学校特集
武蔵野東中学校2020
掲載日:2020年8月21日(金)
高校を併設しない私立中学校として稀有な存在の同校ですが、約8割の生徒が第1志望高校へ、そして約6割が国公立や私立の難関校へ進学しています。そして、中3卒業時の英検準2級以上の取得率は70.9%。圧倒的な数字ですが、その背景には「多角的に深く思考し、協働し、行動する大人になるための基盤を作る」同校の教育哲学があるのです。そのため、オリジナルの授業「探究科」を軸に、次代を見据えた新しい学びである教科横断型「コラボ授業」や、命や生き方について考える「生命科」など、従来の枠を越えた豊かな学びを展開しています。校長の菊地知惠子先生と「探究科」担当の菊地武王先生、進路指導担当の渡邊浩一先生、高田輝夫先生にお話を伺いました。
「教科横断型(コラボ)授業」で
考え方に奥行きと幅を持たせる
世界規模の問題について、あらゆる国が問題意識を共有せざるを得ない現代。目先の利益にとらわれず、共感、協働し、柔軟に行動することなくして、それらを容易に解決することはできません。つまり、私たちには答えのない問いに対峙した時、培ってきた知識と経験と想像力を総動員して物事の本質を見抜き、情勢を読み解いて最善解を出していくことが求められているのです。
未来を生きる世代に必要な資質を育てるために、同校で実践されているのが、オリジナルの学びである通称「コラボ授業」です。
校長先生:「生徒たちが生きる次代には、新しい価値観を創造する能力と、それを共有しようとする人間力が必要になります。ですから、特定のスキルに秀でるだけではなく、物事の本質を見極め、クロスオーバー的なものの見方や考え方を身につけることができるよう、昨年から教科横断型のコラボ授業を始めました」
以下はその一例ですが、先生方のアイデアあふれる授業に、生徒たちがワクワクしながら視界を大きく広げていく様子が目に浮かびます。
■数学×理科
「一次方程式」「比例・反比例」の知識をもとに、「物質の密度」について応用する
■数学×技術家庭
技術分野の「製図」の決まりに従って、PCソフトで数学の「空間図形」の見取り図を描く
■国語×英語
日本語の「主語・述語の関係」と、英語の「be動詞、一般動詞」に注目し、それぞれの文法を比較。また、グループで話し合いながら日本語訳、英訳の適切な表現を考える
■社会×音楽
イタリアの気候とバロック音楽を絡め、「四季」(ビバルディ)は何を表現しているかを考察する
■理科×社会
季節風の影響と、天気図や衛星写真から季節風の向きの変化を探る
■保健体育×技術家庭
体作りのため、また部活動の大会などでベストパフォーマンスを生むための食生活を探る
従来の教科の枠を越えて先生方が協働し、それぞれの専門性を活かしながら行うこの授業には、いわゆる「STEAM教育」の要素も含まれますが、授業の目的は役立つ知識や技術の獲得というよりも、新たな価値観を創造できる資質を養うこと。
校長先生:「多様性というのは、価値観の違いのことです。私たちはいろいろな場面で価値観の違いにぶつかりますが、そこで必要なのは相手の立場にも立ち、最善解を作っていくことです。ですから、まずは多様な価値観があること、それぞれに重さがあることを知っていくことが、中学段階では最も大切だと思っています。そのうえで、徐々に思考やチャレンジのレベルを上げて価値観そのものの進化を目指したいと。これは、大人になれば誰しも必要になることですが、コラボ授業はそのための練習問題であり、人間力の根っこを作るものだと思っています」
高田先生:「中学生を大人へと導くためには、多くの視点、ものの見方の角度を持たせることが必要ですが、同じテーマについて異なる教科の教員がコラボ授業をすることで、生徒も点と点だった知識がつながり、『ああ、そうか!』と、理解に深みが増しているように感じています。今年が2年目になりますが、学習到達度も違ってくるだろうと期待しています」
オリジナル授業「探究科」の成果。
「全国学芸サイエンスコンクール」で3名が上位入賞
同校の教育の中核となっているのが「探究科」です。探究活動は10年以上前から進めていた同校ですが、3年前に中1・2で正課授業とし、さらに学びを深めています。
じつは、先のコラボ授業も探究科を発端に誕生したもので、探究科の手法は全教科の授業に波及しているのだとか。
菊地先生:「『入門』段階では、教員が思考法や調べ方の基礎を教え、情報の信頼度や資料の価値、引用の仕方なども指導し、それを経て『基礎』段階へ進みます。その後、1年次の秋までは自然科学、人文・社会科学、創作(文芸・美術・音楽)の各分野から自分の興味のあるゼミに属して、基礎を養っていきます」
その後、中1の冬から中2にかけては「実践」へ。ここから個人研究になります。
菊地先生:「問いを見つけるということは、毎日の生活の中で問題意識を持つということ。ですから、社会や世界への視野を持ち、誰かの役に立つ、社会に貢献できる訴求力のあるものを目指してほしいと思っています」
校長先生:「『探究科』の指導で心がけているのは、教員が『教えて』しまわないことです。探究を極めるためには『教えてしまってはいけない』と言ったほうがいいかもしれません」
個人研究に際しては生徒一人ひとりにアドバイザーの先生がつきますが、校長先生が言うように、先生方は必要なこと以外は教えないようにしているのだそうです。そうすることで、生徒の潜在力が掘り起こされ、試行錯誤の先に自ら主体的にオリジナルの結論を導き出すからです。
こうして、生徒たちは能動的に学び、自信をつけ、高みを目指す姿勢を身につけていくのです。
先述のように、もちろん最初の段階での基礎固めはしっかりと指導します。
「探究科」で目指すのは、自分の興味のあることを調べる小学校までの自由研究ではありません。調べた先にオリジナルの問いを立て、情報を分析、批評や検証を重ねます。【問う→探究する→訴求する】と段階を追っていくのですが、これはとりもなおさず、「思考力・判断力・表現力」の育成の具現化そのものです。
校長先生:「『探究科』は生き方を模索する学びです。スキルよりも人間力を育てるためのものですから、教員に力量がないとできません。教員には『どう教えるのか』ではなく『どう学ばせることができるか』が求められますが、実際、答えのない問いに向き合う生徒たちに対応するわけですから、教員たちも力をつけて、『探究科』そのものも年々進化していますね」
高田先生:「教員と生徒の関わりは、教員自身の人間力にかかっています。システムに則るのではなく、教員自身が全力で関わるエネルギーが、生徒たちを大きく伸ばしていくのだと思っています」
中3で卒業論文を作成する事例はよく耳にしますが、同校では中2で行うプレゼンテーションが「探究科」の集大成にあたります。
また「探究科」の取り組みは、全員が高校受験に臨む同校においては、進路選択にも良い影響を及ぼしているといえます。自分でテーマを決め、自分で突き詰めていく。そのことは自分自身の将来観の形成に向き合うことにもなるのです。
そして、中2の最後に行うプレゼンテーションでは、ルーブリック評価を用いて全員で相互評価を行います。
菊地先生:「『問いの設定、情報収集・分析、解決、知識・技能の基礎力・活用力、訴求力のある表現』と5段階で評価し合うのですが、生徒たちとっては、どういう資料を提示すれば相手がわかりやすいか、どう伝えれば評価が高くなるのかなどと考える勉強になります。もちろん、発表が得意な生徒も不得意な生徒もいますが、全員が同じステージに立って他者の発表を聞くことで、違う角度からの考え方を知るなど、視野を広げるきっかけにもなっています」
同校にはWi-Fiが張り巡らされるなどICT環境が完備し、生徒全員に卒業するまでchromebookが貸与されますが、生徒たちは日常の学校生活の中で実践を繰り返していくなかでスライドのアプリを使いこなせるようになるなど、プレゼンテーションの腕もグングン上げていきます。
校長先生:「探究科の学びはプレゼンテーションをして完結となるわけですが、とても進化してきていると思います。生徒たちは中間発表の際、『ここに図があったほうがわかりやすい』『アニメーションを使いすぎでは?』とアドバイスし合うなど、仲間同士で切磋琢磨する雰囲気ができ上がっていますね。そして、何よりも探究科は『100点を上限とする競争』ではなく『青天井の競争』ですから、誰もが高みを目指すことができるのです。『まだ浅い』とアドバイスされることはあっても、『間違っている』と言われることはありません。だからこそ、生徒たちは自分でツテを探して大学教授に話を聞きに行くなど、どんどん主体的に動くようになっていくのです」
【探究動機/内容】
「木曜日や天気が曇りの日は、事故やケガに気をつけよう」とクラスのHRで担任の先生が話したことは本当なのだろうか?
腑に落ちない部分もあったので、データ収集と分析、インタビューなどから検証する。
【検証/探究方法】
・データ収集
①交通事故の人的要因《年齢別割合・状態別死傷者の割合・事故の起きやすい場所》を政府統計から調査。
②交通事故の環境要因《天気・不快指数・月・曜日・時間帯》を警視庁・神奈川県警・気象庁の資料より収集し、グラフを作成し、分析する。
③分析から事故が多くなる条件を見つける。
・街頭インタビュー
(フィールドワーク)を通して得た回答とデータを比較する。
・検証結果
《例:データより晴れの日に事故が多いのに対して、インタビューでは雨の日に事故が多いと考える人が圧倒的に多かった》から得られることを分析し、事故を減らすためにできることを考え、提案する。
【考察】
担任の先生の話に端を発した研究だったが、その過程で得られた、晴れの日、金曜日、平日の朝・夕などに事故が多く発生している事実と、一般の人やドライバーの考えにはずれがあり、事故が多くなる条件を知らない人が多いことが分かった。しかし交通事故により、ケガをしたり亡くなったりする人が沢山いる現状を考えると、この探究から得た心理的要因として伝えられることを発信していきたい。
そして昨年、この「探究科」の学びの成果が一つの形となって実証されました。
第63回「全国学芸サイエンスコンクール」(旺文社主催)に3作品が入賞という快挙を成し遂げたのです。このコンクールは、60年以上の歴史を持つ小学校・中学校・高校の生徒たちの研究発表の場になっていますが、1校から3名もの入賞者が出るのは稀なことだとか。
以下は、一昨年の探究成果、つまり現在の中3が中2時に完成させた作品です。
・理科自由研究部門...1作品が入賞(20,3320点の応募中、入賞の13作品に選出)
「資源の活用とエネルギー〜身近なゴミからリサイクル固形燃料を作る〜」(3年/女子)
・社会科自由研究部門...2作品が入賞(1,997点の応募中、入賞の13作品に選出)
「命に関わる!? 食品添加物」(3年/女子)
「プライベートブランド(PB)商品の浸透とこれから」(3年/女子)
菊地先生:「本校は初めて応募したのですが、4名が挑戦して3名が入賞という結果は本当に嬉しかったですね。応募作品は、中学であればほとんどが3年時のものですが、本校は2年時に終えた、探究活動の仕上げとしての作品ですから快挙だと思います。本校で継続してきた探究科の学びのレベルが高いことが実証され、私たちにとっても自信になりましたし、生徒たちも発信の場を校内に留めず、どんどん視界を広げていってくれればと思います」
独自の「英語教育」で
中3は英検準2級以上70.9%!
同校の英語教育の目標は「生きた英語」を身につけること。中1・2では3段階の習熟度別授業を行い、週6時間の授業の中で英語4技能をバランスよく学習していきます。
例えば、一つの単元で文法学習が終わるごとにスラッシュリーディング、シャドーリーディング、スピードリーディングと徹底したリーディングを実施。また、スピーキング(オンライン英会話も週に1時間)やライティングも充実していますが、その成果には目を見張ります。
東京都の中3の英検3級取得率は51.6%(2019年データ)ですが、同校での3級以上取得率はなんと95%。しかも、英検準2級以上取得者が70.9%にも及んでいるのです。
この実績から、日本英語検定協会の「優秀団体賞(取得率部門)」も3回受賞しています。
英語の授業はオールイングリッシュで行うもあり、各教科でもイマージョン授業を適宜実施しますが、日頃の授業では「ショートスピーチ」を積み重ね、学年末に行われる「英語スピーチコンテスト」で成果を披露します。
また、アウトプットの集大成として、校外学習である「京都・奈良学習」(中2)と「グァム学習」(中3)が。「京都・奈良学習」の事前学習では全員が「外国人に京都・奈良を紹介する」英語でのプレゼンテーションを行い、「グァム学習」(中3)では現地での体験をもとに英語で「現地レポート」を作成します。
このように、英語の基礎力をガッチリと組み上げたうえで、自分の思いや考えを発信する力を育てているのです。
※「英語教育」の詳細についてはこちら→http://www.musashino-higashi.org/chugaku/?page_id=52
自分に向き合い、チャレンジする。
だから、国公立・私立難関高校合格率は59%!
感性が最も磨かれる13歳から15歳までの3年間で、人間力の根っこをしっかりと育てる。この指針の下で育った生徒たちは、高校受験に際しても、自分の志望を明確に意識して臨むようになります。
毎年、国公立をはじめ、早稲田大や慶応大、中央大といった付属校やICUなど、約6割の生徒が難関高校に合格、そして約8割の生徒が第1志望校に進学するというから見事なものです。
渡辺先生:「結果を出せていることについては、着実な学習とともに、3年間の学校生活で自分を客観視する力がある程度身にきますので、自分ときちんと向き合えることが大きいのではないでしょうか。生徒たちは無理に背伸びをすることはありませんが、地に足をつけて、自分の可能性の最大限のところでチャレンジしていきますね」
中1・2は英・数で習熟度別授業が行われ、中2からは夏期・春期講習も開始。
そして、中3時には5教科が習熟度別授業となり、論文の授業も週に1回。さらに、週に3回、放課後の2時間を使って全員参加の「特別進学学習」が行われます。
これは10人前後の少人数ゼミ形式で、英・数・国を軸に弱点補強や過去問分析、志望校対策など、グループ指導と個別指導が並行して行われる受験対策講座と言えるもの。時には、コラボ授業の要素を取り入れることもあるのだとか。
渡辺先生:「私は中3の社会科を担当しているのですが、ルソーの話から派生して、『性善説・性悪説』や『功利主義』などについての集団討論に発展したこともあります。生徒たちは賑やかに意見を交わし合いますので時間内には終わらず、そのような時は『classroom(googleのアプリ)に打ち込んでおいて』と、chromebook上で意見を共有するようにしています」
「ディスカッションが止まらない」という先生の言葉に、生徒たちの意欲を発揚する種に満ちた、同校の風土を思わされます。
渡辺先生:「高校受験のための体制は学校内に整っていますので、生徒たちは塾に通う必要はありませんし、それまでに培ってきた『自分で伸びる力』と、『教員との信頼関係の下にある学びの環境』が本校の進路指導の根幹となっています。近年は高校受験でも面接が重視され、集団討論や理・社の融合問題などが増えていますが、ここには本校で培ったものすべてが活きてくると思っています」
私たちの身の回りには「問い」があふれています。その一つひとつに向き合い、他者と丁寧にコミュニケーションを図り、協働しながら最善解を模索していく。みんながこのようにできれば、どんなに予測不能な事態が起こっても、その先に希望を見出していくことができるはずです。
同校の生徒たちは、きっと、その先陣を切る大人になっていくのだろうと思います。
校長先生:「本校はこれからも、世界を見据え、生徒それぞれが持つ芽を最大限に伸ばす教育をしていきたいと思っています」
同校オリジナルの学びは、他にもたくさんあります。以下もご参照ください。
※「生命科」の詳細についてはこちら→http://www.musashino-higashi.org/chugaku/?page_id=46
全部で10の部活と3つの同好会があり、どの部活も盛んに活動しています。限られた時間の中で集中した練習を行いながら結果を残していますが、以下に抜粋してご紹介しましょう。また、卒業生にはリオ五輪に出場し、2018年には体操ワールドカップ東京大会で優勝した村上茉愛選手がいます。
<体操競技部>
第50回全国中学校体操競技選手権大会
男子:種目別あん馬6位
第50回関東中学校体操競技大会
男子:個人総合4位・種目別あん馬1位
第67回東京都中学校体操競技選手権大会
男子:個人総合5位 女子:団体総合3位
第31回東京都中学校春季体操競技大会
男子:団体総合3位 女子:個人総合1位・3位
第60回東京都中学校体操競技新人大会
男子:団体総合2位・個人総合1位 女子:種目別ゆか3位
<陸上競技部>
第65回全日本通信陸上競技大会
3年女子100m 全国4位入賞
第46回全日本中学校陸上競技選手権大会
女子100m 準決勝進出
第47回関東中学校陸上競技選手権大会
3年100m 2位入賞
共通女子4×100mリレー出場
第50回全国ジュニアオリンピック陸上競技大会
女子100m、女子走り幅跳び出場
※東京都代表として15年連続出場
★ 2019年度大会 優勝入賞多数
32種目優勝、50種目入賞
<ダンス部>
第71回東京都中学校創作ダンスコンクール
第1位 *10年ぶり6回目
第49回東京都中学校ダンス選手権大会
第1位 *15年連続25回目
第72回全国中学校・高等学校ダンスコンクール
第2位
第38回東京都中学校ダンス競技新人大会
第2位