学校特集
青山学院大学系属浦和ルーテル学院中学校・高等学校2021
掲載日:2021年9月3日(金)
1953年に埼玉県初のミッションスクールとして創設した同校は、2019年、同じキリスト教信仰に基づく教育を行う青山学院大学の系属校になりました。以来、年々志願者数が増加し熱い注目を集めていますが、1クラス25名というクラス編成はそのまま。それは教育方針である「ギフト教育」を大切にしたいという思いからです。「ギフト」とは「神様から贈られたかけがえのない才能や個性」のこと。生徒一人ひとりが自分のギフトを伸ばし、周囲の人々から遠くは世界の人々まで幸せにしていく。この目標実現のために、少人数教育が大きな役割を果たしているのです。同校ではこの「ギフト教育」をすべての根幹とし、「グローバル教育」や興味のある分野への学びを深める「フィールドプログラム」などを展開。さらに、青山学院大学をはじめ、国公立大や超難関私大、芸大など進路が幅広いことも特徴ですが、それを可能にする「ギフト教育」について、校長の福島宏政先生長にお話を伺いました。
キリスト教精神に基づく教育をベースにした「ギフト教育」
キリスト教に基づく教育を行っている同校の建学の精神は「神と人とを愛する人間。神と人とに愛される人間」、教育方針は「ギフト教育」です。「ギフト教育」は「才能」「共感」「世界貢献」「自己実現」の4つの要素から構成されています。
つまり、神様からの贈り物である「才能や個性」を見つけて開花させ、感謝をもって「共に生きる姿勢」を育み、「世界に貢献」する。そして、そのギフトを生かしながら、「自分はもちろん周囲の人々も幸せにしていく」。この4つの要素をスクランブルし、さまざまな場面で繰り返し実践していくことで、大きな人間的成長を遂げる......それが同校の教育思想であり、福島校長の願いです。
そして、この「ギフト教育」を支えているのが「少人数教育」です。中高ともに創設以来、基本1クラス25名、1学年3クラスというクラス編成を堅持しています。
福島校長:「ただ、2020年の入学者は例年より多くなったため、1クラス30〜31名になってしまいました。しかし、どんなに志願者が増えようと、1クラスの人数をそれ以上増やしたり、クラスの数を増やしたりすることはありません。『少人数』だからこそ教師たちは一人ひとりのギフトを理解し、大きく花開かせようと指導できるのです。担任だけでなく、各教師が生徒全員の名前と顔を覚えていて、どこで会っても声をかけられます。ですから、学年が進みクラス替えをし、担任が変わっても、同じように指導できる。生徒一人ひとりのギフトは新しい担任へと受け継がれていくからです。これが『少人数で家族的』といわれる本校の良さであり、将来的にも変えることはありません」
全学年で1週間に一度「聖書の時間」があり、毎朝の礼拝もあります。2015年に完成したチャペル棟は2〜4階部分が礼拝堂になっていて、生徒たちはここで過ごす時間を大切にしています。
福島校長:「大学に進学しても、キリスト教に基づく精神は大切にしてほしいと思っています。そういった意味でも青山学院大学の理念や思いに共感し、系属校化につながりました」
世界に貢献するための基礎となるものの一つに、英語・国際教育があります。
中学校ではディベートやスピーチ、英語劇などで4技能を身につけ、中学卒業時には英検準2級の取得を目指しています。また、高校ではディスカッション、プレゼンテーション、受験対策の長文演習や文法習得にも力を注ぎ、英検準1級、またはGTEC1200点取得を目標としています。
さらに、昨年と今年は新型コロナ感染症拡大のために実施できませんでしたが、英語で話す実践の機会として、アメリカ研修など国際交流プログラムも豊富です。
福島校長:「アメリカ研修の際、ホームステイ先では『お客様』ではなく『家族』として迎えられます。家族としてホストファミリーと過ごすことは、人間理解の貴重な体験の機会となり、世界に目を向ける大きなきっかけとなります。この研修を契機に、卒業生の中にはアメリカの大学に進学した者や、海外で研究職に就く者、芸術分野で活躍する者もいます」
アメリカ研修▶夏に約1カ月間の予定で実施。中3から高2までの 25名が参加。前半2週間はカリフォルニア州アーヴァインの姉妹大学の寮に滞在し、後半2週間はアリゾナ州フェニックスの教会員の家にホームステイ。英語力に磨きをかけることはもちろん、異文化体験やキリスト教理解でグローバルな視野も養います。
日本研修▶︎アメリカの姉妹校から生徒と先生が来校し、同校で学校生活を共にします。彼らとの交流が「もっと英語でコミュニケーションを取りたい」という英語学習への意欲を高める原動力に。
長期留学▶︎期間は高2の7月から高3の5月までの10カ月間。アメリカ・アリゾナ州フェニックスの教会員の家庭にホームステイし、姉妹校に通学。アメリカで取得した単位は日本でもそのまま単位として認定されます。
現在は残念ながら、コロナ禍によりこれらの国際交流プログラムは停止中ですが、今年は別の企画を考えているそうです。
福島校長:「今年の夏休みには、中学生全員でお台場にある体験型英語施設・東京グローバルゲートウェイに行くことを計画しています。ただ、本校にはアメリカ出身のネイティブの英語教師が5名います。授業以外にも気軽に英語に触れる機会が多いので、学校にいるだけで擬似留学体験ができるのも本校の強みだと思います」
中学では週に1時間、自分の興味関心のある分野の学びを深める「フィールド・プログラム」という学習活動があります。
「フィールド・プログラム」は「フィールドA(アーツ)」「フィールドE(イングリッシュ)」「フィールドS(サイエンス)」の3分野に分かれ、時には学校の外に飛び出して好奇心を増進させ、学びを深めていきます。これらは、「ギフト教育」の実践版といえるもの。
フィールドA▶︎芸術や文学、歴史などをアクティブラーニングで学びます。「世界遺産検定」などの資格取得も目指します。将来は芸術家や歴史研究者、文学者などを志望している生徒が対象です。
フィールドE▶︎大使館訪問やインターナショナルスクールと交流。英検2級以上の取得を目指します。将来は外交官や国際弁護士など、国際機関で働くことを目標とする生徒が対象です。
フィールドS▶︎自然観察やプログラミングなど、サイエンスに関わることを学びます。数検や理科検にも挑戦。将来は医師やロボット開発、エンジニア志望の生徒に。
このように、早い段階から興味ある分野への学びを深め、将来への進路選択につなげていきます。
そして、高1からはフィールド・プログラムが統合された幅広い学びを履修し、高3で文系・理系・文理系(国公立大を目指すコース)に分かれていきます。
生徒一人ひとりの夢を実現するオーダーメイドの進路指導
福島校長:「昨年は、東京工業大や東京外国語大などの国公立大学や早稲田大学、GMARCHなどに進んだ生徒もいました。本校では少人数教育に加え、年8回以上の面談を行い、生徒に合った進路や学部・大学選びをしていきます。さらに、受験講座もたった一人しか希望者がいなくても専任の教師がつき、最後まで指導します」
手厚い指導は、これに留まりません。例えば、同校には毎年音大を受ける生徒が必ずいますが、受験前には実技試験を想定し、先生方が審査員役として予行練習を行うのだそうです。
福島校長:「昨年は、東京藝術大学音楽学部を志望する生徒が二人いました。一人はチェンバロで、もう一人はピアノ。チェンバロの生徒は学校のチャペルにチェンバロを搬入し、大勢の教師たちを前に本番さながらに演奏しましたが、本当に上手で、そのままC Dにできるぐらい見事な腕前でした。ピアノの生徒も教師たちを前に演奏しましたが、二人とも現役で藝大に合格しました」
本番さながらの演奏を先生方が見守る。多い時には、30〜40人もの先生方が一人の生徒のために集まるのだそうです。まさに、「ギフト教育」の意義と「少人数教育」の良さがよくわかるエピソードです。
福島校長:「生徒の進学先は、国公立大から難関私大まで、芸術系から医学系までと幅広いですね。それは、生徒一人ひとりが持っている『ギフト』が多種多彩だからです。その一人ひとりの希望に合わせたオーダーメイドの進路指導ができるのが本校です。そこに青山学院大学の系属校として、青山大学への進学も視野に入れた進路指導が加わったことでさらに選択肢の幅が広がりました」
青山学院大学の系属校になってから初めて迎えた2020年春、同校から7名が青山学院大学に進学しました。
福島校長:「昨年はコロナ禍のため、大学の授業もオンラインで行われました。しかし、本校出身の生徒はほとんどがAで成績優秀だと聞いております。後に続く後輩たちに良いお手本となってくれたことが嬉しいですね」
青山学院大学では高校生向けの「学問入門講座」を開講しています。これは5月から11月にかけて毎週土曜日に大学で実施されているもの(現在はオンラインで実施)で、対象は高1・高2の希望者。大学の授業をレクチャーしてもらう公開講座です。
一方、青山学院大学の先生が同校で講演をすることもあり、こちらは中高生全員が参加します。
福島校長:「来校していただいての講演会は、昨年は新型コロナの感染者数が減少していた11月に実施しました。その時来ていただいたのは、社会共生学部教授の松永エリック匡史先生でした。ミュージシャンでもある松永先生は、『アートとビジネス』や『アートと工学』をテーマに最先端の学問について話してくれました。たとえば、スマホやタブレット、P Cなどは性能だけでなくデザイン性も問われる時代ですから、そのようなお話に生徒も目を輝かせながら聞いていましたね」
また、青山学院大学は理工学部の強化にも力を入れ始めていますが、今年の青山学院大学進学者の中には、理工学部に進んだ女子もいたそうです。
同大へは、今後も一定の枠内で青山学院大学へ進学者を送り出していく予定です。
福島校長:「青山学院大学は、どちらかといえば文系のイメージが強いですが、自然科学系にも力を入れていますので、本校でも自然科学の力をつけさせる学習をいっそう強化していきたいと考えています」
最後に、福島校長は生徒への思いを熱く語ってくれました。
福島校長:「生徒には自己肯定感を持ってほしい。ですから、才能や個性を見つけてほめてあげること、そして、自己肯定感を持たせることが私たち教師の使命です。これから最も必要になるのは人間力です。生徒にはA I(人工知能)が苦手とする分野で活躍してほしい。A Iが苦手とする、相手の気持ちを読み取ることや、思いやりの心をもってコミュニケーションを図っていくこと、これができるのは人間です。あらゆる分野で、人間にしかない力を発揮して活躍していってほしいと願っています」
少人数制の「ギフト教育」で、温かくきめ細かな指導を受けている同校の生徒たち。同校で育まれたその人間力は、将来、さまざまな場面で発揮されていくことでしょう。
昨年は全教室にプロジェクターを完備し、通信環境も整備。また、全校生徒にタブレット型端末を配布し、学院全体のICT化が整いました。
福島校長:「昨年は3月、4月は休校でしたが、5月から分散登校にし、6月からは登校日の頻度を上げました。休校期間中、授業はオンラインで配信できるよう準備し、5月の連休明けからオンライン授業をスタート。オンライン授業は分散登校の日に発信するなどして、登校していてもしていなくても授業が受けられるようにしました。ICT化は予定していたことではありますが、期せずしてコロナ禍をきっかけに一気に進みました」
また、昨年は登校日を確保するために、時差登校も実施したそうです。
福島校長:「これまでは小学校も中学も高校も一斉登校でしたが、中高は1時期時間遅らせて9時30分登校にした時期もありました。1時間遅らせた分、終業時刻も1時間遅くして生徒たちの学習時間を確保しました」
そして、昨年は卒業式や入学式はオンラインで行いましたが、新入生と保護者の方々のために、5月末には感染対策を講じながら改めて対面での入学式も挙行したそうです。
このような心配り、きめ細かさが随所に見られるのも「ギフト教育」を実践しているからこそ。どんなに時代が変わろうと、この姿勢は変わらない。混迷を深める今の時代、「ギフト教育」の意味の重さを改めて考えさせられます。