学校特集
サレジアン国際学園世田谷中学高等学校2024
掲載日:2024年11月4日(月)
「21世紀に活躍する力、『世界市民力』を育む」を合言葉とするサレジアン国際学園世田谷中学高等学校。考え続ける力、言語活用力、コミュニケーション力、数学・科学リテラシー、心の教育を「5つの柱」 とし、本科とインターナショナルの2つのクラス制を敷いています。熱く探究する生徒を育成する「本科クラス」について本科推進部部長の市橋朋之先生、グローバル社会で活躍できる人を育成する「インター ナショナルクラス」についてインターナショナル推進部部長の上田かおり先生、2025年度より募集を開始する本科新プロジェクト「MEDICO」に関して教育研究開発部部長の田中赳裕先生に伺いました。
グローバルな環境の中、自ら学び考え続ける力を培う
2023年に校名変更・共学校化した、サレジアン国際学園世田谷中学高等学校。入試の段階で本科クラス、インターナショナルクラスに分かれますが、世界 97か国で教育活動を展開する 「サレジアン・シスターズ」を母体とするカトリック・ミッション校ということもあり、校内はグローバルな環境です。
両クラス共にすべての教科で、問題解決型学習法である PBL(Problem Based Learning)型授業を取り入れ、「ロジカル(理論的)」「クリティカル(批判的)」「クリエィティブ(創造的)」な思考力を育みます。さらに教科の枠を取り払う学びを展開しており、例えば国語の授業でも言語だけでなく、文化論や科学的な側面からも考えるなど、多角的観点を用いて学びを深めています。
新体制の1期生は現中2、そして入学から半年ほどが経った中1の様子はどのようなものなのでしょうか。本科推進部部長の市橋朋之先生に伺いました。
「学年やクラスを問わず生徒たちは、私たちが思っていた以上に、探究することや考えることに前向きかつ貪欲に取り組んでいます。プレゼンテーションやグループワークに対して、非常に積極的でポジティブな反応を見せてくれているのはとてもうれしいことですね。生徒たちのこれらの能力をしっかり伸ばしていけると感じてワクワクしています」
教育研究開発部部長の田中赳裕先生は、「学校全体の雰囲気が変わったと、職員室で先生方ともよく話しています。女子のみの時代、カトリック校ならではの思いやりあふれる、温かな空気が満ちていましたが、現在はそうした思いやりや優しさは前提としてある上で、エッジの利いた考え方が出てきた印象です。
自分の好きをたくさん表現していいですし、おもしろいと感じることにはどんどん挑戦しようという受容感情が本校の雰囲気として出てきているのでしょう。1・2期生では男女が共にいることで、考え方がより多様性に満ちていて意見交換も活発になっています。そうした土壌のなかでチャレンジすることが常態化しつつあることを感じます」と話します。
市橋先生が補足します。
「特に感じるのは、比べることや競争をいとわないような、切磋琢磨しながら互いにより高みを目指していくという思いが見えますね。中1・2のそうした空気感が刺激になっているのか、中3以上の女子学年も校内が活性化していることに大いに感じ取っていて、主体的な学びを推進させている印象を受けます」
例えば探究学習のために、校内の一角を畑として活用。まず植え付けに挑戦したのは、私たちの身近な存在のジャガイモです。
「単に植えて、観察・収穫するというのではなく、そこでどんな探究ができるかという視点を持って取り組んでいます。世界史の授業の一環で世界における食糧事情とどのような関係性があったのか、どんな点が栽培しやすい作物なのかを知るために真冬に育て始めるなど、さまざまな視点からジャガイモを育て、考察していきました」(田中先生)
さらには四角いナスを作る試行錯誤を行うなど、自分自身の手で実際に取り組めることが大きなポイントです。
これらの活動は学年の垣根を越えて、生徒同士に刺激を与え合っています。
また同校の特長に、目の前の生徒たちを見ながら、先生方が柔軟に対応を変え続けていることがあります。例えばテキストも当初予定していたものより、もっとレベルの高いものを導入したのだそう。
このような状況について、インターナショナル推進部部長の上田かおり先生は、
「新しく生まれ変わっている状況なので、逆に言えば完成がない状態です。生徒たちの様子とじっくり向き合いながら目指しているものをキャッチしつつ、+αでより高レベルのものを提供しようと取り組んでいます」と笑います。
同校へ足を一歩踏み入れると、学校全体が能動的な学びへと向かってワクワクしながら共に進んでいる様子が見られます。
ゼミで"自分の好き"に本気で向き合う本科の学び
本科クラスの教育の軸となっているのは、生徒一人ひとりが主体的に学びに向かう姿勢を養うPBL型授業とゼミです。ゼミでは「熱く探究する生徒」を育成。中1では、4年間探究し続けられるテーマを追求する「プレゼミ」を実施します。生徒たちは「学問とは何か」を考え、探究するための学び方を学習。ロングホームルームや行事などでもその都度振り返りを行います。後半では自分の好きを深掘りすべく、「自然科学」「人文社会科学」「数理情報プログラミング」の3領域を細分化した、9つのゼミから3つを選択・体験します。
「その中で自分が楽しいと感じるものを見極めつつ、向き不向きなども含めて体験することで次年度のゼミを決定します」(市橋先生)
最終的に600字以上の志望理由書を提出し、面談を重ねてゼミを厳選しますが、一つの物事でもどの部分に関心があるのか、"興味の根っこ"に徹底的にアプローチします。 例えば、「志望理由書には、経営について学びたいと書いていたある生徒。面談のなかで、彼がシャープペンシルのコレクションをしていることがわかりました。当初は人文系志望でしたが自然科学にコンバートして、現在は素材や書き味、握りやすさなど優れたシャーペンとは何か、自分が思い描く理想を探究しています」(田中先生)
中2・中3の「ゼミ」では、個人のテーマに基づき、教科の枠組みを超え探究を深めます。上記の通り、ゼミの内容区分がかなり詳細で、多彩な分野から学べること、多様な視点で捉えられることも魅力の一つです。探究を通じてこうした世界の多様さを知ることは、物事を見る際の広い視座を養います。自分自身や他者への理解も進みますし、キャリアを考える上でも確固たるこだわりと共に、柔軟な姿勢を持つことにつながることでしょう。
高1・高2では「ゼミEX」として、外部コンテストなどへ挑戦予定でしたが、すでに中2の生徒たちが果敢にチャレンジしています。生徒たちがのびのびと自分の好きを突き詰める姿に先生方は目を細めます。
本科クラスの英語の授業は、週8時間(うち5時間がオールイングリッシュ)行われています。
特徴的な行事に「サレジアン学内留学制度」があります。これは、本科クラス生が1日インターナショナルクラスの授業とホームルームなどを体験して、圧倒的な英語環境を体験します。アドバンス生やインターナショナルティーチャーとふれあい、英語を使うことへのモチベーションを高めていくことができるのです。
2025年度入試から募集を開始し、26年に本格始動するのが「MEDICO(メディコ)」です。
「Mastery Education for Dedication with Innovation,Curiosity,Originality.」を由来とし、本科クラスに所属しながら、中2から特定科目を受講するプログラムです。独創性と好奇心、革新性を持って社会に貢献するために必要な技能や資質を完全習得することが目標で、医学や科学技術への正しい理解と敬意、高いリテラシーを育みます。
「医学とデータサイエンスをメインに据えていますが、理系の知見をベースとしたSTEAM+αの教育を準備しています。多分野多ジャンルに関心を寄せる生徒たちが集まることによって、非常に学問的刺激が強いコース・クラスになると思っています。本科クラスで培った力で好奇心に則って探究し、医学と社会、データなどをつなぎ合わせながら広がりを持たせることで、生み出されるイノベーションを期待しています。イノベーションが生まれるために必要なのはオリジナリティであり、そこに至るための好奇心が重要です。それらを磨き、習得していくクラスです」(田中赳裕先生)
これからの時代を見据えたこうした教育は、保護者はもちろん教育界からも同校への注目が集まっていることが納得できる内容です。
インターナショナルティーチャーも驚いた、インター生の深い学び
インターナショナルクラスは、基本的にはゼロベースで英語への高いモチベーションを持つ「スタンダード」と、帰国生などを中心に英・数・理・社を英語で学ぶ「アドバンスト」の2グループで構成されています。
上田先生に在校生たちの様子を伺いました。
「1期生、2期生と年を追うごとに入学する生徒たちの英語レベルが上がっています。高い資質を持ち、志を持つ児童・保護者が本校の教育に賛同し入学くださっていることがとてもありがたいですね。カリキュラムや行事なども含め、その期待に応えるものにしていかなくてはと思っています」
英語の授業は、外国人教員のインターナショナルティーチャー(IT)によりオールイングリッシュで行われます。必要に応じて日本語でのサポートが入る「スタンダード」、テスト後の実力により移行する「インターミディエイト」、英語圏現地校と同等の「アドバンスト」の3レベルに分かれます。
「スタンダードで入った生徒が中2でアドバンストに到達するケースも出てきました。2期生はスタンダード生に対してアドバンスト生が2倍在籍していることもあり、よく充実した英語環境が整ってきました」(上田先生)
なお、スタンダード生とアドバンスト生は基本的に同じホームルームクラスで学びます。特徴的なのが、ペアまたはトリオを組んで互いをサポートし合う「バディシステム」を導入していること。上記の通り、特に中1はアドバンスト生の数が多くなっているので、このシステムによりスタンダード生はまさに英語のシャワーを浴び続けており、英語力の向上スピードが素晴らしいのだそう。
上田先生は「おそらく中学3年間のうちのどこかで、みんな順次ステップアップして上のレベルに到達するであろう勢いを感じます。スタンダード生でもアドバンストまで上がりきった生徒は、頃合いを見てオールイングリッシュでの数学や社会などにも移行していけるでしょう」と話します。
インターナショナルクラス独自の「SAP (Salesian Academic Program)」は週2回、ITが主導して英語で学ぶ探究プログラムです。中1は「文化学」、中2で「環境問題」、中3では「社会問題」に取り組みます。情報収集や分析、グラフの読み取りなどに加え、グループディスカッションやディベートなどを通じて英語で思考し、世界に発信する力を身につけます。
「インターナショナルティーチャーに言われたのは、こんなにアカデミックなことやリテラシーを教えられる学校があったのかと驚いている、ということです。インターナショナルティーチャーに求めているのは、単に英会話を教える力ではありません。
本科クラスも含めて、本校が求めているのは"英語で考える"ことです。英語での本格的なディベートができる力や研究者として立てるような力をつけていきます」と上田先生。
このオールイングリッシュで行われるSAPの中で生徒たちは、パーソナルな視点と、コミュニティーとしてのローカルな視点、国レベルでのナショナルな視点で物事を捉えていきます。最後には、国や国境、民族なども超えて考えるグローバルな視点を培います。
「1年生の1学期では、例えばフェスティバルを切り口にして、異文化や多様性の違いを知り比較する中でそれぞれの視点で考え、まとめていきました。グループでポスターを作って、みんなの前で英語で発表するのですが、レベルが混合したグループになっているんですね。その発表を見たところ、スタンダードの生徒も遜色ないほどの英語力がついていて感動しました」
なお、4年生からは海外の高校卒業資格を得られる『デュアルディプロマ・プログラム(DDP)』を導入予定です。
「海外大学進学を目指す生徒が多いので、DDPを通して力をつけ羽ばたいてほしいですね」(上田先生)。
その他、3年生の修学旅行は、オーストラリア・シドニーで実施し、シドニー大学でSAPと紐づいた学びや SDGsに基づいたディスカッション、プレゼンテーションなどを行います。
さらに世界に広がる兄弟校との交流なども活発に行われているほか、希望者参加型のカナダでのターム留学やアメリカ研修、シンガポール研修など、さまざまな機会が用意されています。
なお、上田先生はこの夏、スタンフォードやUCバークレー、ハーハードやMITなど世界に名を馳せるアメリカの大学の視察に行ったのだそう。
今後はこういった大学のアドミッションを研究し、同校の学びに組み込んでいく予定です。
バディシステムをはじめ、生徒たちが混合して活動する機会が多い同校。生徒たちは互いに刺激し合いながら大きく成長し続けています。