学校特集
八王子学園八王子中学校・高等学校2021
実践的な英語教育に取り組む
日本の文化や行事を学び現地校と交流-
掲載日:2021年6月20日(日)
八王子学園八王子中学校・高等学校はJR西八王子駅から徒歩5分の便利な場所にあり、9階建ての校舎がひときわ目を引きます。英語教育やICT教育で定評があり、2016年に始動した学校改革「八学イノベーション」も軌道に乗っています。ニュージーランド出身で現在は中3の「東大・医進クラス」の担任を務めるグレゴリー・ヒューズ先生に、同校の特色ある英語教育について伺いました。
八学イノベーションの成果で進学実績が飛躍
1928年に創設された八王子学園八王子は、「人格を尊重しよう、平和を心につちかおう」という学園モットーのもと、多様な生徒の個性を引き出す教育を行っています。創立当初は高校のみでしたが、2012年に中学校を新設して中高一貫校となりました。2016年から取り組んでいる学校改革「八学イノベーション」では、タブレット端末を全員に配布するなどICT化を推進。最難関の国公立・私立大進学を目指す「東大・医進クラス」と、難関大進学を目指す「一貫特進クラス」のコース制も導入しました。さまざまな取り組みが実を結び、2021年3月卒業生は東京大、京都大、東京外語大、一橋大に1名ずつ合格を出し、医学部にも多数の合格者を出すなど、ますます注目が集まっています。
「東大・医進クラス」は中1から高3まで各学年に1クラス設置され、「一貫特進クラス」とは異なるカリキュラムもとり入れています。現在中3の「東大・医進クラス」の担任を務めるグレゴリー・ヒューズ先生は、ニュージーランド出身。「14歳のとき日本で3週間のホームステイを経験し、高校、大学時代にも1年ずつ日本に留学してすっかり日本に魅了されました」と流ちょうな日本語で話します。大学卒業後にワーキングホリデーを使って来日して子ども向け英会話教室講師を務めた後、八王子学園八王子の教員となりました。人間味あふれるヒューズ先生の英語の授業でのさまざまな取り組み、英語を学ぶ生徒たちに伝えたいことなど、熱い思いを伺いました。
ヒューズ先生が日本に興味をもったのは、ニュージーランドには日本人観光客が多く、日本人と交流する機会もあったからでした。「中学時代に初めて日本に留学する前に、少しですが日本語や日本の文化・歴史を学びました。ニュージーランドは歴史の浅い国なので、日本の長い歴史やそこで培われてきた文化はとても魅力的で、興味を抱いたんです」。
英会話教室講師を経て同校に就職したヒューズ先生は、同校の印象をこう語ります。「まず9階建ての立派な校舎に驚きました。海外では9階建ての学校なんてめったにありません(笑)。校舎もきれいだし、生徒は礼儀正しくてきちんと挨拶もできるので、感激しました」。
もともと教師を志していたヒューズ先生は、着任当初はAET(アシスタント・イングリッシュ・ティーチャー)でしたが、「いつか担任を持つのが夢」と先輩教員に相談。その先輩の助言で、働きながら大学の通信コースで教員課程を学び、10年前に日本の教員免許を取得しました。自身も日本語を学ぶ中で苦労を重ねてきたので、そうした経験を踏まえて生徒たちに「英語が好きになってほしい」「英語力をつけてコミュニケーションやさまざまなチャンスに活かしてほしい」と考えています。
生徒のレベルに合わせて英語力をブラッシュアップ
「八学イノベーション」は、国際社会を生きるための21世紀型スキルを育成するのが狙いです。グローバル社会で求められる能力や生きる力を養うもので、英語力や交渉力を磨くだけでなく自立した個人の育成を目指しています。今回はその中で、英語に関する取り組みを詳しく紹介していきます。
同校の英語の授業は週7時限で、内訳は
●東大・医進クラス 読解3、英文法2、英会話1、ネイティブリーディング(多読)1
●一貫特進クラス 読解4、英文法2、英会話1
となっています。どちらのクラスも読解と英文法は日本人教員が教え、それ以外はネイティブ教員が教えています。
英会話の授業は少人数授業ですが、習熟度ではなく1クラスを単純に3分割し12人ずつくらいで授業を行っています。「以前は習熟度で分けたこともありますが、上下のクラスで差が開くなど弊害が多いので中止になりました。今はレベルが混じっているので、得意な生徒が苦手な生徒をフォローしたり教えてあげるなど、関係性を築きながらいい雰囲気で授業ができています」(ヒューズ先生)。
「東大・医進クラス」の<ネイティブ・リーディング>は、海外の教材を使った多読の授業です。リーディングボックスという箱にレベル別のカードが入っていて、好きなものを選んで各自が自分のペースで読み進めます。カード3枚を読み終えたら先生に報告し、理解できているかチェックを受け、合格すると次のレベルに進める仕組みです。「早く上のクラスに行きたくて頑張ってたくさんのカードを読む子も多いし、赤カード(最高レベル)になると誇らしげにカードを持ってきます。マイペースでありながら、切磋琢磨して上のレベルを目指すことができる仕組みです」(ヒューズ先生)。
さらにレベルアップを目指す生徒のために、放課後希望講習も行っています。放課後1時間×4~6回で、各学年の担当教員がさまざまな講座を開設します。たとえばヒューズ先生が開いた講座の中には、大ヒットしたアメリカ映画『Home Alone(ホーム・アローン)』を使った授業もありました。映画を鑑賞したあと、一場面を取り出して皆でセリフを読んで自然な英語表現や英語独特のリズムに慣れるのが狙いです。母と息子が話す場面を上映しながら、口の動きに合わせてセリフを言う練習をし、最後の授業では音量を消して動画に合わせて生徒がセリフを暗唱する"発表会"も行います。映画で登場するリアルな英語に触れて表現を体得し、恥ずかしがらずに英語らしいイントネーションやリズムで発話する機会になるのです。
3学期の1月の英検は全員受験するので、2学期末ごろには放課後希望講習で英検対策講座も開設されます。同校では中3で英検準2級取得を目指していますが、こうした取り組みが功を奏し、昨年度の中3の「東大・医進クラス」はほぼ全員が準2級を取ることができました。
また、ヒューズ先生が担任するクラスでは朝と帰りのホームルームは英語で行うほか、二者面談もほとんど英語で実施しています。「もちろん、それまでに習った単語や文法の範囲で話すので、生徒は9割がた理解できています。面談は日本語を希望する生徒もいますが、ほとんどの生徒が英語を希望しており、英語で質問してもしっかり英語で答えてくれます」というヒューズ先生の言葉から、生徒の英語力やモチベーションの高さがうかがえます。
では、初めて本格的に英語に触れる中1生や、英語に苦手意識を持っている生徒に対しては、どんなことに気を配って英語の授業を行っているのでしょうか。「中1からオールイングリッシュで教えるやり方もありますが、それだと英語に苦手意識を持っている生徒は心の中で壁を作ってしまいます。教員と生徒の間に信頼関係がないと生徒は授業でも安心して英語を使えないので、生徒が臆せず英語を使える環境を大事にしています」とヒューズ先生は話します。
生徒は1人1台タブレット端末を持っているので、授業中の自由英作文などの課題はロイロノートというアプリで提出します。名前を隠して全員の答えを画面上に映し出し、上手な作文を評価したり、「ここはこう書いた方がいいね」と添削することも。英語が苦手な生徒も名前が出なければ安心して提出できるし、評価されたり間違えた部分をシェアする機会を持つとて定着度も上がります。
ふだんの授業で追いつけない生徒を出さないために、きめ細かいフォローも欠かしません。CRP(チェック・リピート・プログラム)もその一つで、単元ごとに授業中に小テストを行い、点数が足りない生徒は放課後に残って補習を受けます。そこで復習したのちに再テストを受け、合格するまで復習を続けます。授業で分からなかったところは補習を受け、不明点を解決して次の単元に進むので、生徒も安心して授業を受けられるのです。
英会話の発表や海外研修が英語学習の動機づけに
「わが校の生徒はプレゼンテーションが得意で、人前で英語で話すことにも慣れています」とヒューズ先生は胸を張ります。というのも、発表の機会が多く、英会話の授業では学期ごとに各自で原稿を作って発表する機会を設けているからです。中1は自己紹介など自分のことを伝えるのがメインで、中2は日本文化について紹介する原稿を作って発表します。パワーポイントなどでスライドを作って発表することもあるので、生徒たちはパソコンやタブレットの操作もお手の物です。
中3の2学期に行うスピーチ大会は、1963年に黒人の公民権運動を率いたマーティン・ルーサー・キング牧師の演説「I Have a Dream(私には夢がある)」の一部を暗唱。各クラスで選出された代表者が登壇して優勝を競います。「昨年代表に選ばれた生徒の1人は、英語が得意なほうではなかったけれど、気持ちをこめて上手に発表していました。中3の終わりに私のところにきて『僕は英語があまり上手じゃないけど、先生のおかげで英語が好きになりました』と言ってくれた時は、本当に嬉しかったですね」とヒューズ先生は笑顔を見せます。
そして英語の学びの集大成として行うのが、中3全員参加のオーストラリア海外研修です。13日間の研修旅行でホームステイしながら現地校に通い、授業を見学したり、同校の生徒のための英語の授業も受講します。同学年のバディ(パートナー)に学校を案内してもらったり一緒にランチを食べるなど、現地での日常を体験することができるのも魅力です。
この研修に備えて、英会話では中1時に自分のことを言えるように練習し、中2からは身の回りの表現、生活や旅行で使う会話を習うほか、日本の歴史・文化についても学びます。ヒューズ先生は生徒たちに「海外の人は日本の歴史や文化に興味があるから、それを伝えるチャンスだよ」と話してモチベーションを高めます。また、最後に開催する「お別れパーティ」では書道やお茶、季節行事、日本の遊びなどについてプレゼン資料を作り、3分ほどで発表。事前にお茶のたて方やけん玉などの遊び方を英語で説明する練習をし、現地で一緒に体験します。「お茶や書道も人気ですが、海外にない紙風船はいつも大人気なんですよ」とヒューズ先生は楽しそうに話します。
残念ながらコロナ禍で昨年は実施できず、楽しみにしていた生徒たちは落胆して「行きたかった」と涙を流す生徒もいたそうです。今年もまだ海外に行くことは叶いませんが、代わりに1学期にお台場の「TOKYO GLOBAL GATEWAY (TGG)」で体験型英語学習に参加したほか、2学期は「ブリティッシュヒルズ(福島)」で語学研修を実施予定です。「今年は行けないけれど、7年間交流を続けてきたオーストラリアの中学校との絆を大事にしたいので、夏休みにオンライン交流会も企画しています。事前にわが校と八王子の町を紹介するビデオを作って先方に送り、それをもとにしたディスカッションを行うほか、折り紙の折り方を教えて一緒に楽しむために準備を進めています」とヒューズ先生は語ります。
このように、英語を具体的に使う目標があるからこそ、生徒の英語学習へのモチベーションはより一層高まります。「授業でも"この英語はオーストラリアに行ったとき、会話で使えるよ"と話すと、生徒が真剣なまなざしになります。"こういう表現をしたいけど、どう言えばいいの?"と質問してくる生徒もいます。今は海外研修に行けないけれど、具体的な交流や英会話体験の場を設定することで、生徒たちは見違えるほどやる気を見せてくれるんです」(ヒューズ先生)。
ヒューズ先生は中3の最初の英語の授業で「何のために英語を学ぶか、目的意識を持ってほしい」と話しています。「海外に行く予定がなくても、来日した人に日本の魅力を伝える機会があるかもしれない。他言語を学ぶことで脳の活性化を目指してもいい。目的を明確にすることで学ぶ意欲が高まり、使う機会があればさらに好循環が生まれます」。その言葉を体現している同校の主体的な学びは、生徒たちをさらに大きく成長させてくれるに違いありません。