学校特集
東京都市大学等々力中学校・高等学校2020
掲載日:2020年11月20日(金)
1938(昭和13)年に女子校として創立後、2009年4月の校名変更に続き、2010年4月から共学化した東京都市大学等々力。理想の教育像に、高潔な若人が果たすべき責任と義務を意味する「ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)とグローバルリーダーの育成」を掲げています。
2014年からは帰国生入試を導入し、グローバルな雰囲気が校内に浸透してきた同校。2018年度卒業生の現役東京大学合格者に続き、2019年度には京都大学や一橋大学への現役合格者を輩出しただけではなく、海外有名大学へ2名が進学しました。
今回は、グローバルリーダーを育む同校の英語国際教育プログラムについて教頭の二瓶克文先生、国際教育室長の池田伸先生にお話を伺います。
帰国生が全校生徒の約1割を占める在籍数
2020年春、帰国生入試の一期生として入学した45名が卒業しました。年々、帰国生の入学者が増え、2020年度には全校生徒のうち約1割を占めるほどになった東京都市大学等々力。
「帰国生は海外で生活をし、言葉を修得してきた経験から自律した学習者と言えます。そういう生徒が学校生活に溶け込むことで、一般入試で入学した生徒にも良い波及効果が生まれています。帰国生が海外からのお客さんの通訳として頑張っている姿や、英語を使った日常会話から、英語を教科としてではなく、語学・文化として理解していくことができると思います」と話す二瓶先生。
同校の帰国生は、アメリカやイギリスだけでなく、南アフリカ共和国やケニアなど多種多様な地域からやってきます。英語が得意な帰国生は英語の授業だけネイティブスピーカー教員の指導を中心に受ける「αクラス」に所属し、それ以外の授業はほかの生徒と一緒に過ごします。
「上級生にも帰国生がいるので、学年のつながりだけでなく、部活動などを通して縦のつながりも築けています。帰国生の人数が少ない学校では、恥ずかしさから英語の授業でわざと発音を悪くするようなケースもあるそうですが、本校では英語を話せる環境が普通になっているのでそうしたこともありません」(二瓶先生)
同校では、帰国生入試のほかに、一般入試や算数1教科入試、英語1教科入試、アクティブラーニング入試など多彩な入試を実施。付属小学校からの入学者もいるため、多様性がありつつもグローバルな雰囲気が校内に定着しています。
今年、海外大学へ進学した生徒は2名。海外生活を経験した帰国生として中2で転入してきた生徒と、カナダへの長期留学をきっかけに海外大学へ進学を決めた生徒です。
アメリカ屈指の難関リベラルアーツ・カレッジの一つ、スワースモアカレッジ(Swarthmore College)と、カナダで3番目の学生数を誇る大規模な総合大学、ブリティッシュコロンビア大学(The University of British Columbia)へ進学しました。
「実際に海外大学へ入学した生徒が出たことで、今後はさらに海外大学進学希望者が増える見込みです」と池田先生は話します。
そのため毎年11月に実施している海外大学進学セミナーなど、今後も海外大学進学へ向けたサポートをより充実させていく同校。詳しくは次章以降で見てみましょう。
豊富な海外研修で学習への意欲を高める
海外大学への進学は、都市大等々力の英語国際教育プログラムで多様な海外研修を経て、興味・関心を育てたことが起因しています。
英語国際教育プログラムの最大の魅力は、2015年度から始まった長期留学です。約1年間、オーストラリアまたはカナダの現地校へホームステイをしながら通学し、帰国後は現地校の単位を認めるため、新学年へと進級できます。
「長期留学は英検準2級以上を持っていれば参加することができ、参加人数は6~8名です。2020年度は15名ほどから申し込みがありましたが、コロナ禍の影響で中止となりました」(池田先生)
海外研修も豊富です。最もユニークなのは、オーストラリアにあるバーシティカレッジで約2週間かけて実施される「夏期特別研修」です。生徒は現地校の生徒とバディを組み、ホームステイしつつ現地校へ通います。また、近隣にある大学で医学・理系分野への興味・関心を喚起する講座を英語で受講します。
「時には通訳が必要になるほどの高度な講義内容を扱うこともあります。理数系に興味を持つ生徒が満足できる研修内容となっていて、帰国生や男子生徒も意欲的に参加します」と池田先生。
海外で医学・理系分野について学ぶ機会は少ないため、非常に人気が高いそう。募集人数は25名で、事前学習も行います。
「大学での講義では、心臓や呼吸器系の医学を専門的に学ぶ学生など、様々な医学分野を学ぶ学生たちから、どうしてその道を志したのか、どのように勉強したのかを聞く機会もあります。在校生にとっては『こうやって努力すればいいのだ』というモチベーションにつながります」(池田先生)
理系大学を系列校に持ち、理科教育にも強みを発揮する同校。理数系に関する興味・関心の育成は、中1・中2の2年間で200回近くの理科実験を行う「SSTプログラム(Super Science Todoroki Program)」が一役買っています。
「アンケート調査をすると、実験を好きになったという生徒は90%に上ります。『楽しい』と感じた延長線上に中3の夏期特別研修があるのです」(二瓶先生)
興味を目一杯引き出せる時期に、夏期特別研修を実施することで、生徒の視野が大きく広がります。
また、2020年は同校ではバーシティカレッジの卒業生を9月から11月の3カ月間、ギャップ・イヤーとして受け入れる案も出ているそう。学校同志の結びつきが一層強くなり、深い学びが得られることとなりそうです(2020年度は中止)。
中高生での海外研修は将来につながる貴重な経験
海外研修はそのほか、「ラグビー校サマーコース」、「シンガポールEAP(English for Academic Purposes)」、高2「海外研修旅行」、「短期留学」があります。
「ラグビー校サマーコース」も人気プログラムの一つで、2年連続で参加する生徒が15人以上いるほど。同校の姉妹校であるイギリスのパブリックスクール・ラグビー校で2週間、ヨーロッパや南米に住む他国の生徒たちとともに行動します。他国の生徒と英語で会話する必要があるため、英語力に自信がある生徒が対象です。
「シンガポールEAP」は、2020年度から始める予定の海外研修です。シンガポール国立大学やハーバード大学などへの進学を目指す生徒たちが通う学校の現地校へ約2週間通うプログラム。アカデミックで高度な学びが特徴で、英検準1級以上程度の生徒を対象にしています。
「『シンガポールEAP』は海外大学を目指すためのライティングなどを学ぶ予定です。同国は様々な人種が住む国なので、英語の多様性を感じてもらうきっかけとしても期待しています」(池田先生)
全員参加の高2の「海外研修旅行」では、オックスフォード大学の教授や学生たちとの交流を行います。イギリスの文化や伝統、歴史を肌で感じ、学生と同じ寮に宿泊します。
「コロナ禍の影響で延期しており、現在は、2021年1月のスタートを見込んでいましたが、海外で感染症に感染するとなかなか帰国ができないため、今年度は中止といたしました」(二瓶先生)
短期留学も準備しています。オーストラリアのメルボルンにあるキルビントン・グラマースクールへホームステイをしながら通う10週間のプログラムです。
池田先生は、「今年は2名が短期留学に臨みました。1月から3月に実施しており、入試や春休みで学校の休日が増える時期のため、生徒への負担が少なく済みます。今年の短期留学生のうち1名はそのままオーストラリアの学校への編入を希望しています。寂しいですが、海外の経験を活かして世界に飛び立とうとする姿を応援しています」と微笑みます。
留学を経験した生徒は、東京外国語大学や慶應義塾大学などGMARCH以上の大学へ進学しているそう。同校ならではの海外研修やSSTプログラムの経験は、大学入試に直結するわけではありませんが、ポートフォリオなどで活用され、実を結んでいます。
「私自身、大学院への留学を経験しているのですが、中高生の頃に海外生活を体験するのは格別だと思います。思春期と呼ばれる時期に、英語が通じないという苦い体験も含めて、友だちを作り、新しい世界を知る経験は、その後の将来で大きく花開くことでしょう」(池田先生)
家族と離れた寂しさや英語が通じない悔しさを自力で乗り越えることで、生徒たちの自信にもつながるのです。
音読トレーニングを重視した英語教育
海外研修で通じる英語力を身につけるために、同校では基礎英語力を培う週100回の音読トレーニングを行います。オーバーラッピングやリード&ルックアップなど様々な音読手法をクラスの雰囲気や英語力によって教員が見極めて指導します。
「英語科の教員同士が音読や暗唱の試験などの情報を共有し、生徒の様子を把握します。音読は、英語を英語の語順のまま理解でき、英作文や英会話力を鍛えていきます」(池田先生)
鍛えた英語力は校内の英語学習プログラムで実践します。5~6名の在校生に東京大学などに通う留学生が1名つき、ディスカッションを重ねていく「エンパワーメントプログラム」がその一つです。
「英語力だけでなく、意見を交わすことで、自分に自信がついたという生徒の声が多々届いています。留学生は、上手に生徒を導いてくれます」と池田先生。
また、昨年から帰国生プレゼン大会も始まりました。帰国生が住んでいた国について中1生全員に向けて英語や日本語でプレゼンテーションを行います。
池田先生は「プレゼン大会を通して異文化理解につながりますし、帰国生と心の距離を近づけるきっかけになります」と話します。
様々なプログラムを通して、生徒の興味・関心を引き出す工夫がされているのです。
進学希望の大学によって変わるコース制度
同校には東京大学や東京工業大学、一橋大学などの最難関国公立大学を目指す「S特選コース」と早稲田大学や慶應義塾大学、上智大学などの難関大学を目指す「特選コース」があり、中3になると、中3・高1の2年間、英語力を伸ばすことに特化したカリキュラムを受けられる「特選GL(Global Leaders)コース」を選択できます。
「特選GLコース」はエンパワーメントプログラムが必修となるほか、希望者は先に触れた通り、オーストラリアかカナダに約1年間留学できます。
「コースの違いは、受験する大学によって変わります。『S特選コース』に在籍する生徒は国公立大の5教科8科目の入試に対応できる力をつける必要があります。一方、難関大学を目指す生徒は、3教科などでの受験が可能です。希望する大学を見据えてコースを分けているのです」(二瓶先生)
英語教育に関しては、「S特選コース」と「特選コース」では使う教材は違うものの、カリキュラムは同じです。もし「S特選コース」から「特選コース」を希望する生徒などがいた場合は、個別で対応します。
ノブレス・オブリージュを心掛けるグローバルリーダーを育む
創立以来70年にわたり「品性ある人格教育」を行ってきた東京都市大等々力。同校の創設者である五島慶太氏の意志を受け継ぎ、国際社会で貢献できるグローバルリーダーの育成を目指しています。
「日本を知らずに世界に出て行ったとしても何も変えることはできません。だからこそ、本校のカリキュラムは偏重型ではなく、教養を身につけることを重視しています」(二瓶先生)
生徒たちは被災地でのボランティアなど様々な同校での経験を経て、誠実さを持って人と接することができる自由と規律を持ったグローバルリーダーとしての素質を育みます。
「英語は一つのコミュニケーション手段。できることが当然です。むしろ恵まれた環境で育ったことを自覚し、日本でも海外でも、人々の心に寄り添い共感できるリーダーを育てていく必要があるのです」(二瓶先生)
そのためにも、教育目標として、国語・リテラシー教育、英語・教養教育、数理・情報教育の3つを柱に据えた高い知性の獲得を掲げ、英語国際教育プログラムを使って、中高生の頃に多くの方々と交流することが必要なのです。
そんな多様性を大切にした同校。2021年度入試では、アクティブラーニング入試が変更されます。
従来であれば受験生3名ずつのグループディスカッションを行いますが、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、映像などを見て感じたことをそれぞれがプレゼンテーションする試験方法へ変更予定。受験生が普段の生活で心掛けているボランティア活動や委員会活動、部活動、習い事などで培った力を発揮できる入試になる予定です。
一般入試や算数1教科入試、英語1教科入試、帰国生入試は通常通りに実施する都市大学等々力。教育目標として掲げる「ノブレス・オブリージュ」を体現する生徒たちは、英語国際教育プログラムを通して日本だけでなく世界で活躍していくことでしょう。