学校特集
サレジアン国際学園中学校高等学校2023
共学化1期生の様子とは
掲載日:2023年3月1日(水)
日々の学校生活の中のさまざまな機会を通じて生徒と教員と家庭が強く関わり合い、愛情と信頼を形成する、「共に喜び、共に生きる(アシステンツァ)」教育を礎としているサレジアン国際学園中学校高等学校。
2022年に校名変更し、共学校に生まれ変わった同校の教育に加え、第1期生の学校生活についてなど、学校改革推進部部長の尾﨑正靖先生にお伺いしました。
快活さと思慮深さを持つ"サレジアン1期生"
「21世紀に活躍できる『世界市民』の育成」を教育目標に掲げ、2022年に新たなスタートを切ったサレジアン国際学園。創立者であるドン・ボスコの理念に改めて立ち返り、生徒との信頼関係をしっかりと構築し、これからの世界で活躍できる生徒の育成を目指しています。主体的に考え、学ぶ「本科クラス」と英語環境で過ごす「インターナショナルクラス」を置いています。
1期生の様子を学校改革推進部の尾﨑正靖先生は、
「1期生120名は、本科クラスとインターナショナルクラスが各2クラスの計4クラス、人数比と男女比はおよそ半々です。女子校時代とは異なる、いい意味で元気な子たちがたくさん入ってきてくれました。男子は、昼休みにテニスコートや体育館でスポーツをしていますし、女子も混ざって鬼ごっこを楽しんでいる時もありますね。星美学園の女子校時代は大人しい生徒が多かったこともあり、最初は心配でヒヤヒヤしながら見守っていました。ドン・ボスコは子どもたちと一緒に遊ぶ機会も大切にしていたのですが、今でも安全面での見守りだけでなく、生徒に混ざってドッジボールをしている教員がいますよ。1期生は元気で活発な子たちですが、落ち着いた雰囲気も併せ持っていて、友人を思いやれる生徒が多いですし、しっかり物事を論理的に考えようとしてくれるのがうれしいですね」
と教えてくれました。
本科クラスとインターナショナルクラスの生徒たちは、日常的に交流を行っているそうです。
「クラス間交流について質問をよくいただくのですが、本科クラスとインターナショナルクラスのホームルーム教室は隣接しています。授業は別々ですが、生徒たちはクラブ活動や委員会活動を一緒に行いますし、体育祭などの学校行事も共に参加します。朝の登校を見ていても、仲の良い友人とクラスは関係なく来ている印象がありますね。そういった何気ないクラス間交流が多様な価値観を知ることにもつながって大きな相乗効果となり、更なる成長につながっていくのだと思います」(尾﨑先生)
同校が掲げる教育重点項目の5つは、①考え続ける力、②コミュニケーション力、③数学・科学リテラシー、④言語活用力、そしてこれらの土台となる⑤心の教育です。
これらは、変容を続けるこれからの世界で必要とされるもの。同校で行われている教育を見ていきましょう。
探究心を大きく育む「本科クラス」の学び
本科クラスの大きな特色は、「個人研究」です。中2から4年間、自身の興味関心に則ったゼミナールに所属し、研究テーマも自分で決めて探究学習に取り組みます。取材に伺ったのは23年1月下旬。中1生たちは4月から所属するゼミをワクワクしながら選んでいる時期でした。
ゼミは、プログラミング、アントレプレナー、数学、理論物理、歴史、文芸批評、地球環境問題への取り組みやものづくりを行うE研などの8つを用意。上級生による説明会や体験会に複数回参加したのち、第1~第3希望いずれかのゼミに所属して4年間研究を行います。
この授業は、先生方がそれぞれの専門性や現在の世界ではどのような教育が求められているかをもとに話し合い、構成・設計されました。
「本校が掲げている『世界市民』として『21世紀で活躍する』という目標はかなり高いので、生徒たちには秀でた力をつけなければと思っています。
21世紀という変化が加速していく時代に適応していくためには、課題を自分で何度も設定し直し、考え続けるスキルが求められます。これまでのような与えられた知識を覚えて再現する形式の授業だけでは、生徒にそのようなスキルをつけていくのは難しいと考えました。さらに、日本社会だけでなく世界で活躍するとなると、高いレベルでそれらの力を発揮しなければなりません。そのためにも、探究型の学習で何度も考え直したり、問いを立て直したりと、粘り強く考える力と挑戦し続ける心を個人研究の中で養いたいのです」と尾﨑先生。
サレジアン国際学園のゼミは、学年を縦割りにして同じ授業時間内に複数学年が集まって行われ、また4年間という長い期間を通して考え続けることで、学びも深くなり大きな成長が期待できます。
この理由について尾﨑先生は、
「日本の学校では、学年や教科によって扱う内容が決まっていて、それゆえに異学年で学び合うことが難しかったのです。大人の世界では、その組織に所属するさまざまな年齢層の人たちとの協働が求められるので、中高の授業でも何か出来ないかなと思っていました。総合の授業時間を利用して行うゼミに関しては、異学年で学び合う環境を設定することによって、これまでにはなかった化学反応が起きることを期待しています。互いに刺激を与え合いながら多くのことを学び、中2だけど高2レベルの学びや実験を進めるような生徒がどんどん増えていってほしいですね」と話します。
また探究学習においても、共に喜び共に生きるという「アシステンツァ」の精神を大切にしつつ、生徒たちが自立した探究者として成長できるよう、温かく見守っています。
「本校のゼミは、教員が何かを教え込むというわけではなく、テーマを決めたり実験をしたりということはすべて生徒が主体的に行なっています。もちろん担当教員は専門性を備えていますが、生徒たちのやる気が出るよう、いかに背中を押してあげられるかということに注力しています。個人研究なので、寄り添いつつ、生徒がうまくいかない場面でも考え続けられるように、失敗しても立ち上がれるように我々が支えていきます」(尾﨑先生)
それぞれの成長度合いに応じて、ほどよい距離感で寄り添い、支え、見守ってくれる同校の先生方。 生徒たちは世界市民として、楽しみながら物事を進める姿勢やトライアンドエラーを恐れない心を見出すことができるのです。
研究者としての視点や考え方を身につける事前学習
ゼミに所属する前段階として行われるのが、中1の1年間をかける事前学習です。
事前学習の大きな軸となっているのが、SEL(Social Emotional Learning)とアカデミックスキルです。
社会性と情動の教育とされるSELは、自尊感情と対人関係能力をスキルとして育むといわれます。自身の感情を知り、それと向き合うことは心の問題に対処するだけでなく、「楽しい」や「おもしろくない」といった実感を理解することで、探究学習をより主体的に深めることにもつながります。対人関係能力に関しても、ゼミに所属すると考え方の違う同学年の生徒だけでなく、持っている知識も違う異学年の生徒とも関わることになるため、「コミュニケーション力」を磨く実践の場として時間をかけて取り組んでいるそう。
アカデミックスキルは、研究者としての視点や考え方を涵養するものとして、宗教科・国語科・数学科・社会科・理科・情報科の教員がタッグを組み、文理を超えたSTEAM教育のような形で行われています。いろいろな教科の担当者が関わることで、多様な考え方や広い視野を培います。
そのためにまず行われるのは、身近なところから興味・関心を広げて探究する心を育む「feel度walk」。例えば校内を散策するなかで、普段は気にもとめないような、天井の木目の模様や窓ガラスに映る姿、マンホールに書かれている数字などの発見をiPadを使って絵にまとめ直して発表することで、持っている視点の違いや探究につながるヒントを共有しました。
「いきなり探究をやろうとしても生徒にとっては難しいので、まずは身の回りにある、ふとした疑問や気になったことから自分の興味・関心を広げ、探究につなげてほしいと思います。アンテナを高く張り続けること、発見の感度を上げることが、研究者としての見方や考え方を身につけていく第一歩になります」と尾﨑先生。
他にもアカデミックスキルでは、実験室や多様な機材などを使用し、研究のベースとなる「数学・科学リテラシー」もしっかりと身につけます。
「大学で使うレベルの双眼実体顕微鏡や3Dプリンターなども新しく導入したので、ゼミではそれらを使って、観察や実験も大いに行ってほしいですね。さまざまな実験を行うだけでなく、その結果を統計学的なやり方でまとめて発表するなど、実際に研究者が行うようなプロセスを体験する流れも作っています。プログラミングに関しても、小中高生向けのSTEAM学習ができるレゴの『SPIKE プライム』を使用して事前学習を行いました。男女問わず、実験やプログラミングの時間を楽しんでくれていたことが、とてもうれしかったですね」(尾﨑先生)
このように学びのための土台づくりを早い段階で丁寧に行うことで、研究に没頭したり、切磋琢磨し合ったりできる環境を整えています。
「インターナショナルクラス」の学びとは
インターナショナルクラスは、アドバンスト(AG)とスタンダード(SG)に分かれています。AGは現在44人の海外帰国生やインターナショナルスクールの出身者で構成されており、学年のおよそ1/3を占めています。現地校やインターナショナルスクールなどで学んだ彼らが入学したことにより、同校の多様性はより推進されています。
AGは英語・数学・理科・社会の授業をインターナショナルティーチャーズがオールイングリッシュで行っています。
体育や音楽などの実技系科目や国語は日本語をしっかり学ぶ場として授業を展開しています。
SGは英語学習初心者をベースに、とても意欲の高い生徒が揃いました。
「インターに入学してきた生徒たちの英語運用能力は非常に高く、授業中はもちろん、教室の中や廊下まで日常的に英語で話しています。生徒によっては、7〜8割くらいの時間を英語でコミュニケーションしている子もいます。
SGの生徒は海外経験はないものの、みんな英語好きとあってクラスメイトのAGの生徒たちに刺激を受けながら、しっかりとついていけるように頑張っています」(尾﨑先生)
2023年度入試でも高い人気を誇った同校のインターナショナルクラス。
そして有機的な学びを進める本科クラスの生徒たちも、それぞれが個性を輝かせながら日々を送っています。
"国際学園"が意味するもの
こうした国際的な校風は、世界97ヵ国に姉妹校を持つカトリック女子修道会「サレジアン・シスターズ」を母体としていることも大いに関係しています。
同校には世界各国からシスターや神父様が訪れ、ボランティア活動などをはじめとして、触れ合う機会も多数あります。教育内容だけでなく、母体が国際的な組織であることが、学園全体の視野の広さや多様性を受け入れる風土につながっています。サレジアン国際学園は、まさに真の「国際学園」なのです。
修道会の関係性を活かした姉妹校同士の交流は、星美学園の女子校時代から継続的に行われています。ここ数年はコロナ禍で渡航が難しかった時期も規模は縮小したものの、ZOOMを使用して実施されていました。2023年度は海外の姉妹校との実地での交流や修道会の使節を拠点としたボランティア研修も再開準備に入っています。
また、校内で流れる放送や集会の連絡も当たり前のようにバイリンガルで行われています。
例えばカトリック校の同校では、聖堂に集まってお祈りを行う機会があります。
「聖堂に学年みんなで集まる時には、お祈りは日本語だけではなく英語も用意されているので、生徒たちにとってバイリンガルの環境が当たり前という空気になっています」(尾﨑先生)
これは英語を学びたいインターの生徒はもちろん、研究者として学びを進める際、最新の研究内容を知るために海外の論文を読む可能性のある本科の生徒にとっても、インターナショナルスクールさながらの環境は刺激的に違いありません。
自然と国際感覚が身についていく、サレジアン国際学園の生活。学校生活の中でさまざまな刺激を受けながら「言語活用力」を養っています。このような環境は生徒の学習姿勢を前向きにさせ、能動的に学ぶ姿勢を持った生徒たちは、より活発な学校生活を送っています。
PBL型授業では心理的安全性を確保
この能動性を培うのにひと役買っているのが、全教科全教員で実施しているPBL型授業です。
生徒たちは自分の意見はきちんと伝えつつも、人の考えも聞き、受け入れるという、心理的安全性を担保しながら行われているので、共に育つ姿勢が養われています。
「現在、PBL型授業は実際に運営しつつ、教科の特性のところでもっと上手くいくように調整を進めながら行っています」(尾﨑先生)
もっとより良い授業を生徒たちに提供できるよう、進化を続ける同校ですが、先生方がうれしかったというのは、中1の保護者会でのこと。
保護者に対して、生徒たちが学校生活についてプレゼンをするという企画がありました。その中で出てきたのが『PBL型授業がとても楽しい』という声です。
「『いろいろな人の意見が聞けたり、そういう考え方があったんだと学びになったり、プレゼンはやればやるほど力がつく手応えがあって、本当に楽しい』と話してくれました。そういう点でもこちらの思いが通じて、生徒たちの中に少しずつでも学びが積み上がっているのかなと感じます」と尾﨑先生が教えてくれました。
多くの刺激を受けながら楽しく学校生活を送っているというのは、生徒はもちろん、保護者にとっても先生方にとっても、もっとも喜ぶべきことでしょう。
ブラッシュアップを重ねながら、このような多彩な取り組みを通じて「5つの力」を育んでいる、サレジアン国際学園。
多様な価値観やバックグラウンドを持つ生徒たちが校内に増えていき、6学年が揃った時に同校はより真価を発揮する国際的な学校になるのでしょう。