学校特集
江戸川学園取手中学校・高等学校2020
掲載日:2020年10月28日(水)
同校の教育目標は「世界型人材の育成」、スローガンは「世界に挑め」ですが、生徒が具体的に取り組むための指針として、今年は「初志貫徹」を掲げました。どのような時も夢や目標を忘れずに、モチベーションを保ちつつ自己研鑽を続けていこう、という決意を促すために。一瞬たりとも立ち止まらずに動く。様子見をして周囲と足並みを揃えるのではなく、その教育哲学と積み重ねてきた教育実践の下、独自に、速やかに、動く。このコロナ禍で改めて浮き彫りになった江戸取の強靭な教育姿勢について、校長の竹澤賢司先生にお話を伺いました。
※上は高等部「医科コース」の生徒対象の病院見学ツアーにて。ドクターヘリの前で記念写真
日常の学校生活を過度に制限することなく、
普段通りに学習・部活動・課外活動を実施
生徒は自宅で検温してから登校し、学校に着いたら生徒玄関に設置された3台のサーマルカメラ(体温検知システムカメラ)で二重にチェック。そして、教室に入室する前には手洗いとアルコール消毒。
教室にあるロッカーは廊下に出し、7列だった机の配置を6列に減らして間隔を空け、教卓と生徒たちの間には可動式の幅1m50㎝・高さ2m10㎝のアクリルボードを設置。そして、冷房をつけながら窓を少し開けて換気を徹底。
コロナ感染防止対策に万全を期しながら、江戸取では一斉登校が始まった6月から、授業も部活動もアフタースクール(※)も、ほぼ通常通りに行っています。新たな生活様式で最も重視したのは、検温・消毒と、フィジカルディタンスをしっかりとることを習慣化することでした。
※主体性を伸ばすことを目的とした、計9種157講座に及ぶ自由選択講座
竹澤校長:「ただし、状況は刻々と変化していきますので、全校に周知する『コロナ感染防止のための注意事項』は状況に合わせて更新しています」
注意事項とは、例えば部活動であれば「用具の消毒や扱い方」「部室の活用の仕方(人数制限など)」「トレーニングの仕方」などについて1カ月ごとに更新。考え得る限りきめ細かく丁寧に目配りをし、注意喚起をしています。
部活動を中止したり授業時間を短縮する例はよく耳にしますが、なぜ同校はほぼ普段通りにできるのか。そこには、どのような事態になっても揺るがないだけの教育実践の積み重ねがあるからです。
竹澤校長:「非常時にこそ、夢や目標を見失わずにモチベーションを保つことが大切です。また、このような時はとくに目前のゴールを強く意識することが重要になりますから、休校期間中のオンライン授業もシラバス通りに進め、4月の段階で6月中旬には中間試験を通常通りに実施することを告知しました。試験の結果を見ますと、生徒たちはこれまでの成績をダウンさせることなく、健闘していましたね」
生徒の人格を磨く方法はただ一つ。
それは、教師の人格を磨くこと
4月中、先生方は授業動画を配信したり課題を出すなど、生徒の学習を途切れさせない工夫をする一方で、すべての先生がオンライン授業のための研修を重ねました。その期間はわずか2週間。システム上のことはもちろんのこと、お互いが先生役・生徒役になって授業の進め方を協議するなど、準備は急ピッチで進められました。
そして、ゴールデンウィーク明けからは、通常通りのシラバスでオンライン授業を実施。行わなかったのは、「道徳」「ロングホームルーム」「総合学習(探究)」のみです。
朝8時半。生徒たちは自宅で制服に着替えて、タブレット(もしくはPC)の前に座り、約10分間のホームルームに出席したあと、オンライン授業に臨みました。
主要5教科だけではなく、体育も音楽も技術家庭科もオンラインで行うのは同校らしさの一つでしょう。体育では、先生が教室で画面越しに声をかけながらさまざまなエクササイズを行ったのですが、たまたま通りかかった先生が飛び入りで参加したり、家庭ではお母さんも一緒になって汗を流していたそうです。
そして、驚かされるのは1日の平均勉強時間です。中1でも、授業を含めてじつに7時間以上。最も多かったクラスは、高3「医科コース」の14時間でした。
「今こそ、忍耐する力を育むチャンス。自分で学ぶ力をさらに磨く時」と校長は言いますが、入学してすぐに自宅学習になった中1が実行できているということは、同校にはその教育方針に賛同して入学する生徒がいかに多いことか。また、生徒が不具合なくオンライン学習に移行できるよう、新たな体制作りを速やかに実現できたことの証といえます。
ところで、同校では中1・2は全員がタブレットを所持していますが、それ以外の学年には家庭の通信環境の整備をお願いしなければなりませんでした。でも、それもスムーズに行われたそうです。このこと一つをとっても、保護者の方々の学校に対する篤い信頼が見えてきます。「学力・心力・体力」を育成する同校の三位一体の教育を支える背景には、「保護者・生徒・先生」の三位一体の強力な体制があるのだと、改めて感じさせられました。
この三位一体の体制で、一貫して「さらなる高み」を目指す姿勢は江戸取の真骨頂です。これが意味するのは指導の厳しさではなく、当たり前のことを当たり前にコツコツと積み重ねていく、実直な姿勢がもつ強さです。
竹澤校長:「状況に合わせていかにでも対応できる力は、一朝一夕にできるものではありません。一昨年に創立40周年を迎え、本校もようやく学校としての『型』ができてきたように思います。その型があるから、どのような状況でもブレることなく対処することができるのかもしれません」
休校期間中、生徒たちが戸惑うことなく、普段通りのモチベーションで学習に臨むことができたのは、そのための体制作りはもちろんのこと、生徒たち自身が学校生活の中で「学びの型」を身につけていたからでしょう。
「学びの型」とは、道徳を基軸とした同校が最も大切にする人間教育によって培われるものです。
「学問とともに礼儀やマナーもきちんと身につける。我慢する力や継続する力も自分の『型』として体得する。そういった、人としての基礎をしっかりつくるのが中高時代です」という校長の言葉を、生徒たちは体現しているのです。
普段の学習においても、基礎基本をしっかりと固めると同時に「総合学習(SDGs)」で世界の難題に取り組むなど、多様な学びを通して視界を広げていきますが、「世界型人材を育成するためには、地球規模の問題に目を向け、グローバルな視点で物事をとらえて探究する力をつけないと、未知の状況に柔軟に対応できるタフな学力は身につきません」と校長は言います。
同校が涵養を目指す「江戸取版21世紀型スキル」は、こうして培われるのです。
そして、そのためには「学校自体が、生徒の夢や状況に柔軟に対応できる『学びのプラットフォーム』でなくてはならないと思っています」と校長。
竹澤校長:「このような時こそ、人としての『品格』が問われます。本校では心の教育を土台に教養教育を実践していますが、中国の『四書』の一つ『大学』にもあるように、学問の要諦は人格を磨くことです。『切磋琢磨』という言葉も、もともとは『人格を磨くこと』『学問を磨くこと』の2つを指しています。ですから、人間力の素地を培う中高時代は、基礎基本を大事にすることが最も肝心です」
❶常に感謝の気持ちを持つ
❷人への思いやりの心を持つ
❸運動に勉強に一生懸命努力する
❹夢に向かって忍耐する心を持つ
❺人として正しくない行いを絶対にしない
基礎基本を最重要とする姿勢を「型」とするならば、その「型」があるからこそ、先生方も生徒たちも、どのような局面においても平常心を忘れずに力を発揮できるのでしょう。
竹澤校長:「このような、人として大事なものは何かを忘れなければ、コロナ禍に際しても、それを超えた後にも、輝ける生徒に育ってくれるはずです。そして、教師には『利他の心』が極めて重要になりますが、生徒の人格を磨くためには教師自身の人格を磨くことです。『師弟同行』、これがなくては生徒の人格は育ちません」
2021年度から「4科目型入試」を、
「英語」が必須の「5科目型入試」に
このコロナ禍を、これからの日常の課題としていかなければならない状況の中、同校は早くも入試改革に向けて動き出しています。ここで、入試のトピックを2つご紹介しましょう。
❶2021年度入試は、時間短縮に
まずは来年度の入試について、受験生の負担を軽減する方針を発表しました。
同校の入試は「4科目型」「英語型」「適性検査型」(2021年度より新設)「帰国生」の4種類がありますが、各科目の試験時間を少しずつ短縮し、「お弁当を用意してこなくてもよい」こととします。
❷2022年度入試から「5科目入試」がスタート
これは、私立中高一貫校では全国初の試みですが、4科目入試に英語を加えて「5科目型入試」とすることを決定しました。
英語の試験は、リスニングのみ。5科目合計350点満点で、配点と時間は以下のとおりです。
【国語:100点(50分) 算数:100点(50分) 理・社:100点(計50分) 英語:50点(20分)】
竹澤校長:「英語力が必須の時代ですから、先延ばしにせずに取り入れようと決めました。特別な対策はとらなくても、小学校でしっかりやっていれば6〜7割は取れる問題を想定しています。あとは、様子を見ながらバージョンアップを図っていこうかと。これも本校のモットーである『伸びようとする芽を伸ばす』教育の具現化の一つだと思っています」
また、ランダムではありますが、その他のトピックもお伝えします。
10月10日(土)、今年の文化祭はコロナ禍によりオンラインで実施しました。名付けて「オンライン紫峰祭」。オーディトリアム大ホールからは、部活動の発表や海外研修の体験談などもライブ配信しましたが、1日で1万件を超えるアクセスがありました。
オーストラリアへの中期留学(3カ月間)は現状では10名を募集していますが、今後はさらに増やしていく予定。
●「オンライン留学」の実現を検討中
タームを利用して、海外の学校の授業を受けるなど、オンラインで新しい形の留学を実現させる。
●「ヨーロッパ・アカデミック・ツアー」も実施
ワシントンD.C.とボストン、ニューヨークの3都市を巡り、ハーバード大学で講演を聞いたり、マサチューセッツ工科大学のキャンパスツアーや国連本部の見学などを実施する「アメリカ・アカデミック・ツアー(中1〜高2対象)」のヨーロッパ版を実施予定。
同校の最新ニュースは次々と更新されていますので、ホームページもご確認ください。
※江戸取のホームページはこちら→http://www.e-t.ed.jp/index.html
道徳を基軸とした人間教育を大切にしながら、世界型人材にふさわしい総合力を丁寧に育む同校。
最後に、校長は普遍的な、でも今だからこそさらに心に響くお話を教えてくれました。
同校のコミュニティーホールの入り口には、マザー・テレサのブロンズ像があります。これは、卒業生から寄贈されたものですが、道徳教育の一環として、偉人たちの生き方を通してリーダーのあり方を学ぶ「校長講話」(中1/年6回)にも、マザー・テレサは登場します。
竹澤校長:「マザー・テレサに感銘を受けた人が『私は何をすべきでしょうか』と問うた時、マザー・テレサは『今、あなたのそばにいる人を大切になさい』と言ったそうです。カール・ブッセの『山のあなた』の詩(上田敏訳)の冒頭に『山のあなたの 空遠く「幸」住むと 人のいふ』という一節がありますが、幸いは山のあなたにあるのではなく、本当は私たちの身近にあるものだと教えてくれたのでしょう」
遠くに見える壮大な理想には、最初の小さな一歩を踏み出すところから始めなければ辿り着けない。そして、その一歩一歩を着実に積み重ねることが理想にたどり着く唯一の方法なのだということを実感する、それが江戸取での6年間です。
学校創立(1978年)から42年間で東大335名、「高校医科コース」設立(1993年)からの27年間で1565名の医学部合格者を輩出。このインパクトの強い数字の背景には、学びを楽しむ時間と空間を創出する先生方と、向上心を保ちながら授業に臨むことが「当たり前」ととらえる生徒たちの姿があります。
「規律ある進学校」として心力・学力・体力の三位一体の教育を展開する同校。高校の「「医科コース」「東大コース」「難関大コース」に合わせて、2016年からは中学でも「東大ジュニアコース」「医科ジュニアコース」「難関大ジュニアコース」の3コース制にしました。中学入学時から、自分の夢や目標を具体的にイメージするためです。
竹澤校長:「志望は途中で変わることもあるでしょう。それでいいのです。それよりも、早い段階から自分の夢や目標をイメージできれば、さまざまな『気づき』が得られますし、仲間と互いに切磋琢磨もできるでしょう。そのように、自分の進路を考える羅針盤を持つことが大事だと考え、中学にコース制を導入したのです」
そして、コース変更を可能にするため、中等部では各コースとも授業のカリキュラムは共通。そのうえで、各コースに合わせたさまざまなプログラムを総合学習やアフタースクールなどで実施しています。
「規律とは、人を思いやる心」「人格を磨いてこそ学力も磨かれる」「夢や志が人を育てる」「生徒の夢は学校の目標」など、竹澤校長が常々口にする言葉は同校の教育を端的に物語っています。
竹澤校長:「人間力を構築するために最も大事なのは、教育の質を落とさないことです。人間性の劣化が、物事の質を劣化させますから。だからこそ、学校は長期ビジョンをもって人づくりをしていかなければなりません。本校はグランドデザインを策定し、各教育分野が世界型人材の育成に取り組んでいます」
その「人づくり」のために、同校ではさまざまなプログラムを通して世界型人材に大切な、育成すべき資質・能力を「えどとり力」として定義し、5つのl項目を示しています。
・1つ目は、徳性と品格
・2つ目は、主体性とリーダーシップ
・3つ目は、社会貢献と仕事力
・4つ目は、コミュニケーションとコラボレーション
・5つ目は、知見と教養
そして、これらを根底から大きく支えるのが、モットーとして掲げる「授業が一番」です。
この大きな指針の下、同校は「規律ある進学校」として「伸びようとする芽を伸ばす教育」を実践しながら、建学の精神である「世界を築く礎となる人材」の育成に努めています。
授業時間を50分から45分に短縮し、生み出された約1時間で放課後に自由選択制のアフタースクール(計9種157講座)を実施するなど、生徒の主体性の涵養に力を注いでいます。
竹澤校長:「与えられたものだけではなく、本物の学力とは『+α』があってこそ身につきます。いろいろな本を読む、人の話を聞く、議論をする。そのような幅のある学びは、これからいっそう求められていきます。生徒が主体的に選ぶアフタースクールは、その『+α』を得る大きなきっかけになると思っています」
2014年に小学校を開校し、茨城県初の小中高12カ年一貫教育校になった同校。2019年より入学定員300名(一貫生90名・中学入学生210名)となり、中学入試の難度は高まっていますが、人気を堅持しています。ご紹介した以外に「イベント教育」や「国際教育」なども充実し、海外研修先も希望進路に応じて多種多様ですが、詳しくは同校のホームページをご参照ください。