努力に応えるためでもあります。教師は大変になりますが(笑)、一生懸命考えて書いた答案は丁寧に見て、相応の部分点をつけています」
中学は「医科ジュニア」「東大ジュニア」「難関大ジュニア」、高校は「医科」「東大」「難関大」の3コース制をとる同校ですが、これは中学入学段階から進路を絞るものではありません。
途中で志望が変わることはよくあること。ただ、早い段階から目標をイメージできれば、さまざまな気づきが得られる。そして仲間と刺激し合って切磋琢磨もできる。そのように、自分の進路を考える羅針盤として志望別のコース制を敷いているのです。そのため、一定の条件を満たせば進級するごとにコース変更も可能な体制をとっています。
遠藤先生:「中学の3年間は夢200%で過ごしてほしいですね。ですから、クラブ活動はもちろんですが、自分の学びたいことを選ぶ放課後の『アフタースクール』や各界の著名人の講演や芸術鑑賞を行う『イベント教育』など、実体験の機会は豊富に用意しています」
3年前からは、それまでの50分授業を5分短縮して45分授業に。そこで生み出された時間を活用して、放課後には生徒が主体的に選ぶ157にも及ぶ「アフタースクール」を実施しています。自分の個性や適性に気づき、自らの手で可能性を広げていくことは進路を照らすことはもちろん、「生きる力」に繋がっていくという考えからです。
アフタースクールは、学習系、英語4技能、実験系、合教科系、芸術系、アクティビティー系、イベント系、プレゼン系、PBL系(企業と連携)、講演会・出前授業(大学の先生が実施する宇宙教育プログラムの講座)など、じつに多種多彩なプログラムとなっています。
遠藤先生:「今はコロナ禍で行けませんが、本校には中学から参加できる『アメリカ・アカデミックツアー』など国際教育プログラムも豊富です。外資系金融を目指す生徒がニューヨークでゴールドマン・サックスのビルを見て感動したり、国連で働く夢を持つ生徒が国連本部の中に入って『10年後に自分がここで仕事していることを想像したら、体が震えた』と語るなど、とくに中学生にとって実体験は大きな契機になります。その後の学習に対するモチベーションが大きく変わりますね」
いわゆる勉強は、「学び」の一つにすぎません。
幼い頃から進むべき進路や志を持つ子どもは稀であり、たいていは、みな置かれた環境の中でさまざまな刺激を受けて、自分が本当に望むこと、進みたい道を見出していくものです。
中1から高3まで全60クラス、全校生徒約2200名。「これだけ選択肢がたくさんあり、さまざまなタイプの仲間がいる学校だからこそ、自分に合ったものが見つけられる」と生徒も言うように、同校には多様な刺激の種が散りばめられているのです。
夢への発射台に立つ高校生活。今春は、医学部合格者数が全国7位
そのような中学校生活を経て、生徒たちは徐々に自分の夢を定めていきます。
「生徒の夢は学校の目標」を標榜し、一人ひとりの夢を強力に後押しする同校ですが、その結果の一つとして今年度の大学入試では東京大学に4名、医学部医学科へ67名の現役合格者を送り出しました。医学部合格者については、全国7位となる快挙です。
ここでは、「医科コース」「東大コース」「難関大コース」のうち、「医科コース」を例にお伝えしたいと思います。
昨年、「医科コース」の高3担任を務めた熊代先生はこう語ります。
熊代先生:「コロナ禍の影響もあり、今春の大学進学実績については懸念がありましたが、生徒たちはその逆境を追い風に変えてくれました。これは、いわゆる詰め込み型の教育では実現できないことだと思っています」
ここ数年、各大学の医学部への受験者数は伸び悩んでいましたが、コロナ禍の影響もあって「医師になりたい」という志を抱く生徒が増えたためか、受験者数は増加傾向に転じました。
そのなかでのこの実績には、2つ理由があります。一つは、「学問とともに礼儀やマナーもきちんと身につけ、我慢する力や継続する力も自分の型として体得させる」教育を展開しているため、困難な状況にあっても歩を緩めることなく、やるべきことに自ら取り組む姿勢が生徒たちに身についていること、そしてもう一つは、同校が「医学部に進学する」ためではなく「医師になる」ための教育を施していることです。
熊代先生:「大学進学後の最も深刻な問題はミスマッチングです。とくに医学部はほぼ定員通りに入学人数が決まるため、入学後に適性がなかったと気づく学生がいれば、その分、未来の医師が一人減ってしまうわけです。でも、本校には、まずそういう生徒はいません」
中学段階から実際に病院で医療体験をし、高校でも現役医師の話を聞いたり、医療現場の問題点をディスカッションするなど、外部機関の協力も得て具体的な体験を積み重ねながら、同校の生徒たちは医師への志を固めていくのです。
熊代先生:「先日、『医科講話』のために筑波大学病院の臨床教授が来校されたのですが、当直明けで白衣のまま駆けつけてくださいました。お忙しいなか、それでもパワーポイントの資料を作り、事前にお渡ししていた生徒からの質問にも目を通され、講話をしてくださいました。先生のお話はもちろん素晴らしいのですが、それ以前に、このような姿を目にするだけで、生徒たちにヒシヒシと伝わるものがあるのです。ですから、本校の生徒たちは医学部を受験する段階で志は言うまでもなく、『絶対に医師になる!』という強い信念を持っていますね」
遠藤先生:「中学の『医科ジュニアコース』では、亀田総合病院で腕のレプリカを使って採血体験なども行うのですが、以前、気分が悪くなった女子生徒がいました。しばらく横になり休んでいましたが、起き上がった後、『先生、やっぱり医師になりたいという気持ちは変わりません』と言っていました(笑)」
時には躓き、時には試行錯誤しながらも、夢に向かって真摯に邁進する生徒の姿が目に浮かびますが、先生方は決して誘導することなく、生徒自身の「気づき」を待ちます。
熊代先生:「本校は管理型ではありませんが、放任でもありません。『気づかせる』ことを大切にしています。気づくことができれば、生徒たちは自分でモードを高めていけるようになりますから」
全力で夢に向かう生徒と、全力で生徒を応援する先生方がいる学校
熊代先生:「私は本校に赴任して9年が経つのですが、学校はこれほどスピード感をもって変われるのか、というくらい変わりました。でも、気づきました。『根幹が変わらないから、安心して変えられるのだ』と。ベースが変わることはないので、その上に乗るプログラムなど、種蒔きの細かな部分は時代や状況を見ながら安心して変えられるのです」
変わらないから、変えられる。この熊代先生の言葉は、まさに江戸取の教育が進化し続けるキーワードかもしれません。
そして、同校の卒業生たちは、コロナ禍の中でも奮闘・活躍しています。
スタンフォード大学で免疫学を専門に博士研究員を務める卒業生は、昨年3月にはいち早く「新妻免疫塾 K&L Immunology Club」と題して、なるべく専門用語を使わずにコロナを説明するYou Tubeチャンネルを立ち上げ、日・英・中の3カ国語で更新を続けています。ちなみに、これは日本で学校教材としても使われています。
また、福島県立医科大学教授の卒業生は、昨年初め(当時は長崎大学熱帯医学研究所臨床感染症学講座助教)、厚生労働省のクラスター対策班の一員として、長崎に停泊していたクルーズ船のクラスター対策の陣頭指揮を執りました。
コロナ禍においては、ほかにも医師として、役所の職員として、国内外で奔走しているたくさんの卒業生がいますが、主体的にやるべきことに踏み出すその姿勢は、後輩たちの指針となっています。
熊代先生:「卒業生たちはよく学校に来て、後輩たちに自分の体験を熱く語ってくれます。本校は横の繋がりも、縦の繋がりも強いですね。しかも『自分は○期生』と、みんな自覚しているのです(笑)。このように、さまざまな分野で活躍する卒業生たちとの膨大な絆も本校の大切な宝物です」
自主自律を促す仕掛けの種を散りばめながら、生徒の夢を全力で応援する先生方、そして刺激の宝庫の中で自分の道を見出していく生徒たち。この先生と生徒が共鳴する姿は、現状の成果以上に、同校の最大の魅力といえるかもしれません。
「心力・学力・体力」を育成する三位一体の教育を展開する同校。先述の通り、勉強は「学び」の一つにすぎません。その「学び」を底から支えるのは、同校が最も大切にする道徳を基軸とする「心の教育」です。
「心の教育」は、中1生を対象にした偉人たちの生き方から学ぶ「校長講話」など多岐にわたりますが、6年間にわたって実施される「道徳」の教育の実りを、わずか2例ですがご紹介しましょう。
❶社会の目で見た卒業生の姿は、同校の教育を物語る
「就職試験の時、面接官の方に『きみはちゃんと人の目を見て話を聞くことができるんだね』と褒められました。大学生なのに、ビックリしてしまいました」と、就職活動中の卒業生が言ったそうです。
私たちの身の回りを見渡してみると、挨拶一つとっても、当たり前のことを当たり前に行うことはそれほど簡単ではないことがわかります。でも、同校の生徒たちは「凡事徹底」が身についているため、人に対する基本的な姿勢を褒められることを不思議に思うのです。
❷「道徳」の時間で、親子の絆を再確認
中学生は思春期真っ盛り。親ごさんとも距離が出てくる時期になります。そこで。
遠藤先生:「道徳の授業で、生徒たちに先日出した課題は『自分が生まれた時の写真を持ってきてください』というものでした。そして、誕生時のエピソードや名前の由来などを、保護者の方にも書いていただいたのです」
当たり前ですが、そこにはそれぞれが本当に愛されていることが伝わってくる、胸に響くストーリーが綴られていたそうです。
遠藤先生:「生徒たちも、親がこんなにも自分の誕生を喜んでくれたのだということを実感したようです。『ありがとう』と素直には言えなくても、心ではちゃんと受け止めたみたいですね。そして、授業の最後に、『今日の先生の話はここでおしまい。あとは、今日の夕飯の時にこの授業の話をきっかけに、家族で話をしてみて』と伝えたところ、それまで自分の思いをあまり表に出さなかった生徒も、感想として『久しぶりにこんな話ができて、楽しかったです』と書いていました。私自身も親御さんの書かれた文章に感動しましたし、生徒たちへの確かな手応えを感じました。高校受験をして入学してくる高校1年生にも実施しています」
遠藤先生のお話を聞きながら、以前、マザー・テレサをテーマにした「校長講話」のお話を伺った際の、マザー・テレサの言葉を思い出しました。
マザー・テレサの話に感動したある聴衆が「私は何をするべきでしょうか」と尋ねた時、マザー・テレサはこう答えたそうです。「If you want peace in the world, go home and love your family.」と。
高い進学実績を生み出す江戸取は、このような「心の教育」を何より大切に、丁寧に実践している学校です。