学校特集
関東学院中学校高等学校2021
掲載日:2021年7月1日(木)
「人になれ 奉仕せよ」を校訓に、キリスト教に基づく価値観を育む関東学院。三春台の丘に広がる緑豊かなキャンパスで伸び伸びと学校生活を送りながら、知性のみならず、多様性を認め、共感する心を養い、他者とともに生きる力を養える環境が大きな魅力です。
4技能をバランスよく磨くことができる英語教育に定評があり、大学受験においても強みを発揮していますが、創造力を養うSTEAM教育にも力を注いでいます。その本気度を示しているのが、10年ほど前に新設した中学校新館です。ワンフロアに5つの理科実験室があり、充実した設備をフル稼働して理科への興味や、わくわくドキドキから始まる探究心を育んでいます。さらに2018年度より高2の生物選択者の授業に探究活動を取り入れました。
これを機に、中1から高3までの理科教育を見直して、6年間の積み重ねにより、クリエイティブな発想、思考で問題を発見、解決する力が身につく環境を整えました。
「誰がどの学年の授業を担当しようとも、思考力を問われる大学入試や、その先の学びにつながる理科教育を行うことが理想。足を止めずに、質を高めていきたい」と話す伊奈輝一先生と桐ケ谷綾菜先生に、理科科としての考え方や取り組みについて伺いました。
5つの実験室をフル稼働。充実した器材で五感を大いに刺激する
中学校新館の理科フロアには、各学年の学習成果が掲示されています。それを見ると、同校の理科がいかに本物を見たり触れたり、手を動かしたりすることを大切にしているかがよくわかります。取材に訪れた日の理科実験室では中1が花の分解に、隣の実験室では中2が顕微鏡による細胞観察に取り組んでいました。驚いたのは、どちらの実験室も必要な器具が各自に行き渡るように準備されており、順番を待つ必要がありません。全員が同時進行で作業に取り組むことができるため、教室のあちこちでは気づきの声が挙がっていました。
伊奈先生:贅沢な環境ですよね。顕微鏡も2クラスが同時進行で行えるほどの数がありますから、「順番待ちであの器具を触ることができなかった」ということはありません。「貸して」「ちょっと待って」というような、実験器具のやりとりで生徒たちの興味を止めたくないという思いがあるので、その点でも非常に良い環境だと思います。
桐ケ谷先生:教員の他に理科助手さんが3人いて、実験道具の管理や準備、片付けを手伝ってくださいます。それも大きいと思います。
なるべく多くの時間を実験や観察、また、結果や気づきをシェアする時間に当てることを意識しています。
もっとも大切にしているのは理科への興味。気づきが学ぶ意欲につながっていく
中1から観察や実験を豊富に取り入れる理由は大きく2つあります。その1つが「興味づけ」です。
桐ケ谷先生:入学当初は理科が好きな生徒ばかりではありません。中1の頃は、教科書を見て「どこを覚えればいいか」と聞いてくる子もいます。3年間かけて「(理科の)本質はそこじゃないよ」ということを伝えていくのですが、その第一歩となるのが観察や実験です。
中1では週1回の実験を心がけています。実際に手を動かして、目で見ると、「なぜ?」「どうして?」「何かルールがあるのかな?」というように、いろいろなことに気づきます。そういう素朴な疑問を大事にしています。
伊奈先生:理科科の根幹には、教科書を見ればわかるものも実物を準備して、(教科書どおりに行う)確認実験や(実験の結果から考察できるように組み立てる)考察実験をしっかりやっていくという共通認識があります。なぜなら、理科への興味関心を育てたいからです。高1の秋に行われる文理選択で、自分の将来を見据えて選択してほしく、理科が得意だから、不得意だから、という理由で選ぶのではなく、しっかり考えて選択してほしいのです。そのための判断材料として、「経験」がものをいうのではないか、という考えから、中学校ではそれぞれの学年で生物・物理・化学・地学を学ぶカリキュラムで、どの分野でも積極的に観察や実験を取り入れ、理科に興味をもった状態で高校に上がってくれることを理想としています。
観察や実験を豊富に取り入れるもう1つの理由は「思考力の育成」です。
桐ケ谷先生:大学入試でも思考力が問われます。それに対応できる理科教育を、と考えた時に観察や実験は最適なのです。実験を教科書どおりに行っても、結果が教科書どおりにならないことがあります。そういう時こそ「なぜそうならなかったのか」を考えさせる、良い機会になります。この頃はいろいろな場面に探究的要素を取り入れています。
伊奈先生:目指しているのは、知りたいな、と思った時に、どういう実験を行うとどういうことがわかって、その結果からどういうことが言えるのか。どういう可能性があるのか。条件を変えるとどういうことがわかるのか。そういうことを自分で組み立てられるようになることです。そのための引き出しづくりを中1から行っている、ということです。
「興味づけ」と「思考力の育成」を意識しながら、実物に触れ、手を動かす授業を積み重ねていく成果は大学進学実績にも如実に表れて、例年、学年の約半数が理系の大学に進学しています。
伊奈先生:本校の生徒は観察や実験をベースに育っていますので、大学で研究に取り組む際にも最低限のマナーは身についているのではないかと思います。例えば、電気系では、ショート回路を組んでしまわないように、化学系では、危険な薬品の扱いを理解させたりと、安全に実験を進めることができるようになることを意識しています。卒業生が頻繁に遊びに来てくれるのですが、話を聞くと「大学の授業で扱う器具のほとんどが触ったことのあるものだった」と言ってくれる子もいるので、不自由のない状態で送り出せているのかなと思います。
3年前に始まり理科科に火をつけた、高2生物の「探究活動」
実験は、成長に応じて3段階でステップアップしていきます。
伊奈先生:中1、中2では、与えられたテーマで実験を行います。いつの間にか、いろいろな種類の実験をしているなと、思わせることを目標としています。中3、高1あたりでは、与える情報を少し減らしても目的を果たせるような条件で実験を行います。高2、高3では4年間の経験を生かして実践に移していきます。桐ケ谷先生は、2018年度より高2の生物選択者の授業に探究活動を取り入れました。
桐ケ谷先生:きっかけは、自分が高校時代に取り組んで楽しかったからです。教科書の内容を1月あたりまでに終わらせて、2月、3月に大学の卒論のような取り組みを行いました。自分たちで問いを立てて、実験の方法を考え、実験→考察をし、最終的にポスターセッション形式の発表をするところまで経験させています。初年度は自分の授業の中で始めたので手が回らないところもありましたが、2019年度にこの授業を担当した先生が関東学院大学とのパイプを作ってくださり、2020年度は大学の先生と連携して行うことができました。
探究活動の難しいところは、問いを立てることです。大学の先生に「探究とはなんぞや」という話をしていただくところから始めると、生徒の反応が変わりました。「プラナリアは分裂しても記憶は引き継がれるのか」など、高校生らしい目線で問いが立って、イメージしていたような探究活動に近づくことができました。
今年度、私は担当していないのですが、「科学のタマゴ」というコンテストに応募することを目標に、7月に探究活動を行う予定です。
伊奈先生:コンテストを目指すことにより、大学の総合選抜型入試にも活かせるのではないかと思います。
探究活動で得られた気づきや学びは本物。無駄なく今後に生かしたい
◎初期の想定から全く違う方向に結果が向かうことが多かったが、そこから実験の方向性を変えたり、失敗から学んでいくことの大事さがわかった。実験の規模、必要な時間を逆算すること。期限を守ることの大事さを実感したので、この経験を頭に入れて過ごしていきたいと思う。
◎今回の探究活動は今まで行ってきた実験などとは違い、テーマから実験方法まで全て、班のみんなと調べ、決断することが多くあった。自分と違う意見を持った人と深く話し考えることで、自分の視野を広げるきっかけになったと感じた。今回の経験を、これからの進路決定に向けて自己アピールや、授業内の発表等に生かせていけたらいいなと思う。
◎ちょっとした疑問や悩みから新たな発見をすることができるということを知ることができた。みんなで実験をすることの楽しさ、難しさ、そして協力することの大切さを知ることができた。自分たちが発表したことについて質問された時に、相手が納得出来るような説明をすることが少しできるようになった。大学に行ったらきっとたくさん実験をすると思うので、今回の実験は思ったよりしんどかったけど、すごく良い経験になったと思う。
◎実験に取り組む前にどのような手順で実験を行うか考えていたとしても、実験を進めることによって新しい発見があり、やりたい実験が増えることで時間が無くなり、発表当日までずれ込む可能性があるので、そういうことも踏まえて計画を立てる必要があると思った。練習をせずに人前で発表をしたことはとてもいい経験になったと思う。今後、プレゼンや人前に立つ際に、聴き手に伝わるように話すことが出来ればいいなと思う。探究実験を行うことで実験結果や考察に対して問題意識を持ち、常に考えながら行うことの大切さを実感した。生物以外にも常に問題意識を持てるといいと思った。
大学受験で勝負できる生徒を育てるためには「探究活動」が欠かせない
高2の生物分野で探究活動が定着したことにより、理科科の中で新たに検討されたのが、実験と同様に探究活動も中1から段階的に力をつけていく仕組みを考えることでした。
伊奈先生:5年ほど前から、在学中の研究成果を活用して総合選抜型入試で慶応義塾大学に進学する生徒が出てきて探究活動に注目していました。そういう生徒は大学に進学後も自分の居場所をどんどん開拓するバイタリティがあります。理科を通じて興味を持ち、高3で行ったマウスを使ったアトピーの研究が評価されて、大学に進んだ生徒は、大学在学中に江ノ島水族館と共同実験を行いました。大学受験はもとより、学外で勝負できる生徒を育てるために探究活動は有効なのです。
中1から積み重ねていけば、高2での探究活動の質が上がります。そこで、中学校でも各学年が1月あたりまでに教科書の範囲を終わらせて、2、3週間、探究活動に専念できる時間を作ることにしました。
伊奈先生:中1、中2では調べ学習を、中3、高1では自分で仮説を立てて、実験を組み立てられるようなトレーニングをしていきます。
桐ケ谷先生:高1の生物基礎でも、生徒が仮説を立てて、それを実証する実験を組み立ててレポートを書く、ということをしています。1回でもそういうことを経験していると、高2の探究活動がスムーズに進められるようになると思います。
伊奈先生:現在は生物分野が先導する形ですが、いずれ物理、化学、地学も追随して行かなければいけません。また、1、2年後の目標として、中学理科のテキストをオリジナル化したい、という思いもあります。中学3年間で行う実験がわかるテキストを中1次に渡して、さらなる興味や探究心を引き出したいと考えています。
関東学院の理科は、中高一貫校の強みを十二分に活用し、中1から6カ年計画で探究心を掻き立てる授業を行っています。多種多様な実験を行い、一つひとつフィードバックしながら引き出しを増やし、探究活動では大学附属校のメリットを生かして、大学の先生と連携することで、質の高い活動を目指しています。思考力に磨きをかけていくのは、大学進学のためだけではありません。社会に出た時や日常生活の中で困りごとが発生した時に原因を探る力、新しいアイデアで切り抜ける力を持ってほしいからです。学校を訪れた際には、ぜひ中学校新館の理科フロアに足を伸ばして、文系・理系に関係なく理科を好きでいてほしいと願う理科教育への情熱を感じてください。