学校特集
聖徳学園中学・高等学校2020
掲載日:2020年8月18日(火)
昨年、「週刊東洋経済」にて、中学入学時と高校卒業時の学力伸長度ランキングで日本一に輝いた聖徳学園。最先端のICT環境を誇り、STEAM教育とグローバル教育を柱に各教科が連携しながら、一人ひとりの志望にそった教育で生徒たちの能力を伸ばしています。
中1の学年主任を務める音楽科の亀田裕康先生、同校のSTEAM教育を推進する学校改革本部長の品田健先生、学園の最高情報セキュリティ責任者である横濱友一先生に、同校の休校期間中の学びとこの先の教育をどのように見据えているのかについて伺いました。
建学の精神「和の教え」が生きた休校期間
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行という未曾有の事態の中で迎えた2020年度。聖徳学園では、この状況にどう向き合ったのでしょうか。
先生方が最も心を砕いたのは、新入生に寄り添うことです。
「中1生たちは地元の中学ではなく、私学進学という選択をしたこともあり、なかなか地元のお友達と会ったりすることも難しかったそうです。そのため同世代の友だちと会えない寂しさや、先の見えない不安の中で泣き出してしまう子もいました。保護者の方々からのこうした声を聞き、こまめにコミュニケーションを取り子どもたちのケアをしていくことが、我々の原動力になっていました」と語るのは、中1学年主任の亀田裕康先生です。
もともと中学段階では二人担任制をしいて、生徒たちの学びや学校生活を細やかに見守りサポートしている同校。
生徒全員がiPadを持ち、ツールとして使いこなす術を学んでいますが、本来ならば入学後にiPad授与式が行われるはずでした。それが叶わなかったため、まず行われたのは情報システムセンターの先生や中1の先生方で、新入生99個分の iPad の梱包を開けて、アカウントを取り、プラットフォームを整えてすぐ使えるように設定し、各自に発送すること。
電話などでも丁寧にフォローしながら、コミュニケーションは学内SNSである『Talknote』、学習は『ロイロノート』の運用を開始しました。
「連絡ツールである『Talknote』で、教員から子どもたちにメッセージを送り、コメントのやりとりをしたことがファーストコンタクトでした。生徒たちから"いいね"がたくさんついたときは、つながりを感じられてうれしかったですね」(亀田先生)
なお「Talknote」では、保護者と教員間でのやり取りも行っています。そのため、学校としての方針や具体的な方策を学校Webサイトとあわせて知らせ、保護者への安心感にもつなげていました。
グローバル教育が盛んな聖徳学園らしさが表れているのは、緊急事態宣言が出るよりもっと前、この感染症が世界へ飛び火し始めた段階から、休校になることを想定して措置が考えられていたことです。
これらの対応を考える中心メンバーである最高情報セキュリティ責任者の横濱友一先生は、その状況に応じた対策を考慮したことについて、
「期末試験終了あたりのタイミングで休校になり、その学年で学習すべきことについては修了していたため、3月いっぱいは課題を配信して復習できる形に決めました。
その間に4月以降の休校に向けて、先生方への研修を実施。これまでも日常的にICTを活用していましたが、非同期型(※)で新しい学びを始めるためのプリントの配信方法など、授業をより丁寧にできる方法を探りました。
5月も休校になった場合、非同期型だけではフォローアップが足りません。『ZOOM』を取り入れて同期型で質問できる環境を整備したりと、学びのサポートを拡充させる段取りを整えました」と話します。
結果、急遽休校要請が出されましたが、先生方、生徒ともに大きな混乱はなく、オンライン上で学校生活がスムーズに進んでいきました。
オンライン環境が整っているために休校期間を延ばした学校もあるなか、あえて登校再開を決めた同校。分散登校が始まった5月末には、生徒たち同士は、すでにかなり親しくなっていたそう。
「4月以降オンライン上ではつながっていましたが、『ZOOM』を使い始めたあたりで、担任や子どもたち同士もお互いの顔をやっと見ることができました。特に中1生はリアルタイムで話せる友だちがいることに、ほっとしたと思います。直接顔を合わせたときの、この心の距離感の近さが"聖徳らしさ"なのだと感じました」(亀田先生)
ICT先端校ではあるものの、それ以上にリアルなコミュニケーションを大切にしている姿勢が伝わります。
4月から5月にかけて、4時間ずつ午前中の時間割を作り、午後は課題などに取り組む時間としていた聖徳学園。オフィスアワーとして先生方がオンライン上で質問ルームを開き、生徒はその時間に来て直接質問などをしながら学んでいました。
同校らしさが光る授業に、「STEAM」と呼んでいる中1・2の「ICT」、高1・2の「情報」があります。
「情報」の授業を担当し、独自性のあるSTEAM教育を展開している品田健先生は、この授業の導入について教えてくれました。
「リテラシーについては必ず最初に学びます。今年度も遠隔授業ではありましたが、4月に各学年で実施しました。
以前は入ってくる情報を取捨選択するという学習が中心でしたが、現在の子どもたちの危うさは、自分から出ていく情報を選べていないということです。
SNSデビューする生徒も多く、今の子どもたちはSNSと付き合う時間も長くなっています。このコロナ禍の期間、家にいるから安心と思っているかもしれませんが、例えば自宅で撮った写真の映り込みで、住まいがわかってしまうことなどを伝えています。また、たとえSNSなどで情報発信しなくても、Google検索の結果を分析すると、住所はもちろん、住居の階数や仕事の内容、経済状況などが丸裸になってしまう時代です。さらにTwitterなどが炎上した際の個人特定まで具体的な例を通して学びました」(品田先生)
5月以降はSTEAM教育の"Art"に位置する「表現すること」に軸足を置きました。
「普通に学校が始まっていれば、ホームルームで自己紹介を行いますが、せっかくなので情報の授業でも自分を表現したオブジェクトに音声を加えた自己紹介を作りました。アイコンを選び、セルフィーを撮って、音声を加え、動画に書き出して提出までの一連の手順を説明して、YouTubeでもサンプルを示しつつ、かつこまめに進捗状況を確認しながら行いました。
提出は『Googleフォーム』を使うことで、Googleのログイン体験もできて、例えばファイルを集められるなど、使い方を知ることができます」と品田先生。
と、この一つの課題でも、iPadの操作方法だけでなく実際に自分が表現すること、アプリの使い方を知るなど、様々な要素が詰まっています。
これらは「Googleドライブ」の共有フォルダに入れてやり取りを行っていたので、会えない間もクラスメイトの得意なことや好きなものを知ることができました。
「担任団の先生方も共有に入れて、生徒たちに声をかけてあげてください、と伝えました」(品田先生)
こうして休校期間中にも生徒と先生の絆を作る仕掛けが一つひとつ施されていきました。
iPadの扱いに慣れている高2は「stay at home」をテーマに作品づくりを行いました。
「2週間後を締め切りとした以外はゆるめな指示でしたが、生徒たちからはあっという間に作品が出てきました」と品田先生は笑います。
中学では映画制作、高1で学習動画やプレゼンテーション用のポスター作りなど、様々に表現する経験を積み重ねてきた生徒たち。その蓄積を生かして、爽やかな青春CM風や手書きアニメーション動画、作曲・演奏をしてみたり、マインクラフトを使ったりとそれぞれが自分の得意なもので表現。生徒の個性と同様、多彩な秀作が揃い踏みだったため、急遽先生方でスコアをつけ、優秀作品を決めて発表しました。優秀賞の一つは、占いのプログラミングを動画と組み合わせたもので、どの星座を選んでもラッキースポットが自宅になるというユニークなもの。生徒たちのアイディアには先生方も感心しきりだったそうです。
また自分が気に入った曲のジャケットを製作し、そのタイトルにYouTubeへのリンクを付けて提出する課題もクラスで共有して、友だちが紹介した楽曲を見られるという形を取りました。
校内限定の「Googleドライブ」でシェアし、見てよかった作品をお互いに「Googleフォーム」で投票。みんなが見てくれて、反応があるとうれしいので、ますますやる気が出ます。そして互いに刺激を受け、もっとより良い作品作りへの情熱があふれます。
このSTEAMプロジェクトが目指すところは何なのでしょうか。それは「自己表現すること、創造性を発揮することで、身につけた知識・技能を統合して、課題を発見し、解決に向けて考え、行動していくこと」です。
なお、これまでも授業の効率化を目指してきた品田先生。今回のコロナ禍でより「学校でやるべきこと」と「自宅でできること」の線引きが教師・生徒とともに明確に見えたと話します。また「これまで通りに戻ることはできない」とも言います。
「例えば50分授業のうち、説明に割く15分を自宅でできるようにして、その分をクリエイティブな作業に充てるのは良いことです。しかし、その50分の授業時間に課外分の15分が全教科で増えてしまうと、生徒も教員も潰れてしまいます。授業は本当に50分必要か、登校して6時間の授業をやるべきなのかということも含めて、もう一度考えてみるべきでしょう。学校でやるべきことをさらに厳選していきますが、今後の学び方について僕ら教員が本当に試されている時がきたのだと感じます」と話します。
学校だからこそできる学びとオンラインの利便性をハイブリッドした新たな教育が、ここから生まれる日も近いのかもしれません。
横濱先生は最高情報セキュリティ責任者として、学園のICT全般を取り仕切っています。ICTに関する技術面や外部との折衝などは横濱先生たちの専門部署が受け持つことで、教員は安心してコンテンツの作成に力を注げる環境を整えています。
その横濱先生が現在進めている研究が、「個別の学びを促進するために何が必要か」ということです。
「学びというのは、本来パーソナライズされているべきだと思います。Aさんがわかっていることと、Bさんがわかっていることが、同じことを理解していると思っても、その進度や深度は異なります。例えば数学の中でも、分野によっての得意不得意なども個別で絶対に違うはずです。それなのに同じような教育をしているというのは、ナンセンスなことであり、変えられるだろうとずっと思っています。
これは大まかにいえば、子どもたちが右脳派か左脳派かをはかるということです。例えば二次関数を学ぶ際、図形やグラフで学習したほうが理解が進む子と、文字ベースの数式から学んだほうが理解できる子がいるということ。こうした分析は、模試や小テストの結果などを使うことで、実は意外と簡単にできるものです」(横濱先生)
横濱先生は生徒の理解力をデータ分析のツールを使って比較・分析して現在4年目。生徒たちの学習に対する満足度が上がってきていると話します。
「様々な単元がありますが、過去の学習履歴と理解率を照らし合わせると、新単元でのその子の理解率が数値的にわかります。最終形としては、その授業前にこれまでとは別のアプローチをしてみたり、図形からやり直すなどの切り口を行って理解を促しています。
例えば中3だったとしても、この分野に長けているから、高3の内容を学んだほうがより理解できるといったこともわかっています。高3のところができたとなると、本人もうれしいですよね。
これらを分析・実行することで、生徒たちの理解が深まることはもちろん、モチベーションが高いまま学びを進められるため、苦手なところだけどちょっと頑張ってみようという意欲も湧いてきます。これらを使ってもっとサポートしていくことが、僕のコロナ明けの展望です」
最新のテクノロジーとサイエンスを結びつけた取り組みにより、学びはもっと高い効果を得られるようになります。学びを楽しく行うことで、大人になっても知的好奇心を持ち続け、社会や世界に貢献できる人材を育成しているのが聖徳学園。最先端のICT&STEAM教育と、細やかなコミュニケーションを両立させた教育に、今後も注目です。