学校特集
十文字中学・高等学校2020
掲載日:2020年10月9日(金)
建学の精神「身をきたへ/心きたへて/世の中に/たちてかひある/人といきなむ」は校歌にも歌われ、1922(大正11)年の創立当初から「社会に貢献する女性を育てること」を目標としてきました。まもなく、創立100周年を迎える女子伝統校の同校は、5年前から未来型教育『Move onプロジェクト』と銘打った学校改革をスタートさせました。3年間を一巡と考え、昨年からNext Stageに。そして、その成果はコロナ禍にあっても揺らぐことはありません。コロナ禍への対応と、現在進行中のさまざまな学校改革の内容について、副校長の横尾康治先生と中学校教頭の浅見武先生、そして入試募集対策室長の和田吉弘先生にお話を伺いました。
困難な状況にあってこそ光る「建学の精神」
校歌にも歌われている建学の精神は、現代風に訳せば、「自立し、社会で活躍し、社会に貢献するとして生きる」ということです。
横尾先生:「こんな時だからこそ、建学の精神がより一層重要になってくることを痛感しています。困難にあって、みんなで手を取り合って生きていくことが大切です。今、この状況で学校として何ができるのかを真剣に考えていくことから、ニューノーマルが生まれてくると思っています」
■振り返りの動画配信で理解が深まる
新型コロナウイルス感染拡大防止にあたって、これまで力を入れてきたICT教育の成果が見事に役立ちました。
高1・2はすでに一人1台PCが導入されていますが、高3の一部と中学では、家庭にPCがない生徒に学校がタブレット端末を郵送。中学・高校ともに、遠隔授業を行う環境整備を迅速に整えました。
そして、ClassiやGoogle Classroomを使った課題配信・提出、ZoomやMeetなどを使ったオンラインHRや、リアルタイムで行う双方向型授業、YouTubeを利用した動画配信、グループワークなどを実施。家庭のWi-Fi環境の違いによってつながりにくいなど接続状況に差が出ることがあるため、授業の振り返りも配信しました。
浅見先生:「リアルタイムで音声が聞き取れなかった生徒も確認できますし、繰り返し学習できるので、生徒からは理解が深まったという声がありました。また、教員にとっても自分の行った授業を客観的に振り返る良い機会になったと、授業のレベルアップにつなげています」
■不確実な未来に対応する力を育む
先生方の一致団結した対応もあり、結果的に、授業の進捗状況に遅れが出ることはありませんでした。また、教室ではどうしても先生主導の授業になりがちですが、自宅で行う学習では自主性に任される部分も多かったため、生徒たちにとって休校期間は"学びとは何か"を真摯に考える契機となりました。
自分のペースで学びを進めることができる生徒は、『自分を見つめ直す良い機会になりました』という声も多く聞かれたそうです。今回は図らずも、知識レベルの伝達や情報量に関してはオンラインでも十分だということが証明できたと言います。
浅見先生:「事前に課題や授業動画を配信して予習をさせ、オンライン授業では質問対応やわからない点を重点的に教えていく反転授業の導入を進めています。以前から実施したいと思っていましたが、実現までには5〜6年かかると考えていたことがコロナ禍で一気に進んでいます」
横尾先生:「生徒も教員も前向きにトライしていますね。学校現場の従来のやり方をガラリと変えるような大きな変化ですが、こうした変化に対応できなければ未来はありません。生徒たちも、対応力をかなり身につけてきています。コロナ禍はむしろ、不確実で変化が早い未来にも対応できる力を育てる契機になったと考えています」
同校では、秋以降も、対面授業とオンライン授業それぞれの良さを有効に活用しながら、学びを進めていく方針です。
■己を知り、社会を知る探究活動の重要性
『Move onプロジェクト』は、自立した、社会で活躍できる女性を育てるために、
①充実したキャリアプログラム ②未来の探究
③英語教育の充実 ④理数教育の充実
という4本柱を中心にスタートした学校改革ですが、同校の方針が浸透し、「社会の中で役立ちたい」という意識が芽生えはじめた生徒の入学が増えています。
理数教育の充実から理系学部への進学率は3割を超え、国公立大学への進学者も年々増加していますが、中1の時からいろいろなプログラムを展開してきた結果、探究活動においても積極的に行動する生徒が増えてきました。
好きなことをとことん追求する姿勢が大切
生徒たちがコロナ禍で示した対応力は、『Move onプロジェクト』の柱の一つである探究活動の成果の一つといえるでしょう。
「問いを立て、課題を解決する力を身につけ、絶えず変化する社会への対応力を養うため、『探究活動』を重視しています」と、横尾先生。
中1は自分の13年間の人生を振り返る「自分史」の作成、中2は職業調べ、中3では、自分の好きなテーマを見つけて個人研究を行います。
中学3年間で、自己を知り、多様な価値観を認めることによって、問題解決能力と社会への対応力を養っていくのです。
浅見先生:「昨年の個人研究では、小学校の時から自宅でカマキリを育てている生徒の研究発表が話題になりました。家の水槽で何万匹ものカマキリを育てていて、自ら解剖も行い、図鑑に書いてあることとは違う性質があると力説していました。その方向に進むかどうかはわかりませんが、この生徒のように、好きなものをとことん追求していく姿勢を大事にすることで、将来の可能性は広がっていきます」
■社会との関わりで気になる「なぜ?」「どうして?」を追求
高校では、SDGs(持続可能な開発目標)から8つのテーマを取り上げ、探究活動を実施。自分の好きなテーマを選び、学年横断で5〜6人のグループを組んで、さらに課題を掘り下げていきます。休校中はオンラインシステムを活用し、グループ内でやりとりしながら進めました。
高2では、8つのテーマの中からさらに自分が気になる「なぜ?」「どうして?」を3つ選び、それらについて調べて論文にまとめます。そうした探究活動を深めていく中で、社会との関わりを意識し、自分に何ができるのかを考え、そこから一歩前に踏み出す勇気と行動力を養っていくのです。
1 日本で女性が活躍するには
2 バリアフリー社会を実現するには
3 日本人の働き過ぎを改善するには
4 子どもの人権を守るには
5 日本を救う再生エネルギーとは
6 IT革命によって社会はどう変わるのか
7 世界の中の日本とは
8 日本のゴミ問題とどう向き合うのか
横尾先生:「身近に接している教員が働き過ぎではないかと疑問を感じた生徒は、十文字の教員だけではなく、自分の出身である公立中学校の教員のところまで取材に行きました。導き出した結論は、公立の先生のほうが忙しいというものでした。その理由は、『十文字の先生はみんな楽しそうにしているから、ラクに違いない!』と(笑)」
先生方の姿が生徒たちにどのように捉えられているのか、学校全体の雰囲気が伝わってくる微笑ましい"結論"です。
■探究活動から生まれたNECとの連携プロジェクト
今年の新しい試みとしては、NECと連携して行っている探究学習があります。
NECが事前に10本の動画を配信し、オンライン学習を行いました。対面になってからは「かんたんVPCシート」を使って独自の探究学習に入ります。VPC(Value Proposition Canvas)とは、企業が社会貢献活動や製品開発などの際に使用するフレームワークの一つで、社員研修用のVPCをベースに作ったものが「かんたんVPCアンケート」です。
このプロジェクトが実現したのは、昨年の「探究活動」で同校の生徒たちが、SDGsに積極的に取り組んでいるNECにアプローチしたことが始まりでした。高校生から直接アプローチされたことは初めてだったことから、NEC側の関心も高く、協力依頼を受けて、「今の10代の関心動向」を調べるプロジェクトが誕生しました。
横尾先生:「まさに、生徒の探究心が生み出した"縁"から生まれたプログラムです。さまざまなテーマで作られた動画を見た生徒の感想から、どんな単語がヒットするかを分析し、生徒の関心がどんなところにあるのかが多面的に分析されています。結果から、『デジタル』『AI』『宇宙』など、私たち大人が思うようなものは実はあまりヒットしておらず、むしろ圧倒的に医療関係に人気があることがわかりました。『社会の役に立つ』という建学の精神が、生徒たちにきちんと伝わっているのだと再確認させられました」
社会問題について生徒が主体的に考え、自ら行動したことによってプロジェクトが発展した好例です。さらに言えば、このプロジェクトのNEC側の担当者のお母様が同校の卒業生だったという、不思議な"縁"もプラスされていました。
「生徒広報委員」と「SNS特派員」が誕生
高2を対象に、学校説明会などで広報活動の手伝いをしてくれる生徒を募集したところ、学年の半数近い約100名もの応募者が殺到。「生徒広報委員」として学校説明会や学校見学会で学校紹介のプレゼンテーションを行っています。
内容については生徒の裁量に委ねられ、原稿もパワーポイントの資料もすべて生徒が作成。また、「ホームページに載っていないような、さりげない学校での日常の様子をSNSに投稿してはどうか」と、生徒広報委員自らが「SNS特派員」を募集すると、36名の生徒が登録したそうです。
横尾先生:「プレゼンテーションで使う写真も、肖像権や著作権に注意しながら自分たちで準備してごらんと促したところ、自ら撮影も行っていました。教員が指示を出すのは簡単ですが、生徒がアウトプットする機会を作ることで社会への対応力は養われていきます。生徒の自主性を尊重し、責任を持って作ろうという意識を培うことが重要だと思っています」
これらの活動は自主性や責任感、十文字への帰属意識などが高まる結果にもつながっています。限られた準備期間の中で精一杯、でも、のびのびと動いてくれた生徒たちが頼もしく、同校が実践してきた「Move onプロジェクト」の成果がこのようなところにも結実し、花開いていると感じさせられます。
第1志望者が半数を超え、多様な個性が集まる
■2021年度入試の変更点と大学実績
学校改革「Move on プロジェクト」の成果が着実に浸透し、それが入学志願者や同校を第1志望校とする受験生の増加、さらに大学合格実績の顕著な結果となって表れています。
和田先生:「昨年度の入試では、本校を第1志望とする生徒が一昨年よりさらに増えて53%となったのは嬉しい結果です。来春のコロナ禍の状況は予測できませんが、来校できないような状態になったとしても、入試は必ず行いますので、ご安心ください。また、オンライン個別相談会のほか、新型コロナウイルス感染予防対策を十分行ったうえで、校内見学を伴う対面型の学校説明会(少人数)を実施しています」
▶「︎帰国生入試」(11月15日午前)
▶「︎第1回入試」(2月1日午前)
▶「︎思考力型入試」(2月1日午前)
▶「︎第2回入試」(2月1日午後)
▶「︎第3回入試」(2月2日午前)
▶「︎第4回入試」(2月2日午後)
▶︎「得意型入試」(2月3日午後)/英・国・算から1科目あるいは2科目を選択
▶︎「特別入試」(2月6日午前)/国・算の2科目を選択
さまざまなタイプの生徒を受け入れられるよう、「帰国生入試」「思考力型入試」「特待生制度」は続行します。
和田先生:「大学合格実績の結果を見ても、「Move on プロジェクト」が結実していることを実感しています。国公立大学への合格者は増加傾向にあり、令和元年度は15名が合格。理系(医学部・歯学部・工学部・看護系)分野への進学率は昨年よりさらに増えて、30%を超えました。帰国生を対象とした『帰国生入試』、記述式の総合問題を問う『思考力型入試』、英・国・算から得意科目を選んで受験する『得意型入試』など、多元型入試を実施してきたことで、タイプの違う生徒たちが本校に集まっています。多様な個性や能力を持った生徒が、お互いを認め合いながら成長し、未来を担う人間に育ってほしいと願っています」
同校伝統の自彊術体操
百人一首大会にて。みんな真剣!
国公立大学:15名(東京外国語大学/お茶の水女子大学/東京医科歯科大学/筑波大学/千葉大学/埼玉大学/広島大学/東京都立大学/防衛医科大学校/国立看護大学校)
早慶・上智・国際基督教大学:23名
MARACH・G:95名
コロナ禍の中でも、生徒たちは冷静に、真摯に学びと向き合っていました。「社会の役に立ちたい」という創立100年の伝統は、揺らぐことのない核心として、生徒たちに根づいています。絶えず変化する社会を見据えた未来型教育のプログラムで、生徒たちは花開く果実の種を確実に育てています。