学校特集
晃華学園中学校高等学校2020
掲載日:2020年12月8日(火)
聖母マリアの象徴である「光り輝く華」、それが晃華学園の校名の意味です。教育理念の実践目標の一つとして「NOBLESSE OBLIGE」を掲げていますが、これは「すべて多く与えられた者は、多く求められ、多く任された者は、さらに多く要求される(※)」という聖書の言葉に由来しています。同校では、生涯にわたって与えられた役割を喜んで果たし、他者のために生きることに喜びを見出していく姿勢を育てているのです。このようなキリスト教的人間観に基づく全人教育を展開する同校には「SDGs×KOKA」をはじめ、多彩な独自プログラムがありますが、今回は三大行事の一つ「合唱コンクール」に焦点を当てます。なぜなら、ここには全人教育の成果の証があるからです。音楽科の小山智美先生と、高3のお二人、そしてOGの方にお話を伺いました。
※『ルカによる福音書』12 章48節
全人教育を展開し、
「人のために 人と共に生きる人」を育てる学校
設立母体の「汚れなきマリア修道会」は創立200年を超えますが、全世界のマリアニストスクールに共通する教育方針は、次の5つになります。
❶カトリック精神に基づく教育
❷質の高い全人教育
❸家庭の精神を基盤とする教育
❹奉仕、正義、平和をめざす教育
❺変化に適応できる教育
同校の校訓は「神を敬い 人を愛し マリアのように 正しく 強く 美しく」。目指すのは、マリア様のように、すべてを受け入れ柔軟に生き抜く「強さ」、人生の岐路でより善なるものを選択できる「正しさ」、生き方においても人格においてもバランスのとれた人間が持つ「美しさ」を涵養し、他者に寄り添い、助けとなることのできる人です。
女子校である同校は、単なる女子教育を目指す学校ではありません。
同校のホームページには、キャッチコピーとして「環境をください。私、伸びてみせます」という力強い言葉が掲載されていますが、同校は女子がのびのびと自己表現できるような環境を提供し、全人教育によって力強く、優しい「人間」を育てているのです。
だからでしょう。進路の幅広さは同校の大きな特徴で、さまざまな学問分野に、また首都圏に限らず全国の難関大学に進学しています。今回は、同校を象徴する学校行事「合唱コンクール」に的を絞ってご紹介しますが、そのお話を伺っているだけで、上記のすべてを包括していることが伝わってきます。
人をまとめるのは難しい。でも、
自分が成長すると、周りも変わってくる
お話を聞かせてくれたのは、音楽科の小山智美先生と、高3のF・Rさん、K・Yさん、卒業生の阿部佑子さん(国立音楽大学声楽科専修卒業。桐朋学園大学大学院オペラ研究分野修士1年在学中)の4人のみなさんです。
Fさんは昨年の合唱コンクール(以下、合唱コン)実行委員長を、Kさんは副実行委員長を務め、阿部さんは卒業後もコーチとして合唱コンに関わるOGの一人です。ちなみに、小山先生も同校のOGです。
そして、FさんとKさん、阿部さんは幼稚園から同校に入学した生粋の晃華生。同校の象徴でもある「合唱コン」について語ってくれるにふさわしい方々が集まってくれました。
●例年、府中の森芸術劇場で開催。2019年度で36回目を迎えた。
●中1〜高2が「中学の部」(12クラス)「高校の部(8クラス)に分かれ、それぞれ「最優秀賞」「優秀賞」「努力賞」を目指す。
●毎回、外部の専門家の方3人(音楽大学の先生など)を審査員としてお招きする本格的なコンクール。
●「課題曲」と「自由曲」の2曲を歌うが、音楽科の先生が選曲する「課題曲」は「近年はラテン語の無伴奏の聖歌になっています」(小山先生)。「自由曲」は、各クラスの合唱コン委員が中心になって生徒自らが選曲。「本校の図書情報センターには合唱曲のCDがたくさんあるのですが、生徒たちはここでCDを借りて自由曲を選曲したり、YouTubeで歌いたい曲を見つけてきたりしますね」(小山先生)。
●10月には各クラスから2人ずつ合唱コン委員を選出し、翌年の2月に本番を迎えるまで約4カ月間にわたって練習を重ねていく。
●各クラスにはオルガンが設置され、ピアノは校内に計5台(音楽室に2台、練習室に3台)。
三大行事の中でも、体育祭はクラス対抗ですが、個人種目もある。また、文化祭は部活動や委員会活動が主体に。でも、「合唱コン」だけは完全にクラス対抗で、全員が一つになって心を合わせなければならないものです。
早速、まとめ役として奮闘しながら、どのように本番まで進んでいくのか伺ってみました。
Fさん:「高校になると一致団結できるようになってきたと感じていますが、中学の最初のうちは放課後の練習に来たり来なかったり、温度差がありますね」
Kさん:「学年ごとに教室の前にラウンジがあるのですが、練習に出てない人はなんとなくそこに集まっているので、その人数を見るとどのクラスの練習がはかどっていないか、だいたいわかるんです(笑)」
Fさん:「最初の頃は長時間の練習に『え〜』という声も出ますが、『時間を有効に使いつつ、楽しく、でも練習成果が上がるようにするにはどうしたらいいか』と、もう一人の合唱コン委員と試行錯誤しました。そこで、ネットから画像を取り出し、教会の澄んだイメージの写真を黒板に貼って歌ったりしました。イメージを具体的に共有することで、みんなの気持ちが一つになれた気がします」
Kさん:「Fさんが言うように、どうすればもう一つ気持ちが乗らない人たちを動かせるか。そこが一番悩むところです。私たちのクラスは、全員が音をとれるようになってからは中庭に出て、マリア様の像の前で歌ったりしました。教室で練習するのとは違って、みんなが合唱を楽しむ瞬間があったように思います」
阿部さん:「私も中1・2の頃は練習に来ない友達がいると『意味がわからない!』とグチを言っていましたが(笑)、昔のメモを見返してみると、高1の時には「楽しかったと思ってもらえるように頑張りました」と書いてありました。高校生になるとそれぞれの得意・不得意もわかってきて、自然に役割分担ができるようになってくる。みんな部活動などでまとめる立場に立つので、その大変さを身に染みてわかるようになるのだと思います。今思えば、中学の頃は自分の力不足のせいもあってうまくまとめられなかったのかな、と。合唱コン委員を経験したことで成長できて、今にもつながっているものがあるとすれば『自分次第で周りを変えられる』ということです。みんなの意識をどの方向に向けるのかも、まとめる人によるのだ、と」
Kさん:「私はメゾソプラノのパートリーダーも務めていたのですが、クラスの中の音楽部(オーケストラ)の人たちと一緒にどう指導するかを考えました。そして、音楽が得意じゃない人も楽しめるよう、輪になってお互いの顔が見えるようにして、フィードバックするようにしました。例えば、音程について『前の音から下がっているけど、あまり下げすぎないように。少し狭い階段を降りるくらい』といったふうに。具体的にイメージしてもらうために、結構細かく伝えていたかなと思います」
小山先生:「昼休みや放課後の練習のために、委員たちがピアノのある教室の割り振りを工夫するのも大変よね」
Fさん:「各クラスが同じ回数になるようにはしていますが、OGのコーチがいらっしゃる日と音楽室を押さえる日を合わせるのが結構大変でした(笑)」
既成の枠組みを飛び越え、
目標に向かってブレークスルーしていく
「みんな、最優秀賞を目指そう!」と、委員がただハッパをかけるだけでは一方通行で終わってしまいます。発声や発音などの技術面はもちろん、歌詞の意味を理解し合い、聴いてくれる人に何を届けたいのかも共有するために、「こういうやり方はどうかな」「こういうふうに声をかければ伝わるかな」と、委員のみなさんは手探りで奮闘し続けてきました。
練習は冬場がメインになるので、阿部さんはインフルエンザ防止のために「○分に1回は換気をするよ」と、休憩時間になると「ひと口でいいから水を飲んで」と、細かなところまで気配りをしたそうです。「ちょっとしたことの積み重ねで、合唱コンに対する意識をもってもらえるよう声かけをしたつもりです」
阿部さん:「コーチとしてまた学校に来るようになりましたが、中1・2は放課後の練習に集まっていても休み時間のよう。一方、高校性は私が入っていった時には、ちゃんと並んで練習を始めている。卒業してから改めて見てみると、こんなに違うんだと成長を感じます」
小山先生:「OGがコーチに来てくれることによって、モチベーションが上がるようですね。とくに自分たちと同じ歌を歌ったことのあるコーチもいますので、そんな時にもらえるアドバイスはとても大きいと思います」
Kさん:「他のクラスとの指導の行き来もあるんです。私は中3の時に初めて、他のクラスの人から『練習を見てくれない?』と頼まれました。『自分たちはイメージができあがっているから、初めて聴く人がどう思うかを教えてほしい』と」
Fさん:「他のクラスの歌を聴きに行くことで、自分たちも『こういうところに気をつけなきゃ』とか勉強になりますね。良いところを盗んだり(笑)」
阿部さん:「あと、『あのクラスがうまいらしい』という噂を耳にすると、そのクラスのドアに耳を当てたり(笑)」
ここまでのお話からも「合唱」の練習を超えて、同校で実践される全人的な学びを体現する姿が見えてきます。
気持ちを合わせて一つのハーモニーを創り出すために、コミュニケーションの取り方を工夫するのはもちろんのこと、クラス対抗でありながら他クラスとも交流するなど、既成の枠を取り払い、試行錯誤しながら目前の課題を一つずつ突破していっているのです。
『合唱コン』本番。
いろいろな壁を乗り越えた瞬間
このように、最初はバラバラだった部分もありながら、だんだんと同じ方向を向いて本番を迎えます。
本番の合唱コンは2月に、府中の森芸術劇場どりーむホールで行われるのが恒例ですが、中1にとって大舞台に立つのは初めてのこと。そこで、こんなことも起きるのだそうです。
小山先生:「中学生と高校生では、舞台に登場した時の並び方も違います。とくに中1は慣れていませんので、緊張した面持ちで舞台に出てくると、間隔をキュッと詰めて並んでしまいがちなのです(笑)」
阿部さん:「舞台は広いですから、思いの外、隣の人と離れて立たなければならないんです。ですから、くっついて並んでいるのを見て、客席にいる高校生が『広がって、広がって』と手で合図を送るのですが、それでも間隔にバラツキがあって(笑)」
●中1 :「Ave maris stella」(めでたし 海の星)
●中2・3:「Alle, psallite」(いざ, リラを奏でて歌わん)
●高1・2:「Regina coeli」(天の女王)
結果は、中学の部は中3が、高校の部が高2と、それぞれ最高学年が最優秀賞を勝ち取りました。
そして、審査委員長の佐藤公孝先生(国立音楽大学名誉教授)からは、次のような講評がありました。
「本当は、音楽に順位をつけたくはありませんが、順位があるからこそ頑張れたのも事実ではないでしょうか。だから発表は行いますが、順位に必要以上に落胆せず、自信を持ってほしいと思います」。そして、「課題曲がラテン語という壁、そして得意・不得意が混ざっているクラスという壁、いろいろなものを乗り越えて、非常に高いレベルの素晴らしい合唱コンクールになりました。おめでとう、そしてありがとうございました」と。
心を合わせて歌った後に残るものは、
「お互いへの感謝の気持ち」
ペルゴレージ作曲"Stabat Mater"より
クラスにはさまざまな「他者」がいます。「他者」と共に手を取り合いながら、目標に向かって壁を乗り越えていく。
「合唱コン」という大きな体験を経て、奮闘を続けた委員たちはもちろん、歌った生徒たち一人ひとりの心の中に確かなものが刻まれます。それは順位ではなく、仲間と共にやり遂げた達成感です。でも、Fさんは言います。
Fさん:「私は、高1までは自分のクラスのことだけを考えていればよかったのですが、高2で委員長になってからは、下の学年を含めて全体のことを考えなくてはならなかったので、クラスのことはもう一人の委員に任せっぱなしになりがちでした。今思えば、もっとクラスのことを考えてあげればよかった、というのはあります」
昨年、Fさんは委員長を務めましたが、歌に対するモチベーションがある人も、そうでもない人も、自分たちで歌った曲を何年後かに振り返った時、「楽しかったな」と思ってもらえるような合唱コンにしたかったと言います。
Kさん:「委員長は合唱コンの最後に挨拶をするのですが、Fさんのスピーチは伝説になっているんです。最後に、『高校2年C組』と呼びかけて、自分のクラスへの感謝を述べたのです。私たち高2はそれまでの5年間の思い出が蘇ってきて、学年全員が泣きました」
Fさん:「私は感きわまるとすぐ泣いてしまうほうなので、泣きながらのスピーチでしたけど(笑)」
阿部さん:「私たち3人とも幼稚園から晃華生で、二人は私が小6の時の小1。その時から知っているので、『こんなことが言えるようになっちゃって』と、今、思っています(笑)」
得意・不得意にかかわらず、一つの方向に向かってみんなで懸命に取り組み、そして、それぞれの形で完成させる。「音楽は、その曲を聴いたり演奏した時の景色や一緒にいた仲間のことなど、いろいろなことと一緒に思い出に残るものだと思います」と阿部さんは言いますが、この合唱コンクールは生徒たちにとってかけがえのない思い出になるとともに、将来、さまざまな場面に遭遇した時の対応力の基盤になっていくようにも思います。
このような体験を重ねながら自分軸を醸成し、しなやかに、強く、そして他者と共に生きていく。生徒たちはどのような道に進んでも、「人のために 人と共に生きる 光り輝く華へ」を体現していくことでしょう。
高2の修学旅行では示し合わせたわけでもないのに、各クラスのバスの中で『好きな聖歌ランキング』を作り、みんなで歌うのだとか。
そのようなお話を伺うと、生徒のみなさんはポップスをどう思っているのだろうか、という疑問が湧いてきます。でも、その答えにはなるほどと納得です。
Kさん:「私たちにとって、合唱コンは神聖なものという意識があるので、自由曲にはJ-POPはほとんど選ばないですね。ただ、カラオケとかではもちろんJ-POPやロックも歌いますけど、学校の友達と行くと、合唱曲が入っていたらそれを歌って盛り上がっています(笑)」
阿部さん:「『J-POPを合唱バージョンにしました』といったものだと、本当に一生懸命にやると楽しくなくなってしまうんです。歌手の方が歌っているのは楽しい曲なのに、合唱にすると堅苦しくなる。ソロの旋律で作られているものを無理やりハモらせるよりも、やっぱり大勢で歌うために作られた曲のほうが歌っていても感動がありますし、もともと合唱のために書かれた曲のほうがハーモニーが美しいんです」
合唱コンの高校生の課題曲に、ラテン語の聖歌が選曲されているのには理由があります。4月に行われる晃華学園のイースターミサは、上智大学の隣にある聖イグナチオ教会で行われますが、高2・高3全員が聖歌を歌うのが恒例となっています。曲は2月の合唱コンの課題曲。各クラスで競ったラテン語の聖歌を、今度は厳粛なミサの中で、みんなで心を合わせて歌うことができる瞬間は何にも代え難いものです。
中学生は前方の席に座り、後ろが高校生の席になっているのですが、後方から前方に歌声がグワ〜ンと押し寄せてくるのは圧巻で、中学生はみな先輩たちの歌声に感動するそうです。
Kさん:「私は中1の時からイグナチオ教会で歌うのが夢でした。でも、昨年は1年間アメリカに留学していたので出られず、今年の4月はコロナ禍で中止に。とても残念でした」
Fさん:「私は昨年歌いましたが、聖堂は広いし音も響くしで、自分でも感動しました」