学校特集
文京学院大学女子中学校2020
掲載日:2021年1月28日(木)
歴史ある名園「六義園」(文京区)に隣接する文京学院大学女子。創立者島田依史子が掲げた「自立と共生」という理念を受け継ぎながら、スーパーサイエンスハイスクール(SSH/2012〜2017年)、スーパーグローバルハイスクール(SGH)アソシエイト(2015〜2019年)の指定を受けるなど、理数教育にもグローバル教育にも実績を誇り、かつ進化を続ける学校です。そして今、2024年の創立100周年に向けてさらなる改革を推進中。その第一歩が、国際バカロレア(IB)の認定を受けるアオバジャパン・インターナショナルスクール(AJIS)との教育提携で、2021年から文京生とAJIS生が共に学ぶ「未来創造教育」がスタートします。多様な文化や価値観が共生するこれからの時代、その次代を生きる生徒たちに授ける新たな学びについて、教頭の佐藤泰正先生に伺いました。
1924(大正13)年創立。前年の関東大震災によって荒廃した東京で、手に職を持つことで女性が「自立」できるようにと、当時22歳の島田依史子が同校の前身である島田裁縫伝習所を開く。
・校訓:誠実・勤勉・仁愛
・教育理念:自立と共生
・3コース制(高校):『Global Studies/国際教養』『Advanced Science/理数キャリア』『Sports Science/スポーツ科学』
1976年創立のアオバジャパン・インターナショナルスクール(AJIS)は、株式会社ビジネス・ブレークスルー(大前研一代表取締役会長)グループが運営する幼少中高一貫校。国際的に通用する大学入学資格「国際バカロレア(IB)」の認定校で、アジア・オセアニア・中東・南アメリカ・日本など多国籍の生徒たちが学ぶ。
・教育目標:国際的な視野を持つ人間の育成
・キャンパス:目黒区・練馬区(2021年9月〜:文京区も追加される/文京学院大学女子の駒込キャンパス)
生徒が未来の自分像を実現する「未来創造教育」が始動
2021年から、AJISの中3〜高3の生徒たちが、文京学院大学女子の駒込キャンパスに通って来ます。AJISの生徒たちは、駒込駅寄り校舎を使用し、体育館やアクティブラーニングスタジオなど一部の施設は文京生と共用。カリキュラムが異なるため、現段階では両校の生徒が同じ授業を共に受けるということはないものの、相互交流しながらさまざまな教育連携プログラムを実施していきます。多様な文化的背景を持つ仲間と日常的に良いところを吸収し合い、学び合うことで相乗効果が生まれる。それが、文京学院大学女子が目指す「未来創造教育」です。
佐藤教頭:提携のきっかけは、双方の学校が目指す未来像が一致したことでした。本校は独自の教育方針の下、国際人として必要とされる「他者への尊敬」「探究心と理解力」「コミュニケーション力」など、グローバル社会で活躍できる力を身につけるための教育を行っています。
一方のアオバジャパン・インターナショナルスクールも、国際バカロレア(IB)認定校として「国際的な視野を持つ人間の育成」を教育目標に掲げています。双方の教育ビジョンの一致により、今回の教育提携が実現しました。
具体的な教育連携プログラムの内容は現在協議中ですが、すでに、本校の姉妹校であるタイの高校とのオンライン交流にAJISの生徒が参加したり、本校の生徒が書いた英語のレポートにアドバイスや感想をもらったり、秋の文女祭(学園祭)を見に来たAJISの生徒たちを本校の生徒たちが案内しました。そうした交流によって、英語を使う機会が格段に増えますし、語学を学ぶモチベーションも高まります。英語を学びたい生徒を対象に実施してきた本校独自の課外授業「国際塾」も引き続き継続していきますから、英語力がアップすることは間違いありません。
また、生徒の代表者同士が定期的にオンラインでミーティングを行っていて、「一緒にダンスチームを結成したい」「ドラマを作りたい」など、さまざまに案を出し合っています。女子校と共学校、授業システムなどさまざまな環境の違いはありますが、私たちの想像以上に生徒たちは柔軟です。これからどのような化学反応が生まれていくか、とても楽しみですね。
「国際塾」は、中1から高3まで全学年の生徒が受講できるゼミ形式の課外授業(毎週月曜日〜金曜日の放課後に実施)。補習授業ではなく、グローバル社会で通用する英語運用能力を身につけることが狙いですが、部活動などを続けながら継続的に受講することで英語力を習得できます。
ネイティブスピーカーの先生を中心にオールイングリッシュで行われるさまざまな講座があり、中には英検やGTEC対策講座も。意欲のある生徒たちが積極的に受講し、留学や大学の外国語学部・国際関係学部への進学を実現しています。
同校には特筆すべき伝統教育がありますが、その一つが「ペン習字」です。1日1枚以上ペン習字の書写をすることを習慣づけ、年間600枚以上書いて提出すると「ペン習字精励賞」が授与されます。中高一貫生の中には6年間続ける生徒も多く、その美しい文字は一生の宝物に。IT時代であっても、字が上手であることが自信となり、輝きを発する場面は無数にあります。
さらに、裁縫学校の名残で、毎週金曜日の朝には6学年が揃って「運針」に取り組んでいます。一針ずつ丁寧に針を進めることで、技術だけでなく集中力も身につきます。毎年11月に開催される「運針競技会」では、継続して練習してきた成果が発揮されます。
また、約30年前には、都内の私立学校で初めて給食を採用。中学3年間の給食を通して、美しい箸の使い方など、日本食の作法や栄養の知識、マナーなどを正しく身につけていきます。「食育」は、礼法(茶道・華道)と合わせて、国際社会で活躍する際に役立つ日本人としての教養文化であるといえるでしょう。
佐藤教頭:日本型教育の本校と世界標準のIB校であるAJISとの連携によって、互いの良いところを吸収しながら、影響を与え合う教育環境を作っていければと考えています。例えば、AJISの生徒たちのプレゼンテーション力の高さは刺激になります。彼らのプレゼン映像を見ると、照れたりはにかんだりすることが一切ないのです。その姿勢からは、国籍も母国語も違う多様な文化的背景を持つ仲間が混在しているからこそ、まずは自分の意見をしっかり伝えることが重要だという考え方が身についていることがよくわかります。
同質性の高い日本人のような、言葉にしなくても伝わるという文化とは根本的に違います。語学力だけでなく、これからのグローバル社会を生きるために必要な多様性を認知する力やプレゼン力も、本校の生徒たちの大きな刺激となるでしょう。
また、AJISでは、CAS(Creativity、Action、Serviceの略)と呼ばれる必須の課外活動があります。これは、生徒自身が企画・立案して実行する奉仕活動や探究活動のことで、いずれは本校の高校生も一緒に探究活動を行うなど、協働していきたいと考えています。
佐藤教頭:一方、AJISの生徒たちも、本校独自の「礼法(茶道・華道)」や「ペン習字」「運針」「食育」など、日本の教養文化に触れるチャンスが生まれます。例えばインターナショナルスクールでは生徒が校舎を掃除する習慣がありません。ですから、本校の生徒たちが校舎内だけでなく、通学路も自主的に掃除していることを知って驚いていました。継続的な部活動などもAJISには基本的にないものです。また、AJISでは授業チャイムも鳴りませんから、まずは始業と終業の時間を合わせるところからスタートしたいなと(笑)。
2021年から、日常的に多様な国籍を持った生徒たちと触れ合い、異文化交流が行える環境が生まれます。普通に学校に通いながら国内留学のような環境に身を置くことで、互いの文化を客観的に見つめ、「より深く豊かな学び=未来創造教育」につなげていきたいと思っています。
人材育成の核となる体験型の「探究学習プログラム」
文京学院大学女子では「英語力」「理数力」「生きる力」を養うため、時代に合わせた教育プログラムを取り入れてきました。なかでも、不確実な次代に対応できる人材育成の核となるプログラムが体験型の「探究活動」です。探究活動を通して獲得を目指すのは、「課題発見力」「仮説検証力」「論理的思考力」、そして「プレゼンテーション力」です。
中高一貫生は、中1から6年間にわたって体験型の探究学習を積み重ねますが、中学3年間は「基礎学力の定着」と「学習習慣の確立」に重きを置く「ファンデーションプログラム」と位置づけます。
まず中1では、総合学習の時間を使って観察や調べ学習の方法などから出発して探究活動の基礎スキルを習得します。そして中2からは総合学習の時間を利用して興味や関心のあるテーマを見つけ、中3ではその活動成果を1枚のポスターにまとめてプレゼンテーションを行います。
高校からはコースごとにカリキュラムが異なるため、各自が興味関心のあるテーマを選び、高3での英語によるレポート作成と発表をもってゴールとなります。
2020年度入学生からは1人一台タブレットを所持する体制が整ったため、さらに主体的に学ぶ双方向型授業に拍車がかかっています。
佐藤教頭:今年はコロナ禍のため、体験型の校外学習や語学研修、海外の姉妹校との訪問交流などさまざまなプログラムが中止、または延期になりました。そうした中でも、生徒たちは創意工夫しながらできることを積み重ねていましたね。
高校生向けビジネスアイデアコンテスト「キャリア甲子園2020」に応募した国際教養コースの生徒たちは、LINEやグーグルのクラスルーム機能を使ってやりとりしながら積極的に取り組んだ結果、書類審査(1次予選)を通過しました。「日本倫理・哲学グランプリ2020」に応募し、難関男子校の生徒たちに伍して奨励賞をもらった生徒もいます。
また、理数キャリアコースの生徒の一人は、ピザの平等な切り分け方を幾何学的に証明する「ピザの定理」に興味を持ち、アメリカの専門家に直接メールして連絡を取り、レポートをまとめていました。そうした姿を見ていると、本校は2012年に都内の女子校として初めてSSH指定校になりましたが、これまで培ってきた理数教育が結実していると実感しています。
佐藤教頭:最近の新たな形式の模擬テストなどでは、本校の生徒たちは非常にコンピテンシー(高い業績や成果につながる行動特性)が高いというデータが出ていますが、教科学力だけではなく、共感力など本校の生徒たちが持っている数値化されない能力をもっと伸ばしていきたいと思っています。
本校の生徒の「コンピテンシー」と、AJIS生の「リテラシー(物事を正確に理解し、活用できる能力)」、加えて「教科能力」を伸ばすという、3方向の特性をバランスよく伸ばしていきたいと考えています。
また、卒業生が来校して在校生に自身の探究活動について話してくれる機会もあるのですが、最近では、世界の紛争問題に取り組みたいと国際基督教大学(ICU)に進学し、現在はイスラエルに留学している卒業生や、大学時代にスペインに留学し、今は社会人として活躍している卒業生が話をしてくれました。主体性を持ち、自分で考えて行動している様子が窺えて大変嬉しかったですね。卒業生たちは、在校生にいろいろな未来を考えさせる良いロールモデルとなっています。
このような本校独自の教育を基盤に、AJISとの連携による「未来創造教育」を加えて、これからも多様な価値観を持ったグローバル社会に貢献できる生徒の育成に取り組んでいきます。1年後にどんな変化が訪れているか、私たち自身も楽しみにしています。
体験を軸とした「探究学習」と、ペン習字、運針、食育など創立以来の「伝統教育」、そしてAJISとの教育連携による「未来創造教育」。この同校の重層的な教育が、生徒たちの可能性をますます広げていくことは間違いありません。来年の秋以降、どのような化学変化が起きるのか、本当に楽しみです。
文京学院大学女子では、教科型入試や適性検査型入試などのほかに、得意分野を活かしてチャレンジできる多様な入試を実施しています。ちなみに、出願はすべてインターネット出願(Web出願)になります。
■得意型文京方式入試[2科(国語・算数)+選択]
受験生の得意な教科を活かせる方法で、国語と算数どちらか高い得点の科目を2倍にする方式。
[例:国語70点・算数50点の場合、国語の70点を2倍にして140点と換算(実質1科入試)]
さらに理科2題(各25点)・社会2題(各25点)・英語2題(各25点/5級程度)から自分で2問以上選択して解答できるため、まさに完全選択型入試となります。
■インタラクティブ英語入試(面接有)
英語のコミュニケーション能力で合否を判定する入試。
ネイティブスピーカーの先生と受験生複数名(グループ)による英語活動の試験で、集団でのコミュニケーションの様子と個人面接を合わせて評価します。
*試験レベルは英検3級程度です。
*英検3級以上は特待生の候補になります。
■思考力プレゼンテーション入試(面接有)
入学後に体験する探究活動につながる入試スタイル。
グローバル(思考力総合問題)、サイエンス(サイエンス実験、レポート)、スポーツサイエンス(スポーツ科学実験、レポート)のいずれかを選択して受験。その場で映像を見たり、実際に体験した結果に対してどう考えるかを表現します。