受験生マイページ ログイン

学校特集

和洋九段女子中学校高等学校2021

幸福を実現する行動力と強さを養う「起業家教育プログラム」

掲載日:2021年10月1日(金)

 21世紀型教育の旗手として、首都圏の女子校のなかでも先進的な教育に取り組んでいる和洋九段女子中学校高等学校。2022年に創立125年を迎える伝統校ながら、進取の気性をもった骨太の改革が進められています。同時に生徒たちへは、その自ら積極的に動き、学び取る姿勢の大切さを示しています。
 昨年、中3で実施された「起業家教育プログラム」についてお伝えします。

これからの子どもたちに必要な教育を

 PBL(Problem Based Leaning・双方向対話)型学習を教育の柱に据え、各教科で行うことで生徒たちの知的好奇心を刺激・涵養している和洋九段女子。日常的に課題を見つけ、協働しながら解決へ向けて動く姿勢を培っています。中1はSDGsについて学び、中2で企業訪問を実施。中3ではシンガポールへの研修を行い、世界へと視野を広げています。

和洋九段_主幹教諭の本多ゆき先生
主幹教諭の本多ゆき先生

 主幹教諭の本多ゆき先生は、「新しい教育をデザインする上で、これまでの学びから一歩踏み出してさらに何ができるかを考えた時に、例えば高1で行っている長野県飯綱町での研修では、農業体験や民泊という普段とは異なる経験に加え、農村地域が抱える様々な課題に目を向けます。現地の方々との対話やディスカッションを通じて社会課題を見出し、解決のために自分たちに何ができるのかを考えています」と話します。

 限界集落であるこの地域の現状は、少子高齢化をはじめとした日本が抱える諸問題が内包されています。
「成城大学経済学部教授の境新一先生にご協力いただき、限界集落の社会課題について事前学習をしています。お題をしっかりと捉え、SDGsとどう関連付けられるのかなども話し合います。そして実際に長野へ行き、どういう地域なのか、名産品は何かを考えながら、課題解決のための提案をするという一連の流れができつつあります。
 これまでいろいろな教科でPBLをやってきたことがつながり、私たちが目を見張るような素晴らしいアイディアが生徒たちから生まれています。こうした取り組みこそがこれからの子どもたちに必要な教育なのだと私たちは考えています」(本多先生)

 目の前にある課題に対峙するだけではなく、自らの問題として、いずれくる自分たちが活躍する社会へとつなげる取り組みとして、長期的な視点をも育んでいるのです。

「小中学生起業家教育プログラム」とは

和洋九段_中1からSDGsを学ぶなど、世界的視野を養っています。
中1からSDGsを学ぶなど、世界的視野を養っています。

 昨年は新型コロナウイルス感染症の影響により、シンガポールへの渡航が叶わなかった中3の生徒たち。そんななか、同校で昨年新たに始められたのが「小中学生起業家教育プログラム」です。これは東京都産業労働局による取り組みで、東日本銀行などの協力を得て行われました。

 本多先生になぜ起業が必要なのか、そしてこのプログラムについて伺いました。
「これまでは"いい会社"に入ることが一つの目標とされていましたが、価値観が大きく転換しているなかで既存の概念で安定があるとは思えません。先の見通しが無いなかで、自分のやりたいことをやる起業という一つの選択肢はあるべきだと考えます。大学生になっても起業について学べるでしょうが、気持ちの部分ではできるだけ早いうちから育てておいてほうがいいのではと思いました」

 実際に北欧などでは、小学生のうちからアントレプレナー教育が展開されています。世界的基準も鑑みながらの教育が行われている同校。本多先生はさらにこう続けます。
「時代が不確定だからこそ、何が一番大切なことなのかに立ち返って考えるべきだと思います。それは自分が儲けることでもありませんし、競争に勝つことでもない。みんなで新しい価値を作っていくことが大切なのではないでしょうか」

和洋九段_プレゼンテーションをする機会が豊富です
プレゼンテーションをする機会が豊富です

「小中学生起業家教育プログラム」は2020年11月〜2021年1月にかけて、総合学習の時間に50分×7コマで以下のような流れで行われました。

1.プログラムの説明
2.会社ができるまでの流れ
3.会社を作る(会社名・役職を決める)
4.課題の発表
5.商品企画を考える
6.事業計画書を作る
7.銀行へ融資相談
8.商材の仕入れ
9.商品デザイン作成・宣伝ポスター作成
10.宣伝・販売
11.決算
12.振り返り

次章では、中3生たちがどのように取り組んだのかを見ていきましょう。

一人ひとりが自身の役割の中で活躍

和洋九段_会社設立時、様々な計画を立てます
会社設立時、様々な計画を立てます

「和洋の生徒が高1研修旅行中に全員で着用するTシャツorパーカー」の作成をテーマとして、6人グループに分かれて行いました。上記1と2の説明のあとに、会社名やそれぞれの役職を決めます。
「誰かの名字を取ったり、フランス語にしたり、会社名決めも楽しそうに取り組んでいました。役職決めの際の生徒たちの様子を見ていてうれしかったのは、例えば『私は計算は苦手だけど絵は好きだから、ポスターを描くよ』など、自分は何なら貢献できるのかということをグループの中でお互いに話していたことです。また『あなたはいつもみんなをまとめているから、社長が向いていると思うよ』などと言い合っていて、きちんとお互いの個性を見ながら認め合って良い人間関係を築けている様子を伺うことができました。中1・2でいろいろと協力しながら取り組んだ結果が、本当にいい方向に進んでいるのだと実感しました」(本多先生)

 同校のPBLでは、課題解決能力を養うだけでなく、基本的に相手を褒めるというスタンスも大切にしています。
「PBLの授業では、相手や自分のいいところを見つけようといった気持ちに切り替えています。ですからそれぞれが自分のいいところを出せる環境があるんです。社会生活を送る上でも生徒たちにはそういうマインドを大切にしてほしいですね」と本多先生。

 先生方がこの「起業家教育プログラム」に魅力を感じている理由には、生徒たちは中2で企業訪問をしているという背景も影響しています。
「会社とはどういうものなのかというイメージができた上で自分たちで会社を作るので、企業理念や経営方針も話し合います。
『地球と環境に優しい』、『お客様も従業員も笑顔になれる』といったコンセプトが盛り込まれており、前年の経験をきちんと生かせていると思いました」(本多先生)

和洋九段_本物の銀行の方に融資の相談をします。
本物の銀行の方に融資の相談をします。

 このプログラムの特長は、仕入れやデザイン、宣伝といった目に見えやすい部門だけでなく、事業計画書の作成や損益計算、銀行への融資申し込み、決算までも組み込まれていること。
「生徒たちはどんな会社を作ろうか、どんなデザインにしようかなどと盛り上がっていました。自分たちがやっているのだという感覚で進められる完成度の高いプログラムだと思いました。これまで取り組んでいたようなアイディアの出し方ですと、好きなだけ好きなようにデザインをして大風呂敷を広げていたという部分も否めません。しかし、そうすることで仕入れ値が上がると銀行からたくさん借り入れをしなければならないのです。売れ残ると返済できないという、実際の仕組みを上手に学べるのが大きなポイントです」(本多先生)

 グループワークで社長や広報、宣伝など一人一役でやるため、それぞれに自覚も芽生え、会社を運営するにあたって様々なアイディアが出てきます。具体的な製作段階に入ると、製作枚数や販売価格は現実的なのか、具体的な販売目標数を設定し、売上と利益目標を考えます。
「銀行の融資を担当されている方に事業計画を提出するのですが、何枚売れ残った時点で赤字になりますといった厳しい現実が突きつけられます。生徒たちは計画を立てた時点で全部売れると信じて疑わなかったのでしょう。驚きながら改めて電卓を叩きつつも、自分たちのコンセプトはどうだったのかという理念の部分に立ち戻りながら、現実を考えてきちんと商品開発に取り組んでいました。
 前半はテーマへの取り組み方であり、後半はプレゼンテーションなので、普段からPBLをやり慣れている生徒たちには親しみやすい内容ですし、その力を十二分に発揮できるでしょう。自分たちがやってきたことを下敷きにしてできるプログラムだと思いました」と本多先生は話します。

和洋九段_1位になった作品案。長野の研修テーマが反映されています。
1位になった作品案。長野の研修テーマが反映されています。

 各班の成果物は、新型コロナウイルスの感染状況を踏まえ、オンラインを使って同級生と中2生、保護者にもプレゼンテーションを実施。投票機能を利用して模擬通貨で販売しました。

「あくまで計算上での話ですが、黒字になった会社は10社中1社だけでした。あとは赤字で『残念だけど、実際の会社だったら大変なことになっていたよね』と伝えました。
 やろうと思えば少しですが、学校から資金を出したりと本当にものを動かすことはできると思います。それで実際に売れなかったり、リアルに赤字になることもあるでしょう」(本多先生)

 このプログラムは振り返りも込みになっています。失敗もありますし、他の班に負けて悔しい思いをすることもあるでしょう。
「他の班の発表からは刺激を受けますし、赤字になってしまったらどこに原因があったのか、次はこうしてみようというトレーニングになります。そういう面でも効果的なプログラムだと思います。中学のうちにこの企画に巡り合えて本当によかったと感謝しています。高1の長野では、この経験を生かせるのではと期待しています」と本多先生が教えてくれました。

 なお、今年の中3生もテーマを変えての実施が予定されています。

起業家精神を学ぶことで育つもの

和洋九段_振り返りによって大きな成長を遂げます。
振り返りによって大きな成長を遂げます。

 この「起業家プログラム」は、事業として成功することだけを目的にしているわけではありません。本多先生は、「生徒たちが少しずつ、自分たちで考えて発言しながら動けるようになってきているので、できるだけ口を出さずに見守るようにしました。いずれは生徒たちが、例えば文化祭での催し物の際にここで学んだ損益計算を含む考え方を取り入れたり、下級生にこうした経験を引き継いでくれたり、何か自発的に動いていけるといいなと思っています」と話します。

 九段下という地の利を生かして「コネクテッドスクール」を標榜し、これまでも様々な企業や大学など、外部の人々と触れ合うことで生徒たちの社会性を磨いている同校。ただし、昨年からはオンラインでの実施も増えています。

「実際にその場所に行って体験することがなかなかしづらい世界になってしまったことは残念ではあります。けれども今回の『起業家教育プログラム』のように、それを補ってあまりある何か違うもので充実した経験をさせてあげられたらと考えています。そういうことがこの2〜3年は特に大事になってくると思うのです。これまでとの比較ではなく、可能な限りのチャレンジができるといいですね」と本多先生をはじめ、和洋九段女子の先生方はどこまでも前向きです。

和洋九段_「SDGsすごろく」を作り、広めたメンバーたち
「SDGsすごろく」を作り、広めたメンバーたち

 ちなみに、本多先生がうれしかったという生徒たちの活動について教えてくれました。
「現高2生の生徒たちが有志で『SDGsすごろく』を作って好評でした。そして彼女たちは今年の冬休みに、ほかの生徒に講習をする予定です。生徒が生徒に講習をするという初の試みですが、申し込んだ生徒に自分たちがすごろくを一緒にやってやり方を教えたり、提示されている問題を話し合いたい、ということで企画をし、準備をしています。 自分たちが卒業したら終わりというのではなく、誰かにやり方を教えて紡いでいってほしいという思いから行動に出たのだと思います。素晴らしいことだと感銘を受けました」

 このように様々な人々を巻き込みながら、相互に作用し合って大きく成長できるのが和洋九段女子の学校生活です。

 なお、社会科の教諭でもある本多先生が「少し話がずれてしまうかもしれませんが」という前置きのあと、生徒たちに伝えたいという思いを話してくれました。
「高3での政治経済の授業で生徒たちに選挙の大切さを説いても、『自分が行っても変わらない』、『ひとりくらいなら影響ないだろう』と思っていたりします。しかしスモールステップでいいので、少しずつでも変えていくという姿勢をもつことが重要です。目標はすごく遠くて先を見てしまうと無理!と腰が引けてしまうこともあるかもしれません。そんなときでも『これだったらできる』ということを積み重ねられるような思考に変えられたら、めげにくくもなりますし、この先も生きやすくもなるのではないでしょうか」

 自分を見つめ、周りを認め、現実を見ながら邁進していける環境が整備されている生徒たち。彼女たちが健やかに成長することで、人々にとって本質的に幸福な社会である「ウェルビーイング」な世界を築いていってくれるのでしょう。

資料請求はこちらから 学校ホームページはこちら 学校データベースはこちら