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学校特集

女子聖学院中学校・高等学校2020

ICT環境を整備し、コミュニケーションを軸とした学びが深化中
昨秋「フューチャールーム」が完成。ICTを活用した学びが加速している

掲載日:2020年9月23日(水)

創立から115年。キリスト教教育と女子教育という2つのアイデンティティーを土台に、「自らの賜物を用いて他者と共に歩む事のできる女性」を育てる同校ですが、その教育スローガンは「Be a Messenger〜語ることばをもつ人を育てます〜」。生徒たちが生きる次代を見据えて、自分のことばをもつ女性の育成を目指す同校は今、ICT環境を整備し、主体性の涵養にますます力を注いでいます。その具体的な取り組みについて、社会科の中井嘉子先生と、数学科の川村明子先生にお話を伺いました。

■コロナ禍への対応も万全

一斉登校後も、
感染防止のために慎重に、きめ細かく対応

女子聖学院_登校風景。上はコロナ禍の前のもの
登校風景。上はコロナ禍の前のもの

6月1日、学校が再開し、入学式が行われました。生徒たちを迎えたのは、先生方と「パパプロ」のみなさん。パパプロというのは、同校の多様な活動をサポートするお父さん方の団体のこと。先生方とお父さん方が、登校してきた生徒たちの検温、手と靴底のアルコール消毒などを細やかに見守っていました。
このような学校と保護者の方々の固い結束、そして「靴底の消毒」にまで細心の注意を払うところからも、生徒への丁寧な心配りと、そこに流れる同校の温かな空気が伝わってきます。

中井先生:「できる限り、慎重に対応しているとは思っています。今も、食事時の感染リスクを回避するため、基本的には昼食を食べずに帰宅する体制です(8月初旬時点)。6コマの授業はそのままに、1コマを30分に短縮して。ただ、午後に課外授業を受ける生徒は、全員シールドを持ち歩いていますので、それを立てて食事をするようにしています」

遡ること半年前。休校を余儀なくされた生徒たちに、以下のメッセージが送られました。
「こういう時だからこそ、謙虚に出来事を受け止め、その中にある恵みと喜びを見出せる人になってほしいと思います。そして、周りの人を思いやり、自らの行動に責任をもって、この時を過ごしてください」

そして、山口校長やチャプレンが配信した礼拝の動画視聴から1日が始まる、新しい形の学習生活が始まったのです。 【午前中】決められた時間割分の授業動画を視聴して学習→【午後】課題に取り組み、終えた課題をGoogle Classroomで提出→【その日の学習が終了】 というのが1日のサイクルでした。

女子聖学院_数学科の川村明子先生
数学科の川村明子先生

川村先生:「『計画性をもつ』ことをテーマに、あえて生徒に委ねた部分もありましたので、スケジュールを立てることが身についていない生徒は大変だったと思います。本人もそのことに気づいたでしょうし、我々教員も普段どのように指導しなければならないかと、改めて考えさせられた部分もあります。この休校期間中は、いろいろな方向から新たな課題を見つけるきっかけになったことは確かですね」

とはいえ、生徒に聞いてみると一定数の生徒が開始時間を決めて学習を始めることができており、多くの生徒が少し遅れてしまっても午前中に取り組んだうえ、決められた時間までに課題を提出することができていたとのこと。そこからは、慣れない環境に戸惑いながらも、自らを律しようと努力した生徒たちの姿が見えてきます。
また、学びの機会の制約を最小限に留めるためにオンライン授業はもちろんのこと、きめ細かな情報発信を続けるなど、先生方の奮闘も続きました。そのうちの一つ、担任の先生がオンラインで個別面談を実施したことも、生徒たちの精神面を大きく支えた要因でしょう。


■教育理念につながるICT活用

コミュニケーションの中で学び合う、
ICT教育の拠点「フューチャールーム」がオープン

女子聖学院_フューチャールームでの授業の様子
フューチャールームでの授業の様子

休校期間中の授業動画配信などにも同校のICTへの対応力が活かされましたが、ここで、新たにスタートしているICTを活用した取り組みをご紹介しましょう。

「Be a Messenger」を教育スローガンとする同校には、発信力を培う場がたくさんありますが、より生徒主体のクリエイティブな授業を推進するために、昨年9月、特別教室「フューチャールーム」がオープンしました。
同時に、主要5教科の若手の先生方5名による「ICTプロジェクトチーム」も発足。川村先生もICTプロジェクト委員の一人です。その5名の先生方が牽引役となり、さまざまに工夫された授業が始まっています。

川村先生:「ICTはあくまでもツールですが、活用することで表現の選択肢を広げ、学びの質を向上させたいと思っています。設備が完成すると気持ちもそこに乗ってきますので、生徒はもちろんのこと、教員の機運も高まってきています。そこで、ICTをどのように効果的に使っていくか、教員研修会を重ねて実践例をシェアし合っているところです」

フューチャールームには、正面と側面の2面にプロジェクター4台を配備。正面のプロジェクターは2画面表示が可能な電子黒板機能も備え、1クラス分36台のタブレットをプロジェクターと接続できる情報通信システムも完備。また、6基の可動式ホワイトボードも用意し、生徒主体のアクティブラーニングに最適な環境が整いました。

ここで、スタートしたばかりの、ICTを活用した独自の授業をいくつかご紹介しましょう。すべて中1での実践例になります。

【ICT×数学】
「体験する数学」で、概念をつかむ力をつける

初めて関数を習う中1の授業で「座標平面」を説明するために、川村先生は宝探しを題材にした数学アニメーションを導入しました。

川村先生:「そのアニメには、自分のスタート地点と目的地、あとはいくつかの目印が点々とあるだけの地図が出てくるのですが、生徒たちは『いったい、何が始まるの?』と身を乗り出しました。その反応には、恰好の素材を見つけた甲斐があったと嬉しかったですね。その地図を見て『目的地までの距離はどれくらいか』『目的地に行くためにはどういうルートで行けばいいか』を考えるのですが、ICTを使って座標平面を描き、面を縦と横に区切って、『縦にいくつ、横にいくつ』とカウントしていけば距離感の比較ができるので、生徒たちも『ああ、そうか!』と」

女子聖学院_この表情から、授業の楽しさが伝わってくる
この表情から、授業の楽しさが伝わってくる

このように、一見難しそうな問題でもICTの活用の仕方によっては、敷居を下げた入り口を作ることができると川村先生は言います。専門用語を使った講義を聞いているだけでは頭の中を素通りしがちでも、ICTのメリットを活かして構造的にとらえ、「概念」をつかもうというわけです。概念さえつかめれば、知識は着地します。

川村先生:「男子はすんなり理解することでも、女子は『なぜ?』と理由を聞きたがる傾向にあります。ですから視覚的なヒントを与えながら、身近な素材を使って根拠を示してあげることが大事だと思っています。数式だけでなく言葉も使い、フューチャールームの空間全体をダイナミックに使っていくことで思考力も高まります。この時の授業でも、アニメを用いることで座標平面が持つ意味や役割を理解してくれたように思います。今後はタブレットにグラフを描くアプリを入れて、グラフを動かしてみるなど、紙ではできない学習も取り入れていきたいですね」

ちなみに、川村先生が見つけたアニメは英語版だったため、字幕をつけて使用したそうです。

【ICT×社会(歴史)】
アナログな「KP法」も、ICTと併用することでますます効果的に

昨年から、歴史の授業に「KP法(紙芝居プレゼンテーション法)を取り入れている中井先生。その時間で学ぶことの「骨格」にあたる要素をまとめた数枚の紙を貼り出し、全体の流れを確認しながら学ぶ授業を展開しています。

中井先生:「中1の始めは、4科入試で入学した生徒と2科入試で入学した生徒では社会の知識の定着度に違いがありますので、予備知識を持って授業に臨ませたいと思っていたところ、KP法を知って取り入れたのです。同時に、授業内で反転学習ができればいいなと」

授業の流れはこうです。
先生がKP法で全体の流れと要点を示し、まず一問一答のプリントに取り組む。その後、詳しくエピソードを交えながら、出来事などをより具体的にイメージしていく。こうすれば、「3回頭をめぐらすことができる」と中井先生は言います。
このKP法自体はアナログな方法ではありますが、ICTと組み合わせることで学習効果がグンと高まったのだとか。

女子聖学院_KP法を使ってプレゼンをする生徒
KP法を使ってプレゼンをする生徒

中井先生:「これまでもKP法で要点を説明した後、パワーポイントを使って肖像画や建造物の画像を見せていましたが、一つずつしか紹介できませんでしたので、全体の流れがどうしてもつかみにくかったのです。でも、フューチャールームなら、プロジェクターに史料などを投影したまま、側面のホワイドボードを随時参照し、『今、どの部分をやっているのか』を確認することができます。歴史的出来事を全体の流れの中で追いやすくなりました」

ところで、フューチャールームでの授業になると、生徒たちの様子が違うのだそうです。「いつもよりテンションが高いのです。学ぶ環境を整えることも、生徒たちのモチベーションアップにつながるのだと改めて実感しました」と中井先生。

そして、昨年の後期の中間試験前に、中井先生は「みんなもやってみない?」と、生徒に持ちかけたそうです。既習内容についてKPにまとめて発表することで、発表する生徒はもちろん、聞いている生徒にとっても復習になるからです。

中井先生:「すると、思いの外、たくさん手が挙がりました。普段から積極的な生徒だけでなく、引っ込み思案な生徒まで。自信があるわけではなくても、とにかく『やります!』と言える生徒たちを見て、意欲的になっていることがスゴイと思いましたし、嬉しかったですね。ちなみに、私自身も授業の前にKPを書き出しますが、『あれも伝えたい、これも伝えたい』ということを自分の中で一度削いでいく作業が必要になりますので、その点についてもKP法は有効だと実感しています」

英語の実践例
女子聖学院_手作りした英単語カルタを互いに共有する
手作りした英単語カルタを互いに共有する

【ICT×英単語】
タブレットを使って、英単語を絵で表す
英単語の意味を本質的にとらえ、知識として落とし込むことを目的とした試みが「英単語カルタの作成」です。生徒一人ひとりが英単語が表す意味をプレゼン用アプリでイラストに描き起こし、イラスト入りの英単語カードを作って、そのストーリーを発表しました。

女子聖学院_スキット動画を作成中の生徒たち
スキット動画を作成中の生徒たち

【ICT×会話表現】
スキット(寸劇)の動画を作成
対話の中で使う「生きた表現」を体験するため、スキットの動画作成に挑戦しました。タブレットで撮影したものをアプリで編集、表紙などのスライドも作成して完成。人に見せることを意識して、発音や会話のテンポにも気を遣い、どのようなシチュエーションにするかなど、イメージを膨らませながら制作する生徒たちの様子はとても楽しそうでした。

国語の実践例
女子聖学院_「聞く話す」の授業のひとコマ
「聞く話す」の授業のひとコマ

【ICT×スピーチ】
「聞く話す」授業で、スピーチに挑戦
中1・2では週に1時間「聞く話す」という国語の授業があります。これは、国語の4技能をバランス良く伸ばすことを目的に、ディスカッションやプレゼンを中心にしたもの。そこで「人の心を動かすスピーチ」に挑戦しようと、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんの国連でのスピーチ映像を視聴しました。その後、「環境問題について考えよう」をテーマに、生徒たちは約1000字の原稿を作成。プレゼンターに徹するために原稿を暗誦し、タブレットとプレゼンテーションアプリを駆使して提示する資料も整え、発表を行いました。


女子聖学院_理科実験の様子。中2では週1時間の理科実験授業がある
理科実験の様子。中2では週1時間の理科実験授業がある

川村先生:「旧来の授業法が知識伝達型だとすれば、今は生徒の主体性を軸に、生徒同士、生徒と教員と、動きを持ったやりとりをしています。つまり、『話す人』と『聞く人』を固定するのではなく、対話の中で学びを深めていこうと。どの教科でも物事を俯瞰し、多面的にとらえていく力を育むことを目指していますが、ICT環境が整ったことでさらに効果的にできるようになったと思っています」


■すべてはコミュニケーションから生まれる

ICTを活用して思考と表現の幅を広げることは、
建学の精神の具現化でもある

休校期間中、授業動画の配信などの必要に迫られたこともあり、先生方のICT活用力も格段にアップしたと言います。対面でのやり取りを頻繁に行うことは難しいため、教科を問わずに授業動画を共有し、先生方自身、お互いに刺激を受け合っていたそうです。

女子聖学院_女子聖の6年間で「語ることば」をもつ人になる
女子聖の6年間で「語ることば」をもつ人になる

川村先生:「フューチャールームを開設し、新たな試みを始めてすぐにこのコロナ禍がありましたので、3月末から急ピッチで休校期間中の準備を進めることになりました。当然ながらICTが得意な教員ばかりではありませんので、教員への説明会を開いたり、個別にきめ細かにサポートするなど、ICTプロジェクトチームが中心になって進めてきました」

さらに、ICTプロジェクトチームは手作りの新聞「ICT for JSG」も発行し、活用法などをわかりやすく伝えました。学校全体の底上げを図るために、あえてアナログな新聞も作ったのです。このようなお話を聞くたびに、同校らしい「生徒のため」という教育への熱量と温かさを感じます。

川村先生:「何か事を起こす時には、教員同士が情報を共有し、丁寧にやり取りすることが最も大切です。その先には、常に生徒がいるのですから」

女子聖学院_女子聖の1日は礼拝から始まる
女子聖の1日は礼拝から始まる

「学ぶ」とは、「ことばを獲得すること」。そして「ことば」とは、単なる意思疎通の手段を超えて、心から心に届けるもの。だからこそ、心に響き、説得力をもつのは、多くの思考と体験、そして相手を尊重する気持ちから発せられることばなのです。

同校の建学の精神は「神を仰ぎ、人に仕う」。教育スローガンは「Be a Messenger〜語ることばをもつ人を育てます〜」。日本語でも英語でも、自分の思いを「自分のことば」で表すことは、人と人を結ぶきっかけになり、ひいては世界を平和に導きます。

「Be a Messenger」ということばは、1905年の創立以来、キリスト教の教えに基づき主体性を育んできた同校の教育の象徴です。そして、自分のことばをもつために学び続けることは、生徒たち一人ひとりの未来を照らす指針にもなっています。

■先輩から後輩に受け継がれるバトン
リーダーシップとフォロワーシップを学び、固い絆で結ばれる「運動会」

女子聖学院_まさに熱闘を繰り広げる運動会
まさに熱闘を繰り広げる運動会

赤組・青組・黄組。卒業後に同窓生と会った時、何色だったかが話題に上るほど熱い同校の運動会。
1925年から続く同校最大の伝統行事であるこの運動会は、6学年横断で実施されるのですが、高校生は学年ごとに、中学生は身体面を考慮したうえで、くじ引きでそれぞれが高校生の各学年につくというユニークなシステムです。

「審判、用具係、召集係、得点係、学年幹部など、部門ごとにリーダーが選出され、約4カ月間をかけて、すべて生徒たちが行います。本校の描くリーダー像は、特別な力のある人が大きな集団を引っ張るというものではなく、一人ひとりが自分の立ち位置を理解し、全体を良くしていこうと動く人です。自分がいる環境の中で、何事も自分事としてとらえる姿勢をもたなければ、さまざまな課題を抱えるこれからの社会で責任を果たしていくことはできませんから」(副校長・渡部克己先生)

企画から運営方法、そしてすべてに真摯に取り組む姿勢など、中学生は高校生の姿を見ながらリーダーシップとフォロワーシップを学んでいきます。そして、「先輩から後輩への伝達の仕方」から「競技に勝つための秘策」までが記された分厚いファイルが、代々受け継がれているのだそうです。このような濃密な経験と絆もまた、生徒たち一人ひとりが将来を切り拓いていく大きな原動力となっています。


■キリスト教に基づく人間教育
「私は私らしく、あなたはあなたらしく。だからこそ、共にいることはすばらしい。」

キリスト教では、「人はみな、違った資質を神様から託されている」と言われます。多様性を受容することをますます求められる時代だからこそ、同校はキリスト教主義の女子教育をゆるがぬ基盤とし、生徒たちが主体的に自らを表現し、新しい世界を共に創出していけるよう、互いを生かすことばをもつことができる女性を育てているのです。


女子聖学院_JSGラーニングセンターで自習する生徒たち
JSGラーニングセンターで自習する生徒たち

ほかにも、進路教育では中3の「ライフプランニング授業」や中3から参加可能な大学出張授業「JSG大学」、高3の「AO推薦入試対策」プロジェクト、また課外活動として聖学院と共同で実施する「パラスポーツ応援プロジェクト」など、同校独自の教育は多岐にわたります。以下もご参照ください。


※「人間教育」の詳細はこちら
https://www.joshiseigakuin.ed.jp/education/human.php
※「進路教育」の詳細はこちら→https://www.joshiseigakuin.ed.jp/course/
※「パラスポーツをめぐる取組」の詳細はこちら
http://j.tokyoshigaku.com/pamphlet/data/115203/html5.html#page=23

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