学校特集
国府台女子学院中学部2020
掲載日:2020年8月8日(土)
1926年の開校以来、仏教精神を礎とする『敬虔』『勤労』『高雅』の三大目標を掲げ、女子教育に専心している国府台女子学院。「智慧」と「慈悲」の心を抱き、希望する場所に立って活躍できるように後押しする教育を展開しています。「心の教育」と「知の教育」の両輪に力を入れ、伝統を守りつつも新しい教育にも対応する同校の取り組みを学院長の平田史郎先生と副学院長の平田慎太郎先生に伺いました。
90年以上積み上げてきた女子教育の真髄を伝え続ける
国府台女子学院が創立されたのは1926年。大正デモクラシーが起こり、女性の地位向上が叫ばれつつも実情が追いついていない時代でした。創設者の平田華蔵先生は千葉県女子師範学校の校長を務めていましたが、当時の主流である良妻賢母型教育ではなく、学問を修め社会で活躍できる女性の育成を理想とする女子教育を目指しました。
「初代校長の平田華蔵は、自分がひとかどの人物になれたのは母のおかげである。その母の恩に報いようと女子教育を志しました。すべての人間は女性から生まれてくる。まずはしっかりした女性を育てることが基本であると考えたのではないでしょうか。その意志を継いでいきたいと思っています」と平田史郎先生。
平田慎太郎先生は、女子校での生活をこう語ります。
「共学校で学ぶか女子校で学ぶか、悩まれる受験生、保護者の方は多いと思いますが、女子校こそ、女子自身が自分の思うこと、やりたいことを心の底から堪能できる環境だと私たちは考えています」
同校には穏やかで素直な子が比較的多いと先生方は評しますが、学院祭、運動会、合唱コンクールなどの行事ごとに彼女たちはその底力を発揮します。
共学校では自然と男子がリーダー的役割や力仕事を担い、女子にはサポート的な役割が割り振られがちです。女子校である同校では、女子だけで企画立案、運営、展開を担当するため、生徒一人ひとりが主体性を持って、行事を作り上げるのだという気概を生んでいます。これは、普段の学校生活や趣味においても同様です。
「共学校で性差による多様性を知りながら研鑽し合うという学び方も有効だと思います。しかし、思春期に異性の目が気になり、無意識に萎縮してしまうことはよくあること。男性と交流して得られる多様性は、しっかりと自己を確立した、大学進学後からでも十分ではないでしょうか。本校ではまず生徒が自由にのびのびと成長することを優先しています」
そう語る史郎先生。来年度から千葉県内の私立女子中学は2校に減ってしまいますが、国府台女子学院では、女子教育を続けることに揺らぎはありません。
進路に合わせた多彩なコース分けで、将来の夢に確実に近づく
女子の特性に合わせた学習を推進できることも、女子校の利点です。慎太郎先生によれば、男子はセンスと瞬発力で一気に伸び、女子はコツコツと積み重ねていくことで学力を構築する傾向があるのだそう。同校ではここに着目した、面倒見のよさが特長です。
完全週6日制で平日は6時間、土曜日は4時間授業を行います。英語や数学では習熟度別授業を行い、生徒の理解度に合わせて丁寧に指導。また、放課後学習にも力を入れています。週に4日、放課後の自習室に英語・数学の教員が常駐して生徒が質問しやすい環境を整備。生徒たちは疑問や不明点を素早く解決し、吸収することができます。
また、同校のカリキュラムの中でも、特に目を引くのが高校からのコースの多彩さです。中学部入学当初は皆同じクラスで学びますが、最終的には、文系(国公立/私立)、理系(国公立/私立)、美術・デザイン、英語科と分かれます。
2科6コース、それぞれにきめ細やかなカリキュラム編成をし、各々の志望に合わせて学力を伸ばし、希望の進路へと進みます。
中高一貫校で気になるのは、中3〜高1での中だるみです。同校では中3での選抜クラス分け、高1での普通科・英語科・美術デザインのコース分け、高2からの大学時受験に向けたクラス分けと、目標が設定されています。
「この過程を経て、生徒たちは折々に自分は何が得意か、将来何になりたいかと熟考し、長所や志望を見極めていきます」と史郎先生。
そこに同校の教師陣のノウハウを結集した、女子の特性を見極めたカリキュラムが連なります。2019年度卒業生の現役進学率は91.6%で、332名の卒業生のうち早慶上理GMARCHへの合格者はのべ192名。国公立大学や難関理系大学へと進学する生徒も多数います。また、美術・デザイン系大学への合格率はほぼ100%を誇ります。
「幼い頃から持っていた夢は何だったか。今、興味があることは、得意なことは何かなどを掘り下げつつ、自分の選択肢を広く捉えてから将来を考えてほしいと思っています」と慎太郎先生が話すように、国府台女子学院には自分の目指した未来へと着実に進むことができる、生徒たちの希望を叶える教育があるのです。
仏教教育による視座の転換が、多様性を理解する素地となる
浄土真宗本願寺派の仏教校である同校は、心の教育として週1時間仏教の授業を実施しています。もちろん、本願寺派の信者を育てる教理学ではありません。
中1では仏教の成り立ちと仏教思想、その後旧約聖書から始まり新約聖書までの概略を学び、ユダヤ教からキリスト教までの流れを見ていきます。中2ではイスラム教や日本の神道・神話、中3ではギリシャ神話や哲学を学びます。高校からは、世界の宗教やカルト宗教、さらに死についても考え、意見を交わすアクティブラーニング型の学習で理解と思考を深めています。
「世界での信仰に対する思いは、私たち日本人が想像するよりも、生活に深く根ざしたものです。将来のグローバル社会に備え、相手の宗教観などのバックグラウンドを正しく、偏見なく学んでおくことが相互理解につながります」(史郎先生)
また、仏教を学ぶことにより、異なる視座を得ることができます。
「例えばキリスト教における愛は絶対なもの。昨今では愛は、家族愛、男女の愛など、かけがえのないものとする風潮があります。しかし、仏教では愛をお金やモノへの執着心と捉え、否定すべきと考えます。仏教の授業でこうした考え方に触れ、はっと気づかされることも多いのではないでしょうか」(慎太郎先生)
自分が常識だと思っていたことが覆るという経験が、世界中に存在する多様な文化や考え方を柔軟に受け入れる基盤となります。違いを認めた上で理解を深めるための学び、これが同校の仏教教育です。
自由な「知の宝庫」で、読解力や表現力を深める
前述のように、仏教を含めた日本の文化を知ることが世界との違いを知るための第一歩となり、異文化理解にもつながるというのが同校の方針です。ネイティブ英語教員による英会話授業、GTEC対策、海外研修など英語力を強化するグローバル教育も重視していますが、一方で国語教育・図書教育にも力を入れています。
2022年改訂の高等学校学習指導要領では、「現代文」が、評論文主体の「論理国語」と小説・詩・短歌・俳句を扱う「文学国語」の選択制となります。論理国語は、「思考力・判断力・表現力等」の創造的・論理的思考力を育むため、論理的に書く力、批判的に読む力の育成を目指しています。
国語を"受験のために"と捉えると、論理国語が有利と考えられますが、史郎先生は現代文が論理国語一辺倒となることを危惧しています。
「論理国語を習得し、契約書を抜かりなく読みこなす力や難解なマニュアルを解読する力は、生きていく上で重要なスキルです。しかし、読解力を高めるためには文学に触れて感動する豊かな感受性を育むことが必要だと思います。小中高の多感な時期に良質な文学に触れることで、行間を読み取る力を養い、複雑な構文も理解する能力が生まれると信じています」(史郎先生)
そこで注目したいのが、約5万冊の蔵書を誇る同校自慢の図書館です。2011年の校舎竣工時に「図書館が中心にある学校」となることを目指して設計されました。
玄関を入ってすぐ、全生徒が行き来する場所に位置し、ガラス越しに見える館内は明るい雰囲気。10教室分と同面積の広々として開放的で誰もが入りやすい、同校の「知の宝庫」です。
入口付近には新着書籍や話題の図書、雑誌をまとめた「ブラウジングエリア」、ノートパソコンが利用でき、書籍とインターネットとで情報検索ができる「調べ学習エリア」、全集が揃う「本の壁の部屋」と奥へ進むごとに、生徒を読書の世界へと誘う構造になっています。さらに特長的なのが中学3年間実施される「情報リテラシー」の時間です。
図書館を利用したこの「情報リテラシー」の授業では、書誌検索とPCを使った検索能力を磨いてきました。それに加え今年度からは、BYODでのICT教育を展開しています。
全教室にWi-Fi設備を施し、生徒自身が選んだタブレットを持参するスタイルを採りました。ICTを積極的に取り入れ、調べ物や発表学習、学校とのコミュニケーション、ポートフォリオ作成に使用します。
今や論文の多くが電子版になっています。新しい知識や適切な情報に辿り着けるかどうかが肝要な時代。そのため、デバイスをノートや筆記具のように身近な物として利用することが目標です。また、タブレット以外の機器も利用できるように、タッチタイピングやWord、Excelなども使いこなせるように指導します。
これらの融合により、生徒たちは書誌検索に精通し、情報をまとめて探究したり、表現できる力を磨いて蓄えていきます。
智恵と慈悲を持ち、世界で活躍する女性へ
国府台女子学院では、生徒たちに「智慧」と「慈悲」を持った女性になってほしいと願っています。
様々なことに関心を持ち、より深く学ぼうとする心が「智慧」、友だちと共に喜び、悲しみを分かち合う心が「慈悲」です。
あいさつや身だしなみなど、当たり前のことを当たり前にできる矜持を持ちながら、「自分はなぜ学ぶのか」「何のために学ぶのか」を常に自問しながら学校生活を送ってほしいというのが先生方の強い思いです。
「本校に通う中で自分の夢を見出し、それを叶えるべく意欲的に努力を積み重ねていける女性になってほしいのです。その上で優しくて思いやりがあれば言うことはありません」と史郎先生は優しいまなざしで語ります。
夢を叶えることを後押しするのが、国府台女子学院での学びであり、主体性を持って過ごせる女子校での生活です。これらの経験が折り重なることが、生徒たち自身が輝く未来を切り拓く際の礎となることは間違いありません。