学校特集
聖徳学園中学・高等学校2021
掲載日:2021年8月1日(日)
"ニューノーマル"と呼ばれる新たな生活様式の中で、生徒たちはどんな学校生活を送っているのでしょうか。特に現在の中2はコロナ禍において、入学前から休校期間となったため、オンラインでのスタートという、"いつもと違う生活"を余儀なくされました。そうしたなかでできることを模索しながら過ごした1年間とその生徒たちの成長について、現・中2の学年主任を務める音楽科の亀田裕康先生と、担任をもつ美術科の石田恒平先生に伺いました。
ICTを活用して個性を把握、
学校生活にスムーズに入れる準備を
聖徳学園では、中1と中2の2年間「2名担任制」を敷き、生徒たちが学校生活を安心して送れるように配慮しています。
「例年、生徒たちを迎えるためにまず行うのが、学年のスタッフが集まっての教室の飾り付けです。しかし昨年度はiPadとApple Pencilを1台1台梱包して名札をつけ、ご家庭に郵送することが最初の仕事でした」と話すのは石田恒平先生です。
日常的に使うツールとして全員がiPadを持ち、ICTを活用して学びを深めている同校。Apple 認定教育者を複数人擁するICTの最先端校ではあるものの、まずはきちんと使えるよう丁寧に指導しています。
「休校期間中、毎朝のSHRはiPadで行い、LHRもzoomを使って実施しました。本来であれば、基本設定や基礎的なルール、アプリの使い方などを確認しながら一緒に行うのが理想的です。しかしオンラインだったため、1人の担任がzoomで生徒とやり取りしながら、ご家庭のネット環境の影響などでアクセスできない生徒にはもう1人の担任が電話でフォローすることができ、『2名担任制』が奏功しました。こうした環境下であっても、一度教えたことはすぐに実践できる生徒たちの適応能力の高さに驚かされました。私たちが想定していたような大変さやトラブルはなく、比較的順調なスタートが切れたと思います」(石田先生)
これまで中1・2年生の担任を長らく務め、生徒たちの学校生活の礎を支えてきた亀田裕康先生。2020年は中1の学年主任となった初年度でしたが「会えない状況でスタートしたため、一人ひとりの個性を把握することに時間が必要でした」と話します。
そのために活用したのが、オンラインでのやり取りができるアプリ「トークノート」での学校内SNSです。授業終了後、例えば19時までと時間を決めて自由に話せる「1年生の広場」という掲示板を作りました。
「自己紹介をしたり、趣味についてコメントしたり、生徒たちはコミュニケーションを取っていました。時間を守ることや友達を傷つけるような発言はしないなど、ある程度のルールを守っていれば、できるだけ見守るよう心がけました。
全員が投稿するわけではありませんが、投稿内容や頻度、友達の言葉に対する反応などで、どんな子なのか想像しました。子どもたち同士もアンテナを張って、お互いの個性を察するようにしていたのだと思います」(亀田先生)
極力見守り、必要な部分では適切なフォローに入る。生徒一人ひとりの個性を尊重しつつ主体性を育む聖徳学園の教育は、オンライン上でも発揮されていました。
学校再開時、
例年と異なったこととは
学校の再開は6月。実際に合うのは初めての生徒たちの様子はどうだったのでしょうか。
「生徒それぞれの印象に大きな齟齬がなかったことにホッとしました。やはり実際に顔を合わせたときの生徒たちの生き生きとした表情を見ると、これが学校の良さだと感慨深いものがありました」と語る亀田先生。
石田先生は「少しでも早く馴染めるよう、クラスレクリエーションに時間を費やしました。『トークノート』で知り得た情報を参考にしながら、みんなが少しずつ距離を縮めている印象がありました。ソーシャルディスタンスを守るため、近づいたり話したりできませんでしたが、話さなくても楽しめるような"絵しりとり"などをやったり、言葉ではない方法でお互いのことを知ろうという好奇心にあふれていました」と話します。
なお、感染症拡大防止のため、保護者とのコミュニケーションもほぼオンラインで実施。そのため少しでも学校での子どもたちの様子を伝えたいと、石田先生は学級通信を週1回以上発行し、1年間で100号にも及びました。また学習計画表は何度も集めて一人ひとりに宛ててコメントを書いていたそうです。
これらを通して生徒や保護者に伝えたかったことは何なのでしょう。
「生徒たちは、"できた・できない"という二軸で物事を捉えがちです。だからこそ、できたというところに至る過程に生徒自身が気づけるような言葉かけを心がけました。どんな小さな伸びでもがんばりを認め、達成感や自信をもたせられるような取り組みや活動を少しでも増やしていきたいのです。
HRなども思うようにできないなかで、彼らに伝えられる内容は限られていますが、翌年を見据えてこういう人間に育ってほしいというメッセージを組み込んでいました」と言う石田先生。
いずれ大きく花開くための種まきとして、生徒たちへ学級通信などでエールを送っていました。
亀田先生はこれまで受け持ってきた学年との感じた違いを教えてくれました。
「掲示板を通して、最初に学年全体で交流したこともあり、登下校時などもクラスを越えた関係性が構築されています。早い段階でより多くの友達と触れ合えたことが人間関係を広げる契機になりました」
聖徳学園はICT教育やグローバル教育に強く、生徒の個性を尊重する教育方針なので、自立心の高い生徒が集うイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。しかし、中学ではきめ細やかに見守る教育により、心身共に生徒たちの土台作りを大切にしています。特にスタート時に不安を抱いたこの学年はより丁寧に育てられており、その経験は下の学年にも受け継がれています。
ICTとSTEAMの力が結集する
文化祭と映画祭
多くの行事が中止になってしまった昨年、聖徳学園では「太子祭」(文化祭)をオンラインで10月末に2日間で開催。1クラス1作品を基本的に動画で作成し、学年ごとに自分たちの作品を体育館で鑑賞しました。
「今までの形での文化祭はできないということで、どの程度の制限になるのかを最後の最後まで話し合い、オンラインでやると決まったのが2学期に入ってから。中1でそもそも聖徳学園の文化祭を知らない彼らに希望を聞いてもなかなか企画が決まりません。過去の先輩たちの例を紹介しつつ、彼らが何をやりたいのかを挙げてもらうことにしました」(石田先生)
「本校の文化祭では劇をやるクラスが伝統的に多いことが特徴です。自分たちでシナリオを作ることもありますし、パロディにすることもあります。
『太子祭グランプリ』という講評があるのですが、私が担任をしていた現・高1のクラスは中1の時にミュージカルに取り組み、6学年のなかで1位になりました。歌が好きな子が多いクラスで、中1だったため照れなどもなく、懸命に歌う姿に心を掴まれたのだと思います」と亀田先生が教えてくれました。
これらの経験は生徒たちにとって、大きな成功体験として息づいています。
「自分たちががんばれば、きちんと評価がされるということが理解できている生徒たちです。学年が上がるたびに自分たちでなんでも積極的に取り組めるように育っており、自ら成長していく姿を見ることができました」(亀田先生)
なお、石田先生が担任をする現・中2の生徒たちの劇はどんなものだったのでしょう。
2018年まで海外青年協力隊としてモザンビークで活動していた石田先生。
「その経験を絡めたいと生徒たちにプレゼンをしたところ、SDGsやグローバルに関心が高い生徒が多かったので、彼らがやりたい企画と教員が紹介したものをあわせて一つのクラス企画にしました」と話します。
日本やモザンビーク、モンゴルやラオス、アフガニスタンといった世界の国の同時間帯をアニメのキャラクターが巡るという作品に仕上げました。
例えば日本の朝はにぎやかな登校風景ですが、モザンビークでは子どもたちが家のお手伝いをしていたり、アフガニスタンでは少年兵が銃を持っていたり、それぞれの生活がどう違うのかを描きました。
石田先生は「他のクラスは制作に入っていても、事前学習にかなり時間を割きました。いろいろな国の動画を観て、自分たちと同じ年代の世界の子どもたちが様々に抱く思いを劇で表現するためには、何を重要視して演じるべきなのかを考えるよう伝えました。
文化祭で取り組んで終わりというのではなく、一番大事にしたかったのは完成までのプロセスです。演者だけでなく、ナレーターや大道具、小道具、動画編集などそれぞれが役割を担い、部活などもやりながらがんばりました。全員が一生懸命でしたし、みんなで完成したものを観た際にも達成感に満ちた表情が見られました。私たちが伝えたかったことを彼らは大きく吸収して、いろいろな面で生かしてくれていました」と話します。
その太子祭を受けて年度末に毎年行われているのが「映画祭」です。クラス単位で台本を作ってコマ撮りし、動画として編集し、全体で発表する一大イベントです。プロの映画監督が審査員として入るなど、単なる発表会ではなく緊張感をもたせたものにしています。
「太子祭で他クラスの編集方法なども観て刺激を受け、自分たちでもさらに試行錯誤してみようとなったのでしょう。映画祭で表現の工夫が引き出されていました」(亀田先生)
生徒たちはICTと美術、国語、総合の時間を使って、2学期のうちにSDGsに関係するテーマで基本的なストーリーをグループで話し合い、絵コンテまでは完成していました。しかし年明けからの緊急事態宣言により、またもや学校は感染症拡大防止のために休校期間に突入。トークノートとzoomで話し合いながら準備はそれぞれが自宅で行いました。
「例年はクレイアニメーションで制作していましたが、こういう状況下でもできることを探っていました」(亀田先生)
そこでSDGsとしての観点からも、新たなものを買ってくるのではなく、身近にあるものを使って作品づくりにチャレンジしました。最後にみんなの作品をつなげたら、パラパラ漫画のような映像作品になるのもおもしろいのではと発想を転換。
「今考えると、限られた時間と条件のなかで生徒たちはよくがんばりました。絵が得意な子やiPadを使いたい子など、それぞれの個性が引き出されていて、作品としての幅が広がったように感じました。
これまで人前で話す経験はそれほどあったわけではないと思うのですが、自分たちの作品をよく見せるためのプレゼンテーションもしっかりとできていて、成長ぶりにとても驚きました。どのクラスの作品も甲乙つけがたく、彼らのがんばりに感化されました」と石田先生は話します。
亀田先生は「苦労もあったけれどそのぶん工夫したり、得るものが大きかったようです。生徒たちの振り返りの作文を見ると、それを感じてくれた子が多かったと思います」と教えてくれました。
「どうせやるなら"上を目指そう"と生徒たちに常日頃から言っています。自己満足で終わるのではなく、君たちのがんばりをどう観てもらえるか、それを考えて制作しようと取り組みました」と石田先生。
なお、聖徳学園ではSTEAM教育が柱の一つとなっていますが、映画祭の作品制作とはどんな関連性をもつのでしょうか。
「iPadという多様な可能性をもった端末を用いながら、いろいろな教科を横断してものづくりが行えるのが本校の教育の醍醐味だと思います。
様々な教科でいろいろなスキルを学んで、映画制作に生かします。例えば美術ではデッサン力を磨くことで表現の幅が広がりますし、音楽でチャンレンジした作曲力はBGM作りに役立ちます」(石田先生)
最後に先生方に、生徒たちに今後どう成長してほしいのかを尋ねました。
「自分が思っていることや持っているものをいかにアウトプットできるかを大切にしてほしいですね。そのためには知識や自信をある程度貯めていくことも大事ですが、相手に伝わるためには、まずなぜそう思ったのかと、自分自身を理解しなくてはいけません。
自分の論理を捉えられるように、英語にしても数学にしても各教科の先生方に協力していただき、どうしてそう考えるのか、何を感じているのか、自分自身に問いかけていく"思考の見える化"を強化していきたいと思っています」(亀田先生)
石田先生はこう教えてくれました。
「彼らには何をするにも目標や目的意識を持って取り組めるよう、モチベーションを上げられるような声かけを常に大事にしています。
これだけ豊かな個性をもつ集団である意味やクラスならではの無限の可能性を突き詰めたいのです。お互いを信じてクラスとしてまとまりをどう高めていくかを考えています」
このように一人ひとりを尊重しつつも、協働する大切さを学ぶことができる聖徳学園。
なお現在は、選抜クラスと一般クラスに分かれていますが、多様性を大切にし、互いに刺激し合って自分の脳力を高めようという目的のもと、廃止となる予定です。
「教科教育以外も重視しているので、いろいろなところで得意分野をもって互いに成長していく学校生活を送ってほしいですね。それぞれの得意を伸ばしつつ、教え合えたら魅力的だと思います。
中1・2は特にいろいろな子がいて、互いに刺激し合いながら認めていってのびのびと成長していってほしいですね」(亀田先生)
先生は生徒たちの可能性を信じ、生徒たちは先生方の期待の上をいく躍進を見せる同校。温かな信頼関係があるから自分たちでどんどんチャレンジしたいと思える機会が豊富に用意されています。クリエイティブに満ちた6年間を過ごしたい方はぜひ聖徳学園へ足をお運びください。