学校特集
麹町学園女子中学校・高等学校2021
掲載日:2021年10月1日(金)
2016年から「豊かな人生を自らデザインできる自立した女性」の育成を教育目標に、キャリア教育「みらい科」・英語教育「アクティブイングリッシュ」・思考型授業「アクティブラーニング」・グローバル教育「グローバルプログラム」を4本柱とした教育改革を進めてきた同校。さらに2021年4月からは、進化し続ける「みらい型学力」を強化するため、理科の授業で「アクティブサイエンス」に取り組んでいます。その内容と狙いについて、理科担当の城之内悦子先生と、「アクティブサイエンス」の理念を共有し、連携・交流しているジャパンGEMSセンターの鴨川光先生にお話を伺いました。
理科を超えた、学び方のスタイル全般を学ぶ「アクティブサイエンス」
「アクティブサイエンス」は、「論理的思考力・批判的思考力」を身につけることを目的に、今年度からスタートした取り組みです。身近な素材や事象を中心に、教科書には答えが載っていないような実験・観察を行い、サイエンスは生活に身近なものであり、社会の中のさまざまな場面で役に立つ、生きた学びであることを理解させることが大きな狙いでした。
その導入のきっかけは、城之内先生が「体験をベースにした科学教育」を提唱するジャパンGEMSセンター(以下、GEMS)と出会ったことから始まりました。自身が幼い子どもをもつ保護者の立場から、先生は子どもが家でも手軽にできて、おもしろい実験を教えてくれるGEMSのワークショップに参加したのです。
城之内先生:「私が参加したのは、鳥の羽根に油を塗るという『砂浜』プログラムで、海に油が流れると動物が命の危険にさらされるという環境問題が、子どもにも理解しやすいと思ったのです。そうしていくつかのワークショップに参加するうちに、遊びながら学ぶ意欲をくすぐるGEMSの探究プログラムなら、学校でも活用できるのではないかと、GEMSの鴨川先生に相談するようになりました。理科があまり得意ではない生徒の苦手意識を払拭できるのではないかと考えたのです」
鴨川先生:「GEMSの目標の一つが、『体験をベースにした科学教育』を基に基礎学力を身につけ、『自ら考え、自ら学ぶ力をつける』こと。GEMSが提唱する概念は、理科を超えて、学習(=学び方のスタイル)全般に広がっていくものです。ですから、私たちが『学んでほしいこと』と生徒たちの『学びたいこと』をどれだけ一致させていくかも重要になりますので、そこは意識しています」
GEMS(Great Explorations in March and Science=ジェムズ)は、アメリカのカリアフォルニア大学バークレー校の付属機関ローレンスホール科学教育研究所(LHS)で開発されている、幼稚園から高校生世代を対象とした科学・数学領域の体験型プログラム。
体験学習の理論に基づいたシンプルなプログラムで、子どもたちの自由な想像力を引き出しながら、科学の基本概念や方法を学ぶもの。子どもたちが自分で実験を企画し、話し合って結論を導き出すプロセスを重視することが特徴です。
ジャパンGEMSセンターは、公益社団法人日本環境教育フォーラム(JEEF)内に、2011年に設立されました。カリフォルニア大学LHSとのライセンス契約の下、日本におけるGEMSの普及並びに指導者養成におけるリソースセンターとしての役割を担っています。
同校には、3つの理科教室があり、生物、化学、物理など分野によって使い分けています。創立者の大築佛郎先生は理科教師で、「科学の目を開くことをはじめ、広い知識や教養を身につけた女性を育てる」ことを教育目標としました。「アクティブサイエンス」は、もともと同校の教育理念にも通じるものだったのです。
中1の理科は週4時間授業ですが、実験や観察など、実際に手を動かし、体を動かしながら思考を深める「実験」授業を連続2時間、座学を中心とした知識を学ぶ時間を計2時間としました。
生物の単元で実施した授業では、生徒たちに4本足の動物のつるんとしたシルエットだけを描いたプリントを配りました。その動物が恐竜から自分の身を守り、生き伸びるためにはどんな機能が必要かを考え、その理由を述べるという課題です。
生徒たちは、角や羽根、敵にインパクトを与えるため目に模様を入れるなど、さまざまな機能を描き、自己防衛することができる「動物をデザイン」しました。「火を噴いたり、紙をクルクル巻いて立体的な角をつけたりと、千差万別でした」と城之内先生。
中1の教室の廊下に貼られた生徒たちの「動物の自己防衛」の絵を見ると、見事に十人十色。一つとして同じ絵がないことに、驚かされました。
城之内先生:「アクティブサイエンスの授業は、まず自分で考える習慣を身につけるアプローチから始めました。理科の授業はおもしろい、実験は楽しい、と生徒に興味・関心を持ってもらい、生徒たちに『もっと知りたい』『もっと学びたい』という意欲を引き出すように工夫しています」
蟻を観察して「蟻の絵を描く」、小麦粉・塩・重曹・コーンスターチの4種類の白い粉を利用して「糊を作る」など、学びが日常へ繋がっていくような授業が行われています。座学ではなかなか興味が持てない生徒でも、手を動かして絵を描いたり、図に表したりする作業には、脇目もふらず集中していたそうです。
先生と生徒、生徒間でも会話が飛び交う授業となり、1学期の始まりと終わりでは、授業の雰囲気が大きく変わったそうです。1学期末の生徒たちの感想は、「メチャメチャ楽しかった」と好評で、「先生、今度はアレをやってみたい、コレをやってみたい」と積極的に声を上げるようになりました。
城之内先生:「もちろん顕微鏡観察など王道の授業も行っていますが、一問一答形式のプリントに黙々と取り組むような時間は大幅に減りました。一見、美術の時間のようでも、観察して絵で表現することが、自分で考える力を引き出すことに繋がっていると思います」
❶ 実験・観察を繰り返す→プロセスを考える能力を養う
❷ 生徒の活動中心の授業を展開→問題解決に向けて主体的に取り組む力、自主的に思考する力を身につける
❸ グループ学習を行い、生徒間で積極的に話し合う→言語能力、コミュニケーション能力を育成
❹ 身近な素材や教材を扱う→理科に対する苦手意識をなくし、学習意欲を高める
「アクティブサイエンス」は、「論理的思考力・批判的思考力」を身につけることが目的ですが、実は当初、こうした取り組みに対して学力が低下するのではないかと心配される保護者の声も聞こえてきたそうです。
初めての試みでもあり、城之内先生も「正直に言えば、懸念がなかったわけではありません」と言います。しかし、期末テストの結果は予想以上の出来で、そうした不安を払拭するものでした。
城之内先生:「基礎的な知識も身についていますが、何より生徒たちが絵や図、文章にして自分の考えをぶつけてくるようになりました。1学期のテストの結果は、我々教員にとって、2学期以降もこの取り組みを続けていく自信になりましたね」
鴨川先生:「実験・観察で実感できたことが、記憶の定着を進めたと思います。教科書だけで知識を学んでいても、『本当にそうなんだ!』と実感できないと、ストンと腑に落ちないですよね」
GEMSプログラムで扱うテーマは、身近な事象や事物を中心に、教科書に答えが載っていないものも多くあります。そして、絶対的な答えはありません。常に、「本当にそうなの?」「それが正しいの?」と問いかけるプログラムです。
城之内先生:「私共は教員なので、生徒の問いには正しく答えなければいけないという固定観念がありました。でも、GEMSプログラムでは、『よくわからないけれど、きっとこうだろう。調べてみよう』と、生徒と会話しながら授業を進めていくのです。教えるのではなく、生徒と一緒に学ぶ位置に立つのは、正直勇気が必要でした」
鴨川先生:「授業では、生徒が自分とは異なる視点に気づくことができるように『違い』と『間違い』を活かすファシリテーションを心がけています。アクティブサイエンスが重視するのは、答えが合っているかどうかの前に、自分の頭で考えたかどうか。教員から渡された知識をただ受け取るだけではなく、自らつかみにいく生徒を育てることを目指しています。教員も生徒もそうしたマインドセットが必要で、これは理科を超えた『学び方の基本スタイル』を作ることであり、それは理科に限らず、他教科の学び方にも波及していく発想だと思います」
「アクティブサイエンス」は学ぶ姿勢を作るもの。先生が一方的に知識を伝えるのではなく、生徒と一緒に学ぶという意識改革でもありました。生徒の仮説を大事にし、どんな突飛な発想でも否定せず、先生と生徒、生徒同士でなぜそう考えるのかを話し合ったり共有しながら、一緒に進めていくのです。それが、授業での活発な論議に繋がり、生徒の「自己肯定感」を強める結果にも結びつきました。
自分の人生をデザインするためには思考力や判断力はもちろんのこと、イマジネーションやクリエイティビティも必要です。それは、「豊かな人生を自らデザインできる自立した女性」を育成する同校の教育理念と通底する概念であり、その象徴の一つが「アクティブサイエンス」なのです。
同校の「アクティサイエンス」の取り組みは、理系志望の生徒を増やすための授業ではありません。「結果として、理科好きが増えればうれしい」と城之内先生は言います。そして、「進路選びにも重要なステップになる」とも。「アクティブサイエンス」によって、自分で考え表現しようとする習慣を身につけた現中1の6年後の成長に思いが及びます。
城之内先生:「絵を描くことが得意だとか、文章でまとめることが好きであるとか、生徒自身が自分の得意・不得意に気づくきっかけにもなっています。また、大学入試のスタイルも多様化していますが、6年後にはさらに複雑になっている可能性があります。どんな入試スタイルが自分に合っているかを考える重要なポイントになるのではないでしょうか。視野を広く持ち、自身の可能性を広げていってほしいですね」
鴨川先生:「確実に言えることは、この取り組みによって自分で考える習慣が身につくことです。ですから、『自分で考えること』を6年間繰り返し続けてほしい。サイエンスという山に登った人は、誰でもサイエンティストになれるのです。その山登りを継続してほしいと思っています」
「豊かな人生を自らデザインできる自立した女性」を育てる教育の4つの柱
同校の目標は「豊かな人生を自らデザインできる自立した女性」の育成です。「アクティブサイエンス」によって、自ら学ぶ姿勢を持ち、コミュニケーション能力を持って社会に貢献できる女性の育成を目指しています。
最後に、「アクティブサイエンス」以外の、「豊かな人生を自らデザインできる自立した女性」を育てるために同校が進めている、4つの教育の柱もご紹介しておきましょう。
■みらい科
自己肯定感を育み、物事にしなやかに、たくましく対応するための同校オリジナルのキャリア教育(中1〜高2)。「なぜ?」を問い続ける力を育み、「生き方」の基盤を作るもので、「みらい科」の指針は他教科、学校生活全般に貫かれています。
各種フィールドワークや「職業体験」「職業インタビュー」「みらい論文」などを実施。
■アクティブイングリッシュ
「学ぶ英語」から「使える英語」をスローガンに、4技能をバランスよく伸ばす独自の英語教育メソッドを採用。毎朝10分間の朝の音声活動などを徹底し、ペアワーク・グループワークなどを通じて、コミュニケーションツールとしての英語を習得します。「聞く・話す・読む・書く」の4技能をバランスよく確実に磨いて、英語で発信する力をアップさせています。
■グローバルプログラム
身につけた英語力で異文化に触れ、グローバルな視点と姿勢を育てるプログラム。校内にはネイティブの先生が常駐する「インターナショナルラウンジ」を設け、オールイングリッシュで英語圏の文化に触れる環境を整えています。
中3でアイルランド修学旅行、高2では選択制修学旅行を実施し、シドニーかパラオへ赴くなど、豊富な体験学習も実施しています(今はコロナ禍で停止中)。
また、高校ではアイルランドもしくはニュージーランドの提携校へ1〜2年間留学する「ダブルディプロマプログラム」も実施。現地の卒業資格(ディプロマ)を取得でき、かつ同校の卒業資格も得ることができるため、世界の大学への進学が可能になると同時に、国内の大学進学の際にも活用できます。
■思考型授業
一人1台のパソコンを所持し、インタラクティブなアクティブラーニングを実施。主体的に考え、協働力を養うPBL型授業を全教科で行っています。プレゼンテーションの機会が豊富で、そのための設備も整備。考えて、書く。まさに思考力と表現力を身につけさせる取り組みで、大学入試のみならず、社会に出てから活躍するための基礎力を培うもの。小論文対策も月に一度、全校で実施しています。