学校特集
実践学園中学・高等学校2024
掲載日:2024年9月13日(金)
「学問の修得をとおして、自己実現をめざし、人類・社会に役立つ人材づくりをする」を建学の精神に掲げる実践学園。教育理念の「豊かな人間味のある、真のグローバル人材の育成」のもと、「コミュニケーションデザイン教育」「リベラルアーツ&サイエンス教育」「グローバル教育」「学習指導体制」の4つの教育を柱に、生徒が一生学び続ける力を育みます。
2023年度からは新しくSTEAM教育を導入し、生徒たちのものづくりへの意欲と、科学的探究心を養う環境を整えました。STEAM教育導入の狙いや取り組みについて、理科と探究科の主任を務める二宮一史先生に伺いました。
STEAM教育導入のきっかけ
実践学園の理科教育では、1単元の学びに1回以上の実験活動を取り入れる、体験を重視したオリジナル授業のほか、「実践の森・農園」名誉園長の阿部宏喜東京大学名誉教授による生物分野の特別授業を行っています。2023年度からは新たにSTEAM教育を導入し、生徒たちのものづくりへの意欲と科学的探究心を引き出します。STEAM教育を担当している二宮一史先生は、導入の経緯について次のように語ります。
「STEAM教育は、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術・リベラルアーツ(Arts)、数学(Mathematics)の5つの分野を取り入れた創造性の高い教育理念です。自ら課題を見つけて解決に導く力や物事を多面的に捉える力、新しい価値を創造する力が身に付くと言われています。アメリカなど海外でも注目されている学びで、グローバルに活躍するこれからの時代に必要となる力を育むことでしょう。私どもとしても、生徒たちのものづくりに対する意欲や、科学的探究心、思考力を引き出すきっかけにしたいと考えています」
FLL Challengeの校内大会に挑戦
STEAM教育で、まず取り組んだのがレゴ®のブロックを使ったプログラミング・ロボット教材です。9歳~16歳の青少年を対象とした世界規模のロボット競技会「FIRST LEGO League Challenge(以下、FLL Challenge)」を模した校内大会を企画し、2023年9月から参加者を募集。集まった中学生1名、高校生1~2年生を含む合計10数名が4チームに分かれ、放課後を中心に校内大会へ向けて自主的に活動を行いました。
「FLL Challengeでは、2名~10名で構成されたチームで、プロジェクトのテーマに沿った『ロボット競技』と『プレゼンテーション競技』に取り組みます。今回は初年度の校内大会ということもあり、ロボット競技を中心に行いました」
競技会の項目に沿って、フィールドに設置された約15のミッションを競技時間の2分30秒間でいくつクリアできるかを競います。高得点を得るには、効率よくミッションをクリアするための戦略・戦術が重要となるそうです。
「生徒たちが創意工夫して作り上げたロボットは、大きくて力が強いものや小さくて小回りの利くロボットなど特徴が異なり、個性にあふれました。校内大会も盛り上がりましたが、何よりも生徒たちが楽しみながら取り組んでいたのが印象的です。予定を調整してグループ同士で集まり試行錯誤する姿からは、今持っている力を最大限に引き出そうとする努力を感じました」
この経験をもとに、今年度は2024年秋に開催される「宇宙エレベーターロボット競技大会」に出場する予定です。
宇宙エレベーターロボット競技大会とは、地上5mの高さに宇宙ステーションを模した円形の箱を設置し、物資に見立てたピンポン玉を地上からつながったケーブルで安全に運ぶ競技です。
「宇宙エレベーターロボット競技大会には、中学1年生を含む中高生4人が出場する予定です。大会は夏休み明けに開催されるので、生徒たちは夏休み中も自主的に登校して練習に励んでいます。真剣に取り組む姿からは、学年問わず意欲を感じますね。きっとプログラミング能力だけでなく、創造力やコミュニケーション能力の向上といった学びが得られることでしょう」
生徒の「やりたい」に応えるSTEAM教育
同校が導入したSTEAM教育では、生徒たちの意欲を刺激するものづくりにも挑戦しています。今年度は、高校2年生の3人組が自作パソコンの組み立てに挑戦しました。生徒自ら機材を選び、すべてのパーツを組み立てます。完成したパソコンは、AIのアプリ制作で使う予定です。
「自作パソコンの制作は、昨年、FLL Challengeの校内大会に参加した高校生からの要望で実現しました。ものづくりは生徒が『やりたい』と思っても、費用面や環境によって取り組めないものもたくさんあります。特に自作パソコンは、1から調べるのが難しいもの。学校で取り組むことで、友達と協力しながら制作し、教員でフォローすることができました」
同校ではレーザー彫刻や3Dプリンターも導入し、生徒のやる気に応える環境を整えています。2024年7月には、レーザー彫刻を利用した「ピクトグラムコンテスト」を企画。理科室やパソコン教室といった特別教室をイメージしたピクトグラムのデザインを募集し、学園祭で展示。生徒からの投票結果をもとに、最優秀作品を各教室の出入り口で使用する予定です。
「ものづくりは粘り強く取り組む姿勢が大切で、トライ&エラーの繰り返しです。特に基本的な知識の積み重ねには、地道な努力しかありません。そうした積み重ねが、新しいものづくりへと発展していくのです。STEAM教育での学びが、自分たちの中で学び続ける習慣化につながり、経験したことが将来を決める選択肢になってくれればうれしいですね」
また、3Dプリンターは、デジタルで設計を行うソフトのCADを使い、自由な発想で楽しめるものづくりを行う予定です。
「レーザー彫刻や3Dプリンターを導入することで、生徒たちの豊かな発想力と科学的探究心・思考力を引き出していきたいです。今後も『ものづくりがしたい』『プログラミングでこんなことを実現したい』という生徒たちの思いを受け止めていきます」
放課後の取り組みとして始まったSTEAM教育は、今後、授業でも取り入れていく方針です。
実験を重視したオリジナル理科教育
STEAM教育に挑戦する生徒たちの意欲は、同校の理科教育から培われています。
「経験がないと、新しいものづくりなどの未知の存在に立ち向かうことはできません。ですから理科教育では、まずは基礎的なことに丁寧に取り組み、知識を増やすことを大切にしています。私たちは、何となく理解したつもりになるのではなく、実際にできるようになる授業を目指しているのです。だからこそ、実験を重視した授業作りを行っています」
二宮先生が担当する授業では、実験結果からどのような法則が得られるか、生徒たちで考える時間を大切にしていると言います。特に生徒に好評なのが、高校3年生の物理で行う力学の実験「ホールインワン」。力学の公式で割り出した答えを元に、振り子をボールに当て、カップにボールが入るように挑戦する実験です。
「この実験は、公式を使って得た答えが実際に役立つことを実感するきっかけとなっています。高校生になると大学受験を意識して座学の授業が多くなりますが、実際にはその場面や活用する様子を頭で描けないと、問題は解けないものです。中高で培ってきた実験の経験が、生徒たちの理科的感覚をしっかりと支えてくれています」
実験を中心とした理科教育は、理科が苦手な文系志望の生徒にも好評だと言います。
「実験で、『できた』という実感が得られると、理科の面白さが増します。そうすると生徒の興味・関心が高まるので、テストの得点アップにつながるようになります」
2023年度以降はSTEAM教育が導入されたことで、理科の授業以外でも科学的探究心を育む機会が設けられました。中2の総合学習で行った70分間の授業では、生徒が5~6人のグループに分かれ、うずらの卵2個が約2mの高さから落ちても割れないプロテクター作りを行いました。使うのは、A4の紙1枚と接着するためのセロハンテープのみ。パソコンで調べ学習は行わず、自分たちの経験だけを武器に挑戦しました。
「インターネットで検索すれば割れにくいプロテクターを作る方法が出てくるのですが、自分で工夫する体験を重視しました。生徒たちは『こうすればゆっくり落ちるのではないか』と話し合って、試行錯誤していましたね」
ゲーム感覚で取り組める実験を行うことで、生徒たちの興味・関心を高めている様子です。
本物に触れる経験を大切にする「実践の森・農園」
このほか、2008年からは、屋上に「実践の森・農園」を設置し、本物に触れる経験を大切にしています。「実践の森・農園」には、961㎡の敷地に、武蔵野の自然を模したビオトープがあり、キュウリやナス、ピーマンといった作物を含む、約100種類に及ぶ植物が育っています。雨水の循環を利用して作られた人工の小川では、メダカやドジョウといった水生生物も泳ぐそう。この取り組みが評価され、2010年には「環境大臣賞」、東京都緑の大賞「特別賞」を受賞、2013年には「学術奨励賞」、2018年には「なかのみどりの貢献賞(緑化貢献企業等部門)」を受賞しました。
「実践の森・農園は、主に生徒たちの田植えや稲刈り体験のほか、畑の整備や生態系の研究などに利用しています。2012年からは阿部東京大学名誉教授の指導のもと、中学1年生は植物を中心に、実践の森を活用した授業を行うほか、東京大学田無演習林や都内の森林でも実習の機会を設けています」
夏休み期間中には、中1・中2を対象に学園が所有する軽井沢セミナーハウスを拠点にして「軽井沢サマースクール」を開講。阿部東大名誉教授をスクールディレクターに、ネイティブ教員による英語授業などを取り入れ、周辺の自然・文化・歴史遺産のアクティビティに取り組みます。現地では、ムササビの飛行観察や星空観測といった東京では見られない自然に触れる経験が多く得られるそうです。
「給費生選抜入試」は算数・理科の2科目入試も
このように理科教育に力を入れる実践学園では、2025年入試も理科への興味・関心をしっかりと評価するものとなりました。
まず、第1回2月1日(土)と、第2回2月2日(日)の午前に行われる教科入試では、国語・算数の2科、国語・算数・理科・社会科の4科入試の募集人員を増加し、学習してきた成果を存分に評価する環境を充実させました。
また、「特待生選抜入試」の名称を「給費生選抜入試」へ変更し、学業成績と人柄が優れていて、難関国公私立大学を目指す生徒に対して、入学後に60万円(都外生は80万円)を給付することとなりました。同入試の第1回は2月1日(土)午後で「適性検査Ⅰ型(作文)」と「適性検査Ⅱ型(合教科型)」の選考方法。第2回は2月3日(月)午後に算数・理科の2科で試験が行われます。
「理科に興味・関心の高い受験生も、挑戦しやすい環境が整ったと思います」
最後に、取材に応じた二宮先生は自身が同校の中高の卒業生である経験から、この学校の魅力を次のように語りました。
「卒業生として学校を振り返ると、やはり思い至るのは先生と生徒の距離感です。やりたいことを後押しして、ちゃんと見守ってくれてる風土が根付いています。STEAM教育でもこの校風を大切にして、生徒の意欲に耳を傾け共に歩んでいきたいですね」
二宮先生は同校から立教大学へ進学後、物理学の博士号を取得し、現在も立教大学先端科学計測研究センターの研究員として活躍する人物です。教員でありながら、研究者としても活動する存在は、生徒にとって「学び続ける生徒像」の模範そのもの。専門の道を究める大切さや大学院進学という進路の開拓、研究者として学び続ける姿勢を身近に感じられるきっかけとなっています。
ノースアラバマ大学やゴンザガ大学といった海外大学を志望する生徒も在籍する実践学園。生徒の多様な興味・関心を支える同校には、生徒の「挑戦したい」という意欲にしっかりと応える生徒と教員の信頼関係がありました。同校で理科の基礎をしっかりと学んだ生徒たちは、次世代に続くものづくりの場でもきっと活躍していくことでしょう。