学校特集
富士見中学校高等学校2020
掲載日:2020年9月10日(木)
2020年に創立80周年を迎えた富士見中学校高等学校。高校募集を行わない完全中高一貫教育を通して、建学の精神「純真・勤勉・着実」を受け継ぐ生徒たちを育てています。
教育目標である「社会に貢献できる自立した女性の育成」を目指し、学年ごとにステップアップしながら学ぶ「探究プログラム」を実施。この探究プログラムの"学びの核" を担うのが、創立80周年記念事業の一環として竣工された図書館「Learning Hub」です。人や情報を"つなぐ"場所として、新型コロナウイルス感染症の拡大防止による休校期間中も大きな役割を担いました。
中学探究プログラム、そしてコロナ禍でも探究ができるよう工夫された中2の「ねりま探究」について、中2学年主任の渡辺 潤先生と司書教諭の宗 愛子先生にお話を伺いました。
「社会に貢献できる自立した女性」を目指して身につける「17の力」
学年ごとにステップアップする探究プログラム。
中学では自分軸を深め、高校では社会軸で視野を広げる
「社会に貢献できる自立した女性の育成」を教育目標に、「自分と向き合う力」「人と向き合う力」「課題と向き合う力」の3つの力を育む同校。これらの力を育むために必要となる具体的な目標が「自分の意見を形成する力」「チャレンジする力」などの「17の力」です。
「17の力」は、授業導入時や生徒自身が振り返りを行うルーブリック評価などに使われています。
同校では、この「17の力」を養うために、課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現、振り返りを学ぶ「探究プログラム」に力を入れています。学年ごとに重視するテーマを決めており、中1では課題設定を行う「問う」、中2では情報収集する「調べる」、中3では分析力や表現方法を磨く「伝える」ことに重点を置いています。こうして学年ごとにステップアップすることで、中学では自分の関心を深める自分軸、高校では社会に目を向ける社会軸を培い、生徒の視野を広げていきます。
探究プログラムは学年ごとに身につける力を設定するだけでなく、1学期、2学期、3学期と段階を踏んで学べるように設計されています。
「今年は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため休校期間があり、登校が始まってからも生徒が密集するような学校行事の実施は難しくなりました。中学の探究プログラムは、『生きもの探究教室(中1)』などのように、行事と連動したオフラインの学びが中心です。どうすればコロナ禍でも探究プログラムを続けられるのか、ゼロから考え直しました」(司書教諭・宗 愛子先生)
先生方は教科の枠を超えて相談・対応し、コロナ禍に対応する授業を構築しました。
探究をフォローする図書館オンライン学習支援「Learning Hubサイト」
上質な情報を集め、探究学習を自宅でも可能に
新型コロナウイルス感染症拡大防止のための休校期間中、オンライン授業を4月からスタートしました。
「『ステイホームの時間こそ、自ら深く学ぶ"探究"が大事』と感じました。ただ、自宅で情報収集しようとするとインターネット検索が中心になります。できれば、上質な情報にアクセスできる環境を整えたいと思いました」(宗先生)
宗先生は情報科の教員と相談し、図書館の名前を冠した図書館オンライン学習支援「Learning Hubサイト(通称:L-Hubサイト)」を作成。4月14日に在校生向けに公開しました。
「サイトには、『探究学習のすすめ方』や中1から高3の探究プログラムの課題、教科別の外部リンク集などが掲載されています。いち早くサイトを公開したことで、オンライン授業や探究プログラムなどの場面で、生徒と教員のコミュニケーションが円滑に進むようになりました」と宗先生。
L-Hubサイトは探究学習だけでなく、図書館の役割も担っています。サイト内に作成した、生徒がお気に入りの書籍を書き込める『あなたのおすすめの本を教えて』というページには、学年を問わずたくさんの生徒たちが紹介文を書き込みました。
人や情報を"つなぐ"図書館「Learning Hub」は、オンラインでも生徒たちの学びを支えているのです。
答えのない課題に向き合う 中2の「ねりま探究」
世界から地域へ。自分たちにできることを考えながら目を向ける
先の宗先生のお話にもある通り、コロナ禍における探究プログラムでは、オフラインの学びをオンラインにどう転換するかが課題でした。中2の探究プログラムは昨年度まで上野・浅草で行っていたフィールドワークを、今年度から学校所在地である練馬区内の施設と協力した「ねりま探究」に変更するために、かねてより準備が進められていました。
「本校がある練馬区には、魅力的な施設・観光地がたくさんあります。区外から通う生徒もいるので、卒業するまでの間に、学校とその地域により親しみを持ってもらいたいと思っていました。当初はフィールドワークができるように手配を進めていたのですが、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため実施は難しくなりました。それでも練馬区内の施設の方々と共に、オンラインで探究プログラムが進められるように『ねりま探究』を考えていったのです」(中2学年主任・渡辺 潤先生)
ねりま探究への足がかりとして、生徒たちは休校期間中にSDGsなどをL-Hubサイトを活用しながら調べ、答えのない課題に向き合う姿勢を学びました。
「高1生が昨年発表した『SDGs探究活動』を発端に、SDGsついて800字のレポートにまとめました。生徒たちは世界的な視野で設定された問題を、自分事として捉えるのが難しかったと思います。そこで次に、中2生と年齢が近い中高生が、地域や社会に貢献するためにどのような活動をしているのかを新聞のデータベースを使い調べました」(渡辺先生)
調査するうちに、「自分たちにできることは何だろう」という意識が生徒たちに芽生えます。そこで、学校所在地である練馬区に着目する、ねりま探究へと意識を向けていくのです。
中学生の視点を取り入れた地域活性化につなげる
主体的に考え、行動できるきっかけに
ねりま探究では「練馬の困った!みんなで解決!!」を課題に、練馬区立貫井図書館、練馬区立石神井公園ふるさと文化館、ねりま観光センター、サンツ中村橋商店街の施設・団体と協力し、中学生の視点で答えのない課題に取り組みます。
施設の方々と直接会わなくても情報収集ができるように、インタビュー動画やオンラインインタビューを実施。最終的に、生徒一人ひとりが考えた「練馬の困った」の解決方法を数十秒のプレゼン動画にまとめ、担当する施設の方へ向けて発表する予定です。
インタビュー動画は、宗先生が各団体の代表者に「困っていること」「今、一番必要なこと」「中学生に期待すること」という3つの質問をオンラインで行い作成。分散登校期間中の生徒たちが動画を観て、担当する施設への問いを一人ひとりで考えました。
「自分で問いを深めた後は、4人ほどのグループで共有します。クラスメートの問いを聞くことで多様な考え方に触れ、今後の探究プログラムに活かしていきます」(渡辺先生)
グループで問いを深めた後は、オンラインインタビューで質問が重複しないように、意見を共有できるスプレッドシートに書き込みます。
「オンラインインタビューに向けて、練馬区立石神井公園ふるさと文化館に足を運んだ生徒もいました。その生徒は施設内を写真や動画で撮影し、同館を訪れることができないクラスメートと共有してくれたのです。このように、自発的に行動する生徒が一人現れると、派生してどんどん学びが広がっていきます。本来の探究らしさを感じ、うれしかったですね」(渡辺先生)
生徒と施設の方をつなげたオンラインインタビューでは、テレビ会議などに使うZoomを使用。生徒からは次々と質問の手があがり、20分間という当初の予定を超えて、熱意に満ちた時間となりました。
インタビュー中、ある生徒から、「ねりこ」(ねりコレ〈ねりまのオススメ商品コレクション〉事業のキャラクター。ねりま観光センターに雇われている)をショートムービー共有アプリ内で踊らせていいかという質問も飛び出しました。施設の方から「キャラクターを踊らせることで、何につなげたいの?」と尋ねられ、「観光地で踊るキャラクターを同アプリに投稿することで、キャラクター検索から観光地の誘致につなげたい」と答えたそうです。
「自分たちで考えるだけでなく、施設の方と対話することで、さらに考えを深めることができました」(渡辺先生)
施設の方からは、練馬区の観光につながる新しい発見が中学生の視点から生まれることが期待されています。
どんな状況でも自ら考えてやり遂げる力を育む
探究プログラムの成果発表など、文化祭はウェブで開催
例年、同校では9月に開催する芙雪祭(文化祭)で探究プログラムの発表を行います。特に中学探究プログラムの集大成といえる中3は、1年間かけて「卒業研究」に取り組み、芙雪祭で中間発表を、3学期の「中3卒業研究ポスター発表会」で披露してきました。今年は新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、芙雪祭はウェブ上で開催。中1・中2は探究プログラムの成果発表をします。中3は別の時期に中間発表を行う予定です。
「新型コロナウイルス感染症の拡大防止により、探究プログラムには変化がありました。それでも、17の力を育む本校の思いに変わりはありません。L-Hubサイトでオンライン学習の環境を整え、自宅で行う作業時間とクラスメートと共有する時間のメリハリをつけました。どんな状況でも学び続けられるように発展を遂げたと思います」(宗先生)
「コロナ禍における学習により、生徒たちには、まず自分で考え、それから友だちと考えを共有するという流れがしっかりと構築できました。L-Hubサイトで告知した公益財団法人図書館振興財団が行う『図書館を使った調べる学習コンクール』に自ら『応募したい』と手をあげる生徒もいて、自分で考えて行動する力が備わってきたと感じます」(渡辺先生)
中高6年間を通して行う探究プログラム。高校生になると自分の関心ごとから社会に向けて視野が広がっていきます。
「大学の進路相談では、これまで『推薦入試を受けたい。学部に関連する本は何がありますか?』と受け身での質問をする生徒がいましたが、最近は、自分で必要な本を探した上で、『これ以外に使える本はありますか?』と尋ねてくるようになってきています。生徒と教員の間に信頼が育っているだけでなく、中高の探究プログラムを通して、自分が決めた進路に向けて、考えて行動できるように成長したと感じますね」(宗先生)
どんな状況においても自ら考えてやり遂げる力を育む同校。時代や環境の変化に臨機応変に対応する先生方の背中からは、安心して学べる環境だけでなく、生徒たちが師として仰ぐ姿勢も感じられます。
同校では、2021年度の入試を例年通り2月1日、2日、3日に一般入試、2020年度から開始した「論理的に考える力」を重視する算数1教科入試を2月2日午後に行います。新型コロナウイルス感染症拡大防止の対応策については今後発表を予定しており、注目が集まります。