学校特集
昭和学院中学校・高等学校2020
掲載日:2020年10月1日(木)
昭和学院(千葉県市川市)は2020年に創立80周年を迎え、伝統という礎を大事にしながら時代をとらえた新たな挑戦に取り組んでいます。「明敏謙譲」を校訓に掲げ、知・徳・体の全人教育を行う中で、2016年度から入試改革や海外留学制度創設などさまざまな改革を推進してきた同校が、集大成として2020年度から新コース制を始動しました。学力だけでなく個性を伸ばす5つのコースは、どれも魅力にあふれています。新コース制の立ち上げに携わった先生や中1を教えている先生方に話を伺いました。
創立80年の伝統を守りつつ"攻め"の新コース制を始動
公立校が強いと言われる千葉県にあって、今もっとも注目を集め、躍進している私立中高一貫校が昭和学院です。1940年に創立され、ちょうど今年で創立80年を迎える同校。中1は2016年度は3クラスでしたが、2019年度は6クラス(142人)、そして2020年度は6クラス(200人)と入学者が増え続けており、その勢いはとどまるところを知りません。
就任6年目を迎えた校長・大井俊博先生は、都立中高一貫教育校の両国高等学校・両国高等学校附属中学校で校長を務めた方。オールイングリッシュの授業や、都立校としては異例の"全員参加の海外語学研修実施"を断行して、「両国」の実力と人気を不動のものにしました。そんな大井先生が校長に就任して以来、昭和学院は飛躍的な進化を遂げてきました。たとえば入試では
●マイプレゼンテーション入試:自己表現文、プレゼンテーション(自己PR)、質疑応答
●適性検査型入試:適正検査Ⅰ、Ⅱ(英語資格検定利用可)
●帰国生入試:2科もしくは4科入試、面接
など、特色ある入試制度を導入してきました。公立中高一貫校向けに総合的な学力を磨いてきた生徒や、それまで習い事やスポーツに打ち込んで受験勉強をしてこなかった生徒などを幅広く受け入れるのが狙いです。集中力が高い生徒や表現力豊かな生徒が入学することで、個性あふれる生徒が増え、お互いに認め合い刺激し合う校風が育っています。
2020年度から魅力あふれる新コース制を始動
2020年度の改革の目玉は、新しいコース制です。今年の中1から、IA(International Academyインターナショナルアカデミー)コース、AA(Advanced Academyアドバンストアカデミー)コース、GA(General Academyジェネラルアカデミー)コースの3コースがスタートしました。
コース立ち上げに携わった中1学年主任・大野佳佑先生は「全コースに共通するコンセプトは<新しい時代に求められる力を備えた人材を育てる>。新しい時代の中で、自ら考え、行動できる生徒を育てていきたいと考えています」と話します。では、それぞれに特色が異なる3つのコースを詳しく見ていきましょう。
●IAコースは国際教養コース。英語を媒体として国際的な分野・テーマを研究し、教養を深めていきます。人気が高い国際教養系学部や海外大学への進学を視野に入れたグローバルなコースです。
実際に帰国生など英語が得意な生徒だけでなく、英語学習への意欲が高い生徒が入学しており、英語の授業はオールイングリッシュが基本。外国語メインで生活してきて日本語があまり得意でない生徒や英検2級レベルの生徒もいれば、英検4級程度の生徒もいるので、現在は1クラス31人をさらに習熟度で分けて英語の授業を行っています。ネイティブ教員と日本人教員の共同担任制で、HRも英語で行っています。逆にHRで日本人教員が話すときは、日本語が不得手な生徒のために英訳することもあります。
●AAコースは学力の育成を重視したコースで、難関大学受験に対応したカリキュラムを組んでいます。全国レベルの部活も多く文武両道を標榜する同校では、部活と勉強を両立させて難関大に進学する生徒もいます。そうした生徒を応援しハイレベルな学力を身につけさせるために、自分で考え、自分で学ぶ姿勢を身につけられるように授業の進め方にも工夫を凝らしています。AAコースで1クラス編成の予定でしたが、予想を上回る生徒が入学してくれたため、AAコース2クラス60名で充実したスタートを切ることができました。
●GAコース(総合進学コース)は、スポーツや部活、行事や趣味なども頑張り、個性を伸ばしながら希望するキャリアを目指すコース。興味関心や長所を伸ばす教育に主眼を置き、目指すキャリアに向けて自由に科目を選択して学んでいきます。従来の文系・理系というくくりに合わせて学ぶこともできるし、リベラルアーツ的に幅広い学科を選択することもできます。
中3からはこの3コースにTA(トップグレードアカデミー)コース、Ath(アスリートアカデミー)コースを加え、計5コースになります。同校は全国レベルの部活動が多数ありますが、スポーツや芸術活動にも力を入れながら難関大への進学を目指す「文武両道」を体現するのがAthコース。そしてTAコースは東京大学はじめ最難関国立大学進学を目指しハイレベルな授業を行うコースです。TAコースとAAコースは高2進級時に文系・理系に分けますが、それ以外は文理を分けず選択授業を増やして対応します。また、「中1・中2」「中3・高1」「高2・高3」は同じコースで学びますが、中2から中3、高1から高2に進級する時にはコース変更が可能です。
教員も意識を変え「失敗を恐れない」教育を実践
昭和学院は「面倒見のよさ」で定評がある学校でしたが、それだけでは生徒の自主性が育ちにくい場面もありました。同校の卒業生でもある日下部知恵先生は「こうしなさいという指導を受け、授業の準備やおぜん立てなども先生がやってくれるのが心地いいし当たり前という感覚だった」と在校時を振り返ります。
でも、今は画一的な指導ではなく、生徒ひとりひとりが自分で気づき、自ら考えて動くような教育がなされています。「たとえば理科の実験では、以前は教員が実験内容を決めて試薬などを計って準備し、授業ではそれを配って実験をやらせていました。そのやり方だと、決められたとおりの手順を踏めば、全員教科書通りの結果が出ます。でも、今は"こういうことを調べるためには、どんな実験をすればいいか?"と問いかけ、自分たちで考え、材料を自由に使って実験を設計させることにも取り組んでいます。生徒は実験が<成功した><失敗した>と言いますが、それは期待や予想通りになったかどうかだけの話です。実験には原因があって結果があるので、そもそも失敗はありません。もし予想と違う結果になったなら、その原因を考えることが学びになるのです」(理科・三部陽祐先生)
社会の授業でも、「見る→感じる→表現する」という過程を大事にしています。社会科の大野先生は「歴史や地理など、社会では感じることを大切にしています。今は生徒全員にiPadを配布しているので、たとえばフランスについて勉強した時はグーグルアースでエッフェル塔にアクセスし、どんな場所にあるのか、どんな風に見えるのかを体感させました。ほかにもいろいろな国のディズニーランドにアクセスしてみたり、戦争について学んだときは映画『火垂るの墓』を見たりして、どんな風に感じたか、心が動いたかを表現させています」と話します。
また、以前は「ノートの取り方を教えてほしい」という生徒の要望に応えて指示していましたが、今は「自分で分かりやすくまとめなさい」と伝えています。すると配置、色使いなど生徒が自分で考え、自分なりのまとめ方を工夫するようになったそうです。「授業では発言が多い生徒が評価されがちですが、ノートの取り方やまとめ方でも積極性は図れます。発言が少なくてもしっかり授業を聞き、提出物やノートのまとめを頑張っている生徒もきちんと評価するように心がけています」(大野先生)。
日常生活の中でも「自分で考えさせる」習慣を育んでいます。たとえば忘れ物が多い生徒には、以前は提出物や持ち物をスコラノート(全員に配布している生活記録用手帳)にメモするように指導していました。「でも、生徒によって忘れにくい方法は違うはず。ですから今は"どうすれば君は忘れ物を減らせるかな?"と質問して、本人に考えさせています。スマホにメモしたり、昔ながらの方法で手の甲にペンで書くという生徒もいます。自分で考えて行動することは成功体験にもつながるし、生徒は自分の言動に責任を持つようになり、自主性が育まれます」(三部先生)。
今年度は新型コロナウイルスの影響で、最初の1か月はオンライン授業を行っていましたが、今年から全生徒にiPadが配布されたので、オンライン授業もスムーズに行われました。「最初はうまくつながらなかったり戸惑いがありましたが、学年や教科ごとに教員が"こんな使い方もできるね"と情報交換して、どんどん使い方の幅が広がりました」(大野先生)。
たとえばMetaMoJi ClassRoom(授業支援アプリ)を使った教科指導では、定期的な課題配信以外に不定期に課題やヒントを掲載する先生もいます。頻繁に教科ページをチェックすればヒントに気づける仕組みなので、生徒は「あ、ヒントを見つけた!」と楽しみながらも自主的に行動する習慣ができました。
「最初は顔を合わせられないまま新学期がスタートしましたが、このアプリを使って休み時間に絵でしりとりを楽しむなど、生徒同士も積極的にコミュニケーションをとりあっていました」(日下部先生)。タブレットを活用できる意識と能力の高い生徒が増えてきたことで、コロナ禍という変化にも瞬時に対応できたのです。
今年度の中1の学年目標は「自主自律」「自他尊重」で、さらにクラスごとに学級目標を掲げています。日下部先生のクラスでは「"笑顔"がたくさんのクラス」「メリハリ・協力・努力・挑戦・BEST」という目標を決めました。
実はこのクラス目標を決める話し合いに、3時間もの時間を費やしたと言います。自分たちで長い時間をかけて決めた目標ですが、1か月経つ頃には気のゆるみが出始め、生徒たちから「始鈴着席できなかったり、授業の準備ができていなかったりする」「授業中に発言するのはいいけど、先生が話そうとしているのに気づかないことがある」といった声があがりました。そこで今の状況を見直し、どうしたらいいかを話し合う場を設けて仕切り直しを図りました。
「"できていないから、こうしなさい"と指導するのは簡単ですが、今の中1は自分たちで気づき、臆せず意見を言えることに驚いています。学校は楽しい場であってほしいから、こんなふうに教員と生徒、生徒と生徒が意見を出し合って、気持ちよく過ごせるのはまさに理想の姿ですね」と日下部先生は生徒の成長ぶりを笑顔で話してくれました。
制服も一新して学校の雰囲気がさらに明るく
さまざまな入試の影響もあって、昭和学院には個性豊かな生徒や表現力の優れた生徒など、多彩な能力を持つ生徒が増えています。大野先生は学校内を見回っていた時、まだ入学して日の浅い中1生が壇上で自己紹介する様子を見て驚いたと言います。「堂々とした話しっぷりに驚いたし、内容も"ホントに中1か!?"と思うほどクオリティが高かった。学力だけでは図れないさまざまな能力をもった生徒がたくさんいるから、生徒一人一人の力をさらに伸ばしてあげたい」と力強く話します。
これまでの「特進コース」「総合進学コース」は学力でクラスを分けていましたが、今年度からのコース制は希望の進路や個性に合わせた分け方なので、お互いの良さや選択を尊重し合い、刺激し合う空気が生まれています。そして昭和学院の学校の雰囲気をさらに明るく変えたもう1つの改革の目玉は制服やバッグの一新でしょう。制服は学校選びの重要なポイントの1つにもなっているほどで、生徒にも受験生にもとても好評だそう。「ポロシャツも2色あるので"このコーディネートだとやせて見えるよね"と話していたり、"先生、どっちがかわいい?"と聞いてくる生徒もいます」と日下部先生は嬉しそうに話します。通学用のリュックやバッグも生徒の声を踏まえてリニューアルし、男子からも女子からも「楽だし使いやすい」といった声があがっています。
3つの新コース制が始まって今まで以上に学校の雰囲気がさらによくなり、生徒のモチベーションもあがっている同校。新コース制が起爆剤となり、新コースで育った生徒が高校を埋め尽くすころには、さらならる進化も期待できそうです。新しい時代にさらなる飛躍に向けて一歩を踏み出した昭和学院に、大きな期待が集まっています。