学校特集
自修館中等教育学校2020
掲載日:2020年9月1日(火)
「探究」は、学校教育現場でよく耳にする言葉となっています。しかし、文部科学省が奨励するはるか前、1999年の創立以来、教育の柱を「探究」としてきたのが同校です。「自修館=探究」と言っても過言ではありません。その蓄積をもとに昨年「探究入試(適性検査型入試)」を新設しましたが、今年は志願者数も入学者数も増やしました。「探究入試で入学した生徒は、読み書きの力があるように思います」と、入試広報室長の佐藤信先生は語ります。同校に満ちる「探究」と、それが一人ひとりの道筋を照らす成果について、また、一昨年に新装した図書館「com+com」の活動について、佐藤先生と司書の勝田理香先生、室井久美子先生にお話を伺いました。
※上の写真は、「探究」で行われるフィールドワークでJAXAを訪ねたひとコマ
「オタク、大歓迎!」
同校が実践する「探究」とはどんなもの?
同校の教育目標は「自主・自律の精神に富み、自学・自修・実践できる『生きる力』を育む」こと。
「自学」とは「何を学ぶか」、「自修」とは「そこから何を身につけるか」、「実践」とは「それを以って何をするか」ということ。まさに、同校の校名にすべてが表されています。
それを具現化するために「探究」を教育の柱とし、物事の本質を追究する姿勢とスキルを身につけ、既存のものではなく自分で創り出す力、それを相手に伝える力、そして行動力、協働力などの育成を目指す教育が日々実践されています。
ここで、改めて「探究」とは何なのかを振り返っておきます。
新学習指導要領でもキーワードの一つになっていますが、そこには「『思考力・判断力・表現力』を育成するために、生徒自らが課題を設定し、解決に向けて情報を収集・整理・分析したり、周囲の人と意見交換・協働したりしながら進めていく学習活動のこと」というようなことが記されています。
でも、次の佐藤先生の言葉で、一気にわかりやすくなるのではないでしょうか。
佐藤先生:「オタク、大歓迎です。うちの学校の『探究』では、生徒が興味・関心があるものであれば何でもアリです。ですから我々も楽しいですよ、おもしろい生徒がいっぱいいますから(笑)」
探究テーマがメジャーでもマニアックでも、自分が興味を惹かれたことをとことん追究していくことで、それを基軸に「思考力・判断力・表現力」という普遍的な学力と、コミュニケーション力や協働力などの人間力が身についていくのです。
つまり、同校の「探究」は全人教育であり、そして、そこにワクワク・ドキドキがあることが一番の特徴です。
以下に、その実例を抜粋してご紹介しましょう。
生徒たちが主体的に、闊達に活動する様子がリアルに伝わってきますが、このような姿こそが同校の「探究」の魅力と成果を物語っているのではないでしょうか。
そう語る女子の探究テーマは「フェアトレード」。「探究」に端を発して視界を広げ、二度目の挑戦で少年少女国連大使に選ばれました。そして、スイスとスウェーデンで開催された世界大会に参加。また、校内で初めて「フェアトレード」を開催して陣頭指揮をとり、インターアクトも立ち上げるなど忙しい学校生活を送っていますが、さまざまに学んだことを英語でプレゼンするため、英語の学習にも意欲的に取り組んでいます。
「探究」では中間発表を行うほか、「探究文化発表会・文化祭」でもゼミ単位でステージプレゼンをするなど、綿密なプロセスをたどって行われますが、一つの大きな区切りとして、4年生で1万字の「探究修論」を仕上げます。
ちなみに、同校の1期生は今、社会の最前線で活躍する30代後半に差し掛かったところ。忙しい合間を縫って母校の後輩たちのために自分の経験を話しに来てくれる先輩も多いですが、先生が探究テーマの似た先輩と在校生を引き合わせてくれるなど、個別の交流も頻繁です。このような先輩と後輩の強い絆も、同校の「探究」が生み出した貴重な財産と言えます。
「探究」を大きく支える図書館「com+com」。
休校中も司書の先生方はフル稼働
そして、探究の学びを支える一つに、図書館「com+com」があります。
4階フロアの廊下を挟んだ左右4教室ずつ計8教室を改装し、一昨年の秋にオープンしたばかりですが、奥行きがあるため入り口付近は賑やかで、一番奥の「自習室」に近くづくにしたがって静かになるというユニークな図書館です。
communication, combination, comfortable, common, communityなど、「com+com」にはたくさんの意味が込められていますが、図書館の中にもさまざまな居方があるのは同校らしいところです。
勝田先生:「たしかに、『静かに!』と注意することはありませんね(笑)。授業で使うこともありますが、探究活動の一つの拠点として、また自分たちの情報発信基地として活用してもらい、『みんなで創る図書館』になればいいなと思っています」
生徒から探究の資料としてほしいと書籍の要望が出れば、ほぼ99%購入していますが、先輩方が自分の活用した本を後輩のために残していってくれることも多いのだとか。
そんな図書館には、生徒が小さな箱に自分のお気に入りの本をカスタマイズして仲間に薦める「ひと箱図書館」がそこかしこにあるなど、ユニークな企画であふれています。
そして、コロナ禍による休校中でも、司書の先生方は大忙しでした。なぜなら......。
室井先生:「4年生は探究修論を書かなくてはならないのですが、そのためにも蔵書検索サイトを立ち上げ、ゴールデンウィーク明けから郵送貸し出しサービスを開始したのです。そうしたところ、嬉しいことに2日間で全校で100件を超えるリクエストがあり、他の先生方の手を借りながら日々郵送準備に明け暮れました」
勝田先生:「京都の府立図書館で先着500名に郵送貸し出しサービスをしていることをニュースで知って、これはいいな、やってみようと。そこで、公共図書館や大学図書館向けの『カーリル』という貸し出し状況を横断検索できるサービスを利用して、5月10日からリリースしました。早い者勝ち、貸し出し期限はなしで。生徒たちが素早く反応してくれたのは嬉しかったですね。会えない分、おもしろいことを仕掛けたいと思ったのですが、私たちもチャレンジのしがいがありました(笑)」
保護者の方への貸し出しも実施しましたが、こちらも盛況だったそうです。ちなみに、郵送費は無料にできました。
室井先生:「図書館をリニューアルする際に集めた寄付金が残っていたので、それで賄わせていただきました(笑)」
この図書の郵送貸し出しサービスからも、何事も生徒のためを第一義とする先生方の発想と、それを卒業生や保護者の方々が力強く支える構図が見えてきます。大人たちから子どもたちへの、愛の贈り物とも言えます。
また、在校生が海外の大学に進学した先輩とzoomを活用して交流する「お茶会のような相談会」の開催など、この難局をきっかけに、今後に生きるだろう新しいアイデアもたくさん生まれたそうです。
ますます深化する「探究」。
「探究入試」も人気上昇中!
同校では、入学式の前にプレスクールが行われますが、そのハイライトは6年間使う机と椅子を自分で組み立てること。
木の部品を手に試行錯誤することが、「同校での学校生活=探究」の始まりです。
創立からの年数と同様の歴史を持つ同校の「探究」ですが、以前は、1年生から4年生までの4年間の学びでした。ところが昨年からは5・6年生に「選択探究」を設けて継続して学べるようにし、さらに今年からは5年生は必修、6年生は「選択探究」としました。
1年生1学期〜3学期......「探究」の進め方を学ぶ(クラス・チーム単位)
1年生4学期〜2年生......自分でテーマを決め、調査を開始(ゼミ・個人単位)
2年生〜3年生...............テーマを掘り下げ、考えをまとめる(ゼミ・個人単位)
4年生...........................「探究修論」(1万字)を執筆・発表 ※英語でも発表
5年生...........................大学など研究機関のアドバイスを受けながら、内容をさらに掘り下げる
6年生...........................「選択探究」 ※引き続き、大学など研究機関のアドバイスを受けながら、内容をますます深化させる
ますます深化する同校の「探究」ですが、今年2年目を迎えた「探究入試」は昨年以上の人気で、1クラス分を優に超える生徒が入学しました。
佐藤先生:「探究入試で入学した生徒たちには、読み書きの力があると感じています。実際、昨年入学した生徒の様子を見ていると、最初は普通の成績でも徐々に上位を占めていっていますので、『探究』を進めていくなかでさらに成長してくれるだろうと期待しています。また、今の子どもたちは『情報の掘り方』は知っていても、『広げ方』や『つなげ方』が弱い傾向にあります。ですから、『探究』の前半過程ではフィールドワークやゼミ形式の討論を重ねることで視界を広げていけるようプログラムを構成しているのですが、今後はさらにブラッシュアップしていきたいと思っています」
そして、もう一つ。
今年の新入生は135名でしたが、同校は先生一人あたりの生徒数が15.1人。一人ひとりにきめ細かに対応するため少人数制をとっていますが、この見通しの良さは今回の非常時にも功を奏したようです。
コロナ禍での休校中、朝8時半には全員集合してオンラインホームルームを実施し、ライブ配信と動画配信を併用して授業を行いましたが、ここでも個別に目を向ける先生方の姿がありました。
佐藤先生:「すでに自立できている生徒は、課題も着々と進めていきます。ただ、自分でどんどん進める生徒たちを見ていると、嬉しい反面、『では、学校とは?』と教員として自問する場面もありましたが(笑)。逆に、まだ慣れていない新入生や、思うように進められない生徒には電話をしてフォローするなど、個々の様子を見ながら対応しました」
自立して「自修」する生徒たちの姿は、先生方が「教えすぎない」スタンスをとる同校の教育のこの上ない成果ですが、何より常に見守られているという安心感が、生徒たちの探究心を大きく支えているのだと感じさせられます。
ほかにも、同校には科学的手法で生きる力を培う「セフルサイエンス」や、国際理解教育、土曜セミナーなどさまざまな独自プログラムがありますが、すべてが「探究」と連環して、生徒一人ひとりの将来への道筋を大きく照らし出ています。
※「国際理解」の詳細はこちら→https://www.jishukan.ed.jp/education/English.php
※「体験学習・土曜セミナー」の詳細はこちら→https://www.jishukan.ed.jp/education/experience-dosemi.php
佐藤先生:「自分で決めた探究テーマを大学でも学び続けたいという生徒は少なくありませんが、本当に望む方向に進むため、実際、大学入学後にさらに伸びている卒業生が多いことは嬉しい限りです。本校の6年間で身につけることは新しい大学入試が求めるものにも対応していますし、何より『探究』は将来の仕事や人間関係など、人生そのものに活きていきますので、今後もさらなる質の向上を目指していきたいと思っています」