学校特集
晃華学園中学校高等学校2021
掲載日:2021年10月25日(月)
「カトリック精神に基づく教育」「質の高い全人教育」などを教育理念として掲げる晃華学園中学校高等学校。緑豊かな自然に恵まれた校舎で生徒たちはのびのびと活動し、成長しています。
同校の生徒に対する願いは、「自分軸を持ち、しなやかに強く生きていく人になってほしい」ということ。そのために、同校では進学指導やキャリア教育にとどまらない教育活動「ライフガイダンス」を実践しています。今回は、そのライフガイダンスの一環である「中学課題研究」について、現高3生2人と当時の学年主任である川島明子先生、担任として中学課題研究に関わった長岡仰太朗先生にお話を伺いました。
中2から高校にかけて取り組む「中学課題研究」。
自分について深く知るきっかけにもなる
「中学課題研究」は、同校でかねてより行われている教育活動です。その目的は、「主体的に学ぶ力」と「課題を発見し、探究を重ねながらそれを次の学びにつなげていく力」を身につけること。中学2年時に生徒自らがテーマを設定し、校内外での様々な学習や体験を積み重ね、論文としてまとめ上げます。生徒たちは高校進学後、さらに探究を深化させ加筆修正を行います。
中2の春(GW明け)......テーマ決め
中3の秋......同級生と中1に向けた中間発表
高1の春......同級生と中3に向けた最終発表
高1の文化祭......「卒論の部屋」にて動画によるプレゼンテーション
高1の秋......優秀論文選出、優秀論文発表会でプレゼンテーション
中学課題研究について、川島明子先生は次のように話します。
「中学課題研究とは、生徒自ら興味のあることを見出し、それを突き詰めていく学びです。自分がどういうことに興味があるのかを知る、それはつまり、『自分』という人間について深く知ることにつながると考えています」
そのため、テーマ設定については生徒の自主性を重んじています。
長岡仰太朗先生は、
「なかには『テーマを何にしたらいいのかわからない』という生徒もいます。そういう生徒に対しては、例えば『興味があることは何?』、『好きなアイドルは誰?』などと問いかけ、対話を通して身近な話題から引き出していくようにしています。否定はせずに肯定する、そして応援する、という姿勢で向き合っています」
と話します。
テーマ決定後も、論文の内容や構成については、先生と生徒の間で随時対話を重ねていきます。じっくりと対話をすることで、生徒それぞれの個性を引き出していきたい、と考えているためです。
同中学校の一学年あたりの人数は約160名前後と、他の中高一貫校に比べて比較的少ないこともあり、生徒一人ひとりに対する温かく細やかな指導が行き届いています。
指導方針を一新、1人1台iPadを持ったことでさらに高い次元へ!
2人の生徒が権威ある全国コンクールで入賞
ここ数年は、全体的に「中学課題研究」の成果が一段とレベルアップし、2020年には学校として「第64回学芸サイエンスコンクール」(※1)で「フジテレビ学校特別奨励賞」を受賞したほか、現高3の生徒2名(A.Oさん、R.Yさん)が「人文社会科学研究部門」で「銅賞」、「自然科学研究部門」で「入選」を受賞しました。
学びが推進・深化した背景、そして受賞を果たした生徒の作品についてご紹介しましょう。
※1...全国の小・中・高校生の研究・アートおよび文芸の振興奨励と、青少年の個性の育成を目的に、旺文社が主催。1957年から毎年実施しており、サイエンスジャンル(理科系・社会科系の各研究分野)と学芸ジャンル(アート・文芸Ⅰ・文芸Ⅱ・環境の各分野)の2つの系統で作品を募集している。
【A.Oさん:テーマ「小児がん」】
●テーマを選んだ理由
最初は日本で社会問題となっている「自殺の増加」にしようかと思いましたが、実体験がないため難しいと思い、考え直しました。
最終的に「小児がん」を選んだのは、小児がんのICUで働く医師を取り上げたテレビ番組を見て興味が湧いたことがきっかけです。その後、中2の夏に医科系大学で行われていた「レモネードスタンド(※2)」に関するチャリティーイベントの講座に参加しました。
※2......レモネードを販売し、その売上金を小児がん治療のために寄付するという社会貢献活動。小児がんと闘っていたアメリカの少女が始めたのがきっかけ。
●どのように執筆したのか
医科系大学や外部の団体が主催するセミナーやイベントに積極的に参加して情報収集を行いました。中学生のときはなるべく子ども向けのやさしい内容のものを選ぶようにし、高校生になってからは医学部生など大人向けのセミナーに参加するようにしました。また中3の夏に遠方から入院する子どもに付き添う家族のための宿泊施設でボランティアを行ったときに、小児がんを患っている女の子とご家族の方とお話しする機会がありました。彼女は私と同学年。とても衝撃を受け、自分にどのような支援や活動ができるか考えました。高1の夏には、がん患者のための「ジャパンキャンサーフォーラム」にボランティアスタッフとして参加し、レモネードスタンドを担当しました。
●論文執筆で感じたこと
社会の様々な課題について、より問題意識をもてるようになりました。私の家では、夕食時などによくその時々の社会問題について話したり、自分の考えを言い合ったりしています。そのため、自分の意見について述べたり、まとめたりする作業自体はスムーズにできたと思います。コンクールでまさか受賞できるとは思ってもいなかったので驚きましたが、活動を続けてきた成果を発揮することができ、とてもうれしかったです。
【R.Yさん:テーマ「表面張力」】
●そのテーマを選んだ理由
最初は何にするかとても迷いました。「遺伝子組み換え」に興味がありましたが、自分で実験することが難しく、文献で調べることしかできないので、他のテーマに変えることにしました。実際に自分で実験して調べてみたい、という気持ちが強かったからです。ちょうど「表面張力」について知る機会があり、なぜその現象が起こるのか不思議に思い、テーマに決めました。
●どのように執筆したのか
科学同好会を通じて仲良くなった友人とお互いアドバイスをし合いながら進めました。対照実験の手法について相談したほか、実験結果から導いた考察に対しておかしいところはないか、関連性があるかなどを第3者の視点でチェックしてもらいました。
●論文執筆で感じたこと
科学同好会に所属していることもあり、実験をするのがとても楽しかったです。論文は約1万字書いたのですが、自分の考えを書くこと自体はそれほど苦にはなりませんでした。こんなに楽しみながら取り組んで、結果的に栄誉ある賞までいただけてとてもうれしく思います。
長岡先生は次のように話します。
「作成の過程では、ただ文献を調べるだけではなく、彼女たちのように実験やフィールドワークを通して、自分自身で行動を起こす重要性や体験することの大切さを伝えていました。ちょうど大学の新入試を見据えて指導法を一新したこと、1人1台iPadが与えられたことなどもあって、特にこの学年は目に見えて成果が上がったのを感じましたね」
テーマ設定についてはこれまで通り、生徒の自主性を重んじつつ、論文の構成や参考文献の書き方などもしっかりとガイダンスを行って指導したと言います。
生徒たちは中学課題研究を通じ、「様々な社会問題に目を向ける」、「自分の考えをまとめる」、「学びを通じて友達との交流を深める」......といった有意義な経験を積み重ねていきます。想像以上に多くのものを得られる探究活動といえるでしょう。
さらに、同校では「愛晃会文化賞」というコンクールを実施。晃華学園の保護者会組織である愛晃会が、晃華学園の生徒(中学生・高校生)を対象として毎年開催しているものです。そういった作文コンクールの存在も、生徒のモチベーションアップにつながっています。
他学年との協働や、同じ志を持つ友達と
切磋琢磨し合うことでさらに成長していく
A.Oさん、R.Yさんの中学課題研究は、さらに新たな活動へと繋がっていきました。
A.Oさん:
「高1の文化祭では、私が運営責任者となってレモネードスタンドを実施しました。同級生はもちろん、中学生たちにも声をかけて、運営メンバーを募集しました。夏休み中もみんなで集まってミーティングをしたり、試飲したりしました。実体験として社会貢献のお手伝いができたという達成感がありました」
飲食物を取り扱うこと、またお金の管理もあることから実現までには様々な課題がありましたが、「当時の高2の食堂委員の先輩方が賛同し、生徒食堂のスペースを使えるように協力してくださいました。先生方や下級生・同級生・先輩方の協力のおかげで、晃華学園中高全体としてレモネードスタンドを実施できました」と話してくれました。
R.Yさん:
「私は科学同好会のメンバーと一緒に、『アジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF-26) 水ロケット大会』にチャレンジしました。友人と協力し合い、予備実験のために材料を揃え、水ロケットを作り、発射実験を行いました。結果的に私のチームは書類通過できませんでしたが、別のチームで通過して全国大会に進んだ仲間がいたので、最終的には皆で取り組むことに。夏休みもみんなで何度も実験を行うなど、夢中になって一つのことに取り組めたのはとても良い体験でした」
「もっと改良すべき点もあり、今年の夏は5チームがチャレンジしてくれました。後輩たちがこの取り組みを引き継いでくれていることがとてもうれしいです」と話してくれました。
川島先生と長岡先生は、2人の活動について次のように話します。
「彼女たちの学年は、『CAT』という目標を掲げていました。『CAT』とは、チャレンジ、アクション、トラストの頭文字をとったものです。仲間と信じ合って、チャレンジして、向上していこう、と声をかけてきました。その成果もあるのかもしれません」(川島先生)
「まわりの友達との協働がよくできるようになりましたね。A.Oさんは学年の垣根を越えて学校全体の生徒たちと協力して、R.Yさんは同じ分野で興味をもつ友達と切磋琢磨し合いながら、一つの目標に向かうことができました。これらの経験はきっと生徒たちの成長につながっていくことでしょう」(長岡先生)
同級生だけでなく、上級生と下級生の仲も良く、互いを尊重し合えていることも同校の特長。「人のために 人と共に生きる」というノーブレス オブリージュの精神がしっかりと根づいている証です。
中間発表と最終発表を通じて
資料作成&プレゼンスキルを磨く!
中学課題研究の作成過程では、校内にて中間発表と最終発表を実施しています。中3で行う中間発表では同級生と中1の生徒に向け、高1で行う最終発表では同級生と中3に向けて行います。
発表を行う生徒にとっては資料作成やプレゼンスキルを磨ける場であり、その発表を聞く下級生にとっては自身の研究に大いに参考となる場です。
A.Oさん、R.Yさんはそれぞれ次のようにふりかえります。
A.Oさん:
「中間発表では、中1の生徒でも理解できるようにわかりやすい言葉を使うこと、スライドは写真を多くすることなどを意識しましたね。最終発表では、取り組む上で気を付けたいことなどをアドバイスとしてプレゼンの最後に入れました」
R.Yさん:
「私もA.Oさんと同じで、中間発表では中1でもわかるような表現にしたほか、長々と話さずに短く話すことを心がけ、スライドの字も大きめにして見やすくするなど工夫しました。中間発表での反省を生かし、最終発表では写真を多く使い、論文執筆にプラスになるアドバイスを話しました」
同校では、中1から1人1台iPadを持ったことで、資料作成能力やプレゼン能力が格段に上がっています。
川島先生は、その要因として普段の"ふりかえり"も大きいと話します。
「本校では、学校行事すべてにおいて"ふりかえり"を行っています。生徒たちは、体験した行事についてA4用紙1枚分くらい、自分の考えや感想を書いていくのですが、書き直しになることもあるくらい大事にしている取り組みです」。
タブレット入力していくことで、1年前、2年前の自分を常にふりかえることもたやすくなりました。
同校が中高6年間で目指すのは、多様な価値観に触れ、自分の進路を選び取る力を養うこと。自主的にテーマを設定し、フィールドワークや実験を通して、考えや意見をまとめあげていく「中学課題研究」は、その力が大きく涵養される教育活動といえるでしょう。また、今後の社会でも必要とされる、他者と協働して活動する、相手の立場を慮りながら自分の意見を伝えるといったスキルも習得できるのです。
晃華学園中学校高等学校で過ごす生徒たちは、自身の力で未来を切り拓いていく女性に成長していくのでしょう。